摂津物語   作:pzg

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注意書きを確認したうえで読んでください。
好みの分かれる内容になっています。


摂津物語 中編

無事演習が終わり、日もすっかりと暮れました。

そして私は、割烹鳳翔という名のお店に来ています。

この店は鳳翔さんという艦むすが開いているお店で、艦むすも提督も美味しく食べられるお酒と料理が出るらしいです。

そんな店に私が何しに来ているのか言うと…

なんとこれから、私の歓迎会&蒔絵提督の祝賀会が行われるのです。

 

出席者は私、蒔絵提督、イケメン。

イケメンの秘書艦の扶桑さん、今回演習相手だった第六駆逐隊の面々。

そしてイケメンの部下で参加できる艦むす全てだそうです。

本来ならここまで大規模な歓迎会は行わないそうなんですが、蒔絵提督最初の艦むすだということで、全員に声をかけてくれたようです。

 

これが全て太平洋戦争で戦っていた艦から生まれた艦むすか。

そう考えると壮観だが…何だか既に始まってしまっていて、ただの女子会に見えます。

えっとどうするんでしょうかこれは…

 

「ああ、空はあんなに暗いのに、どうしてもう飲んでいる子がいるのかしら」

 

扶桑さんの言葉の意味が分からん。

と思いましたが、その言葉を聞いて誰も彼も静かになりました。

流石秘書艦。

何だか良く分からない迫力があります。

 

「扶桑ちゃん、いつもありがと。

 さて、みんな集まってるな?

 今回我が妹の蒔絵がついに艦むすの建造に成功しました!

 本日はその祝賀会と、新たなる仲間の歓迎会です!

 はい、それじゃ摂津挨拶して」

 

イケメンが簡単に挨拶して、いきなり私の出番です。

百人近くの艦むすが私に注目してきます。

うわ、こういうの凄く苦手です。

は、吐きそう…

でもここで吐いたら、小学校の卒業証書授与式に吐いてしまって、ゲロ皇帝という二つ名を手に入れた時の二の舞になってしまううう!!

頑張れ私っ!!

 

「標的艦攝津です、よろしく」

 

頑張ったよ私!!

え、それで終わりって顔しないで下さい!!

これで精一杯なんです!!

 

「あ、いやー。

 人見知りが激しいんだ、うん。

 彼女は聞いての通り、標的艦という演習専用の艦だ。

 戦うことはできないけど、僕も欲しいぐらい役立つ子だよ。

 だから今後は、蒔絵に頼んでみんなの演習を手伝ってもらうことになるから、よろしく頼むよ」

 

おー。

イケメン見直したぞ、人見知りが激しいとか良く分かったな。

でも、私が欲しいとか言っているけど、男なんかにあげないからな!

どうせ扱き使われるなら、女の子の方がいいです。

 

 

----------

 

 

「ねえねえ、あなた何ノット出るの」

 

「17ノットらしいです」

 

「17ノット!?おっそーい!!」

 

「ぽい!?」

 

「標的艦だから僕は十分だと思うな」

 

「いえ、標的艦とはいえ、元駆逐艦としては遅すぎるわ。

 今度私と演習しない、少しは参考になると思うわ。

 ああ、礼なんて考えなくていいのよ」

 

「あのっ、その人は…そのっ」

 

歓迎会が始まって少し経ちました。

現在、小学生から中学生ぐらいの見た目の女の子達に囲まれています。

最初は新参者らしく、勇気を出してお酒でも注いで回ろうかと、戦艦と空母のいるテーブルに向かったんですけどね。

 

「一航戦赤城食べます!!」

 

「ビッグセブンの力を見せてやろう!!」

 

「やめて!!」

 

でも、イケメンが泣き崩れているのを見て、テーブルに行く勇気がなくなり。

仕方が無いので、その隣の巡洋艦が集まっているテーブルに行ったらいきなり「駆逐艦?うざい」とか言われて心が折れました。

だから、そのまま自分の席に戻って動かなかったのですが、何故か駆逐艦の子達が何人も寄ってきます。

因みに、今私と話をしているのは、目のやり場に困る格好の島風ちゃんと、犬っぽい夕立ちゃんと時雨ちゃん、ちょっとお姉さんといった感じの陽炎ちゃん。

そしてその後ろにいる大人しそうなのが潮ちゃんといったメンバーです。

特に姉妹艦という訳じゃないそうですが、古くからイケメンの部下だったらしく、気心が知れているとか。

何かいいね、そういうの。

 

「よおガキ共、仲良くやってるか?」

 

「初めまして、龍田です」

 

次に横から割り込んできたのは…龍田さんとえーと。

 

「オレの名は天龍。フフ…怖いか?」

 

天龍さんと龍田ですか。

 

「何か分からないことがあったら、オレに聞きな!

 何たって世界水準軽く越えているからな~」

 

「ありがとうございます」

 

何が世界水準超えているのか分かりませんが、とりあえずお礼を言っておきます。

一瞬怖い人かと思いましたが、いい人そうです。

目を見れば分かります。

 

「おい、お前全然食っていないじゃないか!

 お前ら、新しい駆逐艦の仲間が出来たからって、そんなに話しかけてばっかりじゃ摂津が何も食えないだろ」

 

「でもこの子、食べるのも遅いんだもん!!」

 

「しょうがねーなー、この天龍様が食べさせてやるよ!

 ほらしっかり食えよ!」

 

天龍さんが、箸で料理を摘まんで、はいアーンってして来ます。

いや、お心遣いは嬉しいのですが、子供じゃないですしそれは恥ずかしいです。

ここはしっかり言わないと。

 

「大丈夫です、自分で食べられます。

 子供じゃありませんから」

 

「はぁー、駆逐艦なんだから遠慮するなよ」

 

ぐいぐいと私にご飯を食べさせようとします。

駆逐艦なんだから遠慮するなと言われても、意味が分からない。

それより、先程から何でみんな私のことを駆逐艦って言うんだ?

私は標的艦になる前が何なのかとは、確かに言っていない。

だから間違えるのは仕方の無いことなのだが、どうして駆逐艦になるんだ?

何か見分けるポイントでもあるのだろうか。

それはとにかく。

正直に言って、戦艦ではなく駆逐艦だと間違われても私としては何の問題もないのだが…

間違えは訂正してあげないと、相手のためにならないからな。

間違って憶えたままだと、後ほど何かで恥をかいてしまうかもしれないからな。

 

 

 

「私、元戦艦攝津。

 ド級戦艦、河内型二番艦」

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

何か空気が固まったような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦艦!?ええーーーーーーーーーーーー!!」

 

「だから止めたのに…」

 

島風ちゃんが悲鳴のような声を上げ、周囲の視線が一気にこちらに集まってきました。

ありゃ、何だか収拾がつかない事態になりそうな気がします。

 

案の定「ぽい、ぽいぽい!!ぽい!?」と夕立ちゃんは騒ぎ出し、「僕もここまでか、提督…みんな、さようなら」時雨ちゃんは自分に絶望したという顔をし、陽炎ちゃんはあわあわした後「ごめんなさい!!私何てことを」って頭を下げました。

そして天龍さんは真っ赤な顔で固まり、龍田さんは「摂津さんは私達より年上で、生まれ変わる前には世話になったこともあるわよー忘れたのー?」と色っぽい笑顔で天龍さんを見つめながら、何故か天龍さんの写真を撮っています。

 

「ничего себе!」

 

「はわわ、びっくりしたのです」

 

「一人前のレディなんだから、私はとっくに気がついていたわ」

 

「みんな駄目ね、本当に気がついていたのは私だけかしら」

 

「なになに、何の騒ぎですか?」

 

しかもそれに釣られて、周りもどんどん騒ぎ始めてきましたよ。

どうするんですかこれ!?

騒ぎ出すだけならいいのですが、陽炎ちゃんみたいに謝る子とか、気の毒そうな視線を送ってくる人がいるのですが!?

凄く居心地が悪いです。

仕方ない、頑張ってどうにかするのです。

 

 

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ど、どうにかなりましたよ。

怒ってないよとか、一人ひとり説明して、事態を収拾しました。

大変でしたが、おかげで駆逐艦=小学生ぐらいの見た目、戦艦=大人な見た目という法則が分かりました。

なるほど、私は見た目が小学生だから駆逐艦だと思われたのか。

 

元戦艦なのに、ロリで悪かったな!!

 

ま、ロリはロリで可愛いからいいか。

そんなことより問題は、事態は収拾したものの、さっきまで気軽に会話していた駆逐艦の子達と、壁が出来たような感じになってしまったことです。

みんな、私と会話しなくなり、姉妹艦や仲のいい子達と固まるようになってしまって…

恐らく、同年代ではなく、年上として扱われてしまったようです。

コミュ症の私としては、会話が無いというのは、それはそれでいいのですが、ちょっと寂しいです。

私は戦艦と空母のテーブルに行くべきなのかなあ。

でも、コミュ症の私としては、見た目可愛い感じの駆逐艦と、大人って感じの戦艦や空母との会話では難易度が天と地ほど違うので、行くのが怖いのですよ。

しかも、なんか山のように皿が積みあがっていますし…。

 

あれ?

 

何で戦艦と空母のテーブルの中に、一人だけ駆逐艦の子がいるんだ?

それに、どういう理由か分からないが、キラキラとした目でこちらを見ています。

あんな子がいるのなら、戦艦と空母のテーブルに行ってもいいかな?

 

「こんにちは」

 

「ちょうど呼びに行こうと思っていたんやー」

 

おお、関西弁だ。

なんか凄く人懐っこい感じで、話しやすそうな子だな。

 

「さっきは災難やったなー。

 辛い気持ち、よーわかるでー。

 ま、持たざる者、そして同じ関西人として仲良くやっていこうな!」

 

関西人?

あ、分かった。

摂津って今で言うところの大阪だからな。

でも私は関西人じゃあ無いんですよ。

 

「私は関西人ではありません」

 

「なんやて!?

 確かに、関西弁じゃぁ…

 なんや、そうか、あははははは…」

 

あう。

せっかく仲良くなれるかと思ったのに、いきなり凹ましてしまいましたよ。

 

「ま、まあええわ、うちは軽空母龍驤や、よろしゅうな」

 

え?

軽空母?

どう見ても駆逐艦だろ。

そうか分かったぞ!

関西人だからボケているのですね。

これは、さっきの凹ましてしまった失敗を取り返すチャンスです!

 

「うんなアホな!おまえ駆逐艦やろ!!」

 

似非関西弁を喋りながら、その慎ましい胸に渾身のツッコミを入れました。

 

 

決まったあああ!!!

 

 

「ああそうなんや、うち駆逐艦なんや…

 

 

 

 ってなわけあるか!!」

 

 

ぐほっ。

強烈なツッコミをくらいました。

 

 

ていうか、あれ?

え、本当に龍驤ちゃんって本当に軽空母だったの?

うわあああやってしまった。

 

 

----------

 

 

いやー無表情って素晴らしいですね。

内心冷や汗ダラダラだったのですが、驚いた表情をしなかったおかげで、私が間違って突っ込みを入れたのではなく、私がボケたのだと上手く勘違いしてくれいました。

「関西弁はしゃべらへんけど、気持ちは関西人やな!気に入ったで!」とのこと。

助かったー。

 

その後、イケメンがむっちゃんさん?に抱きついて、そのまま長門さんに関節外された以外は、無事(?)に歓迎会&祝賀会は終わりました。

そして私は、龍驤ちゃんとは友達に…なれたと思う。

友達?ああアレね、コンビ二で売っている奴だっけ?って状態だった私にとって、人生初の、しかも女の子の友達です!!やったぜ。

私に女の子の友達が出来たなんて、自分でもちょっと信じられませんでしたが…

 

「胸が小さいと、体温の無駄な発散が防がれるんや。

 つまり、貧乳は病気やない、進化した人類なんや!!」

 

「なるほど」

 

「いやー貧乳同盟の同志がいるってええなあ」

 

「!?」

 

なんか貧乳同盟なるものに入れてもらえたので、事実だと思います。

因みに貧入同盟の参加者は現在2名ですが、龍驤ちゃんの勘ではいずれ空母辺りで期待のホープが現れそうだとかなんとか。

 

まあそれは置いておいて、余った料理をタッパーに詰めなくては。

何をしているのかって?

頑張ってくれた妖精さん達へのお土産なのですよー。

蒔絵提督が「貧乏臭い」とか言っていたような気がしましたが、一円も持っていないから気にしないのです!!

 

 

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『これより、演習海域に向かいます』

 

摂津と出会って早三ヶ月。

相変わらず、感情のこもっていない声が無線を通して入ってくる。

摂津には感情が欠落しているのではないかと思ってしまうが、その裏には秘めた思いがあると私は確信していた。

 

朝昼晩と絶え間なく行われる演習、月月火水木金金を地で行く過酷な日々。

他の艦むす達が市街へと遊びに出るのを尻目に、摂津は演習海域と風呂と自室を行き来する日々を繰り返していた。

 

艦むすとはいえ、女の子である。

女の子として人生を楽しむ時があってもいいではないかと私は思っていた。

でも、私は摂津を止めることはできなかった。

摂津は無表情であり、必要以上は語らないことが多い。

しかし、摂津が何か鬼気迫る雰囲気を醸し出しながら演習に望んでいることに気がついたからだ。

 

深海棲艦への怒りなのか、自らが演習怠ればそれだけ艦むす達の生存率が下がるという義務感なのか、それとも―――

 

摂津の鬼気迫る雰囲気の原因は分からないが、私には止めることは出来ない。

いや、止めてはいけないものだと思った。

 

摂津の実力はこの三ヶ月で更に磨きがかかっていた。

そして、脇目も振らず演習に打ち込む姿から、見習うべき艦むすの鑑として、横鎮の艦むす達全てから一目置かれる存在になっていた。

そんな摂津に対して、欠陥提督である私がいったい何の権限があって意見するというのだろうか。

だから私にとって摂津にしてあげれることは、邪魔しないことだけだったのだ。

 

私は無力だった。

三ヶ月前、摂津と共に戦いたいと思った時から、私は何も進歩していない。

 

私と摂津の距離はどんどん広がっていた。

 

 

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朝も演習、昼も演習、夜も演習。

毎日毎日毎日毎日演習です。

 

頑張り過ぎだって?

そんなこと無いのです。

頑張らないといけないのです。

頑張らないと、解体されてしまうのです!!

 

 

解体。

 

体を分解すること。

いやはや、こんなに恐ろしいことが行われているとは思わなかったね。

イケメンがやっているのかどうかは怖くて聞けませんでしたが、近所の提督が五十鈴改とかいう名前の艦むすを解体したと聞いたのですよ。

解体されると普通の女の子になるという噂も聞いたのですが、そんな証拠も無いような噂は信用できないのです!

だから、毎日毎日演習に励んで、私の有用性を内外に示しているのです。

物凄く辛いですけど、死ぬよりマシなのですよ!

 

でもおかげで、凄く上手くなりましよ。

妖精さんがねっ!

え、私?

そうですね、微速前進ぐらいは出来るようになったかなー…

 

体育赤点の実力なめんな!

 

そうそう、それと妖精さん達が増えたのですよ。

志願兵らしいです。

妖精さん曰く「ホマレタカイ、セッツサンノモトデ、タタカイタイデアリマス!」とのこと。

 

妖精さんと遊ぶ。

妖精さんと協力して演習をする。

ご飯のあまりを妖精さんにあげる。

 

といった普通のことしかしていないのに、私の元で戦いたいと言う妖精さんが出てくるなんて不思議です。

 

さて、これから夜の演習、夜戦です。

私の部屋から出かけ、鎮守府を抜けて演習海域へと向かいます。

この鎮守府は結構広くて、夜中に出歩いたら迷ってもおかしくないぐらいなのですが、今では勝手知ったる他人の家です。

最初は、知らない提督の家に迷い込んだり、間違えて男湯に入ってイケメンと鉢合わせしたり、横鎮という言葉が横須賀鎮守府の略ではなく、エッチな言葉だと勘違いしていたりと酷いものでした。

まあ、無表情のおかげで、男湯の件はイケメンが強引に私を連れ込んだということに勝手になってしまい、『私には』何も被害はありませんでしたし、私の恥ずかしい名前の勘違いも、いつの間にかイケメンが間違った情報を吹き込んだということになって、これといった被害はありませんでしたけど。

イケメンすまない、でも君の日々の行いが悪いのだよ。

セクハラを毎日しないと死んじゃう病って何だよ。

霞ちゃんなんて「だから何よ?」って冷たい視線を隠そうともしない有様になっているの気付いてる?

 

さて話が脱線しまくりましたが、今日の演習相手は、私の『友達』である龍驤ちゃんと、夕張さんに第六駆逐隊の皆さんです。

夜戦で、空母を逃がしながら戦うという想定のシナリオです。

 

「摂津、随分久しぶりやな、元気やったか?」

 

因みに龍驤ちゃんとまともに会うのは、一ヶ月ぶりだったりします。

龍驤ちゃんは、赤城さんや加賀さんが風呂に入っているときは、主力艦隊として出撃することが多くて、なかなか会えないのですよ。

おまけに、ここ一ヶ月ほど深海棲艦の動きが活発になってきているとかで、お互い忙しかったのです。

 

「なんや?どうしたんや?まさかうちのこと、嫌いになったんか?」

 

しまった、考え事をしていたら、まずいことになりました。

なんか、龍驤ちゃんに誤解されてしまいそうですよ!

嫌いじゃなくて『大好きな友達に会えて嬉しいです』って言わないと!

 

気持ちは言葉にしないと伝わらないからね。

だから、頑張れ私、頑張れ私の声帯!!

言葉で思いを伝えるのです!

 

だ…

 

 

駄目だ。

 

 

大好きだなんて、恥ずかしい言葉、コミュ症の私にはレベルが高すぎる!!

 

 

やばい。

私がそう言っている姿をイメージするだけで、なんか顔がポポポッと熱くなってきて、龍驤ちゃんをまともに見れなくなってきた!

くそっ、恥ずかしすぎて、私の鉄仮面が崩れるっ。

 

「え、何?何なんやのその反応!?」

 

結局、龍驤ちゃんの顔をまともに見れないまま、演習が始まってしまいましたよ…

龍驤ちゃんが私のことをどう思ったか分かりませんが、私が龍驤ちゃんを嫌いだと勘違いされていたら嫌なので、演習が終わったら、しっかりと龍驤ちゃんと話をしようと思います。

 

 

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演習終了。

戦術的勝利といったところでしょうか。

今日のスケジュールはこれで終わりです。

帰りましょう。

そして龍驤ちゃんとしっかり話をするのです。

 

「あれなんや?」

 

っていきなり龍驤ちゃんに話しかけられた!?

まだ心の準備がっ!

 

って私に話しかけたのではなく、みんなに言ったのですね。

龍驤ちゃん暗い海の向こうを指差しています。

 

確かに何かがいます。

あれは何なのでしょうか?

夜のためよく見えませんが、黒い何かがこちらに向かってきます。

おかしいな、この後に演習を行う艦隊があるなんて聞いていません。

それとも、帰投してきた艦隊でしょうか。

でもそうだとしても、演習海域に入ってくるのは妙です。

 

「蒔絵提督」

 

『…おかしいわ、そんな話聞いてないわ』

 

演習海域には関係の無い艦隊が入ってくると事故に繋がるため、理由があって入ってくる場合は事前に鎮守府に広く伝えることになっています。

 

「…全然無線にも答えないわ、レディとしてあるまじき行為ね。

 探照灯でも当ててみようかしら」

 

暁ちゃんがそう言った瞬間、近付いてくる艦隊がピカピカと光りました。

探照灯かと思いましたが…これは違いますよ!?

 

「全艦散解!自由回避や!」

 

やばいですよこれ!

敵です敵!!

今のは発砲炎です!

何でこんな鎮守府の近くに敵がいるの!?

 

「敵は駆逐艦二隻で構成された、偵察艦隊みたいや!!」

 

発火炎に浮かび上がる異形は間違いなく深海棲艦、駆逐イ級です!!

独特の音を立てて、どんどん砲弾が降り注いできます!!

これは本当にまずいです。

 

「みんな!私らは戦えへんから、しっぱを巻いて逃げるでー!!」

 

『龍驤の言うとおりだ、とにかく撤退しろ、蒔絵!!いいな!』

 

龍驤とイケメンが言うように、私達は演習用の弾しか持っていないため戦えません。

おまけに私なんて、端から非武装ですし。

だからこのまま戦えば嬲り殺しです。

 

し・か・も。

 

私は足が遅いです。

この艦隊の中で私がダントツに足が遅いのです。

その遅さは、私がいなければ敵から逃げ切れるのに、私を庇いながらだと敵に追いつかれるぐらい遅いのです。

つまり、このままでは見捨てられる可能性があるということですね!!!!!!!

 

だから、今のうちに蒔絵提督に釘を刺して起きます。

 

「蒔絵提督」

 

『な、何よ』

 

「彼女達は逃げようと思えば逃げ切れる。

 しかし、私は足が遅い。

 だから、わかっていますよね?」

 

『……』

 

「私を置いて『みなまで言わないで!!』」

 

『私を置いていかないで』って言おうとしたら怒られてしまいましたが、蒔絵提督は分かってくれたようです。

よかった。

 

 

あれ?

 

 

みんなと一緒に、鎮守府に向けて逃げていたのに、いつの間にか自分だけ反転しているのですが…

妖精さん達、どうしてそっちに私を向かわせるわけ!?

 

そっちは敵の艦隊ですよ!?

 

「妖精さん達これは?」

 

「テイコクカイグンノイジ、ミセテヤルデアリマス」

 

「イザトナレバ、ブツケルマデデス!」

 

なにこれ!?

 

何かがおかしい!!

 

「蒔絵提督」

 

『…』

 

何か、無線機の向こうで鳴き声が聞こえる…

 

 

ええ!?

 

 

「春人提督」

 

仕方ないので、イケメンを呼び出す。

 

『摂津、すまない』

 

ええーー…何その沈痛な声!?

 

「自分一人だけ沈むやなんて、格好つけすぎや」

 

ちょっと待て、これ何かおかしいから、変だから!?

何で龍驤までそんなこと言うの!!

 

「沈む気は…無い!」

 

逃げるんだからね!!

違うからね!!

気がついてよ!!

 

「そうやな、摂津はこんなところで沈む子やないって信じてるで!!

 みんな、早くここから離れるんや、摂津はうちと違って、絶対に生きて返ってくるんやぁぁぁあ!!!」

 

あ、えちょっ!?

龍驤ちゃんが涙を流しながら鎮守府に向けて増速していきますよ!?

それに釣られて第六駆逐隊のみんなも!?

 

待ってよ!?

 

「摂津さん、あなたがモブキャラではなく、主人公であることを切に祈るわ」

 

あの、夕張さん、そんなことはどうでもいいんです、置いてかないでよ!?

 

 

なんでやーーーーー!

 

 

 

 

よく分からないが、ここは俺が食い止める!!的な展開になってしまった!!

くそう、やるしか無いのか!

 

「我、夜戦に突入す!」

 

 

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ここでUターン!

 

くそっ、流石に二回目は通用しないか!

 

 

 

流石にもうブラフで時間を稼ぐのは無理だ。

最初は同航戦に持ち込むような動きをして、主砲があるように見せかけました。

でも、撃たないのですぐにバレて距離を詰められてしまいました。

なので、次は魚雷を発射したときのような動きを見せて、一時的に敵を退避させることに成功しましたが、それも一度だけだったようです。

 

敵艦隊は、どんどん距離を詰めてきやがります。

こちらにまともな武器が無いことが完全にバレましたよ。

 

少しは時間が稼げたが、増援が間に合う程には稼げていません。

夜だから艦載機は出せないし、イケメンが慌てて用意してくれた味方水雷戦隊と、蒔絵提督が必死に集めてくれている他の提督の艦隊は、まだ影も形も無い。

妖精さん達も必死に頑張ってくれていて、低速なのに攻撃を避けまくってくれていますが、それが出来たのも敵との距離があったからです。

 

ブラフが全部ばれて、距離を詰められる今となっては……

 

 

 

これから嬲り殺しに出来るのが嬉しいのかな?

そういう感情があるのかどうか知らないが。

敵が獰猛な笑みを浮かべながら、無警戒に近付いてきます。

 

『摂津、敵が、どうして逃げないの!?』

 

ああ、このままこいつに殺されるのか。

 

「セッツサン!?」

 

もう諦めたよ。

 

『摂津、早まるな、味方がもうすぐそこまで!!』

 

そんな私の気持ちが伝わったのだろう。

敵は、目と鼻の先まで近付き、その銃口を私に向けた。

 

『イヤーーーーーー!!!!』

 

殺してくれ。

 

 

 

 

「という展開だと思いましたか?」

 

この時を待っていた!!

全力で、敵を殴りつけてやります!!

 

「白兵戦です!」

 

殴る蹴る、型なんて分からないけど必死に殴りつけます。

こんなもので勝てるとは思っていないけど、悪あがきもせずに死ぬのなんて嫌です!!

 

「オザワカンタイアガリヲ、ナメルナデアリマス!」

 

妖精さん達も同じだったらしく、乗り移って羅針盤や信号旗で敵をボコボコと殴っています。

羅針盤に回す以外の使い道があったとは!

それ、私もやる!

 

「羅針盤アタック!」

 

羅針盤を敵の頭に突き刺します。

こんなのがどこまで効くか分かりませんが、後に来る艦隊が少しでも楽できるように、せめて中破ぐらいは…

 

パキ…

 

 

パキパキパキ…

 

 

あれ!?

 

 

うそだろ!?

敵にひびが入り、崩れ落ちていきます!!

 

『そうか、古いとはいえ元は戦艦。

 格闘戦に持ち込めば、船体強度と排水量の大きさで駆逐艦では対抗できない!』

 

『流石摂津だわ!

 でも…敵を欺くにはまず味方からって言うけど、本気で死ぬ気なのかと思ったじゃない!!』

 

なんか勘違いされてる気がしますが、このまま一気に行きます!

戸惑っている様子の残りの一隻に、崩れ落ち始めている敵の体を投げつけてやります。

そしてそのまま、とび蹴りだ!!

 

 

 

手ごたえあり!!

黒い額に私の足がめり込みます。

 

そして、パキパキと音を立てながら、敵は崩れていきました。

 

「テキカンゲキチンデアリマス!」

 

『摂津!!よかった!!』

 

やった、やったよ!

これで無事に帰れるよ!!

 

「ウゲンニハッポウエン!!!!!!!」

 

え?

 

 

 

 

うわあああ!?

まるで地震にあったような衝撃!?

まさか、一発貰った!?

これはいったい!?

 

「サンジノホウコウニテキカンタイ!!」

 

「ケイジュンキュウ1、クチクキュウ2」

 

新手だと!?

どうする、さっきと同じ手は…いや、無理だ。

奴らは先ほどの戦いを見ていたはず。

いや、見ていたんだ。

だからあいつら、同航戦に持ち込もうとしてやがる。

 

こうなったら、駄目元で逃げるしかない!

 

「キカンシツニ、シンスイハッセイ!!」

 

何だと!

まずい、早速速度が落ち始めてきた。

ただでさえ遅いのに、このままでは!

 

「テキカンノギョライハッシャカンニウゴキアリ!

ライゲキセンヲ、シカケテクルヨウデアリマス!」

 

「テキカン、ジョジョニセッキン!」

 

敵は雷撃戦の準備に入ったか。

この状態で雷撃を受けたら、とてもかわしきれない!!

 

 

 

最初の演習で作戦を考えてくれた蒔絵提督の知力も、妖精さんの素晴らしい技術も、この状況では何も出来ない。

これは本当に駄目かもしれない。

 

「セッツサン!」

 

 

 

もうこれぐらいしか、出来ないか…

 

「総員…退艦」

 

『摂津!!』

 

生きるのを諦めた訳ではないです。

でも、ただ逃げる以外に方法なんて思いつかないですし、多分逃げ切れません。

だからせめて、妖精さん達を巻き込まないことぐらいしか思いつきませんでしたよ。

 

「イヤデアリマス!イヤデアリマス!」

 

そう騒ぐ妖精さん達を捕まえて、私の艤装についている小さなボートに詰めていきます。

妖精さんも敵に見つかれば、ただでは済まないでしょう。

でも、この暗闇ですから、私といるより見つからない可能性は高いはず。

 

それに私が囮になりますからね。

 

 

ああ…

三ヶ月演習ばかりしてきた私には分かります。

徐々に近付いてきた敵艦隊と、再び同航戦になりました。

もう間もなく魚雷を撃ちますね。

敵艦は隊列を安定させ、各艦の魚雷発射管の向きを最終調整しているわけです。

 

私がどの方向に逃げても確実に当たるように…

それを見た私は、まず摂津提督に無線を繋ぎました。

 

「蒔絵提督、ありがとうございました」

 

死ぬ覚悟が出来たわけではないが、死んだら礼を言えなくなるかもしれないので、先に礼を言っておこうと思ったのです。

そして次に唯一の友達である龍驤ちゃんに向けて無線を繋げました。

 

「龍驤、大好き」

 

友達に嫌っていると思われたまま死にたくないので、大好きな友達であると伝えました。

さっきは、恥ずかしくて一言も言えませんでしたが、私も根性出して大事なところはなんとか声にしましたよ!!

 

 

 

 

やることはやった。

追い詰められた標的艦がどれほどのものか、見せてやる!

さあ、どこからでもかかってこい!!!

 

 

 

『諦めるのはまだ早いわ』

 

蒔絵提督!?

何を言って…

 

 

 

ブーン…

 

 

ヒュルルルルル…

 

 

 

 

ドーン!!!

 

 

これは!?

 

突然水柱が上がり、深海棲艦隊の動きが乱れましたよ。

何が起きた!?

 

『艦載機のみんな!お仕事お仕事!!』

 

艦載機!?

天山が先導して、彗星が突撃していく…

馬鹿な夜間攻撃なんて当たりもしないし、発艦はできても、着艦ができないんじゃ!

 

「なぜ龍驤隊が」

 

『私が要請したの、攻撃が当たらなくても時間は稼げるから』

 

「これでは艦載機が墜落する」

 

確かに助かるが、これでは妖精さんが…

可愛い妖精さん達が溺れ死んでしまいますよ!

 

『攻撃が終わった子から、厚木基地に行くんや、間違えるんやないでぇ!』

 

『提督権限で、厚木基地を開放させたわ、あの広さなら夜間着陸なんて簡単でしょ?

 

 さあ、早く逃げて!敵が立ち直る前に!』

 

蒔絵提督…ありがとう。

さあ、逃げるぞ!!

 

 

 

 

 

『その必要は無い』

 

 

今度はイケメン!?

 

 

 

 

「待ちに待った夜戦だー!!」

 

 

 

 

 

「よくも仲間を…ぎったぎたにしてあげましょうかね!」

 

「北上さん!」

 

「クマぁ!」

 

「ニャぁ!」

 

「…キソぅ…」

 

「声が小さいクマ!」「にゃ!(同意)」

 

 

 

「摂津!大丈夫っぽい?」

 

「みんな遅いから間に合わないかと思ったじゃない!」

 

「みんな、いくよ!」

 

「沈め!」

 

「やっと会えた!無事みたいね!」

 

「仲間を傷つけるのはだめです!」

 

猛烈な水しぶきを上げながら、六隻の軽巡洋艦と駆逐艦が突入していきます!

 

「やったクマ!初弾命中クマ!」

 

イケメン自慢の水雷戦隊か!

なんという電光石火!!

状況が一気にひっくり返りましたよ!!

 

「OH!私達の出番が無いネー!」

 

「オレが着く前に、勝負が決まっているじゃねーか!」

 

「天龍ちゃんにオアズケしちゃうような提督はお仕置きね~」

 

しかも、後詰に金剛四姉妹と天龍さんに龍田さんに…凄い戦力です!

ん?それにあれは…まさか!

 

 

「良かった、ほんま良かったでー!!」

 

龍驤ちゃん達だって!?

戻ってきたの!?

うわっ…龍驤ちゃんが抱きついてきた!?

あのっ、小さいけど当たってますよ!

 

「ちょっと!私も混ぜなさい!!」

 

とととっ!?

また誰か抱きついてきた!?

 

って、蒔絵提督!?

どうやって来たの!?

え、夕張さんがおんぶして来たの?

 

「そんなことはどうでもいいのよ!

 摂津、もうこんな無茶は止めてね!」

 

「蒔絵提督のいう通りや、もう止めてや!」

 

え、これは私が望んだ訳ではなく…。

とにかく、もうしませんから、こんな近くで二人とも怒鳴らないで下さい。

 

「もうしない」

 

 

「ほんと?

 本当に本当に、二度としないでね!!」

 

だから、私が望んだのではなく、訳が分からない展開で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………蒔絵提督、目に涙を浮かべてるじゃないか。

 

 

どうしてこんな事態になったのか、その原因はとにかく、凄く心配させてしまったようですね。

だから、私は自分の声帯に気合を入れて答えました。

 

「大切な提督の命令、絶対に守る」

 

「うんっ!」

 

この後、蒔絵提督は結局ポロポロと泣いてしまい夕立ちゃんから「摂津って女泣かせっぽい?」とか言われたりしましたが気にしませんでした。

何故なら、流石の私も蒔絵提督の涙が、私が助かったことへの安堵からのものだと分かったからです。

こうして、私の初実戦は無事に終わったのでした。

 

 

----------

 

 

『蒔絵提督』

 

「な、何よ」

 

『彼女達は逃げようと思えば逃げ切れる。

 しかし、私は足が遅い。

 だから、わかっていますよね?』

 

「……」

 

『私を置いて「みなまで言わないで!!』

 

 

私を置いていけ、囮になる。

いかにも摂津らしい、艦むすの鑑と言われる彼女らしい言葉だった。

でも摂津は艦むすの鑑という簡単な言葉で表現できるほど、単純な子ではない。

 

『沈む気は…無い!』

 

という仲間を安心させるための言葉が、それだけの意味ではないことは、摂津の提督である私には分かった。

香るようにではあるが、摂津の言葉には、これまでに無い程の真剣さがあったからだ。

 

摂津といえど、不本意なのだろう。

日々演習に励み、深海棲艦との戦いにその身の全てを捧げている摂津だからこそ、こんな大勢に影響しない戦いでは沈みたくないのだろう。

 

私は横鎮中の提督に連絡を入れ救援をお願いし、兄は高速修復材を使い水雷戦隊を繰り出してくれた。

摂津も、恐ろしく熟練した動きで時間を稼いでいる。

私にできることは無いように見えた。

 

「兄さん、龍驤を貸して」

 

でも私は動いた。

私は摂津と共に戦えるようになりたいと心に決めたのだから。

 

私が考え出したのは艦載機による夜間陽動襲撃という前代未聞の作戦だった。

効果ははっきり言って薄いが、実戦では何が起きるか分からない。

ほんのちょっとしたことが生死を分けることがある。

 

そして私の行動は摂津を救い、夢見た関係に一歩も二歩も前進したのだった。

 

「大切な提督の命令、絶対に守る」

 

海上で摂津に抱きつく私にそう語った摂津の姿は、私の一生の思い出になるだろう。

摂津と私が夢見た関係に向けて大きく前進した瞬間だったからだ。

 


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