お互いの距離が近いが故に起きる苦悩と、離れたが故の苦悩を少しでも表現できたらと思います。
「夢美、これ見てみろよ」
「ん、何~?」
2人ともレオの部屋でくつろぎながら、レオはポケモンをして、夢美はその画面をレオの肩から少し顔をのぞかせながら覗いていた。
「この相手、凄い戦術を使ってくるんだよ」
「えっ、どんなの?」
「これされると、ほんと厄介なんだけど、うまくいかないことも有るんだけど、こんなにうまくされるとは思わわなかったよ」
「ふーん」
「確か夢美、このポケモン育ててたっけ?」
「確かに持ってたかな」
「この戦法も面白いから、採用してみるのもいいかもな」
「レオがそういうなら、考えようかな」
「やってみようよ、な」
「わかった」
レオは夢美の顔を見ようと顔を向けた瞬間、何かに触れたのを感じた。
夢美はレオが自分の方に向いていた瞬間、何かに触れたのを感じた。
「「!?」」
お互いの「唇」が触れてしまったのを、お互いが理解してしまった……。
「い、い、今……!」
「落ち着け、夢美!」
「ヒッ!」
「落ち着け、あれはただの事故だ。ただ、ちょっと当たり所が悪かっただけだ」
「そ、そうよね!」
「だから、あんまり深く考えなくても良いよ。俺も気にしてないから。アイドル時代でも、キスシーンは何回かあったから気にしてないよ」
「で、でもさ。確かにちょっとレオに寄りかかってたあたしも悪かったって」
「そんなことないって。ちょっと気が緩んでただけだって。次から気を付ければいいだけだって」
「そ、そうよね」
「そうだって。とりあえず、今回はどっちも悪かったってことで。今日は、デザートにプリンを用意しておくよ」
「やった!」
2人の間で解決させ、レオは再びswitchに視線を移した。
「(でも……。ちょっと、近すぎたのかもしれないよね……。Vの上では『幼馴染』だけど、ただ学校が同じなだけで、ただの同期なだけなんだよね……。最近ちょっと調子乗ってたかな……。ちょっと、距離感を考えようかな……)」
「ごちそうさま」
「ごちそうさま。プリンもおいしかった~」
「それじゃ、食器洗ってくる」
「それじゃ、あたし、部屋に戻るね……」
「そう?。いつもはこれから寛いでいたりするけど」
いつもは夕食後は部屋でくつろぐことの多かった夢美が、今日は夕食後そのまま自分の部屋に戻ることに、レオは少し驚いた。
「うん。ちょっと明日の配信の準備とか有るから」
「わかった。頑張ってな」
「うん……」
「明日も朝食作るから、徹夜はあまりするなよ」
「わかった」
足早に部屋に戻った夢美は、自分のベッドで横になり、自分のスマートフォンを操作し始めた。
彼女の顔は、無表情で何かを考えているようであった。
翌日から、夢美はレオと一緒に食事を取ったり、食後は自室に引きこもる様になり、どこかすれ違いの生活をするのであった……。
(数日後……)
レオと夢美は、毎月の三期生のミーティングで事務所に集合となったが、この日はいつもとは少し違った集合となった。
「あれ、獅子島さん?。茨木さんと一緒じゃないんですか?」
「四谷さん、おはようございます。夢美は、「ちょっと用事を思い出したから、先に行って」って、少し遅れてくるみたいです。「ミーティングには間に合う」って言っていたんで、すぐ来るとは思うんですけどね」
「わかりました。それじゃ、会議室で待っていてくださいね」
四谷に促されて会議室に向かい、用意されている三期生用の右端の席に座り、会議までの時間をつぶしていた。
「失礼します!」
「夢美、用事大丈夫だった?」
「うん、まぁね……。ちょっと、買い忘れてたものがあってね。コンビニで買ってきたんだけど」
「よかった。用事を思い出したからって言ってたから、心配した」
「心配してくれてありがとう。ミーティングはまだみたいだね」
「良かった、遅刻しなくて」
夢美は左端の席に座り、レオと同じく会議までの時間をつぶし始めた。
その数分後に、再び扉が開き、林檎が入ってきて、レオと夢美に挨拶を交わしていた。
「失礼します。レオ、夢美、おはよう!」
「おはよう、林檎」
「おはよう、白雪」
「間に合った~。ちょっと、早めに行こうと思ったら、思いのほか時間を食っちゃってさ。まぁ、何とか間に合ったから、まぁ良いか」
「間に合ってるけど、次から気をつけろよ」
「はーい、わかりました。それにしても……」
「ん?何かあった?」
「いや、何も」
林檎は、レオと夢美が席を離していることに違和感を感じた。
「いつもなら隣に座って、仲良く談笑して、てぇてぇを振りまいているはずなのに……」
違和感を拭えないまま、林檎は真ん中の席に座った。
「では、今日のミーティングはこれで終了になります。また、何かありましたら、連絡お願いします」
「「「お疲れさまでした」」」
「それじゃ、あたしはお先に失礼します」
「お疲れさまです」
会議はつつがなく終了し、解散の時間となり、夢美は足早に会議室を退室した。
「(ライバーとしての「茨木夢美」と、あたしとしての「中居由美子」はきっちり分けないといけないんだけど、うまく整理できない……。今まではそんなこと考えることなんて無かったのに……。でも、何だろう?。この胸の苦しさは……)」
夢美は、事務所の入り口を出て、やや曇った表情のまま帰路へと付いた。
一方、事務所では……。
「レオ、夢美と喧嘩した?」
「別に夢美とは喧嘩してないけど?」
「いやだって、いつも会議の席が隣同士だし、仲良さそうに話してるのに、今日に限って席は離れているし、全く話さなかったし、どこかよそよそしいというかなんというか」
「確かにどこかよそよそしいかったな……。確か、あの時からかな……。でも、あれはあの時お互い気にしないってことにしたのに」
「何?何が有ったの!?」
レオは数日前に起きたことに対して、林檎に簡単に説明をした。
「いや~。てぇてぇですな~。偶然とはいえ、キスしちゃうとはね~。ねぇ、本当に付き合ってないの?。日常的にベタベタしてるのって、もう幼馴染じゃなくてただのカップルじゃん」
「カップルじゃないからな」
「まぁ、それは置いといて。今回は、たぶん「お互いの距離感」を夢美が過剰に意識したからなんじゃない?」
「距離感か……」
「レオも夢美も友達にはとことん甘いからね~。たぶん、お互いどこか甘えてたのが、今回のことでちょっと悪い方向に転がっただけで、距離感が近いのは別に悪いことじゃないとは思うけどな~」
「あたしにとってはね~。てぇてぇ~、てぇてぇ~」と小さく呟いた林檎を尻目に、レオは自分と夢美の距離感について深く考えていた。
「夢美なら良いかなって思うところはあったかもしれないな……」
「だから、ちゃんと話し合えば、解決すると思うよ。お互い、子供じゃないんだしさ。かつてのあたしと違ってさ。夢美もきちんと話は聞いてくれると思うよ」
「でも、ここ数日ご飯も一緒に食べてないからな。なんか避けられてるみたいでさ」
「う~ん。なんか、昔のあたしみたいなことになってるよね~」
「無理矢理にでも、夢美の部屋に入るか?」
「いや、別にそこまでする必要ないんじゃないかな~。「距離感」を意識しているだけで、レオとは離れるつもりはないと思うから……。そうだ!。これなんかどう?。……………」
林檎はレオの耳元でひそひそと作戦の内容を教えた。
「…………。なるほど、それなら問題ないな。それじゃ、今夜してみるよ。ありがとうな林檎」
「バラレオがてぇてぇじゃなかったら、こっちが調子悪くなっちゃうからね。それに、これも雑談のネタになると思えば、儲けものだよ~」
「少しはぼかせよ。また炎上するぞ」
「大丈夫、大丈夫~。バラレオが事故チューしたところで、「てぇてぇ」か「結婚いつですか?」とかのコメントが増えて、ちょっと多めのスパチャが貰えるだけだって。炎上なんてありえないよ」
「いやいや、結婚って飛躍しすぎだろ……」
「ふふっ、そうかな~。私から見たら、もう結婚間近にしか見えないけどな~」
「冗談はいい加減にしろよ」
「は~い」
その後、林檎と軽く作戦の確認をして、レオは帰路についた。
獅子島レオ:ベランダでちょっと話そう お酒用意してるから こっちに行きたくなかったら、自分の部屋のベランダで良いから
数時間後、レオは夢美にメッセージを送った……。
夢美を呼び出すために、夢美の曇り空を晴らすために……。
「夢美、来たか?。お酒はそっちのベランダに引っ掛けてるから取って」
「レオ、どうしたの?。お酒なんか用意しちゃって」
自室のベランダに出てきた夢美とレオはパーテーションを挟んで、お酒を飲みながら会話を始めた。
「「どうしたの?」って、聞きたいのはこっちだよ。あの時から、ちょっと距離を置かれてるみたいでさ」
「……」
「距離を置かれてることについては別に良いんだ。一人になりたい時も有るだろ。そういう思いも汲み取るよ、「幼馴染」なんだからさ」
「ッ。でも、あたし達の関係は、作られた関係……。「本物」じゃない。あたし達は本当の「幼馴染」じゃない。偶然、同じ学校にいただけのただの「同級生」なだけ!。なのに、ちょっとした事故でキスみたいなことしちゃって!。それで、ちょっと嬉しいとか恥ずかしいって思った自分が嫌で!。レオだって、あたしとああいう事しても全然嬉しくなんて……!」
夢美の声が少しずつ強くなっていく。
「それは違う。何も思わない訳ないだろ?。そりゃ、ドラマでもキスシーンはあったけど、それとこれとは別問題。俺だってそりゃ、少しは驚いたよ」
「!?」
「夢美は俺がライバーをしている時から、ずっと傍にいてくれた。ライバーで燻っていた時は引っ張ってくれたし、林檎の引退騒動の時は一緒に動いてくれた。夢美には感謝の気持ちしかないんだ。そんな恩を毎日の食事程度じゃ返しきれないさ」
「えっ……。でも、あの時……」
「夢美に罪悪感を抱かせないってのも有るけど、照れ隠しに決まってるだろ。特別な感情を抱いている相手とキスとかしたら、俺だって動揺はするよ」
レオは静かに言葉を紡ぐ。
「それに、『茨木夢美』は、俺にとって世界に二人しかいない「同期」だ。そして、俺にとって「大切な人」だ。「設定」だとかなんとかは関係ない」
「レオ……」
「それに、今の俺らの壁はこのパーテーションぐらいしかないだろ?。それに夢美が辛そうな時は、こんな壁なんて簡単に越えてみせるよ。夢美が食あたりで倒れた時と同じようにさ」
パーテーションを軽く小突きながら、夢美に自分たちの壁の薄さを暗に示した。
「…………」
「あれ……?。夢美、大丈夫か?。夢美~?」
身体を少し身を乗り出して、夢美の部屋を覗き込んだが、ベランダに夢美の姿は見えなかった。
「レオ!」
「ゆ、夢美!?」
レオの背後からの声に振り替えると、目の前には赤ら顔でやや涙目の夢美が立っていた。
「レオ、ごめん……。本当にごめんなさい!」
「大丈夫だよ、夢美」
感情が昂りレオに抱き着いた夢美を、レオは優しく慰めるように頭を撫で、夢美を落ち着かせようとした。
レオの優しさに、夢美は静かに涙を流した。
「レオ……。ごめんね……。ありがとう……」
「良いってことよ。落ち着いたか?」
「うん」
「よし、それじゃ、今夜は飲むぞ。飲み物いっぱい買ってあるし、おつまみも用意できるぞ」
「やった!」
そうして、バラレオの仲直り?のための飲み会が始まるのであった……。
「やっぱり、このポケモンとこの技の組み合わせを気に入っているんだけど」
「う~ん、ここのバランスが大切なんだけどな~」
「やっぱり、バラレオはこうじゃないとね!。てぇてぇ」
数日後、二人の様子を覗き見しようとレオの部屋に上がり込んだ林檎は、身を寄せ合いながらゲームに勤しみ、無自覚にイチャイチャしているようにしか見えないバラレオの姿を見て、てぇてぇを強く感じるのであった。
話を進めていくことに、どんどん終着点がずれていく気がする。
もっと、てぇてぇを高めなければ……。
感想待っています。