戦姫絶唱シンフォギアFM~奏者と機兵の円舞曲~   作:D-ケンタ

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プロローグⅡ 最期の歌

『な、何だよアレ!?何でノイズが出てくんだよ!?』

『落ち着け片支那!?』

『ちくしょう!折角ヴァンツァー乗りになれたってのに、ここで死んじまうのかよ!?』

 

通信機から会場の外にいるアイアス2の恐怖に染まった叫び声が聞こえてくる。アイアス4が落ち着かせようとするも効果はなく、アイアス2―――片支那健治は取り乱すばかり。

 

「嘘だろ……ノイズなんて聞いてないぞ!?」

 

辰川も同じだった。相手が人間であれば、戦う覚悟はできていた。だが今目の前にいるのは、現代兵器の悉くが意味をなさない、人類の天敵とも言える存在。動揺するなと言うのが無理と言う話だ。

 

『ちくしょう、死にたくない……死にたくねえよおっ!?』

『狼狽えるな!!』

 

恐怖が完全に伝染する前に、岩山の一喝により二人は反射的に体を緊張させる。

 

『応援要請は既に発信してある。それまで我々だけで観客を守る!』

 

岩山の口から飛び出した信じられない言葉に全員が目を見開いた。

 

『俺が殿を勤める!アイアス2・4は飛行型ノイズの警戒及び観客の避難誘導、俺とアイアス3は観客の避難完了までノイズ共を足止めする!』

『な、何を言ってるんです隊長!?我々だけでは到底持ちこたえられません!?』

『隊長、片支那の言うとおりです。こちらは旧型の強盾が4機、対してノイズは飛行型も合わせればとてつもない数です、我々だけではカバーしきれません!』

 

片支那の言うことは最もであり、アイアス4―――宮山信彦も同意件である。

彼らの乗る機体は、第二次ハフマン紛争時に使われたイグチ社製ヴァンツァー・強盾をレストアした物で、現代では時代遅れもいいとこな機体だ。

それでノイズを足止めするなど、考えられないものだった。

 

『無茶なのは分かっているさ。だがな宮山、このままではアロルデシュの二の舞になる。それだけは避けねばならん』

『それは……』

 

アロルデシュ。その単語を聞き宮山は押し黙る。

2102年、アロルデシュ人民共和国でクーデターが発生。その後の治安維持のため、日防軍からも人員を派遣した。しかし、結果は凄惨なものだった。派遣した部隊の殆どが壊滅、現地の民間人も含め多数の死傷者が出た。表向きには現地の武装勢力によるものとされ、生存者の間には緘口令が敷かれていた。

 

『で、ですが!?こちらの兵装は、ノイズには効果がないんですよ!?』

『だったら避難完了まで民間人の盾になるだけだ!時間がない、カウント3で全機行動開始……3……2……』

「覚悟を決めろ、片支那」

『クソっ!?何でこんなことに……』

 

操縦捍を握る手に力が入る。ヴァンツァーパイロットになって最初の相手がまさかノイズになるとは……。

辰川は恐怖を振り払うように頭を振り、目の前の驚異へと向き合う。

 

『1……0っ!!全機、防衛開始!!』

 

唸りを上げ、ヴァンツァーが死地へと躍り出た。

 

 

「いやだ、いやだあああああ!?」

「助けてくれええええ!?」

 

そこは、まさに地獄絵図だった。突如発生したノイズにより、ライブ会場は大混乱に陥り、我先にと逃げ惑う人達で溢れかえり、それが逆に避難を遅延させていた。

 

「うわあああああっ!?」

 

そうなれば当然、逃げ遅れる者も出てくる。そうしたものは必然、ノイズの餌食となり炭となって消える。

 

『うおおおおおおっ!!』

 

しかしここには彼らがいた。今まさに逃げ遅れた観客を襲おうとしていたノイズに、ライドホイールの走行音を派手に鳴らしながら、一機のヴァンツァーが突っ込んできた。そのまま左腕に装備したシールド・10式装甲でノイズを弾き飛ばす。

 

「た、助かった……?」

『ぼさっとするな!さっさと逃げろ!』

「は、はいいいっ!?」

 

観客がその場から逃げたのを確認すると、このヴァンツァー・強盾のパイロットである岩山はカメラをノイズの群れへと向ける。ノイズの数は会場内を埋め尽くさんばかりであり、小型種だけでなく大型種の姿も確認できる。

そこにもう一機の強盾が右手に装備したマシンガン・レオソシアルでノイズを牽制ながら移動してきた。

 

『隊長っ!』

『辰川、お前は先ほど伝えた通り観客の背中を守れ!これ以上一人の犠牲者も出すことは許さん!』

『りょ、了解です!』

『俺が前でノイズ共の注意を引く。行くぞ!』

 

岩山の気合いの掛け声を皮切りに、二機のヴァンツァーは武器を構える。

効果がないのは知っている。それでも、観客たちから注意を逸らせれば……。

 

Croitzal ronzell Gungnir zizzl(人と死しても、戦士と生きる)

 

歌が、聞こえた。

 

『な、何だ……?』

『……歌?』

 

突如歌声が聞こえてきたと思った次の瞬間、ノイズの群れの一角が吹き飛んだ。

その光景に驚く二人の目の前に、ノイズを蹴散らしながら意外な人物が降り立った。

 

『君は……?』

『あ、天羽奏!?』

 

先程までライブをしていたツヴァイウイングの片翼、天羽奏が不思議な武装を装備してノイズと戦っている。

その事実に辰川は動揺するが、岩山は冷静に問いかける。

 

『こちらは日防陸軍第1師団所属、都市防衛隊アイアス分隊。もしかして、君が噂の戦場の歌姫か?』

「歌姫ってのは言い過ぎだが……まあその通りだ。ノイズの相手はあたし達がするから、おっさん達は観客の皆を頼む!」

『あ、天羽さん何を言ってるんです?!生身でノイズと戦うなんて!?』

『待て辰川』

 

驚き取り乱す辰川を岩山は制すと、天羽の方に向き直って言った。

 

『了解した。悔しいが、我々の武装はノイズ相手では効果がない。すまないが、あとは頼む』

「ああ、任せな!」

 

力強く応え、天羽は再びノイズの中へと飛び込んでいった。

再び蹴散らされていくノイズ。よく見れば天羽奏の相方である風鳴翼の姿もある。彼女も天羽奏と同じような武装をし、ノイズ達を斬り伏せていく。

 

『何だよありゃ……本当に、ツヴァイウィングの二人なのか?』

『ボケッとするな、辰川!いくら彼女達がノイズに対抗しうるとしても数的不利は変わらん。俺達は漏れ出たやつらから観客を護るぞ!!』

『りょ、了解!』

 

そこからの行動は速く、二機のヴァンツァーは観客達を背にするようにポジションをとると、ツヴァイウィングを無視してこちらに迫ってくる個体に照準を定め、マシンガンによる牽制射撃を行う。勿論効果はないが、ノイズの進行スピードが緩み、その隙にツヴァイウィングの二人が始末する。

 

『こちらアイアス4、およそ6割の観客が避難完了!しかし、飛行型ノイズの攻撃は苛烈!こちらの機体も長くは持ちません!?』

『こ、こちらアイアス2!?左腕をやられた!このままじゃやられちまう!?』

 

彼女達の活躍により、どうにか避難は進んでいるが、如何せん数が多い。ノイズの数も、観客の数も。

観客を守り、ノイズの攻撃を受けた機体は次第にダメージが目立ち始め、パーツの損壊も激しい。

 

『あともう少しで援軍が来る!耐えろ、正念場だ!!』

『了解!ですが、このままでは本当に……』

 

一瞬でも気が抜けない逼迫した状況。誰もが必死に、死に物狂いで戦っている。

 

『ぐああっ!?』

『辰川あっ!?』

 

盾でガードはしたものの、大型ノイズの攻撃を受け辰川は機体ごと観客席まで吹き飛ばされてしまう。その衝撃で盾は壊れ、ヴァンツァーのダメージも限界を迎える。

 

『クソ―――ダメだ、脱出します!』

 

コックピットから飛び出したその時、辰川は息を飲んだ。

 

「―――っ!?隊長!子供が……子供が取り残されています!!」

『何だとっ!?』

 

逃げ遅れてしまったのか、一人の女の子が崩れた観客席の傍で蹲っていた。怪我をしてしまったのか、足を押さえている。これではすぐに逃げられない。

更に最悪なことに、その少女めがけてノイズが殺到した。

このままでは少女はノイズに襲われ、炭となって消えてしまう。

 

「―――ふざっけんなあっ!!」

 

辰川は痛む身体に鞭打ち、ノイズに向かって護身用のハンドガンを撃ちながら少女の前に立つ。

しかし、弾はノイズの身体をすり抜けていくばかりで、足止めにもならない。

距離を詰めてくるノイズを目前に、もうダメかと思ったその時、飛んできた天羽奏がノイズ達を切り伏せた。

 

「今のうちに早く!」

「す、すまない!」

 

天羽の援護を受け、辰川はいまだ動けずにいる少女に駆け寄り声をかける。

 

「大丈夫かっ!?」

「あ、足が……」

「分かった。少し揺れるが、我慢しろよ!」

「え?―――きゃぁっ!?」

 

辰川は少女を抱え、避難口に向けて駆け出す。その隙にもノイズが襲ってくるが、天羽奏が身を挺してノイズの猛攻を防ぐ。しかし、小型種ならばどうにかなっていたのだが、大型種までもが彼女目掛けて攻撃してきた。さしもの彼女もその物量に押されてしまう。

 

『させるかあっ!』

 

そこに岩山が自身のヴァンツァーを大型ノイズへと特攻させた。その衝撃に大型ノイズは体勢を崩し、攻撃を中断する。

だが、岩山のその行動はまさしく自殺行為と言えた。

 

『ぐおあっ!?』

「た、隊長おっ!?」

「おっさん!?」

 

ノイズの群れ、その中心に突っ込んだ岩山の機体にノイズが殺到した。四方八方からの攻撃に耐えきれず、機体は限界を迎えその場に倒れ込む。

それを見逃さずにノイズが岩山を襲う。天羽奏や風鳴翼が向かおうにもノイズに阻まれ助けに向かえない。

 

「隊長!早く脱出を!」

 

辰川もつい足を止め、岩山に向かって叫ぶ。

 

『―――ダメだ、反応しない』

「そんな……今助けに!」

『来るなっ!その子を見殺しにするつもりか!?』

『ッ!?』

 

その言葉にハッとなる。今ここで岩山の助けに向かっても、ノイズ相手に生身の人間がどうこうできる訳もなく、ただ犬死するだけ。おまけにそんなことをすれば、この少女までもが逃げきれずノイズに殺されるかもしれない。それは絶対に許されない。

 

『君達も早く下がれ!』

「うるさい!今助けに行くから静かに待ってろ!」

 

そう叫んで天羽奏はノイズを切り伏せていく。だが、一向に数が減る様子はなく、そうしている間にもノイズは倒れたヴァンツァーへと取り付いていく。

 

(……すまないな)

 

アラートが響き渡りスパークが散るコックピットの中で、岩山は懐から一枚の写真を取り出した。目の前ではノイズがヴァンツァーの装甲を通り抜け、今まさに岩山を襲わんとしている。

 

(来月の誕生日、祝えそうもない)

 

心の中で写真に写った人物に謝罪し、岩山はそっと目を閉じた。

 

―――ドォォンッ!!

 

「隊長おおっ!?」

 

ノイズを道連れにして、限界を迎えたヴァンツァーは爆発四散した。

その衝撃はすさまじく、離れていた辰川達のところまでも届いた。

 

「きゃああっ!?」

「ッ!?しまっ―――ガハァッ!?」

 

爆発の衝撃で少女は辰川の手から離れ落ち、辰川自身も瓦礫に強かに打ち付けられた。

そして、爆発に巻き込まれたのは彼女達もそうだった。

 

「うあああっ!?」

「奏えッ!?」

 

岩山を助けようとノイズを相手取っていたツヴァイウィングの二人も、例にもれず爆発の影響を受けていた。

そして、ノイズとの戦いによって摩耗し罅が入っていた奏の鎧や槍が、爆発の衝撃を受けて砕け、破片が辺りへと飛び散った。

更に最悪な事態が起こった。飛び散った破片の一つが、少女の胸へと突き刺さった。

 

「―――なっ」

 

少女はそのまま瓦礫へと打ち付けられ、その場へと倒れ伏した。辰川は歯を食いしばり、軋む身体を引きずって少女のもとへと向かい、天羽奏もまた、少女のもとへと急ぎ駆け寄った。

 

「おい、死ぬなっ!」

「目を開けろっ!?おいっ!?」

 

少女の身体を揺さぶるが、反応はない。天羽奏は振り絞るように、辰川は絞り出すように少女へと叫ぶ。

 

「「生きるのを諦めるなっ!!」」

 

二人の呼びかけにより、少女はゆっくりと目を開けたが、その瞳に光はない。早く病院へと連れて行かなければ……だがこの状況では、逃げ切れることすら難しい。

 

「畜生……俺は、なんて無力なんだ……」

 

気付けば辰川は嗚咽し、情けない声で嘆いた。

 

「折角ヴァンツァー乗りになれたのに、隊長が命を張ったっていうのに、俺は……子供一人助けれねえのかよ……クソッ」

 

恥も外聞もなく、彼は自分の情けなさに泣いた。死ぬほどつらい思いをして手に入れた、地上最強のはずの力は既に意味をなさず、彼の力だけでは、この少女の命すら救えないという事実に、彼は泣いた。

 

「……いいや、あんたは無力なんかじゃない」

 

彼女は、天羽奏は彼に向かって、微笑みながら告げた。

 

「観客達を守るために、ノイズへと立ち向かったあんたは無力なんかじゃないさ」

「……」

「だから、あとは任せな」

 

そう言って天羽奏は立ち上がり、再びノイズの群れに向き直った。

 

「いつか……心と体、全部空っぽにして、思いっきり歌いたかったんだよな……」

 

そうして彼女は、歌い始める。最期の歌を。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

その歌は、気高く、優しく、そして……悲しい歌だった。

辰川はその歌のメロディーも、歌詞も、意味すらも分からない。だが、彼はその歌に聞き入っていた。それが、今の自分にできる唯一の事だと、心で感じていた。

 

「Emustolronzen fine el zizzl」

 

そして、彼女が歌い終わると同時、会場内にいたノイズはすべて消え去った。

 

「うそ、だろ……」

 

彼は目の前の光景に暫し呆けていた。あれほど苦戦したノイズが、一体残らず消え去ったのだ。

無線機からは、仲間の驚いたような声が聞こえてくるが、今の彼の耳には入らなかった。

 

「これが……戦場の、歌……ひめ……」

 

あまりのことに脳の処理が追いつかないのか、それとも安堵したことで緊張の糸が解れたからなのか、彼はそう呟き、気を失った。

 

―――次に彼が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。そこで彼は、驚くべきことを聞かされる。

 

―――天羽奏が、死んだ。

 

後に、ライブ会場の惨劇と呼ばれるこの事件は、警備についた日防軍のヴァンツァー部隊の奮戦空しく、死者、行方不明者の総数が、5000人近くにのぼる大惨事と人々に記憶され、けっして消えない傷を残した。

 




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