ダンジョンに火を見出すのは間違っているだろうか?   作:捻くれたハグルマ

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 ベルのバックパック

 ベル・クラネルがいつも背負っているバックパック

 その中には 主に弁当箱が入れられている

 小さいと思って油断することなかれ

 バックパックには 案外大きなものが入れられる

 夢と希望も その一つだ


第十三話 パニックとサポーター

 

 「つまり、魔法は必ずしも勝利を約束するものというわけではない。

 火力を頼りにするものが多いが、大切なのは使いどころだ。」

 

 「なるほど……。確かに、私は魔法に破壊力ばかり求めていたように感じます。

 反省せねばなりませんね。」

 

 「勉強熱心なのは良いことだ。さぁ、次は魔法戦士としての在り方について教えてやろう。」

 

 アルはリヴェリアの魔法講座を熱心に聞いていた。

 エイナのダンジョン講座も難なくクリアしていたアルにとっては、勉強は苦痛ではなかった。

 むしろ、尊敬するリヴェリアに教えてもらっていることもあって、気合が入っている。

 

 「魔法戦士に必要な技術は並行詠唱だが……。聞いている限りでは、できていそうだな。」

 

 「えぇ、使おうとすると出せます。あまり深く考えなくても使えます。」

 

 「多くの魔導士が羨ましがるだろうな。大抵の魔導士は魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を恐れて動きながら詠唱することが出来ない。その時点でお前には戦術の幅がある。

 上手く使えば火力が低くても相手を出し抜ける。人相手では勝手が違うが、モンスター相手なら少し距離が離れたらすぐに撃つ程度でも構わないぞ。」

 

 「どうしてですか?」

 

 「モンスター相手に駆け引きをしても無駄なだけだ。出来るだけ消耗させ続ける方がいい。人相手の場合だと、魔法で出鼻をくじき、相手に意識させてやると戦いのペースが握れるだろう。

 もっとも手練れ相手だと使い物にならなくなることもある。過信しすぎることのないように。」

 

 「分かりました。油断せず、慢心せず、常に冷静に戦います。」

 

 「そうだ、それでいい。ふふ、なかなか飲み込みが早いじゃないか。偉いぞ。」

 

 リヴェリアは完全に母親や先生気分になっていて、アルの頭を腕を目いっぱい伸ばして撫でた。

 アルは、リヴェリアに母親としての側面と優しい女性としての側面とを見出し、その袖口から漂う清潔で香しい香りを感じ取ってしまい顔を赤くした。

 リヴェリアも他所のファミリアの冒険者ということを忘れて、男の頭を撫でてしまったことに少し動転する。

 

 「ま、まぁともかく魔法は精神の修練によってより強力になる。

 本をよく読み暇があれば座禅を組むといい。」

 

 「は、はい!ありがとうございます!」

 

 「そ、そうだ。もう夕方だ。そろそろ出るとしようか。食事の代金はこちらで出そう。」

 

 「いけません。自分の食事代程度、自分で出します。

 もう何度も貴方のご厚意に甘えている。私だって冒険者の端くれ、出させてください。」

 

 「そういうのはもっとレベルがアップしてから言え。ふふ、悔しかったら頑張るんだな。」

 

 アルはいつかこの人に一食をごちそう出来る様になろうと心の中で情熱を燃え上らせた。

 もっともリヴェリアは仮にも王族、並大抵の料理ではごちそうとは言えない。

 早くレベルアップして大金を稼いでやろうと、外していた兜を被って改めて決意するのであった。

 

 「あら、二人とももう帰っちゃうのねぇ。残念。また来て頂戴ね。」

 

 カフェの店主はにやにやと笑いながら、店を出ていく二人を見送った。

 

 店を出て、二人で連れ立って歩いていると、アルは多くの視線を感じ取った。

 そのどれもがエルフからのものであるということに、アルはすぐに気が付いた。

 

 「分かるか?これが王族であるということだ。」

 

 「これでは気が休まりませんね。リヴェリア…さんは今は冒険者ですから、自由な時間を楽しむべきです。」

 

 「さっきは高貴だなんだと言っていたのに意外だな。」

 

 「それは貴方のお人柄の話です。私は貴方が王族であるから敬意を払っているのではありません。貴方が貴方であるから敬意を払っているのですよ。」

 

 「そ、そうか……。そうか……。」

 

 リヴェリアはそれっきり黙って少しうつむきながら歩き始めた。

 アルは、何か失礼なことを言っただろうかと今までの言動を顧みながらリヴェリアのそばを歩いた。

 周囲のエルフたちはリヴェリアが男を連れて歩いている様子に驚いたり、アルに対してぼそぼそと罵倒を浴びせかけたりと、遠慮のない噂話をしている。

 しかし、そんな中である市民たちが話している内容がアルの耳に入り込んだ。

 

 「いやぁ、しっかし見たか?冒険者が街中で剣を抜いてパルゥムの小娘を追いかけまわしていたの。」

 

 「あぁ見た見た。どうせしょうもない諍いさ。おっかねぇ。関わらない方がいい。」

 

 アルはすぐさまその話をする二人のもとに詰め寄った。

 

 「失礼、ご両人。そのパルゥムの少女を追っていたという冒険者はどこに?」

 

 「あ、あぁそこの裏路地を曲がってまっすぐ行ったよ……。」

 

 「感謝する。」

 

 そういって、アルはその裏路地に面する屋根に飛び乗った。

 リヴェリアも惚けるのをやめて、アルを追いかける。

 

 「おい、待て。どうして関わろうとする?!」

 

 「もし私がその少女であれば、きっと助けを求めている。私は騎士を目指しています。

 助けを呼ぶ声なき声を聞き逃してはいけないのです!リヴェリアさんはここでお待ちください。

 貴方を巻き込む訳にはまいりません。今日はありがとうございました!」

 

 そうしてリヴェリアの制止を聞くことなく、アルはひょいひょいと屋根を飛んでいく。

 助けを求める人のために、正しきことのために、騎士らしくあるために、アルはどこまでも無鉄砲になれるのだ。

 リヴェリアは声での制止を諦めて、アルを追いかけ始めた。

 普段なら絶対にしないであろう屋根を伝うという行為を遠慮なく行っているあたり、かなり本気で止めようとしている。

 

 しかし、リヴェリアが追いつくよりも早く、アルの目的は叶った。

 眼下には地面に倒れ伏すパルゥムにそれをかばっているどこか見覚えのある冒険者、その二人に対して剣を向けている冒険者がいる。

 アルは問答無用でその間に飛び降りた。

 

 「今度はなんだぁ?!てめぇは?!」

 

 「貴公に名乗る名は持ち合わせていない!それよりも街中で剣を抜くとは何事か!」

 

 アルが盾だけを構えて二人をかばうように立つと、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 「アル?!どうしてこんなところに?!」

 

 「その声はベルか!よくわからんが、トラブルのようだな!」

 

 「何くっちゃべってんだコラ!」

 

 冒険者が剣を向けて切りつけようとしているところに、二人のエルフが現れた。

 一人は冒険者御用達の酒場の従業員の服に身を包み、もう一人は都市最強の魔導士として知られている。

 

 「そこまでにしておきなさい。私は……いつもやりすぎてしまう。」

 

 「はぁ……。悪いことは言わん。今なら見逃してやる。おとなしく家に帰れ。」

 

 「なっ、九魔姫(ナインヘル)……!ちっ!」

 

 冒険者が去って、ベルとアルが声の主たちを見ると、一方のエルフがかんかんに怒っていた。

 

 「リューさんと……リヴェリアさん?どうしてこんなところに?」

 

 「アルトリウス……!そこに直れ!」

 

 ベルの疑問はあっけなくスルーされたあげく、リヴェリアの発する怒気に飲まれてアルはそこに跪いた。

 

 「なぜ、自分からトラブルに首を突っ込む!この馬鹿者!あれがお前より強いものであったらどうするつもりだったんだ!全く、後先考えずに突っ込むやつだ!少しは頭を使え、周りに頼れ!

 騎士らしくありたい、大いに結構。しかしな、オラリオでは少しの隙が大きなトラブルの呼び水になる。それで痛い目を見たものを私は大勢見てきた。」

 

 「……申し訳ありませんでした。」

 

 「よろしい。しっかりと反省するように。」

 

 「はい……。」

 

 アルはすっかりしゅんとしてしまう。

 せっかく褒められたりしていたのに、怒られてしまったからだ。

 もっともリヴェリアの言うことも正しいのだ。

 オラリオにおいて、トラブルに首を突っ込んでもいいことは一つもない。

 助けてもらった恩義は踏み倒し、弱った相手からふんだくる。

 それがオラリオの残酷な一面なのだ。

 

 「……だが、正しいことをなそうとしたのは偉かったぞ。」

 

 「ありがとうございます!」

 

 しかし、だからといって人として正しくあろうとすることが間違っているわけでもない。

 リヴェリアは叱りつけるところは叱りつけ、褒めるべきところはちゃんと褒める。

 アルはリヴェリアに褒められたことでまた気分が高揚した。

 ベルはこの時、アルが尻尾を力強く振っている幻覚を見た。

 

 「知り合いと会えたようだし、私はここでお別れだ。」

 

 「アル、リヴェリアさんと会ってたんだ……!」

 

 「幸運なことにな。本当に今日はありがとうございました。

 またお会い出来たらうれしいです。」

 

 「あぁ、それではな。」

 

 リヴェリアが立ち去った後に、リューが二人に声をかけた。

 

 「まさか、アルトリウスさんがあの九魔姫と一緒にいたとは思いませんでした。しかし、彼女の言う通りだ。お二人がケガをすればシルが悲しみます。トラブルには気を付けてください。」

 

 「あっ、はい!ありがとうございました!」

 

 「深く御礼を申し上げます、リオン殿。」

 

 「では私もこれで。」

 

 そうして、リューも立ち去って、二人はあたりを見渡した。

 そこにはもうあるはずの人影がなく、アルとベルの二人だけであった。

 

 「あの女の子、怖くて逃げだしちゃったのかなぁ……。」

 

 「さてな。まぁすぐに逃げられる体力が残っているのであれば手傷も負ってはいないだろう。

 それでいいではないか。」

 

 「そうだね!アルは今日どんな風に過ごしたか教えてよ!」

 

 「あぁ、帰りながら聞かせてやろう。その代り、ベルのデートの内容も聞かせてくれよ?」

 

 「で、デートだなんて、へへ……。じゃあアルからね!」

 

 「そうだなぁ。まずはな……。」

 

 こうして、二人は今日の楽しい思い出を語り合いながら帰路に就いた。

 そしてその晩二人の土産話を聞いた彼らの主神は、嫉妬と悔しさで大騒ぎすることになったのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アルとベルがヘスティアを必死になだめているころ、リヴェリアは内心に今までにない衝動を感じて、心ここにあらずという風であった。

 理由はもちろんアルのことである。

 人を思いやり、自分を律し、騎士らしくあろうとする実直な青年のことが気になって仕方がないのである。

 リヴェリアに敬意を払っているただの青年では、こうもリヴェリアの心をかき乱したりはしない。

 なぜなら彼女は王族だからだ。敬意を身に引き受けるのは慣れている。

 しかし、アルはリヴェリアを王族としてではなくリヴェリア・リヨス・アールヴとしてみているというではないか。

 そうとあっては言動の一つ一つが気になってしまう。

 生徒としては素直でいて真面目で、教え甲斐がある。

 冒険者としては見どころがあってその成長を期待してしまう。

 年下の子供としては、普段は自身に向けて尻尾を振ってなついてくる犬のようであるのに、こうと決めたことは力強く押し通そうとするところが手がかかって、むしろ可愛らしいまである。

 そして、男性としては、自分を下世話な目でも色眼鏡でも見ず、ただただ優しさと敬意を向けてくるところが妙に気に入ってしまう。

 とにもかくにもリヴェリアは周りが一切見えていなかったのだ。

 

 「リヴェリア~、新しい本買ったんでしょ~?読ませてよ~!」

 

 「あぁ、そうだな。」

 

 「リヴェリア……。今日はどこに行ったの……?」

 

 「あぁ、そうだな。」

 

 「のぉ、リヴェリア。酒代を増やしてもよいじゃろう?」

 

 「あぁ、そうだな。」

 

 完全にぶっ壊れていた。

 ティオナが話しかけても、アイズが話しかけても、ガレスが普段なら間髪入れずダメ出しを食らう提案をしても全く耳に入らない。

 彼女はハッキリ言って男女関係についてはずぶの素人だ。

 王族としての責務、エルフとしての貞淑さ、副団長としての立場、今までの環境の全てが彼女を色恋沙汰から遠ざけてきたのだ。

 思考のキャパシティを圧迫しないはずがない。

 

 「リヴェリアが……、変……!」

 

 「ねぇ、これ絶対ヤバいよ!ガレスなんかしたの?!」

 

 「しとらんわい!」

 

 三人の幹部がリヴェリアから少し離れたところでこそこそと相談していると、ロキがやってきた。

 片手には酒瓶を持っていて酒のにおいを身にまとっている。

 

 「なに話しとんの?おもろい話?」

 

 「ねぇねぇロキ大変!リヴェリアが心ここにあらずでぜんっぜん話聞こえてないの!」

 

 「ほ~ん。そういうんはな……大方男絡みって相場が決まっとんねん!」

 

 「あの堅物エルフにそういうのはないじゃろう……。」

 

 ロキも冗談で言っているのだ。

 リヴェリアに男の悩みなどあるはずがない。

 リヴェリアはあの九魔姫、エルフの王族なのだ。

 きっとすぐにツッコミを入れてくるはずだ、そう信じきってロキはリヴェリアに爆弾を投下してしまったのだ。

 

 「なーなーリヴェリア~。どしたん?気になる男でもできたんか~?」

 

 「ちっ、違う!気になってなどいない!気になっているはずがない!」

 

 クロだ。

 リヴェリアは完全に墓穴を掘ってしまった。

 いつもなら「酒の飲みすぎだ。面白くもない冗談は言うな。」とか冷たい一言を投げかけているはずなのだ。

 慌てふためいて否定する様子は、誰かが気にかかっているという決定的な裏付けとなる。

 そして何よりも、ロキはリヴェリアが嘘をついていることが理解できる。

 ロキはこの時ほど神としての力を恨んだことはなかった。知りたくない事実は知らないままの方がよかった。

 

 「うぎゃぁ~!リヴェリアがどこぞの馬の骨を気に入りおった~!嘘やぁー!!」

 

 ロキが泣きながらジタバタと床を転げまわり、受け入れがたい事実を叫ぶ。

 その声は黄昏の館に響き渡り、ロキ・ファミリア内のエルフたちに動揺が走る。

 それだけではない。男共も動転していた。あのおっかないババアに色恋だなんて信じられないと、ベートですら階段を踏み外した。

 そこにタイミングがいいのか悪いのか、レフィーヤが駆け込んでくる。

 

 「リヴェリア様!いったいどういうことですか?!あの破廉恥な大男と連れ立って街を歩いているところを見たという噂が立っているんです!」

 

 「あっ、あの、それはだな……。」

 

 「あいつかぁ!あいつがウチのリヴェリアママをたぶらかしたんやなぁ!」

 

 「その、違うんだ、話を……。」

 

 「リヴェリア様、本当にどういう事なんですか!説明してください!」

 

 「リヴェリア、恋なの?!愛なの?!」

 

 「リヴェリア……、あの大きい子が気になるの……?」

 

 リヴェリアはもう耐えられなくなっていた。

 背中から聞こえる声を振り切って、自分の部屋に駆け込んだ。

 しっかりと鍵をかけ、窓も閉めてカーテンも隙間が出来ないようにぴっちりと閉じた。

 そうして、彼女は人生で初めてふて寝した。

 彼女は幸か不幸か、やけくそになって寝て過ごすという未知を体験することが出来たのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 リヴェリアがどんな気持ちで夜を過ごしたかなど知りもせず、アルは心地よい朝を迎えていた。

 そばにはピカピカで特徴的な赤いラインの入った軽装鎧を着たベルが立っている。

 

 「へへ……。どうかな?」

 

 「よく似合っているとも。これで、ベルもより冒険者らしくなったな!」

 

 「うん、これでもっと先に行けるよ!そうだ、エイナさんからアルへの贈り物があるんだよ。」

 

 「何、贈り物とな。一体何なのだ?」

 

 ベルが鎧の入っていた袋をがさごそと漁り、包みを取り出した。

 その口を開くと、刃渡りが20セルチから30セルチの特徴的な形の刀身をしたナイフが出てきた。

 

 「じゃーん、ククリナイフ!アルって大きい武器しか持ってないから、モンスターに近づかれた時が大変だろうからって。」

 

 「おぉ、流石はエイナ殿。よくわかっていらっしゃることだ。」

 

 「それでね、エイナさんが言ってた。僕らが死んじゃったら悲しいって。

 だからさ、アル。頑張ろうね!」

 

 「あぁ、勿論だとも。さぁ行くとするか。」

 

 アルとベルは手早く自身の武具と防具、ポーチやバックパックを確認して、出発の準備を整えた。

 残された使命は、主神への挨拶だけだ。

 

 「行ってきます!カミサマ!」「行って参ります。ヘスティア様。」

 

 「う~ん、いってらっしゃい……。」

 

 主神が寝ぼけながらなんとか答えてくれて、二人は顔を見合わせて微笑んだ。

 今日も扉を開けて外に出れば冒険が始まる。

 

 二人は、一度豊穣の女主人に立ち寄って弁当を受け取り、ダンジョンを目指していた。

 大勢の冒険者が二人と同様にダンジョンを目指している。

 そして、その中には大きなバックパックを背負っている者たちもいた。

 それを見て、ベルは昨日のエイナの提案を思い出していた。

 

 「あっ、そうだ。アル、昨日エイナさんがね、サポーターを雇ったらどうだって言ってた。」

 

 「ふむ、サポーターか……。魔石の回収などの作業をより大人数で行えるようになれば、稼ぎも増えそうではあるなぁ。」

 

 「アル、たまに魔石潰しちゃってるしね。大剣しか持ってないから……。」

 

 「その損失の事は考えないようにしているのだ、ベルよ……。」

 

 二人ともが、サポーターを雇うことに前向きになっている時に、ベルの頭よりさらに下の方から声をかけるものが現れた。

 

 「そこのお兄さん達、白い髪と大きな背丈のお兄さん達!突然ですが、サポーターをお探しではありませんか?」

 

 「えっと……僕たちの事……?」

 

 「うぅむ、我らで間違いないようだが……。」

 

 アルもベルも声をかけられたことに混乱していると、フードを目深にかぶった少女は続ける。

 

 「混乱してるんですか?けど、今の状況は簡単ですよ!冒険者さんたちのおこぼれに預かりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです!」

 

 ベルは、そのサポーターの少女が、昨日庇ったパルゥムの女の子ではないかと思った。

 アルはその姿をしっかりと見たわけではないから気付きようがなかったが、ベルは背格好や面影がどこか似ていると感じたのだ。

 

 「というか、君は昨日のパルゥムの女の子だよね……?」

 

 「パルゥム……?リリは獣人、犬人(シアンスロープ)ですが?」

 

 リリという少女がローブのフードをぱさりと取ると、そこには立派な耳が生えている。

 ベルはその耳が気になって、もふもふと手で触り始めた。

 

 「本当だ……。パルゥムじゃない……?」

 

 「ふぇぇ、お、お兄さん……!」

 

 「こら、やめないかベル。失礼した、お嬢さん。」

 

 くすぐったそうにする少女の様子を見て、アルがすぐにベルの手を耳から離した。

 ベルもすぐに自分が勝手に女の子の耳を触ってしまったことに気づき、謝る。

 

 「あ、えっと、ごめん!つい!人違いだったみたい!」

 

 とにかく、二人と少女は人混みから離れて、噴水に腰掛けることにした。

 そうして、サポーターとの契約についての話が始まったのだ。

 

 「それで、リリルカさんはどうして僕たちに声をかけてくれたの?」

 

 「先ほどサポーターのことをお話になっていたのを小耳にはさみまして、それに、冒険者さん自らバックパックやポーチを持っていらっしゃるので……。」

 

 「なるほど、それなら商売時だと判断するに足るだろうな。」

 

 アルはリリルカ・アーデなる少女に相槌を打った。

 アルは商業の知識が多少ある。ゆえに、売り込み時というのも理解している。

 リリの行動はごく自然なものだと、アルは納得した。

 

 「それでどうですか?サポーターはいりませんか?」

 

 「えっと、それが……出来るなら欲しいかなとちょうど思っていたところでね。」

 

 「あぁ、その通りだ。特に私が魔石回収に難を抱えているのでな……。」

 

 「なら是非リリを連れて行ってください!リリは貧乏で、手持ちのお金も心もとなくて……。

 それに男性の方にリリの大事なものをあんなにされるなんて……。

 責任を取ってもらいませんとね。」

 

 リリは顔を赤らめながら、そっと自身の耳を撫でた。

 アルは、これは雇ってやらねば筋が通らないと意を決した。

 勝手に触ったりしたベルの手落ちだ。

 

 「私は彼女を雇う形でよいと思うぞ、ベル。」

 

 「えっと……それじゃあよろしくお願いします。」

 

 「ありがとうございます!」

 

 こうして、二人のパーティーに新しい仲間が加わった。

 彼女が何を心のうちに抱えているのかも知らずに、二人はただただリリを信用し、ダンジョンに赴くのであった。





 アルのポーチ

 アルが腰元にいつも着けているポーチ

 いつもは弁当箱と大きい銭袋が入っている

 懐に入れられないものは すべて詰めてしまえば事足りる

 あまりに大きなものは 持ち前の力でねじ込むのだ

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