___俺は今、夢を見ている。
___
___「ティロ・フィナーレ!!!」
___思い起こされるのは、力強い先輩の声と、それに呼応するかのように姿を変えた魔女。
___そして魔女は、先輩を喰らおうとし――――
ピピピピ、ピピピピ。
現実へと、移動した。
なんか朝から厨二臭いような夢を見ていたな、なんて思いながら眠気の残る体を引きずって一回のリビングへと向かう。
休日であるにも関わらず平日と変わらないような時間に起きた俺に対し、父さんは、
「どうしたんだい? まどか。珍しく早起きじゃないか。今日は土曜日だよ」
なんて抜かしてきやがる。失礼な。俺だってたまには早起きの一つや二つぐらいあったとしてもよいのではなかろうか。ただ、そんなことを面と向かって言う訳にもいかないので、
「今日は先輩の家にさやかとお邪魔する予定だからさ、早めに起きておいたんだ」
なんて適当に答えておいた。すると父さんは、
「そうか、じゃあ楽しんでおいで」
「分かってる。……っと、それじゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
「それじゃあ改めて自己紹介ね。私、巴マミ。あなたたちと同じ、見滝原中の三年生。そして、キュウべえと契約した、魔法少女よ」
「んじゃ俺も。鹿目まどか、中学二年生。んでこっちが……」
「あ、えっと……美樹さやかです! まどかと同じ、中学二年!」
「
「はい、よろしくおねがいします!」
「よろしくおn……いやなんで俺だけ名前呼び……?」
そんなことされるような出来事はなかったと思うが……
「嫌……だった……?」
「」
いや逆にその上目遣い+涙目をヤメロォ! (建前)ナイスゥ! (本音)
「えっと……ダメ……?」
「いや全然そんなことないですしむしろ役得だとも思ってます(いえ……全然そんなことないですよ? 名前の呼び方って人それぞれですし)」
「まどか……」
なんださやかその目は、俺に精神的ダメージが入るからやめてくれ。
「ごほん……それじゃあそろそろ家に入りましょう?」
「「あっ……」」
ここ……マンションのロビーでしたね……
「うわー、きれいなお部屋……」
「マンションにしては結構広いな……」
「一人暮らしだから、遠慮はしなくていいのよ」
なんてやり取りをリビングの入り口で挟みながら、現在俺たちは先輩の淹れた紅茶を飲みながらまったり(会話の内容はそうでもないが)とお話ししている。
「キュウべえに選ばれた以上は、あなたたちにとっても他人事じゃないものね……ある程度の説明は必要だと思って……」
「うんうん、何でも聞いてくれたまえ?」
「さやか、ふつう逆だろ……それ……」
「うふふ……」
俺たちのことを微笑ましいものを見るように見ていた先輩が、一言言って取り出したのは、きれいなオレンジ色に光る、卵型の宝石。
「これがソウルジェム。キュウべえに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石よ。魔力の源でもあり、魔法少女であることの証でもあるの」
いいえ、あなたたちの魂です。
「Q,契約って?」
A,あぁ!
なんだ今の。
「僕は、君たちの願い事を何でも一つ叶えてあげる」
そんなところにいたのか、気付かなかったぞ。
「えっ、本当!?」
「うん、まぁ叶えられる願いも素質によるけどね。君たちぐらいの年齢の女の子なら、大抵のことを叶えられるほどの素質は持っているはずだよ」
「ほぉぉ……金銀財宝とか、不老不死とか、満漢全席とか……!!」
「最後のは絶対違う」
「……でも、それと引き換えにできるのがソウルジェム。この石を手にしたものは、魔女と戦う使命を課されるんだ」
___『魔女』……その言葉が出た途端、部屋の空気が少し重くなったような気がした。
「魔女……それって何なの? 魔法少女とは違うの?」
そう聞くのはさやか。正体を知っている俺が説明をするとしたら、
【魔法少女の成れの果てであり、周囲に絶望をまき散らす存在】
ということになるだろう。しかし
【願いから生まれるのを魔法少女とするならば、魔女とは呪いから生まれた存在であり、絶望を周囲にまき散らす、姿の見えない悪意の塊のようなもの】
と説明するだろう。実際コイツもこれと似たような説明をしたし、先輩の補足説明もあってさやかは完全に納得してしまっている。
「でも……そんなヤバい奴がいるのに、どうして誰も気付かないの?」
「魔女は常に結界の奥に隠れ潜んで、決して人前には姿を現さないからなんだ。昨日君たちの迷い込んだ、お菓子の病院のような場所がそうだよ」
「昨日はごめんなさいね。でも、結構危ないところだったのよ、私も、あなたたちも。普通の人間は、あれに飲み込まれてしまったら、帰れなくなってしまうもの。それに私も、まどかさんが居なければあと少しのところで死んでしまっていたもの」
「あんなかっこよかったマミさんでもそこまで言うなんて……マミさんはそんな危ないものと戦っていたんですか? てゆーかまどかも、そんな力があるなら教えてくれてもよかったのに……」
おいさやか。言わないと思って油断してたんだぞこっちは。
「そう、命がけよ。だからあなたたちも、慎重に選んだほうがいいわ。キュウべえに選ばれたあなたたちは、どんな願いでもかなえられるチャンスがある。でもそれは、死と隣り合わせなの」
そうだ。これは、女の子たちが願いを叶えて、人々のために絶望と戦うようなキラキラとしたものではなく、つねに『死』という存在が身近にあるからこそ、人間の中の一面がみられる、ドロドロとした血なまぐさい戦いが付きまとってくるアニメなのだ。
そんなことを思考していると話題を変えるかのように先輩から、
「ところでまどかさん、今度はあなたのことを教えてほしいのだけれど」
__俺、この先の質問攻め、生き残れるかなぁ…
巴マミとキュウべえの説明を通じて、改めて原作知識を持つ者と持たない者の感じ方の差を見せつけられることになった鹿目まどか。
そして、鹿目まどかは2人に、『魔術』と『魔法』について説明をする事となる――
「魔術と魔法っていうのは、似ているようで違うものなんだよ」
次回、第五話