東方空蝉録   作:Amaryllis___

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白日に揺らぐ騒霊の名

分厚い灰色の雲から降り頻る数多の雪。

日本に住む普遍的な人間であるならば、あまりの寒さに窓を締め切るものだろう。

しかしそんな寒空を気にも留めず、ただひたすらに口から煙を吐き続けている女がいた。

 

そう、彼女は普遍的ではない。

生まれ育った環境によるものもあるだろうが、そもそも彼女は人間ですらない。

彼女は吸血鬼と人間との間に生まれた、ハーフヴァンパイアなのだ。

 

 

 

「…そんなエッセイめいた文を構築してみたり、ね」

 

 

 

私はカメリア、カメリア・スカーレット。

柊灯音に狂おしい程の愛情を抱く、少しばかり特徴的なハーフヴァンパイア。

灯音が香霖堂での仕事をこなしている間の留守番をしているわけだけど……

 

 

 

「いやぁ…暇ねぇ…」

 

 

 

永劫の時を生きた異人類とはいえ、やる事がなければ暇を持て余すものである。

例え、それがたった数時間であっても。

 

灯音の代わりに家の掃除とかは済ませてあるんだけれど、それでもかなりの時間が余っているわけで。

私はただ無尽蔵に煙を吐き出すだけの機械と化しているのです。

 

しかしそれにしても暇である。

あまりにも暇なのである。

 

 

 

「出掛けようにも、行く場所なんて無いしねぇ…」

 

 

 

灯音は私の為にわざわざスペアキーを用意してくれていたので、別に外出ができないわけではない。

問題は行く場所が無いということだ。

 

買い物は必要ないと言われているし、そもそも私は働いていないのでお金もない。

所謂ニートというやつだ。いや、どちらかというとヒモなのだろうか。

そんなことはどうでも良い、どこかお金が無くても暇を潰せる場所は無いものか。

 

しかし、そこでカメリアに電流が走った!

 

 

 

「紅魔館にでも行こうかしら」

 

 

 

そういえば夢幻館の一件で忘れかけていたが、レミリア達に「また会おう」と言っていたのだ。

色々と忙しくて顔を出せずにいたので、良い機会だから遊びに行こう。

崇高なるハーフヴァンパイアは約束を破らない。これ、常識ね。

 

 

 

「そうと決まれば早速出発よ、戸締りはOK?OKね!」

 

 

 

先程まで何の気力も感じさせないような風貌で煙を吐き出しまくっていた私だが、いざやる事が決まれば、そこからの行動は隼のように速い。

恐ろしく速い行動…私じゃなきゃ見逃しちゃうわね。

ドタバタと家中を駆け回って窓の施錠を確認し、私はサクサクッと準備を済ませて家を出たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、幻想郷っていうのはそういうとこ。」

 

 

「感動的!」

 

 

「感動的…だけど、結界を越える方法はあるんですか?」

 

 

 

私は現世からの訪問者、蓮子とメリーに幻想郷について話していた。

幻想郷の正体を知った二人は、未知への遭遇に酷く感動していたが、楽観的な蓮子とは違い、メリーは現世への帰り方を心配しているようだ。

ポジティブなのもいいけれど、やっぱ現実的に未来を見据えるのも大事だよね。

 

 

 

「あるよ…ね?霊夢。」

 

 

「急に私に振らないでよ…うん、あるよ」

 

 

「良かった…」

 

 

 

幻想郷から出る方法があるのは勿論知っていたが、私は結界だとか魔術だとかそういう系には疎いのだ。

目を当てられないほどの武器マニアである点を除けば、現世で生まれ育っただけの至って平凡な女子なのである。タピタピ、キャピ☆

 

ということで類稀な幻想郷の巫女である霊夢に丸投げしたわけだ。

責任を押し付けた訳じゃない、適材適所というやつだよ。何か問題でも?」

 

 

 

「途中から声に出てるわよ」

 

 

「…それマジ?どこから?」

 

 

「現世で生まれ育っただけの至って平凡な…」

 

 

「わかった、もう大丈夫。」

 

 

 

夢幻館での一件が終わって平和ボケしているせいか、色々なものが緩んできてしまっているようだ。

心の声すら漏らしてしまうとは、柊灯音、一生の恥である。

ドン引きしている蓮子とメリーを見なかったことにし、私は煙草に火を灯したのであった。

そうしないとメンブレ不可避である。

なにがタピタピ、キャピ☆だよ、カメリアに会いたい。

 

まぁ蓮子とメリーに関しては、一先ず霊夢に任せておけば良いだろう。

結界とか幻想郷に於いての知識では、霊夢の右に出る者はまず居ないだろうし、ね。

 

それにしても現世か。

私が幻想入りしてから何年経ったんだっけ?5年くらいかな?

現世の科学技術とか近未来的な物って、ほんの数年でもかなり発展するし、色々と私の知らないものが多いのかもしれない。

そう考えると、久々に現世に行ってみたい気もするなぁ。

 

 

 

「でもなんだかんだ、ここが好きなんだよね。」

 

 

 

窓から覗いた空は未だ雪が降り頻り、ただひたすらに銀世界を展開している。

別に寒いのは得意ではない、どちらかと言えば苦手な方だ。

運動すれば体は温まるけれど、こんなに平和じゃ運動することも無いし…ね。

ちなみに暑いのも苦手、裸になっても暑いものは暑いのだ。なんだ?人間初心者か?

 

とにかく、気象がどうであれ、私は幻想郷のこの雰囲気が好きなのだ。

神妖や非科学的な力が蔓延ることを除けば、なんら変哲の無い辺鄙な田舎。

けれど何故か、そこに居るだけで心が洗われるような、そんな雰囲気が幻想郷には漂っている。

 

 

 

「魂の洗濯じゃ〜。」

 

 

 

窓の外を眺めながらボーッと煙を吐き出す。

すぐそこには霊夢達が居るというのに、相も変わらず独り言の多い野郎だ。

…?誰が野郎だコノヤロウ、私は女だ。

 

 

 

「灯音」

 

 

「んぁ、」

 

 

 

ボーッと煙草を吸っていた私に突如襲いかかる呼びかけ!

特段大きな声で呼ばれた訳では無いが、夢見心地な気分でいたので、私は肩をビクリと震わせて素っ頓狂な返事を返してしまった。

今日の私、ボロボロすぎませんか?カメリアに会いたい。

 

呼びかけの主は紅白の巫女、霊夢であった。

 

 

 

「ぷっ……さっきのカナの話、あったじゃない?」

 

 

「…笑うなし。うん、それがどうかした?」

 

 

「どうやら蓮子達も見たことあるらしいのよ、カナを」

 

 

「…?現世で?」

 

 

「そうだよ。不思議な格好してるし、道路標識を後ろ手に持ってたからかなり印象的だった!」

 

 

 

私の問いに対して、蓮子は心底楽しそうな様子で答えた。

 

カナは今、博麗神社に住み着いている幽霊のはず。

そんなカナが現世にいるなんて、普通に考えたらおかしな話だ。

けれどよくよく考えれば、元々カナは現世の住人だし……いやいや、現にカナは幻想郷にいるんだから現世にいるのはおかしい。

 

 

 

「ねぇ霊夢、結界って霊夢が居なくても越えられるの?」

 

 

「紫が居れば越えることはできる。けど、物好きなアイツとはいえ、カナの現世旅行に手を貸すとは思えないわね。」

 

 

 

霊夢の言っている紫とは恐らく、幻想郷を創造した大妖怪の八雲紫のことだろう。

話を聞く限り、カナは特別強い力を持つ幽霊というわけではなさそうだし、八雲紫なんて大妖怪がわざわざ一枚噛む事は無い…と思う。

まぁ霊夢もそう言ってるし、きっとそうなのだろうね。

 

…?てことはカナは二人存在することにならない?

霊体と実体、二つの側面を持ち合わせる存在だったり…まさかね。

それにしても、カナの話題がここまで立て続けに上がるなんて、とんでもない偶然である。

 

いや、これは本当に偶然なのか?

何か不可思議な力によって仕組まれた必然である可能性は?

 

 

 

「…気になる。」

 

 

 

しかし、こういうときに深く考え込んでしまうのは私の悪い癖だ。

今のところは予測でしか判断できない状況なのだから、一度リフレッシュするべきだろう。そうだ、そうするべきだ。

 

混濁した思考回路を整頓する為に、私は二本目の煙草に火を灯したのであった。

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