月の位置的に大体午後7時くらいだろうか。
すっかり暗くなってしまった魔法の森で鬼気迫る戦いが始まろうとしていた。
私は依然、カメリアに2つの銃口を向けている。
私は視線をカメリアから動かさずに妹紅に喋りかけた。
「鈴仙は能力で操られてる。妹紅も気をつけて。」
「この女の能力か。オーケー、もし私が操られたら殺してくれ。」
「はは…」と苦笑する私をよそに、妹紅は私の射線上に出ないようにカメリアとの距離を詰め、炎に包まれた拳を打ち込んだ。
妹紅の攻撃の速さに目を見開いて驚いたカメリアだが、スレスレの所で体を反らして回避する。
「乱暴な子ね?」
パンチを避けたカメリアは体を反らした不安定な体勢から、新たに取り出した拳銃を妹紅に向けて発砲した。
ドンという火薬の弾ける音と共に、硝煙が燻った。
しかし、カメリアの放った銃弾は外れてしまう…否、妹紅は身体の一部を炎状にしてその銃弾を回避したのだ。
「その銃弾よりも私の蹴りの方が疾い。」
炎を纏った体を回転させ、某サッカーアニメにありそうな動きで妹紅はカメリアに蹴りを放った。
銃弾が外れるとは思っていなかったのか、一瞬動揺したカメリアはその蹴りを避けれずに吹き飛ぶ。
そしてすぐに立ち上がるカメリア。
「ジャンプにいそうな身体してるのねぇ…?」
苛立ちを孕んだ表情でそう言ったカメリアは、傍にいた鈴仙にジェスチャーを送った。
先程もそうだが、カメリアはジェスチャーだけで全ての指示を送っている様子だ。
しかし、ジェスチャーという限定された動きだけで細かい動作を指定できるものなのだろうか。
そんな考察なんぞしている暇なく、鈴仙が妹紅の前に立つ。
妹紅は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに納得したように歯をむき出した。
「人外は人外と、人間は人間と…ってか」
「その方がお互い楽しいでしょう?」
邪悪な笑みを浮かべたカメリアが再び鈴仙にジェスチャーを送る。
すると目に光を宿していない鈴仙が人差し指を妹紅に向け、その指先から赤い光弾を次々と放った。
妹紅もそれに対抗して紅焔の如き火の波動を放ち、鈴仙の光弾を打ち消した。
「やろうか、カメリア。」
「あら、意外と好戦的なのね?」
鈴仙の相手は妹紅に任せ、私はカメリアと戦うことになった。
良い機会だ。言いたい事もあったし、全ては銃弾に乗せてぶつけよう。
互いが各々の銃を構え、同時に発砲する。
2つの硝煙が交差して昇ってゆき、暗い空の雲と1つになった。
カメリアの銃弾は私の脇腹を掠め、私の銃弾はカメリアの腿を撃ち抜いた。
「さっき不意打ちされた仕返し。」
「ッ…貴女細すぎるのよ、妬いちゃうわ。」
自分だけが被弾した言い訳として苦し紛れにこんなことを言っているが、このカメリアとかいう女、めちゃめちゃスタイル良いから。
胸の大きさでは負けないが、全体的なバランスとしてカメリアは非常に美しく整っている。
…とかそんな事はどうでも良くて、腿から血を流したカメリアは銃を投げ捨てて腕をプランと無気力に垂らした。
「…ッ!!」
「銃は無粋だったかしらねぇ…?」
そう言うと、カメリアは肩甲骨を回すように腕を動かし始めた。
一見すると準備運動のように見える動きだが、私はこの動きを知っている。
たらりと垂れる汗が、私に焦燥感を覚えさせる。
「…結構、凶悪なモノ使うじゃん。」
───ゼロレンジコンバット。
元々はとある日本人が編み出した格闘術だが、後に自衛隊や他国の軍でも採用された格闘術である。
その格闘術の中でも肩甲骨を回すこの動きは“ウェイブ”と呼ばれており、体幹をそのままに肩甲骨を回して攻撃や回避を行うというものだ。
「ふふっ、楽しいでしょう?」
そしてウェイブによって生まれた打撃は、純粋な筋力の
とはいえ、今カメリアは銃を持っていないので私がリボルバーの弾を全てカメリアに打ち込めばカメリアは容易く倒れ伏す。
そうすれば余計な
「……皮肉な異種格闘技戦ね。」
「あら、サンボなんて久しぶりに見たわ。」
リボルバーを消し、私は私のファイテングポーズをとる。
絶対的な勝機を逃してまでCQCを選択するとは、私は職業病にでもかかったか。
日本発祥のゼロレンジコンバット
ロシア発祥のコンバットサンボ
互いが互いの国の格闘術を使うという、なんとも皮肉な戦いが始まるのだ。
「良いわねぇこの感じ…いつぶりかしら?」
「さぁ…でもホント、懐かしいね。」
これから血を流し合うというのに、不思議な会話を交わすものだ。
互いが特徴的な構えを保ったまま、ゆっくりと歩み寄る。
本来、コンバットサンボやゼロレンジコンバットに特定の構えはない。
なのでこれらの格闘技を習得する際は、まず自分に合った構えを確立することから始まる。
カメリアはぷらんと両腕を垂らしており、時折肩甲骨をぐるりと回している。
私はというと、キックボクシングに近い構えと言うべきだろうか。
両腕を前に出して肘を曲げるような感じで、一般的なファイテングポーズに近いものだ。
その構えのままじりじりとお互いが歩み寄る。
アドレナリンドバドバ、早く組み合いたくて時間が長く感じてしまう。
真っ暗な森の中、カメリアしか見えず
虫や鳥が鳴いている中、聞こえるのは互いの呼吸と足音のみ
冷たい風が吹いている中、感じるものは脈動する闘争心
そして永劫とも錯覚する時間を踏み越え、お互いの距離が間合いに入った途端──
ドン!とその空間が爆ぜたかのような速度で、私とカメリアはほぼ同時に拳を突き出したのだった。