―――ふわふわふわり、ふにゃふにゃり。
どーも皆さん、
しばらくぐにゃぐにゃの体で結界内を漂っていた俺は、ふと、この魔女が精神攻撃を行ってくるエヴァンゲリオンに出てくる使徒みたいなタイプであることを思い出した。
……この世界に来てからトラウマ的なのは無いんだけどな……
そんなことを思っていると、ある一つの考えを思いつく。
――もしかしたら、前世の記憶が分かるかもしれない……!
そうしたら、善は急げとばかりに、俺の周囲に配置されているテレビ達を見る。
そして、そこに映っていたのは……
「ノイズ……?」
ノイズ。それはとあるシンフォギア的な何かに出てくる敵キャラ――ではなく、世間一般で『テレビの砂嵐』と呼ばれるアレだった。
「ちくしょう……なんかわかると思ったんだけどな……」
望むような結果が得られず、思わず落ち込んでしまう俺。そんな俺を嘲笑うかのように、ハコの魔女の使い魔たちは、俺の魂を喰らおうとにじり寄ってくる。
「ひぐぅっ……!」
使い魔たちに四肢を拘束され、ちぎるかのように引き伸ばされる。
手足を異様なまでに長く引っ張られるという異常な光景と、四肢に絶え間なく与え続けられる鋭い痛みから、思わず悲鳴をあげてしまう。
涙が出てきて、視界がぼやけてくる。
もうそろそろで手がちぎれてしまう――そんな時、視界の端にキラリと小さく光るものを見たような気がした。
だが、その小さな光に意識を向ける直前、
―――
「これでとどめだぁ!!」
雄叫びにも近い勝利の宣言と共に、
「いやーゴメンゴメン。危機一髪ってとこだったねぇ」
「さやか……その格好は……」
俺は、絶望にも近い感情を抱く。それでも決して面には出さないようにと気を付けながら、さやかに聞いてみる。
「ん? あーはっは、んーまあ何、心境の変化って言うのかな?」
そういうさやかは、
「馬鹿野郎……! なんで……!」
「ん? 大丈夫だって! 初めてにしちゃあ、上手くやったでしょ? 私」
俺の悲鳴にも近い声を、自らへの心配と捉えたのか、ドヤ顔をしたさやかはそう言ってくる。
「そういう問題じゃ……」
俺が言いかけたところで、主を失った魔女の結界が崩れ、現実世界へと戻った。
――かつん。
不意に足音が後ろから聞こえて来た。その足音に驚いた俺達は、急いで後ろを振り向く。
「誰だ!? …………って、なんだ、ほむらか……」
やってきていたのは、ほむらだった。ほむらはこちらへとやって来て、失望したと言った感じにさやかを見やると、こちらを向いた。
その手には銃が…………って、銃!?
「転校生!? あんたなにやってんのさ!」
「……鹿目まどか」
銃を俺に突きつけながら、ほむらは冷たい声で問い詰めてくる。
「あなたは何者なの?」
「……へ?」
さやかは、一体何を言っているんだという顔をして、俺とほむらを交互に見ている。
言葉を間違えたら、即ズドンだ。そうならないためにも、俺は言葉を間違えないように、できる限り慎重に答えていく。
「俺は……俺は、鹿目まどか。中学二年の魔術使い」
俺の答えを聞いたほむらは、
「そうね。
と言う。しかし、俺に突きつけている銃は動かさない。
「それでも、他に話せることはあるはずよ。
……答えて」
「そんな事言われてもな……」
俺が悩んでいると、再起動したらしいさやかが、ほむらに噛み付いていく。
「あ、あんた! なにやってんのさ!」
俺は変身したさやかの後ろに隠される。
「美樹さやか……どいてちょうだい。今はあなたと話している暇はないの」
「〜〜〜っ! あんたねぇ! 質問したいなら銃なんて使うべきじゃないでしょ!」
「この方が効率がいいわ」
「効率効率って……! 人生のRTAでもしてんの!?」
「RTA……?
……それよりも、あなたもあなたよ、美樹さやか」
「な、何よ……」
「どうして魔法少女になったの?」
ほむらは、失望を隠せないような感じで、さやかを(無自覚に)煽る。
「……あんたに話す必要なんてない」
さやかもさやかで、冷たい態度をとっている。
「そう…………なら良いわ。……美樹さやか。そのままだと、あなたは絶対後悔することになるわ。悪いことは言わない。巴マミのように『人助けのために力を使う』なんて事が無いようにして頂戴」
そう言うと、ほむらは来た道を戻って、俺たちのいた廃工場を出ていった。
「何なのあいつ……言うだけ言って帰っていったし……」
未だにさやかはほむらの態度に怒っているみたいだ。
「ほら、もう良いだろ? そろそろいい時間になるし、帰ろうぜ」
携帯の時計を見ると、『20:30』と表示されていた。中学二年の女子が出歩くような時間では無いため、さやかにも帰ることを促す。
「……うん、そうだね」
素直に頷いたさやかと一緒に、家路を急ぐ。
普段なら色々と喋っているのだろうが、今日に限っては一言の会話もなかった。
俺の家の前に着き、さやかと別れる。
別れる直前、ふとこんなことを聞いてみた。
「さやか……」
「何? まどか」
「いや、さ……後悔してんのかなって……魔法少女になったこと」
俺がそう言うと、さやかは(無い)胸を張って誇らしげになって、力強く答えた。
「今なにか失礼なこと言われた気がするけど……
……そうねー。後悔って言えば、迷ってたことが後悔かな。どうせだったらもうちょっと早く心を決めるべきだったなって」
そう言うと、さやかは一旦言葉を区切って、何かを思い出すように目を閉じながら続ける。
「あのときの魔女、マミさんと2人で戦っていれば、あの時まどかが出る必要もなかった」
そう言われ、俺もお菓子の魔女戦の事を思い出す。
「でも……だからってお前が契約することは……」
「なっちゃった後だから言えるの、こういう事は。どうせならって言うのがミソなのよ。私はさ、成るべくして魔法少女になったわけ」
「さやか……」
「願い事、見つけたんだもの。命懸けで戦うハメになったって構わないって、そう思えるだけの理由があったの。そう気付くのが遅すぎたって言うのがちょっと悔しいだけでさ。だから引け目なんて感じなくていいんだよ。まどかは魔法少女にならずに済んだって言う、ただそれだけの事なんだから」
そういうさやかの顔は晴れやかで、とても後悔なんてないように感じた。
「あぁ、そうだな。……俺もお前も、後悔のないように、だな……」
「さてと、私もそろそろ帰らないとね」
少しの間話し込んでいた俺達は、俺の家の前に着くことで解散となった。
「悪いな、さやか。お前の家、ちょっと違う方向だろ? だから……」
「いーっていいーって。それよりまどか、気を付けなよー? 転校生から狙われてるんだから」
そう言うさやかは、ほむらの事を思い出したのか、声にどこか刺がある。
「大丈夫だよ、さやか」
「ならいいけど……」
そして俺達は、互いの家へと帰ったのであった。
――夜寝る前、俺は少し、魔女の結界内で見たことについて考えていた。
ノイズの走っていたテレビ……小さかったけど綺麗だった光……それに、俺の前世(っぽい物)がところどころ流れていたような……
……もしかして、何らかの形で世界からの妨害が働いているのか……?
それ以上は考えが纏まらず、やる気もなくなった俺は大人しく布団へと入っていったのであった。
ハコの魔女の結界内で、自身の精神、及び過去の不可解な点に気付いた鹿目まどか。
幼馴染の『上條恭介』の為に魔法少女となった美樹さやか。
上條恭介に好意を寄せていた志筑仁美。
この三人の友情は、『魔法』という非日常の前に、崩れ始めて行く――
「まどかさんやさやかさんが何に関わっているのかは分かりません。でも、その関わっているものが、一般人が関わってはいけないものなのは分かります。それでも……それでも応援することぐらいは出来ます。……さやかさんを、お願いします」
次回、第八話