誰が為の《物語/運命》   作:音佳霰里

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第三話 もう何も恐れない

「ねぇまどか、放課後さ、病院行くから付き合ってくれない?」

 なんて言ってくるのはさやか。おおよそ上条のところにでもお見舞いに行くのだろう。リア充が。うらやまけしからん(末永く爆発しろ)。なんてことを本人に面と向かって言えるわけではないので、一言だけ、

「りょーかい、んじゃまた病院の前のベンチにでも座って待ってるわ」

「マジで!? ありがとー、まどか」

 

 

 

 

 そんなこんなで時刻は数日後の放課後。さやかと病院前で別れた俺は、駐輪場の近くにあったベンチに座って本を読んでいる。たまたま日陰になっていたのでとても涼しい。だが、俺は実際にまったりと本を読んでいるなんて自殺行為に近しいことをしているわけではない。

 ___お菓子の魔女。

 そう、原作第三話にて、マミさんの頭と体を泣き別れさせ、一気に視聴者と登場するキャラクターを、ほのぼのとした世界観から鬱アニメへと叩き落した魔女。

 そのあまりにも悲惨かつネタにしやすい死に方から、ネット界隈では『マミる』なんて言葉が使われていて、2011年に『マミる』という言葉ができてからというもの、俺の死んだ2020年頃まで使われ続けていた(俺の死んだあとは知らんが)、ある意味『魔法少女まどか☆マギカ』というアニメを人気にした魔女でもあるのだ。

 なぜ俺がその魔女についてこんなに長々と語っているのかというと、(察しのいい読者はもうわかっていると思うが)この病院前の駐輪場というのは、原作第3話にて孵化寸前のお菓子の魔女のグリーフシードがあった場所だからである。俺も原作においてグリーフシードが突き刺さっていると思われるところに行ってみたが、そんなものが魔法少女ではない俺なんかに見つかるはずもなく、だからこんな日の当たらない涼しいところで長々とお菓子の魔女に対しての対策などについて考えていたのだ。

 恐らく上条に会えなかったからであろう、暗い顔をしているさやかも病院から出てきたので、無理を言って最後にもう一度だけ駐輪場に行ってみる。

「ねぇまどか、あれ、なんだと思う?」

「あれ? あれって……なんだよ」

「ほら、あそこ。なんか壁に突き刺さってるじゃん。あれさ、取ったほうが良くない? 病院の人とかに怒られるでしょ、絶対」

 突き刺さっている、その言葉を聞いた途端嫌な予感が体を駆け巡った。

 そして、俺はそれ(■■ー■■ー■)のある方向を()()()()()()

 

 ___あったのだ。グリーフシードが。

 

 俺がそれ(グリーフシード)があるという事実を認識したのは、もう魔女の結界内(と思われる場所)に入ってしまった後だった。

 まずい。そう思う暇もなく、さやかが、

「ねぇ、なんなの? どうなってんの? てかどこよここ!?」

「うるさい! そう思ってるのは俺も同じだ! ……ったく、取り敢えず出口を探すか」

 一般人では見つからないと分かっているのに、希望的観測がそれを邪魔してくる。

 俺達が結界内を進んでいると、一際大きな鳥籠の中にグリーフシードがあるのが確認できた。

 さやかは未だに混乱した様子で、

「なにこれ? 鳥籠? なんでここに? てか出口は?」

 とブツブツ言っている。俺はこの時初めて、混乱している人間程怖いものは無いと感じることが出来た。

 ここまで考えて俺はふと、

 _____あれ? ほむらはどうしたんだ? 

 という考えに至った。

 そう、まどかLove勢のほむらにしては、なんだか来るのが遅いように感じたのである。

 原作では、着いてきてはいたものの、マミさんのリボンによる拘束を受け、マミるシーンに間に合わず、リボンによる拘束が解けてからお菓子の魔女を討伐していたのだ。

 それなのに、俺が結界最深部の近くにいても、声を掛けるどころか周りに姿さえもない。これに関しては、俺が魔術回路を回しながら周囲を見回ってきたから間違いなんてことは無い。……はずだ。

 一体どうしたんだろうなんてことを考えていると、

 

 ______景色が歪んで、俺たちの存在は消えていった。

 

 俺達がいた場所からワープさせられる際に、聞こえた、

「一般人!? どうしてここに……!?」

 という声で安心してしまった、なんて言ったら不謹慎だろうか? 

 

 

 

 

 突然だが、人は目の前に自身を飲み込まんとせん巨大な口が出てきたらどうするだろうか。答えは人によって様々だろう。

 驚いて座り込む人、後ろに跳ぶ人、いきなりのことに驚いて叫び声をあげる人などなど。

 ただ、俺の場合はこうした。

「ガ、ガンドォ!」

 答えは、【魔術を行使して今まさにマミられんとする魔法少女を助ける】である。

 なんでこんなことになったかを説明するためには、数分前に遡らなければならない。

 

《数分前》

 混乱して座り込んでいる俺達に近付いて来て、話し掛ける女性が一人。

「大丈夫かしら? あなたたち?」

 そう、我らが頼れるマミさんである。しかしこの脳内にて考えているようなことをそのまま伝えてしまうと、《互いに初対面なはずなのに、何故か自分の名前を知っていて、とてもフレンドリーに接してくるやべーやつ》という第一印象になってしまうため、ここは普通の人が行うように、

「えっ!? 人!? それにここは一体……?」

 と戸惑っているような反応を見せておく。

 するとマミさんではなくキュウべえが

「ここは魔女の結界の最深部だよ。マミ! 気をつけて! 来るよ!」

 と質問に端的に答えながらも、マミさんへのサポートも忘れない魔法少女のサポーター(としては)の鏡のような返答。うーんこの。コイツ(インキュベーター)は嘘は吐かないから、サポート能力だけはちゃんと評価できるんだよな……ただ原作における所業のせいでな……

 そんなこと(インキュベーターの批評)を俺がしていることなどつゆ知らず、マミさんはお菓子の魔女との戦いを始めてしまっていた。

 ______今から俺がしようとしていることは、かなりの原作改変だ。もし仮にマミさんを救えたとしても、その後の魔法少女の正体とかについてのメンタルケアが待っている。

 正直言って、ワルプルギスの夜までにマミさんのメンタルケアに当てられるような時間はとても少ない。かと言って、マミさんが居ないと火力要員が減ってしまう。

 ______一体どうすれば……

「ティロ・フィナーレ!」

 マミさんとお菓子の魔女との戦いも終盤に入り、今はマミさんがティロ・フィナーレを打ったところである。

 ______もしかしなくとも、もう時間が無いな? (迷推理)

 まずい……お菓子の魔女の第二形態が出てきた

 

 ______俺は…………

 

 

 

 

 side 巴マミ

 

 始まりは、突然だった。

 魔女の反応を見つけては狩るだけの日々。

 誰かに感謝される訳でもなく、また誰かに褒められるようなことも起きない。

 そんなある日のこと。

 私は病院に魔女の反応を見つけて狩りにいった。

 気性の穏やかな使い魔だったのか、特に苦戦することも無く最深部には辿り着けた。しかし、そこで見つけたのは魔女のいる場所に飛ばされる一般人二人。見滝原の制服を来ていたが、もしかして二年生位だろうか……

 そこまで考えて、くだらない事だと自分の考えを一蹴した。

 ______そう、私は正義の魔法少女。感謝なんていらない。ただ助けられるだけで良い……

 そう自分に言い聞かせるように呟いてから、飛ばされた一般人二人を助けに行った。

 

 二人はどうやら怪我もなく無事のようで、戦う力も持たないのに大したものだと不謹慎にも感心してしまった。

 ただ、ピンクの髪の子から魔力の流れを感じるのが少し気になるが……

 青髪の子は未だにパニックみたいで、ピンク髪の子が落ち着かせていた。

 ピンク髪の子がいるなら大丈夫だろうと、思考を魔女との戦闘に切り替えた。

 魔女自体はとても弱く、とても脚の長い椅子に座っていて、何をするでもなくただ座っていただけであった。この姿が私の油断と慢心を招いてしまっていたのかもしれない。

 

 ______だからであろう、あんなことになったのは。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 私考案の必殺技を当て、リボンで拘束する。こうなったらしばらくは動けないだろう。そう思った矢先、

 

 ______身体が、生えてきた。

 

 そう思っても仕方はない。何故なら、とても可愛く小さかった魔女の口から、黒くて禍々しい、でもどこか憎めない可愛らしさを持ち合わせたフォルム、しかし凶暴性をその身で表していると言わんばかりの大きく鋭い牙。

 そんな化け物のような姿に一瞬で変わった魔女が、その巨体からはとても想像できないようなスピードで、私の眼前に現れ、口を大きく開いている。

 

 ______あ、死んだ。

 

 

 

 

 

 

「ガ、ガンドォ!」

 

 

 

 

 ______え? 

 

 

 side out

 

 

「ガ、ガンドォ!」

 

 ______最早焦りすぎていて、何の魔術を使用したのかなんて分からない。

 

 ______思考は慌てすぎて纏まってい無いのに、身体は全くのいつも通り。普通は逆なのにな、なんて呑気に笑っている自分がいる。

 

 ______行ける。チャンスは自分の魔術(ガンド)で作り出せた。

 

 ______俺は、足に魔力を通し、強化をかけながら、マミさんの所へ駆けていく。その間、コンマ一秒以下。

 

「______間に合え_____!!」

 

 _____未だに呆けているマミさんを左手で突き飛ばし、余った右手でポケットから宝石を出す。

 

 ______思考は全て魔女と自分の体にだけ向けられている。

 

 ______お菓子の魔女は、(侵入者)を見ている。いや、見定めている。

 

 ______そして俺は、右手に強く握り締めた宝石を投げ______

 

「■■■■■ーーー!!!」

 

 ______最早自分がなんと言っているのか分からないが(そもそも人の言葉を話しているのかも分からないが)、咆哮という名の詠唱を行う。

 

 

 

 ______瞬間、物凄い音と光で、俺の意識は闇へと沈んで行った______

 

 

 

 

 結局、俺が起きたのはあれから二時間ほど後で、起きた時にさやかに泣いて抱きつかれるのであった。

 まだ混乱しているだろうからと、巴マミ(この時に初めて名乗った)先輩は俺とさやかと連絡先を交換し、明日にでも説明会を開こうと言ってきた。ちらっと先輩(これからはこう呼ぶことにした)のグリーフシードを見てみたが、濁っている様子はなく、むしろ新品と同じような綺麗な輝きを放っていた。先輩って確かかなりの豆腐メンタルだった気が…イレギュラー()によるバグかな? 

 ______こうして、俺たちの魔女との初邂逅は、静かに終わりを迎えて行ったのであった。

 それにしても…なんか先輩、こっちを見る目が心做しかキラキラしていたような…気のせいか…? 

 

 

 夕方…と呼ぶにはやや遅く、夜…と呼ぶにはまだまだ早い時間帯、俺は遅めの帰路に就いていた。

 薄暗くなっている道を歩いていると後ろから、よく知っている/最近知った 声に呼び止められた。

「鹿目まどか」

「なんだ?」

 そういうと彼女、暁美ほむらはいつかと同じように問い掛けてきた。

「あなたは自分の人生を、ちゃんと自分のものだと認識できている? 本当に鹿目まどかを、自分自身だと認識している?」

 ______前は、答えられなかった。でも、今はこの質問に対する答えは一つだけだ。

 俺は、あの時のほむらと同じように振り返り、力強くこう言った。

 

「______当たり前だろ、馬鹿野郎______」

 

 この答えをほむらが聞いた時には、もうそこにほむらはいなかった。

「______ありがとう…」

 ______だが、確かに彼女には、届いていたような気がした。

 




【次回予告】

ナレーション:巴マミ(cv:水橋かおり)

お菓子の魔女を倒し、巴マミを助けた鹿目まどか。
鹿目まどかはその次の日、彼女の家に招かれ、魔法少女についての説明を、美樹さやかと共に受けることとなる――

「キュウべえに選ばれたあなたたちは、どんな願いでもかなえられるチャンスがある。でもそれは、死と隣り合わせなの」

次回、第四話
『説明会、そして日常』

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