暗い森にて、皮肉な異種格闘技戦。
爆ぜた空間と共に初撃を成功させたのはカメリアだった。
肩甲骨を回して繰り出される横殴りの攻撃は私の左聴覚を破壊する。
キーンという甲高い耳鳴りと共に脳漿が掻き乱される。
どうにか私もその攻撃をモノにしたい。
しかしそんな訛っちょろい攻撃など、このカメリアがそう簡単にするとは思えない。
「とりあえず何発か入れさせてもらうわよ」
右ストレートをすれば肩甲骨を回してぐにゃりと躱されるし、アッパーをすれば肘でいなされる。
傷を抉るために怪我した足を狙おうとしても、全て読まれる。
瞬き一つせず目を見開いたままウェイブでとめどない攻撃を繰り出す様は、冗談抜きで狂気そのものであった。
普通に、こわい。
その狂気に圧倒された訳では無いが、私の攻撃はいなされてカメリアの攻撃は通るといった悪循環が続いてしまっていた。
吐血し頭がグラグラしてきたが、それでも私は来たる刹那を渇望している。
「ほら、いつまでも期待してちゃダメよ?」
私が時を待ち望んでいる今も尚カメリアの猛攻は止まらない。
私が何を狙っているのか、カメリアは分かっているつもりなのだろう。
カメリアは非常に強い。相手に隙を与える事などほぼないし、相手の予期せぬ攻撃にも反応できるほどの能力がある。
今回はそこを利用させていただく。
「その時は刻一刻と、近づいてると思うけど?」
「ふふっ、どうかしらね?」
お互いが不敵な笑みを浮かべながら交わす会話。
そしてカメリアの上から降り下ろすような攻撃を躱した一瞬、私はほんの少し上向きになった顎に全力で掌底打ちを放った。
直撃すれば即死も有り得る致死の攻撃。
「…ダメか。」
「良い掌底だったわ、当たればね。」
カメリアは私の全力の掌底を身体を拗らせて回避し、掌底によって露わになった脇の下に向けて不安定な体勢から回し蹴りを放った。
下手したら肋骨を粉砕しかねない強烈な回し蹴り。
大きな隙を突かれた攻撃を躱す事など到底不可能であり、カメリアの強烈な回し蹴りは私の脇を直撃した。
「…ッ!カハッ…!」
肋骨に痛烈な衝撃が走り、血を吐き出す。恐らく折れたのだろう。
しかし痛みで意識を失いそうになる中、私はカメリアの足を脇で挟んで離さなかった。
今出せる限りの全力でカメリアの足を捕える私。
「ッ!最初からこれが狙いで…ッ!?」
「そういう…ッことっ!」
驚愕の表情を浮かべたカメリアに私はついに勝利を確信した。
これは油断でも慢心でもない、予感だ。
しかし、そろそろ決めないと身体がもたないな…
そう思った私はカメリアの足を抱えながら身体をぐるんと横に一回転させ、そのまま関節技に持っていった。
コンバットサンボにおける関節技は主に“とどめ”とされている。
とどめというだけあって絶対に相手を逃がさないし、絶対に戦いを終わらせる事が可能である。
「中々やるじゃない」
関節技を完璧に決められて身動きの取れなくなったカメリアは、どうにか逃れようともがき続けた。
しかし逃れることは出来ない。完全に決まった関節技は誰であっても絶対に逃れることが出来ないのだ。
そんなこと私は勿論、カメリアだって知っている。
そしてついにカメリアは抵抗をやめたのであった。
「諦めた?」
「えぇ…、けれどね灯音?」
カメリアは抵抗しないながらも、突然私に不敵な笑みを向けた。
なんだまだ何かあるのかこの女はと、警戒を通り越して呆れすら生まれてくるわけだが…その何かの答え合わせはすぐに行われた。
「忘れてないかしら?私の力」
「…ッまさか。」
カメリアの視線の先には白髪の蓬莱人、妹紅がいた。
鈴仙との戦いが終わったのか、煙草を吸いながらこちらの方へ歩いてくる。
綺麗に決まった関節技を見た妹紅は愉快そうに言った。
「よーぉ、流石は灯音だな!こっちは終わったぞ〜」
「…さぁ、下僕になりなさい!」
妹紅が怪訝な顔をした頃にはもう遅い、カメリアの冥い瞳が妹紅の赤い瞳を捉えた直後、妹紅の瞳からは一切の色が失われた。
咥えていた煙草は落下し、進んでいた歩みは停止する。
「…妹紅。」
「私を助けなさい」
身動きのできないカメリアは指示を口頭で送る。
あのジェスチャーはどういう原理で指示を送っていたのだろうと重ねて疑問に思う。
指示を受けとった妹紅は私に向かって歩みを進めだした。
そして瞳から光を失った妹紅は、両手に炎を宿し…
……己の脳漿を散らせた。
「な…ッ!?」
再び驚愕の表情を浮かべるカメリア。
燻る硝煙と爆ぜた火薬の香り、シュー…と鳴く銃口。
そう、私は妹紅の脳天を撃ち抜いたのだ。
しかし妹紅は蓬莱人、弱い銃では例えヘッドショットであっても効かないかもしれない。
なので私は
しかしこの銃、リボルバーながら規格外に重く、規格外に大きい。
そうなると当然反動も馬鹿にならず、発砲した方の肩が外れて使い物にならなくなってしまった。
「…貴女がそこまで冷酷だとは思ってなかったわ…」
「これも作戦のうちなの。」
ツェリスカを消した私は、外れた肩を地面に打ち付けて無理矢理肩をはめ込んだ。
痛みはあるが、外れた肩の痛みよりも先程折れた肋骨の方が痛かったのであまり気にならなかった。
すると、脳漿が爆ぜて見るも無惨な姿になった妹紅はだんだんと形を形成していき、ついに人の姿を取り戻した。
「嘘でしょ…」
「ふぁ〜スッキリした、ありがとな灯音!」
「心痛むから、次から気をつけてね。」
そう、妹紅は蓬莱人。
蓬莱人は不死身であり、何度死んでも何度でも蘇るのだ。さながらラピュタのようである。
すっかり自我を取り戻した妹紅は、肩を回して体の具合を確かめながらカメリアに言った。
「よぉお前、こっから何ができんだい?」
妹紅が不死身であり、能力による支配が通用しないと見たカメリア。
そんなカメリアは驚愕の表情こそ浮かべていたが、目を閉じてついにこう言ったのだ。
「…私の負けよ。」
こうして皮肉な異種格闘技戦もとい、ゲリラミッションは私達の勝ちということで終幕を下ろしたのであった。