東方空蝉録   作:Amaryllis___

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呪怨ヲ操ル悪魔

バリバリと紫電が迸る中庭で、私と幽香は睨み合っていた。

私の魔力量に驚いたのかは知らないが、幽香は目を見開いたまま額から汗を流している。

 

 

 

「貴女…姉を超えたんじゃないかしら?」

 

 

「ハァ…?幻月姉サン、は、私よりズット強いから…」

 

 

 

怒りに震えてマトモな発音が出来ない口をどうにか抑え、少しずつ舌を回せるようになっていく私。

恐らくこれは怒りだけでなく、紫電による痺れによるものもあるのだろう。

 

幻月はひび割れた壁の下で倒れたまま動かない。それも当然のこと、あれ程の蔓に貫かれたのならば死んでいたとしても不自然な話ではないのだ。

 

私は戦鎌を地に突き刺し、新たに取り出した二本のブラックニンジャソードに紫電を纏わせ、両手で深く構えた。

黒刃は紫電によって紫色の刃へと変容し、発光しながらバチバチと劈く程の鳴き声を挙げている。

 

 

 

「“秘匿された悪魔の力”」

 

 

 

私の最終奥義、“秘匿された悪魔の力”。

この世に滞留する全ての呪怨をこの身全てに取り込み、自分自身を呪怨の刃へと変容させるもの。

霊魂への負担が余りにも大きい故に通常はストッパーが掛かって発動できないものだが、感情が昂ったり術者本人の命の有り様を左右する状況に限り、そのストッパーは外される。

 

私の背後から深淵の如き闇が溢れ出し、深く低い重金属のような嘆き声が響き渡った。

 

冥く歪んだ空間で、私は幽香に黒鉄の刃を突きつける。

 

 

 

「チェックメイド、だよ」

 

 

「ふふ…悪魔ならでは、ね。いらっしゃい、夢月」

 

 

 

蔓での攻撃が特別有用でない事を悟った幽香は地に刺していた日傘を抜き取り、強く振り抜く事で乱暴に土を祓った。

 

どちらかの命が潰えても可笑しくないこの局面で、私と幽香はお互いに口が裂けそうな程の笑みを浮かべていた。

戦闘狂?悪魔?どういう理由でそうなっているのかは分からないが、少なくとも私は溢れ出る力によって滾っている。

 

紫色の光を放つ瞳をギュッと見開き、私は幽香に向けて全力で駆け出した。

 

 

 

「キャハハハハ!!“狂気憂戚(インサニティ・グリフ)”!」

 

 

 

私の背後から溢れ出す嘆きが具現化を果たし、数多の刃へと変容して幽香へ襲いかかる。

それと同時に私は両手に握った双刃を薙ぎ、紫電の圧力によって超高速での回転を行った。

 

超高速回転と共に振られた二枚の刃はある種竜巻の様なものを発生させ、その余波にすら質量を持つ。

それによって幽香の周囲で蠢いていた数多の蔓は切り刻まれ、無惨に土へ還っていった。

 

襲いかかる嘆きの群れを鬱陶しそうに日傘で祓った幽香は、バックステップで距離をとって日傘の先端を嘆きの群れに向ける。

日傘の先端に眩い魔力が凝縮され、ビリビリという鳴き声を挙げ始めた。

すると幽香が声高に叫ぶと同時に、奔流の如き魔力が射出される。

 

 

 

「“元祖・マスタースパーク”!」

 

 

「効くかそんなもんっ!!」

 

 

 

幽香の日傘から放たれた奔流を紫電を纏った双刃で切り裂く。

超高密度の魔力の中にモーセの十戒の如き空洞が生まれ、私はその中を雷のように駆け抜けた。

 

幽香がたった今放った“元祖・マスタースパーク”。

これは日傘の先端に超高密度の魔力を更に凝縮させ、その圧力を全て前方に解放するというものである。

当然ながらその威力は絶大。今でこそ“秘匿された悪魔の力”の恩恵で強引に切り裂けたが、普段であれば為す術なく魔力の奔流に呑み込まれていたことだろう。

 

私は雷の如き速度で幽香に肉薄すると、その勢いのまま全力で二枚の黒刃を振り下ろした。

しかし幽香がその斬撃を簡単に喰らうはずもなく、全力の双刃は日傘によって防がれる。

 

 

 

「くッ……なんて膂力なの…ッ」

 

 

「悪魔の力ぁ…舐めんなっ!」

 

 

 

双刃を防いだが、日傘をカタカタと震わせている幽香。

いくら最強と謳われる花妖怪の幽香とはいえ、秘めたる力を解放した悪魔の膂力には到底敵わないのだ。

私は両手に込めた力を更に強め、背中の狂気憂戚が放つ刃達にも更に魔力を注ぐ。

 

やがて双刃と拮抗していた日傘が段々と押し込まれてゆき、遂に幽香の肩まで刃が到達した。

 

 

 

「流石に今のままじゃあ…勝てなさそうね」

 

 

「はぁ…?何言って…ッ!」

 

 

 

幽香の肩を少し斬り裂いたと思った刹那、私は突如大きな爆発によって吹き飛ばされた。

“秘匿された悪魔の力”を持ってしても適わぬほどの威力。

 

着地後、幽香が居た地点は爆煙によって不明瞭化していたが、蠢く大きな影が私に異常事態を予測させた。

先程までとは比べ物にならない大きさの蔓、ゴジラのように大きな口を開ける植物。

 

 

 

「…とんでもないね」

 

 

 

あまりにも規格外。

私は手に持っていた双刃を幽香が居るであろう地点に投げつけ、空いた手で地に刺していた戦鎌を抜いた。

 

どうやら、変身を残していたのはお互い様だったらしい。

まぁ、それでこそ闘争というものなのだが。

 

 

 

中庭では、低い嘆きと蠢く植物達の音が響き渡っていたのだった。

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