この素晴らしいスケベに祝福を! 作:カスマさん
「よしゃっ戻ってきたー!!!!」
夕方の空。少しだけ人里離れた山の頂上。
黒髪茶髪寄りの少年は雄叫びを上げる。
「ここが、カズマ達の故郷ですか…」
「正確にはカズマの世界とよく似た並行世界と言うことだが、凄いな……我がダスティネス家が総力を上げたとしてもあれほどの建造物は再現不可能であろう」
「今日はイッセーさんの奢りで飲むわよー!」
ちんまい眼帯ローブの女の子。金髪の姫騎士風の女性。青髪の女神さま。
未知の世界へ降り立ち、彼女達が第一声を溢す中で
「……えっ、何でいるの?」
俺、兵藤一誠は困惑したように頬をひきつらせた。
「そりゃあ、転移登録よ」
これって人体でも出来るんだなー、と悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべる少年――佐藤カズマは俺が《あの世界》でパーティーを組んでいたパーティーリーダーだ。
名前から分かるように俺と同じく死して異世界転生を選んだ日本人であり、致命的なバグ?のせいで冒険者登録も出来ずにバイトで細々と食い繋いでいた俺を拾い上げて、見事魔王討伐まで導いてくれた恩人であり親友である。
魔王を討伐した功績として何でも叶えてくれるという女神の話で彼はあの世界への永住を、そして魔王を瀕死まで追い詰めた功績として俺は元の世界への帰還を望み――少し湿っぽい別れの挨拶を挟んでお土産まで抱え戻ってきたのだが、この男。
「ま、暫くしたら帰るから」
「そうかいぃ」
何とも締まりの悪い展開に一誠は声低く言葉を返した。
「しっかし、見渡す限りガラケーとはお前って俺よりも年上だったんだな……」
帰宅への道中、佐藤カズマが横を歩く。
ちんまい眼帯ローブの女の子――めぐみん
金髪の姫騎士風の女性――ダクネス。
青髪の女神さま――アクア。カズマと同じくパーティーメンバーである彼女たちは服装のこともをあって一先ずはあっちの世界に帰って貰い、何故か一誠が自腹で彼女達用の服を用意し、改めて日本観光を楽しむという流れになった。
……三人分となると俺の財布事情がかなり苦しいことになりそうなので、古着屋で適当に見繕おうと思う。
『いやよ!折角日本にきたんだから日本酒の一本ぐらい用意しなさいよー!』
約一名うるさいのがいたが、カズマは俺が買って帰るから大人しく待っていろと縛って転移魔法陣の中へと蹴り込んでいた。
「前から思ってたけど、お前のジャージって全然痛まないよな?何年ぐらい着てるんだ?」
「まぁ、裁縫スキルで小まめに直してるから」
どうやら隣街に召喚された俺たちは適当に会話しながら道草を踏む。
「……二年ぶりか。なんか改めて親父達に会うと思うと緊張するわ」
「でも、こっちの時間軸では五分後なんだろ?
感極まるのも分かるが、変に取り乱さすなよ」
「そうだな……、俺たちの冒険がたった五分だもんな」
学園の校舎が見えてきて、本当なら就職していた筈なのに……そう考えると不思議な気持ちだ。
「本当に戻ってきたんだな、俺」
場所は冥界。グレモリー領にあるとある屋敷。
現魔王の一人にして超越者の異名を持つサーゼクス・ルシファーは、現代の人間ではすっかり廃れてしまった王政政治の……王としての責務を全うし、書類整理に取り組む最中、ふと数時間前に連絡があった妹からの奇妙な話を思い出していた。
「死後間もない肉体の眷属化に失敗したか……駒の欠陥か?」
悪魔の駒を用いて、瀕死か既に死んでいるであろうの人間を眷属化しようと試みた所、その肉体はまるで悪魔が聖水や聖剣で殺されたように綺麗さっぱりと消滅してしまったという話。
単に眷属化に失敗したというなら、魂が冥界の神に回収された後だったり、神器が反発するなどの原因も考えられるが、それでも死体は残る筈だ。
「まさか、悪魔の駒に副作用があった……いや、それならもっと早くに出ていなければ辻褄があわない」
念のため、妹の駒を全て回収し新しいものを与えようと考えながら、出来上がった書類の束を横へ移した。