彼女の卒業から着想を得たとなっています。
自分の心に建てた墓標です。
※注意事項※
今回の作品は、過激な描写を想起させる表現と捉えられる可能性がございます。
そういう表現に不快感を示される方は、この場にて謝罪いたします。
「ふわぁ……。よく寝た……」
夢美は、いつもの通りの朝が来て、いつも通りの目覚めをしていた。
しかし、その部屋の光景はいつも通りではなかった……。
空き缶等が散らかっているいつもの部屋ではなく、一人分にしては少し大きいベッドが置いてある小綺麗な部屋であった。
「流石、高級品だわ。今までのベッドとは、寝心地が段違いだわ。新生活の為に、ちょっと奮発して良かった」
ベッドの柔らかさに感謝しながら、ベッドから抜け出す様に起きた夢美は、ちょっと遅めの朝食を食べ始めた。
大きいテレビで情報番組で、最新のニュースを見ながら、穏やかな朝食を食べ、食後には、備え付けの食器洗い乾燥機に使用した食器を入れ、起動のスイッチを押した。
「えっと……。昼から書類を出しに行って、夜は事務所のスタジオで3D配信か……。久しぶりの配信だけど……。緊張するな……。何度もしていたのに、今日は本当に特別……」
夢美は、スマートフォンにのカレンダーアプリで、自分の予定を確認していた。
「はぁ~。今日で最後か……。今日まで色んな事が有った……。ここに引っ越しして、新生活が始まって、慣れないことに四苦八苦して、でも楽しい生活……。自分がライバーであることを忘れてしまうほどに……」
食後の余韻を楽しみながら、今までのことを振り返っていた。
「さて、行こうか。昨日、さんざん覚悟したはずだよ。今日で終わりだって」
身支度を整えて、部屋のまだ綺麗な鍵を取り出し、目的地へと向かうために、玄関へと向かった。
「書類は大丈夫。じゃ、“いってきます”」
その部屋には、夢美しかいないのに、あまり言わない“いってきます”の言葉を発していた。
それは、新たな自分を見送る“もう一人の私”への言葉なのかもしれない。
「お疲れ、拓哉」
「おう。書類は持ってきたか?」
「うん、大丈夫。出る時にきちんと確認したから」
打ち合わせを終えたレオとの待ち合わせて、鞄の中に入れている書類を取り出して見せた。
「それじゃ、行こうか。書類を提出しに」
「そ、そうだね」
その後、二人はとある場所へ向かい、そこの窓口へと向かった。
「よし、それじゃ、出しに行こうか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!! 気持ちを落ち着かせてるから」
「後は書類を出すだけだからな」
「でも、私にとっては、一大事なの!」
「わかったから、ちょっと飲み物買ってこようか?」
「いや、いらない。もうちょっとだから」
胸に手を当てて、ゆっくりと息を整えた。
「もう、大丈夫?」
「うん。昨日、きちんと覚悟したのにね」
「そうだな」
「これで、二度目なのにね。でも、大丈夫。行くよ」
その後、窓口で書類を提出し終えると、その後、配信をするために、事務所へと向かった。
事務所では、今日の配信の為に多くのスタッフが準備をしていた。その中を、二人は挨拶回りをして、最後にスタジオの中央で指示を出している諸星さんの所へと向かった。
レオと夢美を見つけた諸星は、二人に駆け寄り、壁際で何やら少しひそひそと話し始めた。
「おっ、来たな。ご両人!」
「お疲れ様です、バンチョ―、いや、諸星さん」
「お疲れ様です。今日は、スタジオでの配信を用意してもらって、ありがとうございます」
「かまへんよ。なんせ、“重大発表”ってことで枠を取って、大々的に宣伝をしたから、注目度ウナギのぼりや」
「ネット上でも、いろんな噂が飛び交ってますもんね」
「せやな。社内でも緘口令を出し、三期生が全員揃って3D配信をする以外の情報は私とかっちゃんとマネージャーぐらいしか言ってないしな。でも、何かを嗅ぎつけたか、“伝説”のにじライブ三期生の3D配信の風景を見たいって、多くのライバーが来てな。スタッフ達の邪魔にならないようにとは釘を刺したんだけどね」
諸星が軽く親指でスタジオの端を指すと、そこには二人の後輩であるライバーが複数人、スタジオ配信の見学をしていた。
「ほう……。3Dお披露目配信するライバーもちらほら……」
「何回もした3D配信なのに、今日は本当に緊張します」
「そうか。それにご両人。書類は出したんか?」
「はい。ここに来る前に」
「そうかいな。それじゃ、今日の配信は盛大にしなくちゃな」
諸星は、自然と笑みを浮かべ、自分に気合を入れた。
「「ありがとうございます」」
「後輩の晴れ舞台や。しっかりしないと、にじライブの第1期生としての名が廃るやろ? それに、ウチができるのは舞台を作るだけや。その舞台で踊るのは、二人やでな」
スタジオの設営に戻った諸星の背中に深々と頭を下げる二人であった。
「おはっぽ~。お疲れ~」
「今回は遅刻しなかったな、林檎」
続いて、今回の主役の一人である林檎が二人に声をかけてきた。
「ちょっと酷くない~。うわ~ん、夢美~。レオが虐めるよ~」
「いや、遅刻については、擁護できない」
「酷い~」
「それにしても、良く間に合ったね。世界中をまたにかけるピアニストなのに」
「いや~。私レベルになっちゃうと、世界中から引っ張りだこなんだけどさ~。そんなオファーよりも、この配信の方が大事に決まってんじゃん。だってs……」
「林檎、ここから先は、ダメだ」
思わず何かを漏らそうとする林檎をレオは諫めた。
「あっ、ゴメン。よし、それじゃ頑張りますか~」
軽く伸びをした林檎は、自分の指定された席に座った。
その後、マネージャーたちとの詰めの打ち合わせを終えて、配信開始の時間となった……。
(配信準備をしています……)
[重大発表って何だろうな……]
[3期生が全員揃うっていうから、ライブの告知かな?]
[でも、レオが武道館ライブしたばかりだぞ?]
「おっし、それじゃ、ここからが本番やぞ。ここから先は、お笑いは一切なしや。レオと夢美の行動が全てやぞ」
「「はい!」」
バンチョーの声に、みんなの気を引き締めて、3人は真剣な表情になった。
「配信入ります。3。2。1。始めます!」
三脚の椅子と、一卓の机が用意され、椅子には三期生が座り、机の後ろには、諸星こと竹取かぐやが立ち、配信のスタンバイに入った。
スタッフの緊張混じりの声で、配信が再び始まった。
(配信が始まります)
[きちゃぁ~]
[待ってた]
配信画面には、金屏風をあしらえたどこかのホテルの会見会場を思わせる背景と席の前に立つ三期生と、司会者の場所にかぐやが立っていた。
音声は、シャッター音が所々聞こえており、どこぞの記者会見のようであった。
[記者会見wwww]
[誰がここまで完璧にしろとwwww]
[三期生とバンチョーとか豪華だなwww]
[さっきの茶番とは打って変わって、完全にマジモード]
「はいはーい、みなさんこんバンチョー! 司会の竹取かぐやです。これから、前々よりみんなに案内していた重大発表の時間や。みんな、良く聞ぃときや!」
「みなさん、おはっぽー、白雪林檎でーす!」
「みなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!」
「こんゆみー! 茨木夢美です!」
「今回は、重大発表ということで、みなさんにはこの配信にお集まりいただきありがとうございます。今回は、三期生というよりも、ほとんど私と夢美に関係することになります」
[ざわ…… ざわ……]
[(;゚д゚)ゴクリ…]
[これは、マジモード……]
[レオとバラギの個人のこと……?]
[にじライブ、卒業?]
[バラギの結婚に、花京院の魂を賭けるぜ!]
[花京院wwww]
夢美と林檎が席に座り、ただ一人立ったままで話し始めた真剣なレオの態度に、視聴者も緊張した雰囲気になっていた。
「今回、皆さんにお伝えしたいのは、私、獅子島レオは、この度以前よりお付き合いをさせていただいている同期ライバーの茨木夢美さんと入籍をいたしました」
レオが真剣な言葉を告げると、配信ではカメラのシャッター音が連続で鳴らされて、更に記者会見の雰囲気を更に増していた。
[!?]
[マジか!!]
[ついにか!]
[V同士の結婚とか初だぞ!]
[ええ!]
[ガチの入籍会見じゃん]
配信画面のチャット欄では、レオの発表に驚きと戸惑いが現れていた。
「“企業に所属するライバー同士の入籍”という業界初のことで、混乱されているのは重々承知です。ですが、私がにじライブ所属のライバーとして活動していく中で、“茨木夢美”と言う女性が今現在の“獅子島レオ”という一人のライバーが、夢を取り戻し、その夢を叶えるまでに至るために必要不可欠な存在であり、彼女の存在が日を追うごとに大きくなっている自分がいて、そんな彼女を幸せにしたいという思いで、“婚約”という一つの明確な形として、自分の覚悟を形として表したかった次第です」
レオの真剣な姿は、周囲を圧倒するような強い意志を秘めていた。
[それでも、こうやって発表するって、スゲーわ]
[流石、男性企業Vの頂点だわ 潔い]
[ブレイクスルーする切欠も、バラギの無茶ぶりだもんな]
[ああ、懐かしいな]
話し終えたレオは着席して、その次に夢美が立ち上がり、話し始めた。
「先程、ご説明があった通り、あたし“茨木夢美”は、同期ライバーである獅子島レオさんと入籍いたしました。レオはライバーといて活動していく中で、だらしない私の生活をずっと支えてくれて、気が付いたら、彼の横にいることが当たり前で、心地よい場所になっていて、彼の隣でライバー活動している中で、彼に惹かれる自分がいて、そんな場所にずっといられたら……と思い、彼の申し出を受け入れました」
[本当にだらしなかったもんな……]
[レオに料理とかも教えてもらったりとかあったもんな]
[イケメンで、自分に優しくて、愛してくれてって、惚れるわな]
[自分を救ってくれた幼馴染だしな]
[これ以上、惚れない要素ないでしょ?]
夢美の言葉にコメントが流れながらも、みんな真剣に聞いていた。
「企業に所属するライバーとして、色恋沙汰と言うのは多くの問題が発生しうるリスクがあり、一般的には御法度という考えがあり、あたし達の関係には抵抗を感じる妖精や袁傪の方々、あたし達以外のライバーを推している方々が、自分達の推しがあたし達と同様なことになることを危惧されておられる方もいると思います。あたしもそうです。最初、レオに想いを伝えられた時は、そういう事を考慮して、自分の気持ちを抑えて、一度は断りました」
[確かにそこら辺、怖い話だよな]
[確かに確かに]
[もっと前に告白されていたのか!]
[レオ、フラれてたのか!]
「そして、みんながあたし達のことを認められるように、ライバーとしての知名度を上げて、みんなから認めれるようになって初めて、その想いに応えようと約束しました」
そこからのアイドル時代の確執の解消等のレオの快進撃で、知名度を上げ、恋人関係に至り、最終的には武道館でのライブの後、正式なプロポーズを受けたことを明らかにした。
[漫画みたいな恋だな]
[そもそもの話が既に物語なんだよな~]
[てぇてぇ……]
チャット欄では、一部ネガティブな発言があるものの、ポジティブな発言が占めていた。
夢美が話し終え、席に座り終えると、司会のかぐやが三期生達よりも前に立ち、話し始めた。
「にじライブを引っ張る立場として、この二人のデビューからずっと見てきました。彼らは、問題行動や壁にぶつかることがしばしば有ったが、それらをお互い支えあうことで乗り越えてきました。そして、二人が結婚したいって話を聞いた時、「遂にこの時が来たんやな」って……。本人たちの意志も強く、下手に二人の意志を抑えてしまうと、二人のライバーしての良さを潰してしまう可能性もありますし、会社の意向に沿わずに勝手に行動し、多くの皆様に多大なご迷惑をかけることも考えられました。勿論、にじライブ株式会社としても本人や社長を交えた会議や面談を何度もした結果、こうして皆さんに発表する結論に至りました」
かぐやの言葉に、その場にいる人は、圧倒されていた。
「皆さん、思うところは色々あると思います。先程、夢美が言ったように、他のライバーも同様の事態が起こりうるのではないかと思うことでしょう。今回につきましては、二人のライバー活動の中で積み上げてきた信頼があってこその結果です。他のライバーで同様の事態が起きた際にも、にじライブ株式会社は同様の会議や面談を行うことをお約束します。ですので、今後ともにじライブの活動をぜひともよろしくお願いします」
かぐやは深々と頭を下げ、視聴者の方々への理解を求めた。
[バンチョ―がそこまで言うなら……]
[きちんとしてくれたら、大丈夫!]
「最後に……。二人とも、幸せになれよ。そして、これからもライバー活動をしっかりしてな。そして、レオ、浮気とかしたら舎弟が雁首揃えて燃やしに行くから、覚悟しぃや。夢美、これからは色々と忙しくなるけど、困ったらウチや他のライバー達に頼りなよ。絶対、力になるから。ということで、話を締めたいと思います。視聴者のみんな、長い間、ウチ等の話を聞いてくれて、ありがとうな」
その後、バラレオのバーチャル披露宴を行う発表をした後、視聴者の質問コーナーになり、色々と惚気混じり、そこでもてぇてぇの材料になったり、小さな火種になったりしていたが、その会見に出演していた4名が各々の立場から、視聴者からの質問には誠意を持って答えたりするなどして、ネガティブな発言は全くないわけではないが、少し鳴りを潜めていた。
そして、レオと夢美の3Dモデルに改修が加えられて、左手の薬指に輝く指輪が追加され、バラレオの左手の甲を見せる入籍会見によくある光景とかも行われた。
SNS上でも、賛否両論ありながらも、バンチョーの発言や今までのバラレオの活動を見続けていた袁傪や妖精たちは、概ね好意的に受け止められた。
それ以外の人は、一部炎上目的な人もいて、混乱はしたものの、公式アカウントにて、「両者対し、浮気等のスキャンダルが発生した際は、起こした方をライバーとして強制卒業させ、業界から全力で締め出す」旨の誓約書を作成し、他ライバーも同様の件が発生した場合は同様の誓約書を作成させると発表することで、一先ずの鎮静化の方向へと向かった。
「それじゃ、今後の二人の幸せを祈念して、乾杯!!!」
「「「「「「乾杯!!」」」」」」
生放送終了後は、いつもの居酒屋に集まり、バラレオの入籍を祝うための宴会が始まり、そこにはバラレオのマネージャーや、二人の先輩・後輩ライバー、かつて“四天王”と言われた現在でもライバー界のトップを走るライバー達が集まっていた。
「おめでとうございます。いや~、まさかライバー同士の結婚に踏み切るとは、流石だね」
「イルカさん、ありがとうございます」
「いやいや、私もそろそろ良い人がいれば結婚とかするけど、まだ相手がいないから……」
「イルカさん程なら、選り取り見取りでしょ」
「いや~。これがまた上手くいかないんだ~」
「まひる、知ってるよ~。3週間くらい前に、司とまひると林檎ちゃんとでオフコラボを私の家でした後、司が林檎ちゃんを家まで送るって言っt……」
「まひる先輩、それはっ!!」
「おい、誰か、まひるを止めろ!!!」
「えっ、なんで~」
「これ以上は、まずい!!」
「ほう……。それは、良いこと聞いたな……。ちょっと、教えてもらおうか?」
「ヒェッ……」
各々が、二人の結婚祝ったり、結婚する秘訣とか、色々と聞いたりするライバーもいれば、爆弾発言を繰り返すまひるの姿も有ったり、それを止めた林檎がかぐやに首根っこ掴まれて、強制尋問になったりと、かなりカオスな状況であった。
そして、宴会が終わり、バラレオの二人は、二人の新居として選んだマンションの部屋に戻り、入浴などを済ませると、精神的に疲労で二人ともすぐに“同じベッド”で横になった。
「あぁぁぁあ゛あ゛、疲れた」
「お疲れ様。でも、これからもっと忙しくなるよ。明日から実家巡りとか、結婚式の式場選びとか」
「あとは、ヴァーチャル披露宴もやるって、バンチョーが言ってたよな」
「こういうのは、やれることは全部試しにやっちゃおうってのが、会社の考え方みたいだし、特にこういうお祝い事は、する機会ってのは無いからね」
「そういうノリの良さが、にじライブなんだろうな」
「本当にそうだよね~」
「それに、明日の夜は短時間だけど、きちんともう一度配信で報告しないとね」
「“新婚夫婦初配信”なんて、SNSで盛り上がっちゃってるよね」
夢美は、明日が来るのが待ち遠しいかのような表情で楽し気に語っていた。
そんな夢美を見ていたレオの表情も優し気な顔であった。
「“司馬”由美子さん、これから色々と苦労や壁にぶつかったりすると思う。だかr……」
「大丈夫。あたしと拓哉なら、きっと大丈夫。だって、“我ら、にじライブぞ?”」
二人は軽く笑いあい、不安を笑い飛ばした。
「でさ……。今夜って夫婦になって、初めての夜なんだからさ……。ね」
夢美は、レオににじり寄り、レオの耳元で甘い声で囁いた。
「疲れたって言ったのは、そっちだよ?」
「そうなんだけどさ……。今まで我慢してて、これでようやく、レオに思い切り甘えられる」
「付き合っている時も、盛大に甘えてたのに、まだ足りなかったのか」
「当り前じゃない。もう、絶対離さないからね」
「まったく……。じゃ、今夜は寝かさないぞ、なんてな」
夫婦となった二人は優しく抱き締め合い、お互いの温もりを求めあった。
その後、眠りについた二人の表情は、未来への不安なんてまるでない穏やかなものであった。
新たな環境であっても、二人の今後は明るいだろう……。
何故なら、この二人には支えてくれたり、応援してくれたりする人が多くいるのだから……。
お読みいただき、ありがとうございます
彼女の卒業から得た着想が、「バラレオの新生活」という結果……。
「終わり」も有れば「始まり」も有る。
「終わり」と「始まり」は表裏一体だと思います。
彼女の卒業は辛いことですが、彼女はこの空のどこかで、バーチャル世界のどこかで、みんなの記憶のどこかで笑顔でいると思います。
だから、私としては、この作品を投稿することが私の未練の墓標にしたいと思います。
なんか、ポエムしている気がするけど、これで締めにさせていただけたらと思います。