Hellsing the Blood   作:Lucas

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 上空を飛び交うミサイル群。

 崩れ落ちる前の原型を留めない廃墟。

 そして、街中を満たす硝煙と砂埃。

 お察しの通り、内戦状態にあったこの国だが、つい先ほど政府側の一大拠点が墜ちたため、最早終結したと言ってもいいかも知れない。

 

 そんな首都の一角で、今なお戦闘を続けている一団があった。

 彼らは政府軍に雇われた傭兵隊。

 雇い主がいなくなったため脱出行の真っ最中である。

 

「隊長! これから我々はどうなるんですか!?」

 

 1人の男が声をあげた。

 それに応えたのは、傭兵という言葉が似合わない、年端もいかぬ少女。

 

「大丈夫! ちゃんと当てならあるよ!」

 

「本当ですか、仙都木隊長!」

 

「何処です? 出来れば、砂まみれにならない場所にしたいのですが」

 

「それなら心配ないよ。なんたって、次は……」

 

 言いつつ、隊長こと仙都木優麻はナイフを取り出して、自身の後方へ投げつけた。

 ナイフは、潜んでいた敵兵の喉に突き刺さると、即座に彼の生命を奪い去った。

 

「“霧の都”さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仙都木隊長、どういうことですか?」

 

「ん?」

 

 時と場所は移って、ロンドンはヘルシング機関の本部。

 傭兵たちの戸惑いを多分に含んだ声が響いていた。

 

「ロンドンで戦争でもおっ始めるんですか?」

 

「我々はいつから警備員になったんです?」

 

「金持ちの道楽気取りとか?」

 

「ええっとねえ……。今回の雇い主はボクの母親と知り合いでね……」

 

「元隊長の?」

 

「そうそう。それで、ボクはまあ少しは知ってるんだけど、みんなには何て説明したらいいのかなぁ……。う~ん、簡単に言うと、ボクらの今度の仕事は“化け物退治”なんだ」

 

「化け物ォ? ハッハッ! またそんな……」

 

 傭兵たちの疑問の声が笑い声に変わった。

 そんな中、彼らの声を切り裂いて、部屋に入ってきた人物の声が響いた。

 

「本当だ」

 

 南宮那月は驚く傭兵たちを相手にさらに続ける。

 

「お前たちの敵は、人間の血を吸うことで不老・不死身になるヴァンパイア。にんにくと聖水を携えて、白木の杭を心臓に打ち込んだり、首を切ったり、死体を焼いたり、十字路に灰を撒いたりするのが我々の仕事だ」

 

「馬鹿馬鹿しい!」

 

「吸血鬼がこの世に存在する訳が……」

 

「貴様らが知らないだけだ。いや、正確には知らされていないだけだがな。100年前に結成された我々、王立国教騎士団・ヘルシングが、長い長い間人知れず活動を続けてきたその本来の目的は、ヴァンパイアたちとの闘争のため!」

 

「そうだ!」

 

「なっ、何だ?」

 

 どこからか男の声が聞こえたと思った瞬間、彼らのいた部屋が突然、ぐにゃぐにゃと歪み始めた。

 

「俺たちがそのヴァンパイア……」

 

 どこからともなく現れた無数の蝙蝠が、キーキーと鳴きながら1ヶ所に集合する。そして、徐々に人の形を作っていった。

 出来上がった真っ黒い人型の物は、輪郭が煙のようにはっきりとせず、真っ赤にぎらついた瞳を持ち、頬の端から端まで裂けたように巨大な口から、ギザギザに尖った牙を覗かせていた。

 

「ひいっ!」

 

「ばっ、化け物ォ!」

 

 傭兵たちは一気にパニックに陥ってしまった。ただ1人を除いて……。

 

「やあ、古城。もうみんな充分ビビってるから、そろそろ止めてくれないかい?」

 

 優麻が言うと、真っ黒の塊がきちんと収束し、青髪の少年の姿に変わった。

 

「よお、優麻。しばらく見ねえ間にデカくなったな」

 

「そりゃ、最後に会ったのは何年も前だからねぇ。そっちは全然変わらないみたいだけど……」

 

「当たり前だろ。俺は……」

 

「くだらん世間話はその辺にしておけ。そんなことより、仙都木優麻、阿夜はどうした?」

 

「あぁ……、母なら数年前に死にましたよ。おかげで今はボクが隊長です」

 

「そうか……」

 

 一瞬だけ悲しそうな顔を見せた那月だったが、次の瞬間には普段通りの顔に戻っていた。

 

「お嬢様、ここにおられましたか」

 

 部屋にヴァトラーが入ってきた。一通の封筒を那月に差し出す。

 

「こんなものが届いておりました」

 

「うん?」

 

 手に取った那月だったが、差出人の名を見た途端に表情が変わる。

 

「バチカン特務局第13課イスカリオテ機関長、エンリコ・マクスウェルだと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 泣く子も黙る皆殺し機関のイスカリオテが一体何のようだ?」

 

 傭兵部隊との顔合わせの翌日、那月は王立軍事博物館のカフェで、ローマ・カトリックの司教にして、イスカリオテ機関のトップであるマクスウェルという男と会っていた。

 

「フハハッ! 随分と嫌われたものだな。だが、まあいい。本題に入ろう」

 

 マクスウェルは足元に置いていたスーツケースをテーブルの上に載せた。

 

「我々は、君たちがある言葉を必死に調査していることを知っている。そして、それが実を結んでいないことも」

 

「さすがだな。その通りだ」

 

「“ミレニアム”だろ?」

 

 マクスウェルがスーツケースを人差し指でトントンと叩く。

 

「これはいわゆる特務事項というやつだが、我々は“ミレニアム”という名の1つの情報を持っている。教えてほしいか? 本当に教えてほしいか?」

 

 焦らすように、マクスウェルはいやらしい笑みを浮かべながら那月に訊く。

 次の瞬間、彼の後頭部に銃口が押し当てられた。

 

「ごちゃごちゃ言ってねえで、とっとと教えろよ。さもねえと、脳天吹っ飛ばすぞ」

 

 深紅の瞳でマクスウェルを睨み付け、暁古城は撃鉄を上げた。

 

「フハハッ……。ノスフェラトゥ・暁古城。ヘルシングのゴミ処理屋。殺しのジョーカー。生で見るのは初めてだ。随分とイラついているじゃないか。まあ、落ち着きたまえ」

 

 スーツケースのロックを外し、中に入っていた資料をテーブルの上に放り出す。

 

「これが“ミレニアム”だ」

 

 表紙にナチスドイツの鷲章が描かれた古びたファイル。

 破れないように気をつけながら、古城はページを捲り始めた。

 

「今を遡ること50年前、第二次大戦の折、敗北したナチス第三帝国から大量のナチの軍人たちが逃亡した。彼らはみな、ドイツ敗戦の直前から行動を開始している。それはそうだ。戦争途中に逃亡などしたら脱走だ、それは。彼らの主な逃亡先は親ナチス国家群の多い南米。我々の知る“ミレニアム”とは、計画名、そして部隊名。ナチスの極秘・人員物資移送計画及びその実行者たちだ」

 

 最後まで読んだのか、ファイルを閉じた古城は、再びマクスウェルに視線を向ける。

 

「“なんで知ってる?”って顔だな」

 

 対するマクスウェルは愉快そうに応えた。

 

「そうだよ。手助けしたんだよ、我々、バチカンが。それも強力にね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ヘルシング家の屋敷の一室に、古城とヴァトラーはいた。

 

「キミもやらないかい?」

 

「いらねえよ」

 

 自身の持つワインボトルを古城に示したヴァトラーだったが、すげなく断られた。

 

「やれやれ。古城、キミは奴らのこととなると、すぐにそうやって余裕がなくなる。悪い癖だよ」

 

「理由は知ってるだろ?」

 

「もちろん。なんたって、50年前に奴らの吸血鬼研究機関を殲滅したのはキミとボクだったんだから。あの頃は楽しかったが、今じゃ満足に眷獣も操れない。全く、これだから老いとは怖いよ。キミが血を吸ってくれるなら、いつでも歓迎するんだけどね」

 

「フン……」

 

「ハァ……、そんなに彼女が大事かい? 全く、キミはいつだって……」

 

 ヴァトラーの言葉の途中で、バタンと扉が開き那月が入ってきた。

 

「飛行機が確保できた。暁古城、姫柊雪菜と仙都木優麻らを連れて南米へ行ってこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、ブラジルはリオデジャネイロの、とあるホテルの玄関ホールに、暁古城の姿はあった。

 場所柄、普段のラフなパーカーではなく、そのままパーティーにも着て行けそうなタキシードに身を包んでいる。

 

「古城! チェックイン済んだよ」

 

 こちらも普段とは打って変わって綺麗なドレスを着た仙都木優麻が、フロントの机を背に当てながら部屋のキーを人差し指でクルクルと遊ばせている。

 

「おう!」

 

「最上階のスイートだってさ。みんなー、こっちだよー!」

 

 優麻が手招きしながら言うのに従って、スーツ姿の男たちが、白い布で覆われた直方形の大きな箱を2つ、それぞれ数人がかりで運んで来た。

 

「あっ、あの、お客様!? あちらのお荷物は……」

 

 これに反応したのはフロント係だ。

 

「あの、お客様。大変、申し上げにくいのですが、当ホテルといたしましては、あちらのように大きなお荷物は……、その……」

 

「問題ねえだろ?」

 

 古城がフロント係を見る。

 瞳の赤色が写し込まれた。

 

「も、問だ……い……」

 

「“何も問題ない”」

 

「何も……問題……ありま、せん……」

 

「よし。行くぞ」

 

「古城、何したの? エロ光線か何か?」

 

「んな訳ねえだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優麻の軽口もそこそこに、一行は予約されていた部屋に到着した。

 

「うっわー! すごい部屋だね!」

 

 最高級のスイートルーム。部屋の様相は推して知るべきだろう。

 

「隊長! あんまりです!」

 

「俺たちゃ、1泊たった30ドルの安宿だってのに……」

 

「はいはい、ご苦労様」

 

 文句を言う傭兵たちを、優麻は容赦なく締め出した。

 

「夜になったら行動開始ってことでいいんだよね、古城?」

 

「ああ。ろくな手掛かりはねぇし、俺はともかく姫柊は昼間は動けねぇからな」

 

「そういえば、ずっとそこに入ってるんだっけ?」

 

 優麻が白い布を被った箱──棺桶──を指差して言う。

 

「血を飲まないんだってね、姫柊さん」

 

「ああ。キツいだろうにな……」

 

「だから、棺桶で眠って吸血鬼の力を保ってる、と。じゃあ、古城が普通にベッドで寝てるのは強いから?」

 

「まあな」

 

「なら、わざわざ運んで来なくてもよかったんじゃない、それ?」

 

 優麻がもう1つの棺桶を指した。

 

「大事なものだからな、それは……」

 

 古城の顔に、一瞬深い影が差した。

 この話題は失敗だと見た優麻は、すぐに話題を変える。

 

「そんなことより……、姫柊さんに無理矢理飲ませちゃえばいいんじゃないの、血? どうせ輸血用のなんだから、気も咎めないんじゃない?」

 

「そういうのはなぁ……。出来るだけ、自分で決めてほしいんだよ」

 

「そう……。姫柊さんは大事にされてるんだね……」

 

 “妬いちゃうな”と、古城に聞こえないように呟いてから、優麻は古城に正面から近づく。

 

「ねえ、古城……」

 

「おっ、おい、なんだよ?」

 

 当然ながら、押される形となった古城は、優麻が進むに合わせて後ずさるが、ベッドにぶつかって仰向けに倒れた。その上に、そのまま優麻が覆い被さる。

 

「夜になるまで姫柊さんは起きないんだから、それまでは2人っきりなんだよね?」

 

「ゆ、優麻……?」

 

「昔さ……、ボクが『古城のお嫁さんになってあげる』って言ったの覚えてる?」

 

「あの時は、お前ホントにちっちゃかったじゃねえかよ」

 

「でも、今は違うでしょ? それとも、こんな格好してても、古城にとっては、ボクはいつまで経っても子供なのかな?」

 

「そ、そんなことはねぇけどよ……」

 

「だったらさぁ、古城……」

 

 ドレスによって強調された、優麻の成長途上な双丘が揺れる。

 

「ねぇ……、“楽しいこと”しない?」

 

 ハッと何かに気づいたような表情が一瞬浮かんだ後、戦闘時のような真剣さが顔に湛えられた。同時に瞳が深紅に染め上げられる。

 

「そうだな、優麻……」

 

 古城が優麻の肩に手を置いた。

 

「取りあえず、邪魔だからそのドレス脱げ」

 

「古城……。そんないきなり……」

 

「仕方ねぇだろ、もう待てねぇんだ……。あぁ、もうじれったいな!」

 

「きゃっ!」

 

 頬を赤らめた優麻の逡巡も意に介さないように、古城は身体を回転させて上下を入れ替えた。

 

「さぁ優麻、覚悟はいいか?」

 

「古城……。あぁ、いつでもいいよ!」

 

「始まるぞ……」

 

 古城は優麻を抱きしめるように、身体を沈めた。

 

「こ、古城……」

 

「目は閉じとけ、優麻」

 

「う、うん……」

 

 

 

 次の瞬間───

 

 

 

 部屋の入り口の扉が吹き飛んだ。

 

 

 

 更にその次の瞬間には、古城がジャッカルとカスールで応戦していた。

 

「は、はぁ!?」

 

 事情がサッパリ分からない優麻が素っ頓狂な声をあげる。

 

「頭下げとけ。危ねえぞ」

 

「こ、古城!? 一体どうなってるの!?」

 

「はぁ? お前気づいてたんじゃねぇのか? “ミレニアム”の襲撃だよ! 早くその動きにくそうなドレス脱いで、着替えろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫柊さん、起きて。もう日は沈んだよ」

 

「あ。優麻さん、おはようございます」

 

 棺桶の蓋を外して覗き込んだ優麻に起こされた雪菜は、慌てて身を起こした。

 

「おはよう、姫柊さん。でも、暢気に挨拶してる場合じゃないみたいだよ」

 

 優麻は窓の方を指差した。

 

「何かあったんですか?」

 

「自分で見た方がいいと思うよ」

 

 言われるがまま、雪菜は窓から外の景色を見て仰天した。

 

「警察に囲まれてるじゃないですか!」

 

「姫柊さんが眠ってる間に、“ミレニアム”からの襲撃があってね。応戦してたら、あっという間にそうなってたんだよね。こりゃあ、この国の警察は、もうアイツらの操り人形ってことなのかなぁ……」

 

「優麻さん、先輩は?」

 

「古城なら、ついさっき、襲撃してきた奴らを撃退して、一足早く出撃したよ。ボクは着替えつつ、姫柊さんを起こせる時間まで待ってたんだ。さぁ、早く雪霞狼用意して。ボクらも行くよ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪菜が目を覚ました頃、ホテルの正面玄関前には、警官隊とテレビ局のクルーが詰め掛けていた。

 多くのサーチライトがホテルを照らす中、玄関のガラス扉を破って、何かが空中に放り出された。

 

「おい! 何だ、あれ!」

 

「カメラを回せ!」

 

 数個の物体は、重力に従って落下すると、ホテルの前の巨大な階段を跳ねながら下り始めた。

 “何か”の正体に気付いた人々が悲鳴をあげる。

 

「人間の頭だ!」

 

 階段を転がる生首。全部で6個。

 古城らを襲撃した者たちの末路であった。

 

 その場にいた大勢が言葉をなくして立ち尽くす中、自動ドアが開き、ホテル内から1人の男が姿を現した。

 黒かった衣装は返り血に染まり、両手に携えた拳銃からは硝煙が上がり、サーチライトに映し出されたシルエットは陽炎のように揺れている。

 

 そんな明らかに普段と様子の違う古城を、モニター越しに見ている男たちがいた。

 

「アハハハハッ! 何とも素敵な宣戦布告。嬉しいねぇ。戦争だ。これでまた戦争が出来るぞ!」

 

 心底楽しそうな声をあげたのは、上から下まで真っ白なスーツで全身の分厚い肉を覆った、背の低い金髪金眼の男。近眼なのか眼鏡を掛けている。

 彼こそが、暁古城の宿敵にして、ミレニアムの指導者、そして一連の騒動の仕掛け役であった。

 

「見ろ、あの有様。身震いするほどおぞましい。あれが我らの望むべきもの。生と死の上でダンスを刻む者。狂気と正気を橋渡しする存在だ。暗闇から来訪した、我らと同じ、同類の人でなし。死に損ないのカメラード。私の戦友。私の吸血鬼殿。あぁ! 戦争交響楽が聞こえる。あの懐かしい音が! 阿鼻と叫喚の混成合唱が!」

 

 歌うように滑らかに喋る彼に、隣で立っていた、複眼のような形状の眼鏡を掛けた男が声をかけた。

 

「宜しかったのですか、“少佐”? 彼らには、まだ何の施術もしていなかったのですが……」

 

「そう言うな、“ドク”。あの男をその気にさせるためだ。このくらいは安いものだろう?」

 

「はぁ。では、これからどうするのです? 警官隊を使いますか?」

 

「いや。そんな原住民がいくら死のうと構わないが、それでは埒が開かない。そもそも、我々と関係ない連中を差し向けたところで、あの男は意に介さん」

 

「では……」

 

 小太りの男が指を鳴らす。

 

「トバルカイン・アルハンブラに伝達。思うように埒を開けよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警官隊の囲いを抜けて、帽子を被った男が、古城の前に姿を晒した。

 

「はじめまして、古城様。私はトバルカイン・アルハンブラ。親しい者からは“伊達男”と呼ばれております」

 

「テメェか、コイツらを寄越したのは?」

 

「あぁ……。この可哀想な連中か……」

 

 トバルカインは、足元に転がっていた、ドレッドヘアの生首を蹴飛ばす。

 

「馬鹿な夢を抱いた所為でこの有様だ。どうあっても欲しかったらしい、“永遠の命”ってヤツが」

 

「……馬鹿らしい」

 

「全くもってその通り。だが、こんな連中でも、私の役に立った」

 

 トバルカインが懐からトランプを取り出した。どうやら、これがこの男の得物らしい。

 

「ご自慢の特製弾丸は、あと何発かな、古城くん?」

 

「能書きはその辺でいいぞ、おっさん」

 

「君は我々の取るに足らないサンプルの1つとして列挙されることとなる! 我々、ミレニアムによって!」

 

 トバルカインのトランプが古城に襲いかかった。足元に当たると、爆発したかのような衝撃と共に大穴を穿った。

 返礼に古城のジャッカルが火を噴いた。13mm弾がトバルカインの身体を掠めて、次々と飛んでいく。

 

 トバルカインが片手で帽子を押さえながら駆けだした。弾雨から逸れるように、弾道と直角に走る。

 古城も同じ方向に追いかけた。

 数度のトランプと弾丸の応酬の末、トバルカインの首に穴が空いた。

 

「ヌアッ!」

 

 しかし、古城が喜ぶ間もなく、トバルカインの身体がトランプになって崩壊した。

 直後、古城の足元が爆発し、たまらず倒れ込んだところにトランプが降り注ぐ。

 

「掛かった!」

 

 舞い上げられた粉塵を眺めて、トバルカインの“本体”が呟く。

 だが、煙が消えた時、古城の姿は既になかった。

 代わりに、ホテルの壁に足の裏をつけ、重力を無視して上へと進む古城の姿があった。

 

「逃がさん!」

 

 すぐさま、トバルカインが後を追う。

 

「暁古城……。フンッ! 何のこともあらん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在、トバルカイン殿が戦闘中!」

 

「馬鹿な!」

 

「彼が死んだら我々との約束は……」

 

 警官隊の本部テントの中は、現在混乱の極みにあった。

 彼ら、警察上層部はすっかりミレニアムの手先になり果てているのだが、トバルカインが急にいなくなったために慌てているのだ。

 このままでは、少佐に約束された“永遠の命”が手に入らなくなってしまう。

 

 そんな時、テントに来客があった。

 

「毎度ー! ピザの配達でーす!」

 

 某有名チェーン店の制服を着た少女が、数個重なったピザの箱を手に載せて入ってきた。

 

「何? ピザだと!? 誰だ、こんな時に注文し……」

 

 イラついた声を出した中年の警察幹部であったが、乾いた空気を裂くような音とともに黙ってしまった。

 それが、サイレンサー付き拳銃の発射音だと気付く前に、テントの中にいた人間は、全員脳漿を外気に晒すこととなった。

 

「フゥ……」

 

 溜め息を吐きながら帽子を脱いだ仙都木優麻は、重ねたピザの箱をテーブルに置き、中に仕込んだ爆弾を起爆すると、小走りにテントを後にした。

 数秒後、本部の焼失により、警官隊は今以上の混乱を呈すこととなった。

 

「さてと……。帰りの足でも確保しとこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「血が……止まらねぇ……」

 

 ホテルの屋上。

 暁古城は、トバルカインのトランプにより受けた傷を押さえていた。

 その背後に、悠々とした様子でトバルカインが現れる。

 

「さぁ! 準備はよろしいかな、古城くん? 故郷へ帰りたまえ。麗しの地獄の底へ」

 

「ふっ、フハハハ……」

 

 古城の口から笑いが漏れる。

 ゆらりと立ち上がると、トバルカインに向き直った。

 ハア~と息を吐き、言う。

 

「トバルカイン・アルハンブラ……」

 

 名を呼ばれたトバルカインは、古城の周りだけ、気温が下がったのかと思った。それほどの戦慄があった。

 

「貴様をカテゴリーA以上のヴァンパイアと認識する……」

 

 言葉を紡ぐ古城の身体の輪郭がドンドン曖昧になっていく。

 

「な、何を!?」

 

「拘束制御術式・第3号、第2号、第1号、開放。状況A。クロムウェル発動による承認認識」

 

 古城の肉体が闇に変じた。

 漆黒のシルエットに浮かぶ無数の目。影から這いだす蟲の大群。そして、人の身体よりも巨大な口。

 

 人は彼をこう呼ぶ。“化け物”と。

 

「いやはや、何ともおぞましい! これが、かの暁古城の真価という訳か! ハァッ!」

 

 両の掌からトランプが躍り出る。

 宙に舞い、古城を囲むと、またも爆発したかのように周りが吹き飛んだ。

 

「やったかァ? ヌウッ!」

 

 粉塵の中から飛び出した黒い犬が、牙をちらつかせながらトバルカインに躍り掛かった。

 すんでで躱したトバルカインの背後から、更に新しい刃が迫る。

 

「ハアッ!」

 

「何ィ?」

 

 姫柊雪菜の雪霞狼が、トバルカインの身体を貫かんと振るわれる。

 素早い連撃に、トランプを出す暇が掴めない。

 

「くぅ~! 洒落臭い真似を!」

 

 トバルカインは後方へ大きく跳んで距離を稼いだ。

 そこへ、古城の“影”が伸びる。

 背中を取られたトバルカインは、振り向きざまにトランプを挟んだ指を突き出す。

 瞬間実体を作り直した古城が、それに合わせるように右の手刀を突き出した。

 

 激突は一瞬。

 

 拮抗したかに見えた2人の力だったが、古城の手刀がトランプごとトバルカインの右腕を吹き飛ばした。

 

「がッ! う、おお……」

 

 そのまま倒れようとするトバルカインの身体を、捕まえた古城は頸動脈に牙を突き立てた。

 瞬間、トバルカインの身体が鮮やかな青色の炎に包まれる。ものの数秒で灰も残さず消え去った。

 しかし、その数秒で、古城は確実にトバルカインの血を吸った。そこに蓄積された情報を奪い取った。

 

 そして、今回の敵がやはり思いの通りの敵であることを知ったのだった。

 

「敵を殺し、味方を殺し、守るべき民も、治めるべき国も、自分までも殺し尽くしてもまだ足りぬ。貴様は……、お前はまだそうなのか、少佐……?」

 

「先輩……」

 

 心配そうな雪菜の声を掻き消して、ヘリのローターによる轟音が周囲を満たす。

 

「古城! 姫柊さん! 迎えに来たよ!」

 

「優麻さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハハハハハハッ!」

 

 トバルカインの敗死を見、哄笑をあげている男がいた。

 他ならぬ、彼の指揮官・少佐である。

 

「あのアルハンブラがまるでぼろ雑巾じゃないか! やっぱり強いな、あいつは! べらぼうに強いな! 存外に強いな!」

 

「も、申し訳ありません……。やはり……やはり私どもは……まだ私どもは……」

 

 ドクは、トバルカインに仕込まれた“装置”のリモコンを持ちながら、悔しげに指を噛んでいた。

 

「否! 馬鹿を言うな。むしろ大成功に近い。あの暁古城に対して、我々は一定の成果を挙げたのだ。これは恐ろしき存在への媒介だ。ミディアン! それは最早、人ではないミディアン!」

 

 対して、少佐の歓喜は止まるところを知らない。

 

「すなわち我々は半世紀の時をかけ、その本懐へと指を掛けたのだ。化け物を構築し、化け物を兵装し、化け物を教導し、化け物を編成し、化け物を兵站し、化け物を運用し、化け物を指揮する。我らこそ最後の大隊! ラスト・バタリオン! 素晴らしい、グランドプロフェッツァール!」

 

「感謝の極み」

 

「では諸君! 楽しい楽しいショーもひとまずお開きだ。そろそろ帰ろうじゃないか、愛しきホームへ」

 

 古城を映していたモニターの画面が切り替わり、ドイツ海軍の軍服を着た男の姿が現れた。

 

「艦長、回頭の用意だ。急げよ。オペラハウスのご老人たちがお待ちかねだ。くれぐれも急げよ。きっと怒り心頭で顔を真っ赤にしているだろうからな」

 

 冗談めかした少佐の口調に艦長も合わせる。

 

「なるほど。それはまさしく一大事ですな。急行いたします、少佐! 全フラッペ起動!」

 

 彼らの乗る“飛行船”が大きく揺れ、その鼻先を目的地に向けた。

 

「目標、ジャブロー・パンテルシャンツェ! 行くぞ、ご老人方。私の邪魔をする者が何百、何千、何万、何億死のうと知ったことではない。否! 私の前に立ちふさがる者は皆殺しだ!」

 

 喜びに震える少佐の口から歌が奏でられる。。

 

「Welcome to this crazy time. このいかれた時代へようこそ……」




ベルナドット隊長→仙都木優麻
ゾーリン戦のことがあるので、ベルナドット隊長を誰にするか悩んだんですけど、優麻が一番似合いかと。
ついでに古城ハーレムに1人プラスってことで。

あと、ホテルに突入したのが警官隊じゃなくて監獄結界の囚人たちに。戦闘シーンはカットしましたけどね。
だって、古城に笑いながら警官隊皆殺しにさせる訳にはいきませんし、だからと言って全員生還させたら少佐ブチギレ。怖ッ…。
という訳で、殺しても怒られなさそうなストブラのキャラを…。

さて、その点でいうと、次話の魔弾の射手さんの扱いが難しいなぁ…。
それから、ラ・フォリアも登場しますよ~。誰と入れ替わるのかは、まあ言わなくても分かりますよね?



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