ウルトラゾーンが開いた日から   作:ヒトアマゾン

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「赤い空」

…空に穴が開き、私はソレに飲み込まれた。

 

それまでは故郷で何気ない日々を過ごしていたが、今ではそんな故郷が懐かしく思う。

 

それほど、今私が居る場所と故郷とでは景色や環境が違うという事だ。

 

しかし、この環境…酸素が存在し、植物が存在する。辺りからは動物と思われる存在の鳴き声が聞こえる。

 

恐らく、私は太陽系第三惑星…地球に飛ばされてしまったらしい。かつて、先人がこの星の侵略を企てていた時の資料で、私はこの星の存在を知った。その資料と比べると植物が多く、何より大気中に含まれる有害物質の濃度がかなり少ない。

 

身体が痛む…どうやらこの星に着いた瞬間、頭ごと全身を大地に打ち付けられたらしく、気絶していたようだ。私が気絶する寸前にみた景色と、今私が見ている景色とでは、明るさが違う。今は朝だろうか。

 

私とて来たくて来た訳ではない。しかし帰る方法も見当がつかない。仕方なく、この星で最も馴染みやすい姿…ヒトの姿に変わろうとした。

 

…しかし、いつになっても身体の変化が感じられない。私は近くの水溜まりを覗き込んだ。

 

そこには、いつもと変わらない自分の顔が写っていた。身体を打った衝撃で、変身機能に障害が出ているのだろうか。

そういえば、私の顔…というよりも私達種族の顔は、地球に生息するセミという生物に酷似しているらしい。その事から、この星では私達のことをセミ人間と呼んでいるんだとか…

 

…状況はあまり良くない。仮にヒトに私の姿を見られたら…ヒトの事だ、真っ先に私を殺そうとするだろう…

 

メイツ星人、宇宙では有名な種族だ。かつて、彼等の一個体が地球へ気象観測へ訪れたらしいが、ヒトからは宇宙人という事が理由で恐れられ、最終的に殺害されたらしい。その息子が、今でも行方不明らしいが…

 

今は何一つ武器を持っていない、正直、私達種族の力はヒトに毛が生えた程度であろう。恐らく、ヒトは何かしらの凶器を使って私を殺めに来る。そうなれば、丸腰な私は少々の抵抗の代償に、宇宙人というだけで葬られる事となるだろう。

 

考えただけで鳥肌が立つ…実際、私達の身体にその様な機能は無いが。

 

取り敢えず、人目のつかない所へ行く事にした。少しくらいなら何かを考える時間を作れるだろう。

 

…そう思っていた私の背後を、"誰か"が過ぎ去った。何かでは無い、誰かだ。明らかに気配がする。

 

誰かが、私の肩を叩いた。私は振り向くと、ヒトが居た。

 

もうダメだ、あの穴に飲み込まれなければ、今日死ぬこともなかっただろうに。

 

だが、そのヒトは何もして来ない。

白く美しい髪と服をなびかせ、私の周りを飛んでいるヒト…

 

ヒトの性的二形と照らし合わせてみた…胸部は雄に近いが、全体的に華奢で、総合的に見れば雌だろう。

 

私の記憶が正しければ、ヒトは生身では飛べないはずだが。恐らく、更に進化した科学技術で生身での飛行を可能にしたのだろう。

 

それにしても速い。私の周りを飛び回っている。そんなに私が気になるのか…無理は無い、私の顔はヒトとはかけ離れているからな。

 

突然、目の前にヒトがやってきた。

何故か泣いていた。私は心配になり、声をかけようとしたが、私の声は、恐らくヒトには届かない。何か鳴いている程度にあしらわれるだろう。本来、他の種族と交流する際に使う声帯変換モジュールすら持っていない今、言語で意識を伝えるのは無理がある。

 

私は首を傾げた。これなら通じるだろう。

言語という壁がある時こそ、ボディランゲージにかぎる…首を傾げる事も、ボディランゲージの内に入ればの話だが…

 

そのヒトは、ハっと目を見開いた。

ダメだったか? この星では首を傾げる=挑発だったか?

 

しかし、そのヒトは身振り手振りで私に何かを伝えてきた。

 

"ぜんぶ、話せない" "私、話せない" "あなた、私"

 

…多分、こんな感じだろう。分からない。ただでさえ自分の置かれている状況の整理がついていないのに、この星自体の状況まで把握しなければならないのか?

 

…そういえば、このヒト以外のヒトを見ていない。もう少しヒトは多い筈だが…

 

そのヒトは、私の手を引いた。

どこへ連れて行く気だろうか。処刑場だろうか、はたまた実験室だろうか…?

 

その先は、大きな建物だった。中へ入ると、この星の主な記録媒体である本が沢山保管されていた。

 

そのヒトは、大量の本の中から一冊だけを取り出し、その中の1ページを私に見せてきた。

 

「スカイフィッシュのナゾを追え!」

 

そう書いてあった。

そのヒトは、本にある写真を指差し、次に自分を指差した。

…まさか、ヒトではなくスカイフィッシュ…?

そんな訳無い、あってたまるか。

どう見比べても、本にあるスカイフィッシュとは見た目が違い過ぎる。確かになびく服や白い髪など、スカイフィッシュの様に見えなくも無いが…

 

私が頭を抱えている内に、そのヒトはまた別の本を持って来た。

 

「ジャパリパークの歩き方」

 

…どこだ?

訳が分からない。本の中を読んでみると、動物がヒトの姿になると書いてあった。

ついさっきまで、ヒトの姿に変身できない事で悩んでいた私が言える立場では無いが、動物がヒトの姿になるのは、まるでフィクションの様だ。さらに全員が雌になる。これでは、地球の中の日本という場所で特に盛んだった「萌え」という物その物ではないか…

 

まさか、私が今正に居るこの場所こそ、ジャパリパークとでもいうのだろうか。

その割には、ヒトの姿をした動物…アニマルガールをこのヒト以外に見ていないが。

 

頭が痛くなってきた。

私の知る地球とは、あまりにもかけ離れている。

 

すると、そのヒト…スカイフィッシュが私の背中を摩ってくれた。無意識の内にうずくまっていたようだ。今までは、怯えながら着いて行っていたが、どうやらその必要は無いらしい。

 

それに、今私が頼れるのはスカイフィッシュしか居ない。

 

スカイフィッシュは、また私の手を引き始めた。

 

いよいよ楽しくなってきた。

 

次に私達が訪れたのは、海の見える丘だった。

海の向こうへ日が沈み始め、辺りを赤く染めていた。その中で赤く照らされながらなびく白い髪、そして何より彼女自身が、とても美しく見えた。

 

どうやら彼女のお気に入りな場所の様で、とても興奮した様子で飛び回っていた。

 

彼女の誘いで、私は海の見える小さなベンチへ座った。

すると、彼女は何か柔らかい物を差し出してきた。

丸いそれには、"の"と書いてある様な気がする。

私がそれをジっと見つめていると、彼女は私の目の前で、それを食べて見せた。

成る程、これは食べ物なのか。

しかし残念ながら、私の口はヒトのような構造をしていない。私は口吻をそれに刺し、中身を吸った。それはどんどん萎んでいった。

彼女はその様子を興味深そうに見つめていた。

 

それにしても、中々美味しい。

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、夜が訪れた。

 

 

私は迷子にならない様、彼女と手を繋いでいた。

空を見上げると、満天の星空が広がっていた。故郷を探してみる。

 

…分かる訳が無い。こんなにも多くの星が瞬く中、たった一つの星を手掛かり無しに探すのは厳しすぎる。

 

私の手を握る彼女の力が強くなった。もしかして、不安な気持ちが通じてしまったのか?

 

"大丈夫"

 

私は、そう言われた気がした。

 

 

 

私はその日から、彼女と生活を共にしていた。

 

毎日、彼女と色々な所へ行った。

暗くて涼しい洞窟、鬱蒼とした森、小さな花畑…

どれも私にとって、大切な思い出となった。

 

…いつしか、私は故郷に帰るよりも、このまま彼女と暮らす事の方が幸せだと、思うようになった。

 

言葉は通じなくとも、気持ちを行動で示す。

同じ物を食べ、同じ場所で眠りにつき、同じ朝を迎える。

 

退屈なんてしない。彼女といるだけで楽しいのだ。それに、故郷の人々よりも、彼女は私を見てくれる。

 

彼女は、私にブローチをプレゼントしてくれた。彼女とお揃いだ。私は堪らなく嬉しかった。彼女は、私と一緒に喜んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

ある日、彼女は夕食を取りに行った。

一人で行くのは危ないと、私は着いていこうとしたが、彼女は私を留守番させ、そのまま取りに行った。

 

だんだんと日が沈んでゆく。

 

そんな時、遠くから大きな爆発音と地鳴りが聞こえた。

 

私は慌てて外へ出ると、彼女が向かった方の森が燃えている。確か、発電所と呼ばれる設備があった場所だ。

 

私は走った。私の身体は決して火には強くなかった。それでも、彼女を見つける為に走った。

 

 

 

何かを踏んだ。

 

足元を見てみると、金属製の何かが落ちていた。

煤に塗れていたので、それを拾い指で拭った。

 

 

 

私は泣いた。

涙など出ない筈なのに。

 

 

 

地響きがだんだん大きくなってきた。

 

何かの視線を感じた。私は淡い期待を込めて、視線の主を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の星は、他の惑星を侵略する際に、武力として巨大なロボット兵器を持ち込む。この個体は、私と一緒に、この星に来たと思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、私の故郷がチルソニア遊星でなければ。

もし、私がこの星へ来なければ。

もし、私が彼女を止めていれば。

 

 

 

 

私はチルソニア遊星人、大切な者を失った一匹の生命体。その事実は、幾ら後悔しても変わらない。私には、もう居場所は無い。

あの怪獣兵器を止める術を、私は知っている。しかし、実行に移すには余りにも物が無い。

それに、今更止めた所で、何も意味はない。

 

 

私は、炎の中に飛び込んだ。

 

 

熱さ、痛みすら感じない。

むしろ清々しさを感じた。何せ大切な者を殺した相手を、自分の手で殺める事が出来たのだから。

 

 

私が最期に見た光景、それは、炎によって真っ赤に染められた空と、なびく白煙、そして一体の怪獣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時が過ぎて、炎は消え、怪獣兵器も別の大陸へ向かった。

 

 

…焼け野原になった森の奥深く、黒く焼け焦げた二つのブローチが寄り添う様に落ちていた。

 

 

そして、それを拾う誰かがいた。

 

 

白い髪をなびかせ、森だった場所に佇む一人の生き物。

 

彼女は、空を見上げていた。




-余談-

・本編で、スカイフィッシュ以外のフレンズが出ない理由。

ガオガオ病の蔓延により、言語という一種の輝きが奪われ、フレンズが一気に減ったから。
はじめから言葉を話さないスカイフィッシュのみ、フレンズのままでいられた。

・現れた兵器

1966年、弓ヶ谷や東京などに現れた隕石怪獣ガラモンだと思われる。
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