さやかが魔法少女としての活動を始めた次の日、学校にてさやか、仁美、俺の3人は話していた。
「ふあぁぁ……あ、はしたない。ごめんあそばせ」
仁美が眠そうな目で、大きな欠伸をする。
「大丈夫か、仁美? 昨日何時に寝たんだ?」
「どうしたのよ仁美。寝不足?」
俺とさやかは真実を知っているが、仁美自身はそんなことを知る由もないので、努めて気付かれないように明るい声を出す。
「いえ、そういうことではないのですが……昨夜は病院やら警察やらで夜遅くまで」
「っ、えー、何かあったの?」
少し固くなってしまったさやかの声だが、眠たげな仁美は気付かなかったみたいで、理由を俺たちに話し出す。
「何だか私、夢遊病っていうのか。それも同じような症状の方が大勢いて。気がついたら、みんなで同じ場所に倒れていたんですの」
「何だよそれ? ニュースでもやってなかったぞ?」
「ええ、警察の方も秘密裏に処理しておきたいみたいで……それにお医者様は集団幻覚だとか何とか……。今日も放課後に精密検査に行かなくてはなりませんの。はあ、面倒くさいわ……」
本当に面倒くさいみたいで、大きなため息をつきながら、若干投げやりに仁美はそう話す。
しかし、俺は今日の朝のニュースは見ていなかったが、警察の方で
「でもさー、そんな事なら、学校休んじゃえばいいのに」
さやかがそう提案をするが、ありえないとばかりに仁美は首を横に振る。
「ダメですわ。それではまるで本当に病気みたいで、家の者がますます心配してしまいますもの」
「さすが優等生だな、仁美は。俺もさやかに見習って欲しいくらいだよ」
「ぐっ……天才頭脳の持ち主2人に言われると反論ができないぃっ……!」
仁美とさやかと俺の3人。
多少『何か』が変わっても、ずっとこのまま、3人で笑い合えるような日々が続けばいいな、そんなことを願うようになった、今日この頃だった。
それから数日後のこと。
「さやかー! どっか寄りながら一緒に帰らないかー?」
仁美を連れた俺は、一緒に帰ろうとさやかに声をかける。しかしさやかは、少し疲れたような顔をして、ぼんやりとした目でこちらを見て、返事をする。
「……何? あぁ、うん。……ごめん、今日もちょっと用事があってさ、2人で帰っててくれる?」
そう言うが早いか、さやかは直ぐに荷物をまとめてそそくさと教室を出ていった。
「えっ? あ、あぁ……」
後に残された俺と仁美の2人は、呆然とした様子でさやかの出ていった教室の出口を見ている。
「さやかさん、どうしてしまったのでしょうか……? 少し怖く感じます……」
最近のさやかは、俺の誘いにも乗る事がなく、巴先輩と一緒に、見滝原の各地の魔女を夜通し倒して回っている……らしい。
なんだかさやかは強迫観念に迫られている様に見ていて思うが、一体どうしてしまったのだろうか、そこは確かに俺も気になるところだった。
「ちょっと俺、さやかの事見てくる! 悪いが先に帰っていてくれ!」
「まどかさん!? なら私も……!」
俺がさやかの様子を見に行こうと席を立つと、仁美も後に着いてこようと席を立つ。
だが、俺はそれを認められない。ここから先は、
「……悪い、仁美。複数人で行くと、さやかを刺激してヤケを起こされるかもしれないんだ。だから……頼む、分かってくれ……!」
俺は頭を下げて、仁美に頼み込む。頭上からは、仁美の息を飲む声が聞こえる。
「頭を……上げてください、まどかさん」
そう言われたので、頭を上げ、仁美を見る。
「その……まどかさんやさやかさんが何に関わっているのかは分かりません。でも、その関わっているものが、一般人が関わってはいけないものなのは分かります。それでも……それでも応援することぐらいは出来ます。……さやかさんを、お願いします」
そう言うと、今度は仁美の方が頭を下げる。
「……ここまで言われて、やらない方がおかしいよな……
……分かったよ、仁美。さやかの事は、任された。大丈夫だよ、きっと、すぐに元通りの関係になる。そうだろ?」
俺のその言葉を聞いた仁美は、目を潤ませて、再度頭を下げる。
「……えぇ、そうですね。よろしくお願いいたしますわ、まどかさん」
そう言われた俺はしっかりと頷き、出口へと向かった。
「あぁ。……行ってきます!」
「──っ、さやかっ!」
30分ほど学校の周辺を探し回った俺は、学校から少し離れた河川敷で、寝転んでいるさやかを見つけ、急いで声をかけた。
「……まどか? 何、どうしたのこんなところで?」
先程よりも少し疲れたような顔。しかし、そこから発せられる声は普段と何ら変わりのない、明るい声だった。それが、何よりも恐怖を増長させる。
「それはこっちのセリフだっ! 大体、最近のお前は何かおかしいぞ!」
「そんなことないでしょ? 私は普段通りだよ?」
少しキツめの口調で、さやかを問いつめる。
しかしさやかは、格好と声色がちぐはぐなまま、いつも通りの口調で、体調に変わりのないことをアピールする。
「最近、巴先輩と組んでるんだろ? そのー、巴先輩はどうしたんだ?」
このままでは埒が明かないと判断した俺は、話題の転換も兼ねて、聞きたかったことを聞いてみることにした。
「あぁ、マミさん? マミさんなら、
「──は?」
巴先輩とのパーティーの解消、俺はその事について聞こうとする。
「な、なぁ? どういう事なんだ、それ? 巴先輩と──」
「まどかはさ、良いよね? 戦わなくていいんだから」
しかしそれは、咎めるような、さやかの鋭い目線と声によって打ち切られた。
「? どういう──」
「知ってる? 魔法少女の真実。──私ってさ、もう死んでるんだって……!」
そしてさやかは話し出した。
「──これが魔法少女の真実ってやつ。まどかはさ、才能がないって、魔法少女になって死ぬ事がないって、キュウべえから直接言われてるんだからいいよね」
全てを話し終わったさやかは、震えながら、諦めたような顔で虚空をぼんやり眺めている。
知っていた。知っていたのに、止められなかった。あまつさえ、ソウルジェムのことまで知られてしまうなんて──!
「なぁ、マミさんは? その事はマミさんに知られてるのか?」
「大丈夫。マミさんには知られてないけど……知られるのは、時間の問題だよね」
やけくそ気味なさやかの声が、今は俺を咎めているように感じる。
立ち上がると同時に、さやかは
「────────」
「見てよこれ……もう真っ黒でさ、魔女になる寸前。あーあ、私、もうそろそろ死んじゃうのかな……?」
絶句して声の出せない俺に、残酷なまでに真実を突きつけてくるさやか。
「っ! グリーフシードはどうした? その『穢れ』ってやつが溜まんなければ、魔女にはならないんだろ? ……ならグリーフシードを……」
「無理だよ。最近は狩れるのは使い魔ばっかり、グリーフシードなんて1個も落とさない。でも、討ち漏らしがあったら街の人が危険な目に合う。……だから、狩りに行かなきゃ」
ちょうど夕日が逆光になっていて、さやかの顔は見えない。さやかの思いも、決意も、──涙も、見えない。
「だからって、自分自身が犠牲になることは無いだろ! 大体、まだ死ぬとは決まってないんだろ? 未来を変えるために行動することだって──」
「さやか……?」
「キュウべえから聞いたよ! 魔法少女は、寿命とか関係なしに、何かしらの要因でいつか死ぬ! ソウルジェムを砕かれたり、魔女になったり……だから私もいつか死ぬんだよ!! ……でも、その前にできることくらいはあるはずだよね……」
悲痛な声でそう言ったさやかは、俺に背を向けて歩き出す。
「──さやか? っ! さやか!」
「──うるさい、邪魔しないで」
俺はさやかを止めるために、さやかの進行方向に先回りをして止めようとする。
「死ぬなんてダメだ、絶対にダメだ。親御さん、心配してたじゃないか」
「──うるさい」
「とにかく、まだ間に合うはず……! そうだ! 今ほむらに連絡してグリーフシードを──」
「──うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ……うるさいっ!! 」
「がっ……!」
鞄から携帯を取り出そうとする俺を大きな声とともに力一杯殴り倒すさやか。殴られた俺は、草の斜面を転がり落ちて、土手へと倒れ込む。
倒れ込んだ俺を見下ろすさやかの目には、後悔など欠片も無く、ただ『邪魔だったら殴った』という意思しか無かった。
「ふん、いい気味だよね。どう? 見下ろしてた相手に殴り倒される気分は?
──────さよなら、まどか」
「さや、か──」
痛みとショックで動けなかった俺は、背中を向けて去っていくさやかを、止めることができなかった。
そして、揺れ動き過ぎて不安定になっていたココロは、すぐに暗闇へと飲まれて行ったのであった。
美樹さやかとの決別を受け、倒れ込んでしまう鹿目まどか。
しかし、暁美ほむらによって精神を立て直した彼女は、美樹さやかを魔女化させないために、協力者となる人物を探しに行くこととなる―――
「―――待ってろよ、さやか―――!」
次回、第九話