東方空蝉録   作:Amaryllis___

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薄着で雪に埋もれるのは辞めましょう。

 

 

 

「さ、寒ッ……。」

 

 

 

その身を雪の中に放り込まれた私は、魔理沙の手を借りて店内に戻った。

店内の気温は随分と高まっているが、短い間とはいえ雪の中に全身を埋め込んだせいで体を急激に冷やした私。

 

濡れた服を椅子の背もたれに掛け、私は下着姿のまま毛布を被ってガクガクと震えながらストーブの前を陣取っている。

ホントに寒い。やってくれたね魔理沙。

 

すると魔理沙は頭を掻きながら私に苦笑してみせた。

 

 

 

「いや悪かったよ、まさか落ちるとは思わなかったんでな」

 

 

「…まぁ、魔理沙の呼び掛けに気づかなかった私も悪いしね。」

 

 

「…?死ねっつったか今」

 

 

「言ってないわ。」

 

 

「そうか」

 

 

 

空耳が酷すぎる。

 

全く、なんなんだこの魔法使いは。

数年前からの付き合いである私ですら大変なのに、子供の頃からの付き合いである霖之助はさぞ大変だったであろう。

ちなみに当の霖之助は開かれた本を膝に置いたまま寝落ちしている。

 

まぁ大変とはいえ憎めない所もあるのだけれど、紅魔館のアレは駄目だよ。

 

そんなことを考えていると、霊夢がお茶を膝の上に乗せながら私を見つめてきた。

 

 

 

「さっき、なんか見たでしょ。どうしたの?」

 

 

「そうだよ、あっちの方見てなんか言ってたよな」

 

 

「え?あぁ…。」

 

 

 

霊夢の鋭い質問に対し、私は少し言葉を詰まらせてしまう。

香霖堂に来てから一歩も動いていない霊夢が、窓際に居た私の一瞬のアクションに気づくなんて思わないだろう?

博麗の巫女はいかなる時も注意を怠らないのだろうか、だとしたら随分と大変な仕事である。

 

…って、よく考えたら傭兵も同じようなもんだった。

巫女も、意外と近しいものなんだね。

 

 

 

「あっちに金髪の女の子が立っててさ、私の妹にすごく似てたんだよね。」

 

 

「なんだ灯音、妹なんていたのか?」

 

 

「あら、初耳なのは私だけだと思ってたわ。その妹さんも幻想郷にいるの?」

 

 

 

そういえば私はこの二人は愚か、幻想郷の他の誰にも妹の話をしていなかった。

していなかったと言うより、忘れていた。のが正しいか。

 

ところで何故、私は家族の事を忘れていたのだろうか。

燻莉と会わなければ、恐らく家族のことを思い出すことも無かったのだろう。もしかしたら、魔法とか能力とかで封印でもされていたのかもしれない。

 

…と、ここであまり考えすぎるのも良くないか。

今は二人と話しているんだ、考え事は一人の時にすればいい。

私は自分にそう言い聞かせ、混濁する思考を断ち切った。

 

 

 

「10年前に死んだよ。だから人違いだとは思う。」

 

 

「…そう、変な事聞いて悪かったわ。さっき見たって少女、他に特徴とか無かった?」

 

 

「気にしないで…その子は青と白のワンピースみたいな服を着てて、何故か道路標識を持ってたよ。」

 

 

 

自分で言っといて何を言ってんだって感じだが、実際に見た通りのことを言っているのだから仕方ない。

道路標識を持ってる少女って何だよ…世界中探してもそんな少女が居るとは思えない。私は詳しいんだ。

 

しかし霊夢はその少女に心当たりがあったらしく、「あぁ」と言って手をポンと叩いた。

え、知ってるの?てか居るの?そんな少女が?私は詳しくなかったらしい。

 

 

 

「それはカナね、カナ・アナベラル。最近うちの神社に取り憑いた騒霊だけど、アイツがこんな所に来るなんて珍しいこともあるのね」

 

 

「騒霊?幽霊みたいな?」

 

 

 

私が見た少女はカナ・アナベラルというらしい。

本当にそれが正しいのかは分からないが“道路標識を持った少女”という条件でヒットしたのなら、それはきっと正しいのだろう。

世界中探しても絶対そんな子他に居ないもん。

 

 

 

「正確にはポルターガイストっていう怪異の事ね。カナのこと、詳しく聞きたい?」

 

 

「…うん。お願い、霊夢。」

 

 

「はいはい」

 

 

 

カナ・アナベラルという名に聞き覚えは無いが、私はどうにもあの少女の事が気になって仕方がなかった。

単純に灯莉に似ていただけなのに、不思議な話である。

 

布団にくるまったままの私が霊夢の話を聞くために待機していると、霊夢が空になった湯呑みをコンと私の前に置いた。

 

 

 

「情報料、お茶一杯ね」

 

 

「ふふ、抜かりないね。」

 

 

 

私は布団を落とさないように肩を丸め、器用に茶を淹れて霊夢に手渡す。

折角なので私も飲もうかと思ったが、薬缶のお湯が底をついたので泣く泣く諦めることにした。

 

すると古ぼけたストーブが、燃料不足を知らせるアラームをピピピと鳴らしたのだった。

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