空を覆い尽くす青。
雲など微塵も存在しない青の中に、鬱陶しい熱を注ぐ太陽が輝いている。
人など滅多に来ることがない山奥の向日葵畑で、私は妹の
鬱陶しい暑さに嫌気がさし、つばの長い麦わら帽子を深く被る私。
そんな私に対し、麦わら帽子を首に掛けるだけの灯莉。
「灯莉、暑くないの?」
「全然暑くないよ!お姉ちゃんも帽子とっちゃいなよ!」
「いやー…私はいいかな。」
私にとっては頭痛がしそうな程の暑さの中で、どうやら灯莉は何も感じていないらしかった。
私は片手で麦わら帽子をグッと深く押し込み、怨めしい太陽に手を翳す。
「やっぱり夏は嫌いだな。」
「二人共、具合悪くしないようにね。」
私が鬱陶しそうに太陽を眺めていると、背後から包容力のある優しい声が届いてきた。
後ろを振り返ると、白いワンピースに身を包んだ赤いメッシュ入りの黒髪の女性。
「ん…母さん。」
「おかあさんっ!」
その女性…燻莉は私と灯莉の母親であり、私達に溢れんばかりの愛を注いでくれる存在だ。
私達にとっての大切な人で、同時に私達にとっての憧れでもある。
燻莉は竹で出来た籠から大量の野菜を覗かせ、ニコリと微笑んだ。
「帰るわよ、ご飯にしましょう?」
「うん!お姉ちゃん、行こ!」
「そんな焦んないで、ほら足元。」
「うわっ!」
ご飯の時間である事を伝えられてテンションが有頂天にまで上昇した灯莉は、地面の小さな窪みに足を取られてバランスを崩した。
そんな灯莉の腕を咄嗟に引っ張る私。
私に腕を引かれた灯莉は、私の胸にポフンと身体を預けた。
それを見た燻莉は「元気ね。」と微笑み、私の頭を撫でる。
「ありがと灯音、流石お姉ちゃんね。」
中腰になった燻莉に優しく見つめられ、照れ臭さから顔を背ける私。
「別に…。」
私が顔を背けても依然ニコニコと私の頭を撫で続ける燻莉。
私は意外と照れやすいのかもしれない。
照れ臭さが限界に達しようとした時、燻莉は頭から手を離し、私の手を引いて歩き始めた。
「さ、行くわよ。」
「はーい!」
「……うん。」
私達は燻莉を中心に、三人で手を繋いで家路につく。
ニコニコと八重歯を見せて笑う灯莉、優しく微笑む燻莉、少し頬を赤くしてそっぽを向く私。
あからさまに私だけが場違いなようにも見えるが、燻莉と灯莉はそんな事気にしていない様子ではにかみ続けた。
きっとここだけが、私の居るべき場所なのだろう。
そう思うと、もし家族の誰かが居なくなってしまったらと考えて少し恐ろしくなる。
未来の事なんて、考えてても仕方が無いのだけれど。
───
その後、私達は食事を済ませて床につく。
父親である
とても歯ごたえのある肉料理と、味付けの濃い野菜炒めの余韻を舌に残したまま私と灯莉は同じ部屋で同じ布団の中に居た。
「お姉ちゃん、おやすみ!」
「うん。おやすみ、灯莉。」
就寝前にも関わらず元気な灯莉に微笑みかけ、私はゆっくりと目を閉じる。
程なくして聞こえてきた灯莉のスヤスヤという寝息にふふっと微笑んだ私は、その後すぐに微睡みに身を投げ込んだのであった。
いつだっただろうか。
確か、あれから数ヶ月後の冬の出来事だった気がする。
思い出したくもない、けれど忘れてはならない不倶戴天の事件。
雪の降り頻る夕方の出来事だ、あの時は祢音と灯莉の二人で麓の街を歩いていたらしい。
「おとうさん、帰ったら雪だるま作ろーね!」
「もちろんだ!灯莉はいつでも元気で良いなぁ!」
二人は家族の中で特別仲良しであった。
私と燻莉が特別仲が良いように、二人もまた特別だったのだろう。
だからと言って家族四人の仲が悪いという訳ではなく、単純にそれぞれのタイプが合うからという事なのだろう。
二人は街で購入した食材や玩具の袋を持って仲良く手を繋いで歩いていた。
だが、二人が信号を渡ろうとした時の事だった。
灯莉が信号を見ていなかったということではない、その歩行者用信号は確かに青だった。
しかし、信号を無視した暴走車両が躊躇なく灯莉に迫ってきたのだ。
「灯莉ッ!危ない!」
祢音の大声によって身体をビクリと震わせた灯莉は目の前の状況を理解出来ずに、声帯から捻り出した音を零すだけであった。
「……え…………?」