ぐねぐねと捻れた瓦礫のトンネル。
それはトンネルというにはあまりにもお粗末であり、瓦礫の隙間からは冷たい風が噴き出しているうえ、至る所からぽたぽたと水滴が滴り落ちている。
そんな質の悪いトンネルを成人女性4人が歩いている訳だが、入口と同様、やはりトンネル内部もかなり狭くなっていた。
先頭は私、蓮子メリーと挟み、最後尾をカメリアが歩いている。
「せっま…頭ぶつけそう」
「気をつけてね…カメリア大丈夫?」
チラッと後方を見ると、カメリアは頭を幾度もぶつけながら平然と返してきた。
「えぇ、問題ないわ」ガコンガコン
「……そっか。」
血こそ流していないものの、廃材に頭をぶつけることに対してなんの躊躇いも持たず歩き続けるその姿は狂気に満ちていた。
普通に、怖い。
カメリアのハーフヴァンパイアならではの狂気的な姿に戦慄しながらも狭く不揃いな瓦礫のトンネルを進んでいると、程なくして道が行き止まった。
「あれ灯音さん、行き止まり…?」
「…なのかな、途中に分岐なんて無かったよね。」
しかし、ここ以外で他に“城”へ続きそうな道など無かった。
私が分岐に気付かず進んでしまうなんて事は無いだろうし、仮にそうだったとしても後ろにはカメリアがいる。
そう思い、カメリアに視線をやるが、どうもカメリアにも思い当たる節はないようであった。
「とりあえず引き返すかな。」
とにかく、立ち止まっていても仕方がない。
ひとまず歩いてきたトンネルを引き返そうとすると、メリーが徐に私の足下を指さした。
「…ねぇ灯音さん、足下にあるのって何かしら?」
「ん…?」
メリーに指摘されて足元を見ると、私の足元には何の変哲もない大きな鉄板があった。
そういえば今まで歩いてきた道には物などひとつも落ちていなかったし、行き止まりのこの地点にのみこんな物が落ちているなんぞ確かに不可解だ。
まるで何かを隠しているかのような、そんな雰囲気がその鉄板からは感じ取れた。
「動かしてみる、みんな少し下がってて。」
取手も何もついていない、ただの鉄板。
しかしこの下に何かがある可能性は確かに高いので、きっと覗いて損は無いだろう。
もしかしたら、戻れなくなるかもしれないが。
不揃いな水滴の打ち付ける音だけが響く空間に、重い鉄板とアスファルトが擦れる音が須臾に加わった。
予想していた音とはいえ、静かな空間に不似合いな大音量に肩を震わせる4人。
と同時に、私は鉄板の下に隠されていた物に衝撃を受けた。
「ビンゴ。ナイスだよメリー。」
「隠し通路!まさに冒険だね!」
「蓮子はどうしてそんなに楽観的なのかしら?」
重い鉄板の下には人1人が通れるような深い穴が隠されており、その側面には鉄製の梯子が打ち付けられていた。
隠し通路だからワクワクする…なんていう感情は私には無いが、新たな道筋がひらけたという点に於いては非常に喜ばしい事だろうとは思う。
私が安堵のため息を吐いていると、後方のカメリアが顔を覗かせてきた。
「暗所は人外の部門よ、私が先行するわ」
「了解、後ろは任せて。」
順列をカメリア、蓮メリ、私に変更する。
ていうか、蓮メリはガイドとして着いてきたんじゃなかったっけ?
一応カナには会えたからもう必要は無いと思うんだけれど、どこまで同行するんだろう。
恐らく、ここから先は凡そ人の次元を超越した空間になる。
蓮メリには少々厳しいのではないだろうか。
「……危なそうなら、すぐ帰らせよ。」
致し方なし、ここまで来てしまったのだ。
私は先程とは違った意味での溜め息を吐き、少し伸びてきて邪魔な前髪を耳に掛けたのだった。