「全く、あいつらはどこにいるというのだ」
クッパは館を走りながら、愚痴をこぼす。
「ここが怪しいと思うんですがね……」
キノピオはドアを指差す。クッパとキノピオの二人はマリオに再会すべく、館内を回っている。
今は書斎に来ている。次の道が見つからないのだ。キノピオが指しているドアの先には、何も無い狭い空間があるだけだ。
二人がわからないのも仕方ないだろう。なぜなら、マリオ達が二階に上がった手段である便所は、今二階に存在しているからだ。この状態ではクッパ達は上に行くことすら出来ない。
「はぁ……。ちょっと座るのだ」
流石に同じ所をグルグルと回って疲れたクッパは、本棚にもたれかかる。
キノピオは元々便所があった空間をまじまじと見つめて、悩む。こんな空間が無意味に存在するのか? それともただ何も置かれていないだけの、物置だとか? わからない。
「……キングテレサの奴。まさかミスってるんじゃないか」
ふとクッパが口にする。クッパはキングテレサのまるで誘導するようなやり方から、自分らにゲームをやらせているのではないかと薄々感じていた。
それは、キングテレサがピーチ姫を攫う時にわざわざ『北の洋館』と場所を教えたこと。館についた時、鍵を探せ、と伝えたこと。そして、都合よく部屋に進む為の鍵をばら撒いていること。極め付けに、キッチンのボタントラップだ。このことから、十分キングテレサは自分らを使って遊んでいることは裏付けできる。
だから、進めないというのは変なのだ。クッパはそれならば、とあることをする。
「オイ! キングテレサ! 聞こえるか!」
クッパは大声で叫ぶ。
「うわぁ、耳ががんがんする。どうしたんですか一体!?」
「耳を塞いでおけ。ワガハイに先に進めるいい考えがある」
迷惑そうにクッパを見つめるキノピオに、そう悟す。
「聞こえてるんだろう! ワガハイ達先に進めなくなったぞ! いわば『詰んだ』のだ。おぉい!」
クッパは大声で訴える事を続けると、モワモワと白い煙が出てきて、そこにキングテレサが現れる。
「あぁもううるさいな! 忘れてたんだよ! ちょっと待ってやがれ」
キングテレサはそう言うと、姿を消す。それから少しすると、さっきまでただの狭い空間だった場所に便所がスーっと降りて来た。
「さぁ入れ」
キングテレサの声がする。
ここに……?
クッパもキノピオも狭い便所に入るのに抵抗はあったが、上から降りて来た所を見て、辛うじて理解する。しかし本当にここから……?
疑問を捨てきれなかったが、便所に入る。妙に臭い。
「いくゼェ!」
キングテレサの声が再度聞こえる。束の間、便所はかなりのスピードで急上昇する!
「ぬおぉっ!」
「あばばばばば」
二階へ到着。
「ギャハハ! ご利用ありがとございましたァ!」
「うぅ、おのれ……わざと速くしたな……」
クッパとキノピオは少々の気持ち悪さとともに、便所の外に出る。ベッドルームだ。
「マリオさん達もこうやって進んだんですかね?」
「うむ、恐らくな」
クッパは頭を掻きながら、正面を向く。すると、なんだか楽器の音が聞こえてくる。位置はそう遠くない。
この曲は、スーパーマリオブラザーズの『地上BGM』か? うぅむ、ピアノの旋律が気持ち良い……。
……待て。もしやマリオ達か?
クッパはこんな事をしているのはマリオに違いないと思った。マリオはゲームのBGMが大好きであるからだ。
「ぐぬぬ。マリオめ。ふざけおって!」
クッパはドスドスと足音を立てながら進む。キノピオはその後ろをちょこちょことついていく。
マリオとの再会はもうすぐそこだ。
◇
「テレッテッテレッテ〜」
そう鼻歌を歌いながら、ドラムを叩くのはマリオ。その横でピアノを奏でるのはルイージ。そして、トランペットを持って楽しそうに吹くのはキノピコ。その様子は完全に音楽会であった。
マリオはこの部屋にある楽器の数々を見て、演奏せずにはいられなくなった。しかし、ルイージに鍵を探してから、と止められる。
そして鍵を見つけ、晴れて音楽会をしていたという訳だ。
夜中にとある洋館で好きな曲を演奏するというのは、ある種独特の感覚であった。
謎の開放感。ピーチ姫を助けにここに来たものの、意外な楽しみをマリオ達は見つけていた。
バタン!
突然ドアが開く。そこにクッパが現れる。
「全く。ワガハイ抜きで楽しそうにしてるではないか!」
「あ、クッパ」
「やっと来たか」
クッパの登場にマリオ達は手を止める。ついに再会だ。
「クッパ、どこいってたんだよ」
「それはこっちのセリフだ。色々大変だったのだぞ」
そういってクッパはまだ少し怒りつつ、前へ進む。
「かせ」
「やだ」
「ワガハイはドラム特化型なのだ。マリオ、お前は他の楽器でも出来るだろう」
「しゃーないな」
マリオはそう言うと、ドラムの席を立ち、代わりにクッパが座る。マリオはドラムをクッパに取られてしまったので、別の楽器を見て、どれを演奏しようか悩む。フラフラとしていると、ドアからキノピオがそっと出て来る。
「あ、あのー」
その声に皆は気づく。マリオやルイージが視線をやる中、キノピコは持っていたトランペットを落としてしまった。
「キノピオ……?」
呆然と立ち尽くす。それにキノピオも気づき、キノピコの方を見る。
「あ……」
見つめ合う二人。キノピオがいる。キノピコがいる。その事実を心にしっかり刻みこまれる時、二人は共に駆け寄る。
「キノピオっ! 無事だったのねっ!」
「うん……! 会えて良かった……! 大丈夫? 怪我とかしてない?」
「うん、ワタシは大丈夫。キノピオは?」
「ボクも大丈夫。クッパさんが居たお陰でね……」
キノピコはクッパの方に視線をやると、クッパはプイっと視線を逸らす。
「そっか、良かった」
「とにかく、会えて嬉しいよ」
「私もよ」
手を取り合って再会を喜ぶ二人。マリオとルイージはそんなやりとりを黙って見守っていた。
「さーて。再会を喜ぶ演奏といくか! キノピオ、こっちこいよ」
「あっ、はい!」
キノピオは周りを見渡し、自分が出来る楽器を探す。
「俺はこれにするか!」
マリオは机に置いてあるカスタネットを手にし、景気良くカチカチッ、と音を鳴らす。
キノピオはどれを取るか悩んだが、ロッカーに置いてあるバイオリンを見つけた。これだ、と思った。
手に取って、キノピコに目をやると、彼女はニッと笑ってくれる。実はバイオリンは二人を出会うきっかけになった思い出の楽器であるのだ。
「皆、準備おーけーかい?」
ルイージは呼びかける。皆は頷く。
「ふん! ワガハイのビートにしっかりついて来いよ!」
「アホ! 全員で合わせるんだよ!」
マリオとクッパがいがみ合う中、ルイージはもう一度声をあげる。
「ではいきます! 『ルイージマンション スタッフロール』」
「自分の曲かよ!」
マリオはツッコミを入れつつも、カスタネットで合わせ始める。『ルイージマンション スタッフロール』。低音調から始まり、ルイージメインのマリオブラザーズの曲だ。特徴は途中で口笛が入る所。ルイージは自分の曲にノリに乗りつつ、ピアノを奏でていく。
マリオは足でリズムを取りながらカスタネットを鳴らし、クッパはその性格とは裏腹に、弱めにドラムを叩き、曲の背景をカバーする。
キノピオは背の関係で、椅子の上に乗り、バイオリンを奏でていく。キノピコはクルッと回ったりしながら、トランペットを軽快に吹く。
夜中の音楽会。この館の周りに家は無いので、迷惑もかけない。月明かりの綺麗な夜空。その光が奥まで届くか届かないかの森に響き渡る陽気な演奏は、森の動物達を何やら楽しげな場所に連れて行ってくれるような、このまま夜がずっと続いたら良いと思わせるような。そういうものだった。
◇
「ケッ! 勝手に楽しみやがって! しかもその曲はオレへの当てつけか!」
浮きもせず、床をゴロゴロと転がり、自意識過剰にプリプリと怒るキングテレサ。ピーチはため息をつく。
「貴方もこんな事しなければ良かったのに。すっかりマリオ達はアトラクション気分ね」
「うるさいぞ! オレが完全に蚊帳の外だ。オレが直接イタズラすれば良かったか。でもアイツらと顔合わせるの苦手なんだよ。……あぁ、リソウとゲンジツってもんは違ってくるもんだな! ほんとヨォ!」
キングテレサが嘆くのも無視し、『あら、結構良い曲ね』と気持ち良く聞くピーチ。それに腹が立ったのか、モニターの電源を切るキングテレサ。
「ちょっと、これじゃよく聞こえないじゃないの」
「聞かなくて良い! アイツらもさっさと鍵持ってこの部屋に入って来やがれってんだ」
椅子から立って不満を言うピーチに構わず、キングテレサはそっぽを向く。
その姿を見て、キングテレサも本当は仲間になりたいのでは無いか、とピーチは思った。
けれど、前に敵対した時、かなりの事をやらかしたみたいだし、相容れない存在なのかしら。クッパも前はそんな感じだったけど、今は敵対はしておれど、結構緩んでるし……。貴方もいずれ和解し合う時が来るのかしらね……。
キングテレサの背中に哀愁を感じたピーチ。しかし、キングテレサの実際の心中は不明なはものであった。
◇
それから30分程、マリオ達5人は楽しい音楽会を終え、鍵を持って、目的地のドアに向かっていた。話し合った所、まだ開いていないドアで心当たりがあるのは、一階の書斎のもう一つのドアだけだったからだ。皆はベッドルームに集まる。
「俺達はこの便所から上がってきたからな。降りる時もここだろう」
便所を指差して、マリオは言う。が、キノピコは困惑した表情を浮かべる。
「えっ、ここからですか? 階段は無くなってるし、どうなってるのかな……」
キノピコの記憶では、館には階段があった。しかし、今は見当たらない。
「何、前は階段があったのか。……でも無い方がおかしいよな……。さてはキングテレサ、館の構造も色々イジってるのか?」
どうやらキングテレサの仕業であると言って良いだろう。第一便所をエレベーターのように使う事がイレギュラーすぎる。マリオ達はそう結論づけ、便所を見る。
狭い。
5人は明らかに入れない。ならば分けて行くか、とクッパが提案する。
「じゃあ、ともかくキングテレサを呼ぶぞ」
ここの便所を動かしてもらうために、クッパがまた大声を出す。
「おぉい! キングテレサ! 進めないぞ! 便所を降ろせ!」
──返事は無い。
「聞こえているだろう! 返事をしろ!」
「うぅ、すごい声……」
「ルイージさん、耳塞いだほうが良いです!」
──返事は無い。ただの屍のよう……になってる筈がない。無視か、いないのか。いくら呼んでも反応はなかった。
「なぁ、これで来るのか?」
「さっきは確かに来たぞ! アイツ、何してるのだ……」
流石に大声をずっと出していたからか、クッパは首を手で押さえて喉を休める。
「くそ、どうする……」
途方に暮れていると、突然体が宙に浮くような感覚に見舞われる。
浮遊感。
宇宙空間?
フワッと……空に羽ばたいていけそうな……。
「えっ」
──床が抜けている。その事実を確認した時には、5人は1階の書斎に落下していた。
「いった……」
打ったお尻を触りながら立ち上がるマリオ。ルイージもお尻を打ったようだ。一方クッパは上手く受け身をとっている。キノコ組は頭が良いクッションになって無事のようだ。
あまりに唐突の出来事。周りを見ると、ベッドやら引き出しやら全て落ちてきている。ベッドルームの床がまるまる消えたようだ。
犯人は……おそらくキングテレサだろう。マリオはそう思う。キングテレサにまだこんな魔力が残っていたとは。あくまで敵という事か。
「く……、まぁともかく、書斎にこれたな」
衝撃で本棚が所々倒れている。5人は立ち上がる。
「うぅ。ビックリしました」
「キングテレサめ。だが今回は腰を打たなかったぞ。ガハハハ!」
「開いてないドアって、あそこ?」
皆が体制を立て直す中、キノピコが指をさす。
「そうだね」
開いていない唯一のドア。そこにマリオは鍵を取り出し、挿して、ひねる。
「行くぞ」
そして、そっと開ける。
「……ピーチ姫!」
と、開け始めてから1秒もしない内にマリオはそう言う。彼女の特徴的な容姿にすぐにマリオは反応したのだ。
「何っ、ピーチ姫だと!」
その言葉に反応したクッパはマリオを押しのけて入る。
「ぬおぉっ! ピーチ姫!」
マリオとクッパの視界に入ったのは、金髪にポニーテール、服はドレスとは違ったピンク色のミニスカート。そして顔を見るに、紛れもなくピーチ姫だ。この格好はスポーツ用であるが、夏は暑いので、城での行事の時以外ではピーチはこうしている。
「マリオ!」
マリオやクッパを見て、ピーチは答える。後ろからルイージ、キノピオ、キノピコも入る。
「あっ、ピーチ姫がいるよ!」
「ピーチ姫だ!」
「ピーチ姫をこんな間近で見たのは初めてです……」
「うふふ。やっと助けに来てくれたのね」
ピーチ姫との再会に喜ぶ皆。ついに目的の人物に会う事が出来た。後はピーチ姫を連れて帰るだけ……。しかし、その後ろから白い塊がモワモワと現れる。
「あーあ。つまんねぇ」
「あ、キングテレサ! これでもくらいやがれ」
白い塊、キングテレサが出てくるや否や、懐中電灯の光を当てるマリオ。
「うわぁ、あれがキングテレサ……」
「顔が怖い〜」
キノピオとキノピコはキングテレサを始めて見た。あまり印象は良くないようだ。キングテレサは光を当てられて、のたうち回る。
「クソッ! 出会い頭これかよ!」
「お前は光が大の苦手だからな。先制攻撃だ。さぁ、かかってこいよ」
ニヤリと笑い、構えるマリオ。キングテレサがいる事ぐらい想定済みだ、という所から来る笑いである。それを見て、クッパも同じように構える。二人には余裕の表情がある。しかし、キングテレサのどんな不意打ちにも対応できるように、目は、そらさない。
マリオとクッパの豊富な戦闘経験から来る絶対的な強さ。スーパーヒーローと大魔王の二人を一気に敵として迎えたキングテレサは流石のキングと言えども、恐怖を感じざるをえなかった。
「調子に乗るなよ! オマエラ。オバケを舐めるなよ!」
キングテレサは構える。マリオとクッパは一層と集中する。
5
4
3
キングのカウントダウン。何か、来る。
2
1
「行くぞっ! ……ドロン!」
──キングテレサはマリオ達に背を向け、一目散に逃げていった。
「え?」
完全に戦闘体制でいた二人は拍子抜けした。キングテレサは戦うフリをして逃げたようだ。
想像だにしていなかったキングテレサの行動。マリオとクッパ含め、その場にいた全員がフリーズしたように思考が停止した。
◇
「どうやっても、二人には勝てないと判断したのね」
ピーチは言う。逃げるが勝ち、そう言う事だろうか。しかし、完全に最後は決着をつける予定であったマリオとクッパはどうも閉まらず、もやもやしていた。
「ふぅ。まずは脱出しないとね。この館から」
「ふぁ〜、眠いです」
「ワタシも……」
館を出ようとするルイージ、キノピオ、キノピコ、そしてピーチ姫。
完全に飲み会の帰りのような雰囲気だ。後は家に帰って寝る。こんなに気持ち良いことが他にあるか、と言わんばかりの空気だ。
「……兄さん? クッパ?」
この二人を除いては。
マリオとクッパは何やら向かい合ってバチバチと火花を散らしている。
「なぁ、クッパ。なんだかスッキリしねぇよな」
「ああ。元々力を奮う予定だった奴が逃げたのだから、当然だ」
二人は拳を突き合わせる。
「俺達、ピーチ姫を巡って戦ってたよな」
「……そうだな」
距離を取り、サッと構える。
「戦いの続き、やろうぜ」
「いいだろう」
言い終わると同時に、二人は飛びかかり、腕を掴んで、力み合う。
「うおおおっ」
「負けるか……!」
どうやら、戦う気だ。もう終わったのに。帰れば良いのに。夜中だというのに。
そんな姿を見た4人は、マリオとクッパの戦い好きに呆れてしまった。
「あぁ、どんな体力してるの。兄さんもクッパも……」
「冗談じゃないわ!」
「あの、すいません。ボク達帰らせてもらいますね……」
「ゴメンナサイ。……頑張ってね」
まだまだマリオとクッパはやる気なようだ。ルイージはこの疲れている状態で、また水撒きを頼まれたくがない故に、らしくない大声で伝える。
「もう、クッパもマリオも体術だけで戦ってよ! 炎とか吐かないでよ!」
ルイージの叫びは届いているのだろうか。
◇
「ギャハハ! 最初からマリオとクッパの相手なんかする訳ねぇぜ! ……勝てねぇからな。今回は不愉快な事も多々あったが、一応驚かしたりとかで成果はあるからまぁ良いだろ。次はどうアイツらを陥れてやろうか! オレは無限にイタズラするぜぇ。ギャハハハハ! ハハハハ。はぁ……」
かつてのテレサのキングであったのに、ただのコソドロ程度になり下がってしまい、キングテレサはため息を隠せないのであった。
なんだかキノコ王国をキングテレサ帝国にする! と言っていた自分が遠い昔のようだった。何故こんなにも小さくなってしまったのか。キングテレサは感じた。
今のマリオやクッパ達は自分とは格が違うのか。王冠を取られて自分が落ちただけか。はたまたその両方か。……仲間が居ないからか。
「アイツらが楽しそうにしているのが腹立つのは、オレに仲間がいないからなのか?」
はぁ、ともう一度ため息をつく。
『このままじゃ嫌だ』
「あの時のオレに戻る……?」
──仲間を。王冠を。
取り戻す。
◇
マリオと奇妙な館 終
読了ありがとうございました。(あっさり)
それはそうと、ルイージマンションのスタッフロールは隠れた名曲だと思う。