戦姫絶唱シンフォギアFM~奏者と機兵の円舞曲~   作:D-ケンタ

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今回、ちょっと長いです。
あと謎理論が出てきます。


STAGE5 覚悟と不協和音と

街頭に照らされ、深夜の都市道路を車が一台走っている。

後部座席には、日防軍の軍服を着た二人の男性、辰川と片支那が座っており、走行する車に揺られながら外の景色を眺めている。が、会話は無く、車内には重苦しい空気が充満している。

 

「……」

「……なあ」

 

その空気に耐えかねてか、片支那が辰川へと話しかけた。

 

「さっきの事だけどよ、二課の連中だって本当はあの娘を頼ることなんかしたくねえだろうさ。だが今の対ノイズの現状を考えるとよ……」

「分かっている!それでも、俺は……クソッ!」

 

そう言って、辰川は車のドアを叩いた。叩きつけたその手は震え、辰川の心情が見て取れる。

一体何があったのか。話は少し前に遡る……。

 

◇―――

 

「……響ちゃんが、二年前のあの娘だと?」

 

思いもよらない事実に、辰川は空いた口が塞がらなくなっていた。

 

(確かに、言われてみれば……。あの事件の後、何とか助かったとは聞いていたが、会ってはいなかったからな……ん?)

 

そこまで考えた所で、辰川の脳裏に疑問が浮かんだ。

 

「ちょっと待ってくれ。風鳴司令、先程響ちゃんに協力を要請したいと言っていたな」

 

その辰川の言葉に、弦十郎は目を伏せながら答えた。

 

「……君の言いたいことは分かる。だがノイズの出現率が増加している昨今、我々だけではどうにも手が足りない。恥ずかしながらな」

「だからと言って、民間人である彼女を戦場に立たせるつもりなのか!?」

「落ち着け辰川!」

 

もはや敬語すらも忘れ、制止する片支那をも気にせずに辰川は叫んだ。

 

「納得してくれとは言わん。だが現状ノイズに対抗しうるのがシンフォギアのみである以上、貴重な適合者である彼女の協力は必要なのだ。理解して欲しい」

「くっ……!」

 

そう言って頭を下げた弦十郎に、それ以上辰川は何も言えなかった。

 

「辰川……」

「……すみません、熱くなりました。ですが、それでもしあの娘に何かあれば、それこそ自分は彼女に顔向けできません……失礼します」

 

言い終えると辰川は弦十郎に背を向け、来るときに使ったエレベーターへと向かう。

 

「あいつのこと、悪く思わんでください。あいつ、あの事件のことでかなり苦しんでましたから」

「ああ、分かっている。だからこそのあの物言いなのだろう」

「俺からも言っておきますんで。それじゃ、失礼します」

 

一礼をして、片支那もエレベーターへと向かい、辰川とともに帰路へとついた。

 

―――◇

 

そして現在、二人は二課が用意していた車に乗り、彼等の所属である一課の基地まで向かっている。

 

「……響ちゃんは、只の民間人だ。ヴァンツァー乗りである俺達が、護るべき民間人を前線に立たせるなんて、いいはずがないんだ」

「ああ、お前の言う通りだ。だが、ヴァンツァーの装備では、ノイズに対して効果がない。変な意地を張って、出なくていい被害が出てしまったら、それこそ本末転倒だろ?」

 

片支那の言う通りである。しかし、辰川はそれを聞いても表情を変えず、更に言い返してきた。

 

「ヴァンツァーにも、対ノイズ戦において有効な戦い方はある」

「何だと?お前まさか」

 

しかしそこから先を言う前に、目的地に到着したのか車が停まり、外には一課の基地が確認できる。

辰川はさっさと車から降りると基地の正門へ向かって行く。少し遅れて片支那もドライバーに礼を言い、急ぎ足で辰川に追いつく。

正門に着くと、顔馴染みの衛兵が二人を迎えた。

 

「随分と遅かったな、お二人さん」

「まあ、な」

「司令からありがたい伝言だ。戻ってきたら、司令室に出頭しろ、だとよ」

「カンカンな顔が目に浮かぶぜ……」

 

二人は衛兵と別れ、そのまま司令室へと向かった。道中、これから起こるであろうことを想像し、片支那は頭を抱えた。

 

 

「辰川遼准尉、並びに片支那健治曹長。帰還いたしました」

「うむ、ご苦労。早速だが本題に入ろう」

 

辰川と片支那を迎えた一課司令官は、机の上で腕を組むと、その双眸で二人を見据えながら言った。

 

「辰川准尉、片支那曹長。君達は突如発生したノイズとの戦闘後、現場の処理に来ていた二課の職員と接触。その後、彼らの本部まで同行した。間違いないかね?」

「そ、それは……」

「……はい。その通りです」

 

少し言い淀んだ片支那に対し、辰川は率直に答えた。

 

「ふむ……。基本、我々一課を含めた外部の人間が、二課へ接触することは禁止されている。そのことは知っているな」

「存じております」

「二課が保持しているモノは、日防軍の中でも最高機密に位置している。隊員間に大まかには知られていても、詳しく知っているのは、私を含めた極一部の高官のみだ」

 

そう言いながら椅子から立ち上がり、辰川達の前へと移動しながら続けて話す。

 

「もし二課の情報が諸外国に知られれば、最悪新たな戦争の火種となるだろう。もしそうならなくても、確実に各国から彼女達は狙われ、その周囲の人間に被害が及ぶ可能性もある……もちろん、君が助けたあの娘もな」

「っ!」

「二課への接触を禁じているのは、その危険性を少しでも下げるためだ……准尉」

 

司令官は辰川の肩に手をおいて、まるで諭すように話す。

 

「君が一課へと転属した理由は理解している。だがこれ以上の二課への接触は、君自身だけでなく、彼女、立花響君をもさらなる危険に晒すことに繋がる事になる」

「……」

「辰川……」

 

やがて司令官は辰川の肩から手を離し、二人に背中を向けた。

 

「今回の事は、特別に二人共不問にする。その事をよく考えて、これから行動したまえ」

「ま、マジか……」

 

思ってもない言葉に、片支那は口をぽかんと開けてしまった。

 

「……分かりました。ですが司令」

 

しかし辰川は、目の前の司令官の背中を見据え、静かに言い放った。

 

「自分は民間人に護られる為に、ヴァンツァーに乗っているわけではありません……失礼します」

「お、おい!自分も、失礼します」

 

敬礼をし、部屋から退室する辰川に続き、片支那も司令室を出る。

部屋に残った司令官は、再び椅子に腰掛け、机の引き出しから葉巻を取り出すと、火をつけて吸い始めた。

 

(……風鳴司令、貴方の言ってた通りでしたな)

 

フゥ、と煙を吐き、今しがた二人が出ていった扉を見つめる。

 

(准尉、君は正しい。だが今の君には見えていないものがある。それに気づいてくれるか……)

 

静けさが戻った司令室に、葉巻の煙だけが虚空を漂っていた。

 

 

司令室を後にした辰川達は、宿舎へとは戻らず、ヴァンツァーの格納庫へと向かっていた。

 

「格納庫に何しに行くんだよ?」

「決まっている。ヴァンツァーのセットアップに、だ」

 

問いかける片支那にサラリと答え、辰川は格納庫のドアを開く。

格納庫の中では、深夜にも関わらずライトが着いており、整備中と思しき音が響いている。

 

「何だ坊主共、戻っていたのか!」

 

不意に、汚れたツナギを着た壮年の整備員が辰川達へと声をかけてきた。

 

「おやっさん」

「ったく、ヴァンツァーを置いて、どこに行ってたんだバカ共が」

「すいません、ちと野暮用でして」

 

工具を肩に担ぎ、いかにもおやっさんといった風貌の男性は桑島大悟。一課の整備班長である。

 

「んで、何の用だ?」

「おやっさん、俺の機体のセットアップを頼みます」

 

そう言うと辰川は胸元からメモ帳を取り出し書き込むと、それを桑島へと渡す。

 

「……ダブルアサルトか」

「シールドを外すのかよ?」

 

眉をひそめて問いかける片支那に、辰川は頷きつつ答える。

 

「ああ。通常兵器ではノイズに対し効果は薄い。だが格闘兵装だけは、ノイズに有効打を与えられるらしい」

「らしいって、どこ情報だよそれ」

「過去の戦闘記録で、格闘戦でノイズを倒したというのを見たことがある」

 

それを聞き、片支那は信じられないといった表情で目を丸くした。

 

「それが本当だとして、だったらなんで今はやってねえんだよ?一課のヴァンツァーで、格闘兵装を装備した機体なんていねえぞ」

「それは……」

「当時ノイズに格闘戦を仕掛けた機体は、軒並みノイズの反撃にあい、壊滅している。今と違い、情報も不足していたし、連携も取れてなかったからな」

 

辰川の代わりに桑島が片支那の疑問に答えた。

 

「確かに格闘戦は効果はある。だがその為に隊員の命を危険に晒せないと、今の司令が耐久戦を推奨したのさ」

「そうだったのか……てか辰川!お前それを知ってて……死ぬ気かお前!」

 

片支那は辰川に掴みかかり、語気を強めて問い掛けた。

 

「ヴァンツァーでノイズを倒すには、あの娘を戦わせない為には、これしかない!それに、そうやすやすと死ぬつもりもない」

「……本気、なんだな」

「……ああ」

 

それを聞いて、辰川の肩から手を離した片支那は、頭を強く掻きながら大きくため息を吐いた。

 

「あーもう!しゃあねえな。おやっさん、俺の機体もセットアップしてくれ。ダブルショット仕様でな」

「片支那?」

「前に出るんなら、援護役が必要だろ。シールドを持ったままじゃ、手数が足りないからな」

 

サムズアップしつつ、そう言った片支那に、辰川は軽く頭を下げた。

 

「全く、バカなガキ共だ。俺がパイロットを死なせるような半端な調整すると思ってんのか?」

「おやっさん?」

「今日はもう寝ろ。明日の朝には全部終わらせといてやる」

 

言い終えると辰川達に背中を向け、ヴァンツァーの整備へと向かった桑島に、二人は頭を下げ、格納庫を後にした。

その後、宿舎へと戻った二人は、帰りを待っていた同じ隊の宮山から若干の小言を聞き、それぞれの部屋に戻り床についた。

 

 

二課への接触から翌日、辰川は部下とともに日が落ち始めた街をヴァンツァー(ウォーラス)で哨戒していた。

 

『もうこんな時間かぁ。今日は何事もなく終わりそうですね』

「そうだな。どうだ金城、少しは慣れたか?」

 

ヴァンツァー(ウォーラス)のコックピットの中で、辰川は通信を繋いでいる部下の金城桂へと呼び掛ける。

 

『は、はい。まだ、ノイズと戦うのは怖いですが』

「誰だってそんなものだ。人間を相手するよりはいいだろう」

『それはそうですが……』

 

金城桂。今年になって辰川達の隊に配属された、士官学校出身の新人パイロット。

日防軍に入隊後間もなくクーデターが発生。収束後、もう人間相手に戦うのはイヤだと一課へ転属したという経歴を持つ。そのためノイズとの戦闘経験どころか遭遇経験すらないのだ。

 

『ところで隊長、前から気になっていたのですが』

「なんだ?」

『何故小隊員を哨戒出撃組と基地待機組に分けているのですか?』

 

現在、街に哨戒に出ている機体は、辰川の隊では辰川と金城の二人のみで、片支那と宮山は一課の基地にて待機している。

もちろん、他の隊も含めればもっと出ているのだが、その他の隊も隊員を分けている。

 

「民間人を威圧しないためだとか、緊急時のために待機させてるとか色々理由はあるだろうが……一番は予算の問題だろうな」

『よ、予算ですか……』

 

身も蓋もない言い方に、金城は頬を引つらせる。

 

「ああ。日防軍本隊と比べ、一課の活動予算は雀の涙ほどだからな。それに本隊も、先のクーデターの件で予算が削られているらしい」

『……世知辛いですね』

 

実際問題、旧式でもヴァンツァーを動かすだけでも金がかかる。一回戦闘を行えば、どれ程の税金が飛ぶか……。

 

「まあ、上手くやっていくしかないさ。さて、あと一時間で引き継ぎだ。あと少しだからって気を抜くなよ」

『了解で―――』

 

金城が言おうとした時、それは起こった。

 

ビー!ビー!

 

『「っ!!」』

 

コックピットの中に警報が響く。その直後に、一課本部から辰川達へと通信が入る。

 

『哨戒中の各隊へ通達!ノイズが出現しました!位置情報はマップに転送しています。至急、現場に向かってください!』

「了解。アイアス隊、現場に急行する」

 

本部オペレーターからの報告に短く返し、辰川は再び金城へと向け通信を送る。

 

「聞いたな、被害が出る前に抑えるぞ!ついてこい!」

『りょ、了解!』

 

言うが早いか、辰川達は足元のペダルを踏み込み、脚部のライディングホイールを起動し、ローラーダッシュでモニター上のマップに記された地点へと向かう。

 

 

現場へと到着した辰川は、多数の小型種ノイズが出現しているのを確認するとFCSのセーフティを解除する。

炭素の塊が見えないことから、幸いな事にまだ被害は出ていないようだ。

 

『俺が前に出る!金城は後方から援護を頼む!』

『は、はい!』

 

辰川の指示に答えると、金城はヴァンツァー(ウォーラス)を停止させ、左腕に装備したライフル、イグチ5式を構える。

そして前方のノイズに狙いを定めると、操縦桿のトリガーを引きライフル(イグチ5式)を撃つ。発射された弾丸は真っ直ぐノイズへと飛んでいき、見事命中するが着弾はせず、そのまますり抜けていった。

ダメージは与えられないが、そんなことをすれば当然ノイズの注意は攻撃をしてきた金城のヴァンツァー(ウォーラス)へと向く。

 

『おおおおおっ!!』

 

そこで辰川のヴァンツァー(ウォーラス)が右手に装備したショットガン、霧島55式を撃ちながら前へと出る。

連続して発射された散弾にさしものノイズも動きを止め、その隙にローラーダッシュで接近し、ノイズに向かってヴァンツァー(ウォーラス)の左腕を振り下ろす。

 

『うおらっ!!』

 

ヴァンツァー(ウォーラス)の左腕がノイズに叩きつけられる瞬間、装備されている武装、ヘビーパイルが作動。中心部に備えられた杭が勢いよく射出され、ノイズの体を貫いた。

 

『手応え……あり!』

 

次の瞬間、貫かれたノイズは炭素となって砕け散った。

しかし格闘攻撃後は姿勢を安定させる為の硬直が発生する。そこを狙って、ノイズが辰川のヴァンツァー(ウォーラス)へと迫る。

だがそこは金城が支援射撃を行い、ノイズの行動を阻害。その隙に辰川はショットガン(霧島55式)で牽制しつつ離脱した。

 

『すまん、助かった』

『あまり無茶しないでください!心臓縮みましたよ!』

『だが、格闘戦が有効というのは本当だった。原理は分からんが、これなら……!』

 

手応えを感じた辰川は、再び自身のヴァンツァー(ウォーラス)を駆り、ノイズに肉薄する。

金城も腹を括ったのか、ライフル(イグチ5式)の照準をノイズに合わせて応戦する。

パイルバンカー(ヘビーパイル)で着実にノイズを屠っていくが、如何せん数が多い。

 

『チィッ!』

『隊長!本部から通達です、間もなく二課が到着すると!』

『分かった!だが、ここで引き下がる訳には!』

『っ!?隊長、ノイズが!!』

 

金城が叫んだ直後、ノイズが溶けて混ざり合い、一体の大型種へと変貌した。

 

『合体したか……金城、援護を頼む』

『隊長、流石に分が悪いですよ!』

『悪いが、分の悪い賭けは嫌いじゃ、ないんでな!』

 

言い終わるや否や、辰川は大型ノイズに接近、左腕のパイルバンカー(ヘビーパイル)を打ち込む。だが!

 

『クッ、威力が足らんのか!?グオッ!?』

 

一撃では大型ノイズは倒せず、逆に反撃を受けてしまう。

 

『隊長っ!?』

 

吹き飛ばされた辰川だが、上手く機体を制御し、何とか姿勢を安定させる。

 

『大丈夫だ。だが、少し厳しいか……』

『少しどころじゃないですよ!大型種とマトモにやり合うなんて』

『だが、ヤツを倒せば終わりだ。俺達でノイズを倒せなければ……っ!?回避!』

 

咄嗟にローラーダッシュで回避すると、先程まで二人がいた場所に大型ノイズの羽のような部位が回転しながら飛んできた。

辰川はすぐに姿勢を立て直し、ショットガン(霧島55式)を大型ノイズに向かって構える。

しかし、構えた時には既に大型ノイズは辰川へと向かって飛びかかって来ていた。

万事休す、と思われたその時!

 

「こぉんのおおーっ!」

 

少女のものと思われる、聞き覚えのある叫び声がヴァンツァー(ウォーラス)のマイク越しに聞こえた瞬間、何かが大型ノイズへと突っ込んできた。

直後、大型ノイズは大きく歪みながら、辰川から離れるように吹っ飛んでいった。

 

『今の声、まさか!?』

「大丈夫ですかっ!?」

 

ヴァンツァー(ウォーラス)のカメラが捉えたその人物は、辰川にとって見覚えのある少女であった。

 

『響ちゃん!?何故ここに!?』

「うぇっ!?もしかして辰川さん!?」

 

昨日と同じく、シンフォギアを身に纏った立花響の姿が、そこにあった。




用語・設定解説


一課機動部隊/正式名称「日防軍特異災害対策機動部一課都市防衛機動部隊」。戦車等だけでなく、ヴァンツァーも擁している。ヴァンツァーの配備数は32機だが、その全てが日防軍本隊からの払い下げの旧型である。配備機体は「ウォーラス」「強盾」。

ヘビーパイル/イグチ社製パイルバンカー。標準的な性能であり、特筆すべきところはない。
今作において、格闘兵装は唯一ノイズに有効打を与えられる武器であり、このヘビーパイルも小型、中型種であれば問題なく戦える。だが大型種相手には威力が足らず、複数回叩き込む必要がある。
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