「? まどか、君は
______は?
こいつは……今なんて言った ?
それこそ
確かに、俺が魔術使いであるというイレギュラーはあるものの、俺はあの『
それならば因果の量も何も問題ないはず。問題ないはず……なんだ……。
混乱している俺だけを除き、インキュベーターたちの話は進んでいく。
「ねぇキュウべえ、まどかに魔法少女になる才能がないってどういうことなの?」
「それは私も聞きたいわね。キュウべえ」
さやかと巴先輩が、インキュベーターに詰め寄っている……ような気がする。その2人の追求にもさして慌てた様子のないインキュベーターは、さも当然かのように答えていく。
「元々、魔法少女と魔術師っていうのはあまり関わらないんだ。片方は
それに、詳細は伏せるけど、魔術師の扱う魔力と、魔法少女の扱う魔力は、根本的に
そこまで言うと、俺たちに情報を整理させるために、会話に一拍休憩を挟むインキュベーター。
「君は、何者かが手を加えたかのように、魔法少女に関する適性
そして最後に、まどか、君は悪神にでも好かれているのかい、なんて茶化してきて、この話は終わる。
二人も、もう魔法少女に関わるような質問をやめて、こちらを心配するような目線で見てきている。……それは、未だに死人みたいな顔色をして狼狽えている俺への配慮なのだろうか……
……二人には申し訳ないが、魔法少女に関する質問会は、ここで俺だけ抜けさせてもらおうか。そう思い、この企画の発案者でもある巴先輩に声をかける。
「……あのー、巴先輩」
「ど、どうしたの? まどかさん?」
「いやー、なんか色々と情報が多すぎちゃって……一旦持ち帰って、改めて考えて見てもいいっすかね?」
「……えぇ。……でも、無理は、しないでね?」
それはどうだろうか。そんな思いも込めて、巴先輩との会話を打ち切る。次に、わざわざ参加してくれたさやかの方を向く。
「悪いさやか……そういう訳だから、一旦俺だけ先に帰ってもいいか……?」
「うん……悪いことは言わないから、早く帰った方が良いよ……? 今のまどか、人には見せられないような顔してる」
「そっ、か…………」
「うん……」
この部屋に長い沈黙が降りる。段々と気まずい空気になってきた。このままだといけないと言うのは薄々わかっているので、俺から沈黙を打ち切る。
「あの……! 今日は誘っていただいてありがとうございました。なんか色々あったせいで疲れちまって……で、でも、有意義な時間を過ごせました! ありがとうございます! …………また、学校で! ……さやかも、じゃな!」
不味い。何が不味いって、メチャメチャ気まずい。だが、俺はそれを振り切るようにして、巴先輩に別れの挨拶をする。ついでに、未だに俯いたまんまのさやかにも挨拶をする。
______さっきの情報のせいで軽くパニックになっていたからだろうか、もしくは、早く一人になりたいという焦りからだったのかもしれない。この時、俺は気づけなかった──いや、気づいて
俺が先輩の部屋から出ていくその時も、ずっと俯いたままだったさやかの、なにか悲しげで、それでいて決意に満ちていた表情に───
午前の一件で、かなりセンチメンタルになってしまった俺は、一旦家に帰ってから、知り合いに会わないようにという意向も込めて、普段使っているよりも数駅先のゲームセンターに来ていた。
「ここはいいな……」
俺はゲームが大好きだ。よくゲームセンターに行くのだが、最近はなかなか行けていなかった。ここ1年は、時間があったら全部原作の対策に費やしていた。
俺は少し懐かしむようにしてゲームセンターに入る。中には、プリクラや、レースゲーム、エアーホッケーなどの定番のゲームがある中、俺は財布を持って音ゲーのコーナーへと向かう。
俺は数あるゲームのジャンルの中でも、音ゲーが大好きで、どのくらい好きかと言うと、だいたいリズム天国以外の音ゲーはプレイ済みだったりする。
これは個人的な持論になるのだが、リズム天国は音ゲーに入らないと思う。あれはどう見ても目押しゲーです。
前世だったら『チュウ〇ズム』と呼ばれるSE〇Aの音ゲーをプレイするのだろうが、生憎と今はまだ2011年。有名どころで言うならば、DD〇や、太〇の達人の14、〇寺ぐらいしかない。
時代の流れから来るフラストレーションを発散するように、俺はDD〇の前に立つ。
前世ではこういうタイプの音ゲーは苦手だったが、今世ではこの身体の運動神経がとてつもなく良かったため、度々こういったタイプの音ゲーをプレイするのにお世話になっている。
二時間ほどプレイし、そろそろ体力も限界だろうとの認識の元、撤退する。
ゲームセンターは店によっては通気性が悪く、身体の熱が逃げにくい店も多々ある。そういった所の場合は、体力に余裕があっても、汗が沢山流れ出ているため水分不足で熱中症になりやすいため、少し早めに撤退するべきなのだ。ばっちゃんもそういってたし。
プレイ後、荷物を纏めてさぁ帰ろうという時に、後ろから声をかけられる。
「よぉ、アンタが鹿目まどかかい?」
「えっと……どちら様で?」
声をかけてきたのは、赤い髪を後ろでまとめて、男勝りな性格をした、魔法少女。
「あぁ、アタシは佐倉杏子。……魔法少女さ」
やはり彼女だったようだ。
『佐倉杏子』。魔法少女まどか☆マギカにおける、主要ポジの一人。原作では、登場時には既に魔法少女の真実を知っていて、かつての自分と重なって見えたさやか、もとい人魚の魔女を止めるために、自爆した人……という印象しか残っていない。
だって俺もともとほむほむ派ですしおすし。
だが、声をかけてくれたのに放置、という趣味の悪いことをするつもりは無いので、素直に答えてみる。
「佐倉さん……だったか? 何の用だ? あいにくと俺は魔法少女じゃない。そちらが俺と関わるメリットはあまりないように思えるが……」
「ハッ!」
俺なりに誠実に返したつもりが、鼻で笑われる。……具体的には『メリットはあまりない』とかその辺で。
俺が困惑しているのがわかると、楽しそうに、からかうように理由を教えてくる。
「アンタと関わるメリットがない? そんな訳ないだろ。アンタは
こっわ。何されるの。具体的にナニか?
「そう身構えなくても、取って食ったりはしないよ」
そう言われ、渋々警戒態勢を解く。
「そうそう、いい子だ。近くに公園があるから、そこで話をしようか」
「良いだろう……だが、危害を加えるようなことがあったら……分かってるな?」
そう警戒感たっぷりに返すと、呆れたように言ってくる。
「あのさぁ……アンタが勝手に警戒してくるのはいいんだけどさ、ちょっと警戒しすぎじゃないかい?」
「む……」
確かに、何らかの危害を加えられかねないという心配も間違いじゃないが、少し警戒しすぎだ、という感想も抱く。
佐倉杏子の先導の元、近くの公園にやってきた。
「それで? 話って、何だよ?」
こちらから話を振る。……早く帰りたい。
「いや、イレギュラー。アンタの特異性。もうとっくに自分自身で気づいてんだろ?」
……! 少し見透かされているような気がして、体を強ばらせてしまう。
「なら良いんだ。……二人目のイレギュラー、暁美ほむら」
擬音にしたら『にしし』という擬音が似合うような、イタズラっぽい笑顔から一転して、真剣な表情になる。ほむらの名前が何故か出たので少し驚いたが、共闘の申請のためにはもう会う必要があったのかもしれない。
「そいつから、伝言を預かってる。……『魔法少女になるつもりはまだあるの?』、だってさ」
「なら、こう返しといてくれ、『俺の才能はどこ……ここ?』ってな」
俺の言葉を聞いた佐倉杏子は、理解出来ていないのか真剣な表情で俺の言葉を転がしているようだ。
「……分かった。ほむらに伝えとくよ。他になんかあるかい?」
「いや、無い。そっちは?」
「無いね。……なんかあったら、また会う機会があるかもね。…………じゃ」
本当に伝えるのはそれだけだったのか、すぐに去っていく佐倉杏子。
何しに来たんだ……お前……。
なんにせよ対話が終わったので、暗くならないうちに早く帰るとする。
……ボッチの時の主人公って、大体嫌なフラグが立ってるような……?
そんな考えが頭をよぎったが、道中は特に何事もなく、俺はもう駅に着いていて、あとは電車に乗って無事に家に帰るだけだ。辺りは暗くなってしまっているが、このくらいなら問題ない。
………………そう、思っていた。
「あら、鹿目さん、御機嫌よう」
辺りはもうすっかり夜になっていて、なんだか蒸し暑さと涼しさの共存している、春先の今日この頃。
俺は、疲れた体を引き摺って家に向かっていた。
疲れからか、魔力反応をボーッと見つめていた俺。その視線の先には、見滝原中の制服を着た仁美が。
……あぁ、ハコの魔女か……眠い……。
…………仁美ィ!? 何やってんだあいつ!? こんな時間に!?
確か、仁美はこの時間はなんかのお稽古が入っている、と本人が言っていたのを思い出す。連れ戻さなきゃ、と思い声をかける。
「おい、仁美……? どこ行くんだよ、こんな時間に」
「どこって、それは……ここよりもずっといい場所、ですわ」
「稽古があるんじゃなかったのか? 稽古はどうした?」
「そんな! お稽古なんてやっている場合ではありません! ……ああ、そうだ。鹿目さんもぜひご一緒に。ええそうですわ、それが素晴らしいですわ」
ダメだ。完全に話が噛み合っているようで、噛み合っていない。
俺が仁美の首に魔女の口付けを見つけるのと同時に、仁美はその体からは想像もつかない位の力で、俺を引っ張って、連れていこうとする。
急なことに抵抗できるはずもなく、気付いたらあっという間に廃工場の中にいた。
「そうだよ、俺は、駄目なんだ。こんな小さな工場一つ、満足に切り盛りできなかった。今みたいな時代にさ、俺の居場所なんてあるわけねぇんだよな」
この工場の工場長だろうか、手に何かを持って、バケツへとこの中身を注ぎながら、恨みつらみを述べている。彼の手に持っているものを見ようと、人混みの中へと入っていく。すると、彼が持っていたものは、以前混ぜ合わせたら有害物質の発生すると母に教わったのと全く同じ種類の、二つの洗剤だった。
「───っ! 止めろ、───!」
止めなくてはまずい。工場長の手に持つ洗剤を奪い取ろうと、飛び出していこうとする。すると、仁美に腕を掴まれて止められる。
「邪魔をしてはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ」
「は……? 何言ってんだ? お前? アレは危険だ! 分かってんだろ!? このままだと、みんな死んじまうぞ!」
「いいえ、危なくなどありませんわ。私達はこれからみんなで、素晴らしい世界へ旅に出ますの。それがどんなに素敵なことかわかりませんか? 生きてる体なんて邪魔なだけですわ。鹿目さん、あなたもすぐにわかりますから」
……狂っている。そう思わざるを得ない回答に、ゾッとしてしまう。
こちらをじっと見つめる仁美に、ノーモーションでタックルをし、体勢を崩させる。その間に、仁美の手から抜け出す。
「───せっ!」
「キャッ!」
それと同時に、洗剤を混ぜているバケツへと走る。
「寄越、せっ!」
呆然とする人々。俺が窓からバケツを叩き落とした音で、我に返ったかのように、俺を集団で追いかけてくる。
「さながらバイオハザードだな……!」
言いながら、手すりや段差を使ったりして、入口のシャッターから逃げ出そうとする。だが、いつの間にか入口には大勢の人が立っていて、出られそうには到底見えない。
ならば仕方ないと、俺は他の子部屋へと向かう。
丁度いい部屋――倉庫だろうか――を見つけ、そこに入って、しっかりと鍵を掛けたことを確認してから、籠城を行う。窓など出れそうなところを探していると、唐突に後ろから声、だろうか、そんなような鳴き声に近いものが聞こえてくる。
そして部屋の隅から虹色に光るモヤモヤとした物体が、俺を捉えんと全身にへばりついてくる。
「な、何だよコイツ……、っ! ハコの魔女!? くっそ、運無ぇなぁ俺!」
そんなことを言っている間にも、無情にもそのモヤモヤは俺を引きずり込んでゆく。
「あ、がっ──」
段々と取り込まれていて、もう外から見えるところの方が少なくなってきた。
……ほむらはどうしたんだろうか。お菓子の魔女の時みたいに、妨害を食らっているのだろうか。なんにせよ俺には関係の無い事だ。
もういきがしづらくなってきた。こわい。どうなるんだろう。たすけ──────
───そして俺は、魔女に飲み込まれて行った。
自身に魔法少女としての素質がないことを告げられ、自分自身を見失いそうになる鹿目まどか。
しかし現実は厳しく、傷心中の鹿目まどかを更に追い込むかのように、ハコの魔女の襲撃に遭ってしまう。
そんな中、自分を助けに来た魔法少女とは一体――
「……そうねー。後悔って言えば、迷ってたことが後悔かな」
次回、第七話