燻莉が目を覚ますと、そこは相も変わらず森の中だった。
しかしその森は燻莉が気を失っていた時と違い、焼け焦げた枯れ木ばかりが立ち並んでいる。
訝しげな表情で首を傾げた燻莉はゆっくりと立ち上がり、当たりを見回した。
「…私が寝ているうちに幻想郷は滅んじゃったのかしら。」
燻莉は近くに落ちていた自らの武器を持ち上げ、妖除けの結界を解除して焼け焦げた森の散策を始める。
すると結界を解除して間もなく前方の空間が裂け、その裂け目から見知った女性が現れた。
綺麗な長い金髪にいくつかのリボンをつけた女性、大妖怪の八雲紫である。
その姿を見た燻莉は焦ったように武器を捨て、両手を合わせた。
「紫ごめんなさい、考え無しに強く言っちゃって」
燻莉は先日の神社での出来事を謝罪し、紫の返答を待った。
しかし、紫は何も言わずに燻莉に向けて魔弾を発つ。
怒っている可能性は考慮していたが、いきなり魔弾を放ってくるとは思わず、反応が遅れた燻莉は為す術もなくその魔弾を食らった。
「痛ッ…そこまでしなくてもいいじゃないの…。」
しかし紫は依然として何も語らず、続けて幾つかの魔弾を放ち続けた。
人間とはいえ、燻莉は歴代最強と云われる程の実力者。
一度受けた攻撃を再び食らうはずもなく、燻莉は先程捨てた武器を拾って全ての魔弾を弾き返す。
弾かれた魔弾は四方八方に飛んでゆき、焼け焦げた木々に衝突した。
すると魔弾を放ち続けていた紫は漸く言葉を発した。
「“妖喰らい”の燻莉、貴女には幻想郷から出て行ってもらうわ」
「何言って…ッ!」
妖怪を喰らったとはいえ、突然の迫害に燻莉は困惑した。
いくらなんでもたった一度の小さな罪で世界から抹消されてはたまったものでは無い。
しかし弁明する余地も無しに燻莉の足元に大きめな裂け目が展開され、燻莉は為す術もなくその裂け目に放り込まれた。
境界へ落ちゆく燻莉が最後に見たものは、自分を蔑むように見つめる紫の冷たい瞳であった。
燻莉を境界へ落とした後にたった一人残された紫は、燻莉が居た場所を暫く見つめながらポツリと呟いた。
「…殺されなかっただけマシだと思いなさい」
紫は目の前に新たな境界を展開し、その中に足を踏み入れる。
境界の先には閑散とした神社が鎮座しており、境内には火傷痕の目立つ女性が立っていた。
その女性は博麗霊莉、先程幻想郷から迫害された博麗燻莉の双子の妹である。
彼女は潤いのある瞳で紫を見つめた。
「…もう、燻莉には会えないの?」
必死に涙を堪えながら、紫に向けて寂しげに問うた霊莉。
強い哀しみの念を孕んだその瞳から思わず目を逸らした紫は、鳥居から見える景色を眺めながら霊莉の問いに答えた。
「えぇ…燻莉は絶対にしてはならない事をしてしまった……貴女もそれは、分かっているのでしょう…?」
紫がそう言うと、紫の背後から啜り泣く声が聞こえた。
紫はそれに気づいてなお霊莉の方を見ないまま、何も語らずに鳥居からの景色を眺め続けた。
博麗神社は山の中腹に位置しており、鳥居からは幻想郷が一望できる設計となっている。
「私まだっ…燻莉にお礼言えてないっ…」
その鳥居からは幻想郷