かつての博麗の巫女、博麗 燻莉。
歴代の巫女でも最強と謳われる程の力を持つ彼女は、幻想郷に蔓延るあらゆる妖怪共の退治を請け負っていた。
練度の高い多種多様な霊術を行使し、様々な魔に精通し…
そんな恐るべき力を持つ燻莉。
人里の人間達から抱かれていた“畏れ”は、いつしか“恐れ”へと変容していた。
人とは己の物差しで測りきれぬ存在を酷く嫌う生物なのである。
人々はついに燻莉を迫害し、博麗の巫女から退けようといった運動を始めた。
博麗として人の為に行っていた妖怪退治、別に感謝される為に行なってきたわけではない。
しかし、博麗の責務によって被害を被るのは違うのではないだろうか?
そう思った彼女は、同じく幻想郷の管理職である“八雲”に相談してみた。
「“人”は、いつまで経っても変わらないのね…」
「彼らは昔からそうなの?」
「自分達を遥かに凌駕する存在を彼等は酷く嫌うわ、いつの時代もそう」
どうしようもない。
そう言う彼女に、燻莉はそれ以上何かを聞くことも無くその場を終えた。
きっと博麗は昔からこれを乗り越えていくことで、肉体だけでなく精神も強くあったのだろう。
しかし彼女は歴代の巫女でも最強格。
その上、当時の妖怪達もまた歴代の中で最も凶悪であると言われていた。
それ故だろうか
燻莉は歴代と比べ物にならない程に人々から恐れられ、とある冬の晩に恐ろしい事件が起きた。
「綺麗な雪景色ねぇ。」
「今夜は冷えそうだね」
「そうね、お茶淹れてくるわ」
「おっけー、よろしく」
その時の燻莉は暗黒の空から降り頻る雪を、双子の妹である博麗
霊莉は双子なだけあって燻莉と瓜二つの見た目をしているのだが、博麗の巫女では無いので特別力を持っている訳では無い。
そして燻莉は茶を淹れに神社の中に入り、霊莉だけが縁側に取り残された。
「寒いな、燻莉早くお茶持ってこないかな」
縁側で横たわり、欠伸をしながら空を眺める霊莉。
暗黒に包まれた空からはひたひたと純白の雪が降り頻り、既に敷かれている境内の白いカーペットを更に分厚くしていた。
すると鳥居の方から何人かの足音が聞こえ、霊莉は焦って姿勢を正す。
「やばっ、参拝者かな?たまには燻莉の代役務めないとね」
鳥居の向こうの暗黒から段々と近づいてくる灯りを見た霊莉は、草履を履いて鳥居の方へ向かっていく。
その足音は参拝にしては随分と多い人数で、霊莉は「博麗神社も人気になったな」と喜んでいた。
しかし灯りの主達が姿を見せたと同時ぐらいに、ふと疑問を抱く霊莉。
「それにしても、なんでこんな時間に…?」
日は既に暮れており、本来なら人が出歩く時間では無いのだ。
相当な何かが無ければ。
霊莉がう〜んと顎に手を置いて考えたその瞬間、参拝者の一人が手に持っていた灯籠を霊莉に投げつけた。
投げつけられた灯籠には多量の油が仕込まれていたらしく、霊莉を容易く火に包み込む。
「熱ッ…!な…んで…ッ!…ったすけ…ッ!」
「もっとだ!怪物を殺せェ!」
悶え苦しむ霊莉に対し、参拝者…いや、襲撃者達は大きな咆哮を上げて霊莉に牙を向く。
もはや絶対絶命。
しかしその瞬間、突如神社の方から飛んできた槍が襲撃者達を纏めて串刺しにした。
気づけば霊莉を包み込んでいた火は消えており、火傷痕の目立つ霊莉がその場に倒れ込んでいた。
驚いた襲撃者達が神社の方を見ると、そこには強い怒りに満ちた表情をした燻莉。
「博麗の巫女が二人…!?」
「クソッ!影武者か!!」
「黙りなさい。」
そう呟いた燻莉は困惑する襲撃者達に一瞬で肉薄し、どこからとも無く取り出した大きな斧を躊躇なく振り下ろした。
グチャリとグロテスクな音を境内に響かせたその攻撃は、襲撃者達の命を容易く奪い獲る。
それらは純白の雪景色を赤く染め、博麗神社に残った人間は霊莉と燻莉だけになった。
あとは乱雑に捨てられた血塗れの肉塊のみ。
襲撃者達を全員殺した燻莉は白い溜息をつき、霊莉に歩み寄った。
「霊莉…大丈夫?」
「…お…ねぇちゃん…」
「大丈夫、すぐ治すからね。」
辛うじて意識のある霊莉を抱え、燻莉は神社の中へと入っていく。
この事件が、その後起こる様々な事件の引き金となったのであった。