「霊夢、この前はありがとね。」
「いいのよ、こーりんに何かあっても大変だしね」
ストーブによって暖気が満たされている店内で、私と霊夢、魔理沙、霖之助は四人で座して談笑していた。
ストーブの上にはお茶用のお湯を沸かすための薬缶が乗っており、その温度は着実に高まりつつある。
今日はいつも以上に気温が低い上、ついに雪まで降り始めてしまった。
どうせ客も来ないだろうということで、私は霖之助と相談した結果、今日は店を閉めることに決まった。
私が玄関扉の看板をひっくり返すと、そこには「Sorry We are closed.」と書かれた面。
外界と遮断されている幻想郷では、アルファベットなんぞグローバルなものはあまり一般的では無い。
もちろんそれは至極当然の事だ。
霖之助もそれを分かっているのだが、じゃあ何故その看板を使うのかと私が聞くと「どうせ幻想郷の住民は看板なんぞ読まない。」とのこと。
う〜ん、あながち否定できないのがなんだかな…。
そんな事をぼーっと考えながら、湯呑みに注がれた新しいお茶を啜る私。
「熱っ。」
お茶が熱々であることを失念していた私は割と一気に茶を口に流し込んでしまい、見事に舌を火傷した。
一度舌を火傷すると、暫くは熱い飲み物が飲めなくなってしまうのは恐らく人類みな一緒だろう。人類みな家族!
少しだけ窓を開けた私は軒先から垂れているつららをもぎ取り、熱々のお茶に満たされた湯呑みにつららを差し込んだ。
冬場はこうすることで熱々のお茶を簡単に冷ますことができる、幻想郷に来てから学んだ生活の知恵である。
現世だったら普通に冷凍庫から氷持ち出して入れれば済むんだけどね、幻想郷には冷凍庫なんて大層なものは存在しないから仕方ない。
「お?灯音、私にも頼むぜ!」
「はいはい…うー、寒っ…。」
私は魔理沙に頼まれて再び窓を開けてつららをもぎ取るわけだが、ストーブで身体が暖まったとはいえやはり外は寒いものだ。
私が窓から身を乗り出してつららをもぎ取ると、ふと視線を感じて右方を向いた。
するとそこには白いキャペリンハットを被った金髪の少女が、何故か道路標識を持って降り頻る雪の中で立っていた。
「え……?」
「ん?どうした灯音、早くしてくれよ」
その少女は青と白のワンピースのような衣服を着ており、後ろ手に道路標識を持ったまま私を見つめている。
その姿を見た私は、怪訝な顔をする魔理沙をさておいて酷く驚いた。
「灯莉……?」
身に纏う衣服こそ違えど、その姿は死んだはずの妹、灯莉に瓜二つであったのだ。
私が灯莉の名前を呼ぶと、その少女は首を傾げた。
燻莉は幻想郷で生まれ育った、そして私は今幻想郷に居る。
じゃあ灯莉が生きているなら、灯莉が幻想郷に居ても決しておかしな話ではない。
しかし灯莉はあの時、私の目の前で死んだはずだ。
本当は生きている。ならそれは願ってもない程嬉しい話だが、現実はそこまで幸せではない。
燻莉が言っていた“全ては灯莉の能力”という話も、有り得なくは無いのかも…いや、絶対に有り得ない。理論とかじゃなく、勘だ。
私が灯莉によく似た少女と見つめ合いながら思考していると、突然後ろから大声と共に肩を押された。
「灯音!どうしたんだよ!」
「わぁっ!?」
「あっ」
ドサッ
完全に我を忘れて考え込んでいた為だろうか。
魔理沙に肩を押された私は窓から転落し、積雪の中に全身を埋め込んだ。
「ひぃ…っ!」
雪の冷たさと外の寒さを一身に感じた私は急いで雪の中から脱出した。
脱出後、少女がいた方を見ると、少女はそこから忽然と姿を消していたのだった。