戦姫絶唱シンフォギアFM~奏者と機兵の円舞曲~   作:D-ケンタ

1 / 7
プロローグⅠ 惨劇の始まり

雨が降りしきる中、傘も指さずに立ち尽くす少女が一人。

少女の目の前には一つの墓標。そっと手に持っていた花を、その前に置く。

そんな少女にそっと傘を差し出す人影が一つ。その人影は少女よりも大きく、大人の男性であることが確認できる。

 

「今日も来ていたのか」

「……はい」

 

男性は少女と同じように墓前に花を供えると、少女へと語りかける。

 

「俺達も独自に捜索を続けているが、未だ彼女の遺体は見つかっていない。もしかしたら、と俺も思っている。だが……あまり期待は……」

「分かっています……でも、それでも……!」

 

溢れ出る哀しみに押し潰されるように、少女は墓前に崩れ落ちた。

 

「会いたいよ……もう会えないなんて、私は嫌だよ……響っ!」

 

泣き崩れる少女の姿にいたたまれなくなり、男性は目を伏せ、その拳を血が滲むほどに握り締める。

いまだ雨が降りしきる中、少女の慟哭だけが響き渡った。

 

 

戦姫絶唱シンフォギアFM

奏者機兵円舞曲(ワルツ)

 

 

 

二年前―――2112年

 

「ええっ!?どうして!?今日のライブ、未来が誘ったんだよ!?」

 

回りに大勢の人がいるなか、少女―――立花響は電話の向こうにいる親友に、人目を気にせず大声で訊く。

 

『盛岡のおばさんが怪我をして、お父さんが今から車を出すって』

「あたしよく知らないのに……」

 

響は今日、親友である小日向未来に誘われて、ツヴァイウィングのライブに来たのだが、誘った当の本人が来られなくなったと言うのだ

 

『本当にごめんね……』

「うぅ……あたし呪われてるかも」

 

通話が終了した後、ついそう愚痴を溢す。その時、地響きが起こり、周囲の人だかりがざわめきだした。

 

「おいあれ……!」

「何で日防軍がライブ会場に?」

 

民衆は皆一同に、同じ方向に視線を向けており、響もつられて、その方向に目を向ける。

 

「ヴァンツァー……」

 

かつて地上最強を誇った人型機動兵器の姿が、そこにあった。

 

――――――

 

『隊長、観客の入場はすべて終了した模様です』

『分かった。アイアス2、4は会場周辺の警戒、アイアス3は俺と共に会場内の警備だ』

「アイアス3了解」

 

鋼鉄に包まれたコックピットの中で、パイロットは静かに応答を返し、機体を操作する。

 

『アイアス2了解。しっかし折角会場にいるのに、ツヴァイウイングのライブが観れないなんてよ〜』

『アイアス2、気持ちは分かるが私語は慎め。任務中だ』

『了解です。辰川はいいよな、警備しながらライブが観れるかもしれないんだからよ〜』

 

分隊長の注意にもアイアス2は懲りずに軽口を叩きつつ、会場警備のため警戒態勢に入る。

 

「まったく、相変わらずだな片支那の奴」

 

そのやり取りを聞き、アイアス3―――辰川遼はため息をつき、ヴァンツァーのカメラ越しに見える景色に目を細めた。

 

「しっかし、まさかライブの警備をすることになるなんてな……」

 

他の隊員には聞こえない程度に、辰川はそう呟いた。

厳しい適正訓練をパスし、晴れてヴァンツァーパイロットとなった彼だが、このような任務に就くとは思いもよらなかった。

 

『この任務は不満か、辰川軍曹』

「岩山分隊長……はい、正直不満です」

 

だがその呟きは聞こえていたようで、アイアス1―――岩山孝治の問いかけに、一瞬言葉がつまるものの、自分の心のうちを正直に吐露した。

 

「自分たちは日防軍のヴァンツァー乗りです。それが一般の警備会社のようなことを、何故しなければならないんです?」

『ははは。練馬基地所属とはいえ、俺の分隊は末端も末端だからな、こんな仕事も回ってくる。まあ、そう言ってやるな。こうやって観客たちが安心してライブを楽しめるようにするのも、俺達の立派な仕事だ』

 

上官にそう言われては黙るしかない。

 

『確かに、お前の気持ちも分かる。だが、O.C.U.各国の情勢が不安定になっている昨今、こうした大規模なイベントはまさに格好の的だ。テロリストが襲撃してくる可能性も無いとは言い切れん』

「それは……」

 

2091年にハフマン紛争が終結して以降も、2102年のアロルデシュ人民共和国でのクーデターを皮切りに、東南アジア諸国では独立の気運が再燃。4年後の2106年にはフィリピンのミンダナオ島を反政府組織が占拠するなどテロ・内乱が激化、O.C.U.の情勢は不安定になっている。ここ日本も例外ではなく、いつ巻き込まれてもおかしくはない。

 

『それに、見てみろ』

 

促されてヴァンツァーのカメラを向けると、ステージの上で歌を歌うツヴァイウィングと、それに熱狂する観客たちの姿が写し出された。

 

『ハフマン紛争が終結しても、O.C.U.・U.S.N.ともに問題はいまだ山積みだ。だが、そんなものは政治家や軍人の間だけで終わらせなくてはいけない。民間人を巻き込むなぞ、もっての他だ』

「……」

『彼女達が思いのまま歌えるよう、そしてそれを安心して楽しめるようにするのも、軍人であり、ヴァンツァー乗りたる俺達の仕事だ』

「……はい。すみません、生意気なことを言ってしまって」

 

岩山の話を聞き、自分の浅はかさを悟った辰川は自分が恥ずかしくなった。ヴァンツァー乗りになれたことで天狗になっていたのだろうか。

 

『分かったならいいさ。さあ、巡回に戻るぞ』

「了解!」

 

気持ち新たに、任務に臨む辰川。操縦捍を握りヴァンツァーを動かす。

―――がその直後。

 

ドオォーーーン

 

会場内に、突如として爆発音が鳴り響いた。

「な、何だ!?」

『―――アイアス4よりアイアス1!!異常事態発生!?繰り返す、異常事態発生!?』

 

それと同時、コックピット内に会場周辺の警備をしていた先輩パイロット(アイアス4) の驚愕が混じった怒声が響き渡る。

 

『アイアス4、落ち着いて報告しろ。何があった?』

『空にヤツらが―――』

「分隊長っ!あれを!?」

 

辰川は目の前の光景に目を疑った。先程までツヴァイウイングがライブを行っていた会場が一瞬にして地獄の光景へと変貌していた。

辰川が指したモノを確認した瞬間、岩山は顔を歪めて舌打ちを鳴らした。

 

『ノイズ……だとっ!?』

 

テロリストよりも最悪な災害が、人類にとっての厄災が、そこにいた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。