この素晴らしいスケベに祝福を! 作:カスマさん
駒王町の駒王学園。
兵藤一誠の母校であるその学校であるが、満月の照らす深夜の刻。
全ての部屋に施錠の施された筈の旧校舎の一室にほんのりと灯りが点っていた。
「……そう。犠牲者がでましたのね」
艶やかな髪をシュンと垂らし、何処か悲しげな瞳で下を見る女の顏を中央の蝋燭がほんのりと朱く照らし出す。
「だから朱乃には彼の家族の記憶を改変してきてほしいの。不可解な猟奇殺人の被害者遺族としてではなく、不幸な事故の被害者遺族として……お願い出来るかしら?」
「分かりましたわ」
彼女の手元には一枚の家族写真があった。裏を返すとそこには住所が書かれてあり、彼女はぎゅっと胸元にだき寄せる。
それは悪魔となってまだ浅くない彼女が、これから為そうとする……まさに悪魔的所業に人としての残滓が酷い罪悪感を覚えているからか、それとも兵藤一誠という青年の不幸と自らの過去を重ねているからか。
「……堕天使」
憎々しげにそう呟く。
女はせめて写真の青年が憂いなく旅立てるように、
その少し前のこと。
イッセーとカズマはアクアに頼まれた日本酒を調達するべく夕焼けの照らす街並みを歩いていた。
「しっかし、俺たちって当たり前のように飲酒してたけど未成年だよな。どこで買えばいいんだ?」
「……それもそうだな。お前んちに置いてればそれを貰おうかと考えてたけど、う~ん。
ま、アイツのことだし料理酒でも気付かないんじゃね?」
つい先程、三年ぶりの帰省を終えたイッセーには高校二年生という身分に相応しい寝食を共にするには心もとない財布を手に入れた。
両親を前にしたイッセーはその時感極まって号泣してしまったのだが、ここにあのトイレの女神が居なくてよかったと安堵するほど落ち着きを取り戻し、懐かしい街並みを感嘆の思いで脳裏に焼き付けつつ、カズマの言葉に耳を傾けていた。
「問題はお前を殺したっていう堕天使の事だけど……まさか同郷だと思っていたお前が現代ファンタジー出身とは思わなかったな。
案外、主人公みたいなやつとかが、日夜悪魔や堕天使と戦ってたりして」
俺とカズマはこの世界のあらましをアクアから聞いていた。
当初は俺もカズマと同じ平和な日本生まれだと思っていたが、どうやらそれは勘違いであり、俺の世界は悪魔や堕天使が人間をモルモットや奴隷のように従える……現代ファンタジーも真っ青なダークファンタジー的な世界で、それを止めようとする対抗勢力はなく、人類はいいようにされるしかないと言われた時には、初めて悪魔滅殺を掲げるアクシズ教が偉大なものに感じられた。
「お袋達だけは守らねぇとな」
「ま、いざとなったらアクアやエリス様にでも掛け合って駒王町を丸ごと結界で包んで貰えばいいさ」
魔王に出来たのだから女神に出来ないとは言うまい。そう煽ててやれば勝手に頑張ってくれるだろうとカズマは笑う。
…確かにエリス様なら兎も角、アクアならやりかねない。
最悪カズマに頼んで両親とあっちで暮らすことも考えていたイッセーだったが、何とかなりそうだと肩の力を抜いた。
次回「聖女は妹枠」