ダンジョンに火を見出すのは間違っているだろうか?   作:捻くれたハグルマ

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 ミノタウロスの赫い片角

 ベル・クラネルが倒した 片角のミノタウロスが遺した赫い角

 それは暗がりの中で ぼんやりと輝く

 かつて灰は勝利の証として ソウルを得た

 英雄に至ろうとする少年が得たそれも ソウルに等しい価値を持つ

 始まりの熱き闘争を その角は思い起こさせるだろう


第二十三話 新たなる仲間

 

 「【発展途上の英雄(ア・リトル・ヒーロー)】に【灰狼騎士(ウルフェン・リッター)】ですか。」

 

 「どう思う、リリ?」

 

 「私としてはいい名を頂けたと思うんだが……。」

 

 「そうですねぇ。お二人らしくていいと思いますよ!」

 

 アル、ベル、リリの三人は豊穣の女主人にて談笑していた。

 ささやかではあるが、二人のランクアップの祝賀会といったところだ。

 早速【二つ名】について話すと、リリからも高い評価が得られて二人は喜色満面であった。ベルは頬が完全に緩み切っているし、アルは体が左右にブンブン振れている。

 

 「そうだろう、そうだろう!」

 

 「だよね、だよね!カミサマのおかげだよ!」

 

 「今日ばっかりはヘスティア様を評価しなくてはいけませんねぇ……。」

 

 リリは、強大な恋敵の活躍をぼやいた。

 もともとヘスティアが嫌いなわけではなく、むしろ深い恩義を感じているわけだが恋愛が絡むと人は得てして狭量になる。

 しかし、リリはヘスティアの頑張りを素直に評価してあげられるくらいには恋愛に対して冷静かつ真剣に向き合えた。

 どこぞの恋愛狂いの女神にも見習ってほしいぐらいには、よくできた娘であった。

 

 「本当にいい名前じゃないですか!私は好きですよ!」

 

 「ランクアップおめでとうございます、クラネルさん、アルトリウスさん。」

 

 そこに、シルとリューが料理や飲み物を盆にのせてやってきた。

 三人の稼ぎにしてはそれなりに豪勢なものだ。

 

 「今日はたくさんお飲みになってくださいね!お二人の祝賀会なんですから!」

 

 「……儲ける細工は流々ですかな、シル殿?」

 

 「ふふっ!」

 

 「シルさん?!ちゃんと答えてくれませんか?!」

 

 シルが何も言わずにただ笑うのを見て、リリはうわぁとぽつりと言い、ベルは動転した。特にリリはシルの恐ろしい側面を見たことがあるためなんとも言えない表情をしていた。アルがそっと自分の財布の中身を気にしていると、周囲から視線が向けられていることに気が付いた。

 

 「なぁ、あれが……。」

 

 「あぁ、間違いねぇ。世界最速コンビだ。」

 

 「俺ぁあの二人好きだぜ?ロキ・ファミリアに啖呵切ったとこ見たからなぁ。」

 

 「馬鹿、恥ずかしくねぇんか。こちとら大先輩なんだぞ!」

 

 そこかしこから二人をねたむ声、あるいは応援する声がかすかに聞こえてきた。

 それが良いものにしろ悪いものにしろ、二人が注目されているということは確かであった。

 

 「もしかして、僕たちの話……?」

 

 「えぇ、名を上げた冒険者の宿命みたいなものです。」

 

 リリは淡々とそう告げた。

 リリにとっては、二人が並みの冒険者とは比べ物にならない器を持っていることは当然の事実だ。むしろ他の冒険者が注目する理由がないとすら思っていた。

 

 しかし、あまり自己評価が高くないベルは、注目される恥ずかしさと緊張からか顔を赤らめる。そんなベルのそばにシルがそっと座った。

 

 「人気者になったと思えばいいんですよ。

 ほら、アルさんだってこんなに落ち着いているんですから。」

 

 「意識してしまうから緊張するんだ。

 祝賀会のことだけに集中すると楽になるぞ?」

 

 アルは、盆の上のものをいつの間にか座っていたリューも含めて五人分に分けて配っていた。リリはアルからドリンクを受け取ってから、じぃっとリューを見つめた。

 

 「あれ、お二人はここにいていいんですかぁ?」

 

 「私たちを貸してやるから存分にやれ、そして金を使え、とミア母さんが。」

 

 アルがひょいとミアに視線を移すと、ミアは得意顔であった。

 実に商売根性がたくましい女将だとアルは感嘆した。

 アルとしては二人がいなかったとしても普段世話になっている分多めにお金を落としていこうと考えていた。しかし、こうもお膳立てされてしまっては派手にやるしかないだろうと腹をくくることにしたのであった。

 

 「ベル、貴公が音頭を取ってくれ。遠慮なくいこう。」

 

 「それじゃぁ……、乾杯!」

 

 「「「「「乾杯!」」」」」

 

 五つのグラスが甲高い音を立ててぶつかった。

 祝宴の始まりである。

 

 「では、皆さんはこれからダンジョンの中層に向かうおつもりなのですね?」

 

 「はい、まぁ。勿論調子を見ながらですけど……。」

 

 「無茶はしない。そういう約束なのですよ、リオン殿。」

 

 リューは静かに三人の今後の目標を聞いた。

 功を焦って無理をしないという判断を評価したうえで、冷静なアドバイスを三人に対して贈った。

 

 「差し出がましいようですが、13階層から先に潜るのはまだやめておいた方がいい。」

 

 「なっ?!ベル様達では中層に太刀打ちできないとお考えなのですか?!

 最近はリリだって暗器の使い方とか、物を投げる練習とか、いっぱい頑張ってるんですよ?!」

 

 「おぉ、素晴らしいじゃないか、リリ。」

 

 「うぇへへ……。ってちがーう!!」

 

 リリが頑張っていると聞いて、アルは思わず頭を撫でた。

 いつも頑張り屋さんのリリが更に頑張っていると聞いて嬉しくなってしまったのだ。

 リリもアルの大きな手の感触を堪能し、思わず安心感に包まれるもののすぐに元の怒りを取り戻した。

 二人が騒いでる間も、リューは冷静だった。

 

 「何も皆さんの力が足りていないとは言いません。

 しかし、上層と中層では文字通り桁違いです。

 モンスターの強さも、数も、出現頻度も。

 あなた達は能力の問題ではなく数の問題に直面することになります。

 もっと仲間を増やすべきだ。」

 

 「でも、肝心の仲間になってくれそうな人が……。」

 

 「都合よくいるはずもないというのが実情……。」

 

 ベルが顎をさすり、アルは腕を組んでうーむうーむと考え込むそぶりを見せると、待ってましたとばかりに冒険者が席を立った。

 虎視眈々と、勝ち馬に狙いを澄ましていたのだ。

 両手を上げてさも友好的であることをアピールするかのようにして、一歩ずつ近づいてくる。

 

 「パーティーのことでお困りかぁ、【発展途上の英雄(ア・リトル・ヒーロー)】?」

 

 「ほぇ?」

 

 「仲間が欲しいなら、俺達のパーティーに入れてやってもいいぜぇ?

 俺達ぁレベル2だ。中層にだっていける。

 その代わりと言っちゃあなんだが……この別嬪の姉ちゃん達さ、貸してくれや。」

 

 声をかけてきた顔に傷のある冒険者は、絵にかいたような冒険者であった。

 先輩風を吹かし、女に目がなく、稼ぎ時に敏感な、そんな冒険者であった。

 だからこそアルを不快にさせるには十分だった。

 

 「断る。彼女たちは我らの所有物などではない。

 女性をそういう目でしか見れないような輩はお断りだ。

 ベル、それで構わんな?」

 

 「うん。僕もアルに賛成する。」

 

 傷面の冒険者は一瞬たじろいだ。

 アルの深い緋色の目の奥に、街を焼き尽くすような劫火を見たような気がしたからだ。

 それだけでなく、先ほどまで甘ちゃん丸出しだったベルの面構えが、きりりと男らしいものに一瞬で変貌したからでもあった。

 

 「へ、へへ。けどよ、そっちの嬢ちゃんたちはどうなんでい?

 なぁ妖精さんよ。こんなカスみたいな奴等より俺達のほうがいい思い出来ると思わねぇか?」

 

 へらへらと笑みを浮かべながら、冒険者がリューに向かって手を伸ばした瞬間、リューはグラスの取っ手を用いてその腕をひねり上げていた。

 あまりの技巧にその瞬間を見ていた冒険者は、度肝を抜かれてしまった。

 伸ばした指にグラスの取っ手を正確に通し、そこから関節を決める方向に一切の躊躇なくねじりこむ技量は、尋常ではなかった。

 それもレベル2の冒険者を痛みにうずくまらせる威力なのだからなおさらである。

 

 「触れるな、下郎!

 私の友人を蔑むことは許さない!」

 

 「このアマ……!痛い目見せてやるっ!」

 

 「不味いっ!」

 

 リューが小太刀をどこからともなく抜き放った時点で、アルは間に割って入った。

 流石に刃傷沙汰になっては大ごとだと思ったのだ。

 それに、アルはリューが恐るべき実力者であることをなんとなくソウルで感じ取っていた。

 それこそ、目の前の冒険者が見るも無残な姿で豊穣の女主人から放り出されてもおかしくないと判断するくらい、リューは強いと感じていたのだ。

 

 しかし、その心配は杞憂であった。

 カウンターの方から、ドグシャァと轟音が鳴ったからであった。

 客たちが恐る恐るそちらに目線を送ると、拳で木製のカウンターを粉砕しているミアがいた。

 百人いたら百人がこう答えるだろう。

 あれは確実にヤバいと。

 

 「アンタら……!ここは飯を食って酒を飲む場所さ!!

 摘まみだされたいのかい!!」

 

 「お、おい!行くぞ!」

 

 「アホタレ!ツケ払いなんか許さないよ!!」

 

 「はっ、はいぃぃ!!」

 

 ミアの圧倒的な気迫を前に、冒険者は仲間を引き連れて足早に立ち去っていった。

 リューはいつの間にかしれっと座っていたが、アルとベルは震えていた。

 理由は言うまでもない。アルもベルも一度騒ぎを起こしたことがある。

 「下手したら自分たちがあぁなってたんだろうなぁ」と実感せずにはいられなかったのだ。

 アルは宴会の後で、ミアにいつもの礼と、いつぞやの謝意、そして今後も優しくしてくださいという思いを込めて多めにチップを払うのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「無いなぁ、ヴェルフ・クロッゾさんの作品……。」

 

 「もしかすると、もうここには置かれないほどに腕を上げてしまったのかもしれんぞ?貴公が絶賛していたし、私も少し触らせてもらったが素晴らしい作品だと思ったしなぁ。」

 

 「それは困るよ!僕、出来ればあの人の作品が欲しいんだよ……。」

 

 アルとベルは、次の日バベルを訪れていた。

 目的地はヘファイストス・ファミリアの下級鍛冶師たちが格安で作品を売ってくれる駆け出し御用達の店である。

 そこで、ベルの新しい鎧を入手しようという話だったのだが、一向にヴェルフ・クロッゾの作品が見つからなかった。

 

 「仕方がない。店の方になんとか探してもらおうか。

 手間をかけさせてしまうが、その分チップを払うとしよう……。」

 

 「分かった!それじゃあ行こう!」

 

 「待て待て、そう焦るな。」

 

 ベルがたったと走っていくのを、アルが歩いて追いかけた。

 店員がいるカウンターに近づくと、だんだん言い争いらしき声が大きくなっていることに二人は気づいた。

 

 「だからぁ、いつもいつもなんで端っこに置くんだよ!

 こっちだって命がけでやってんだぞ!どうなってんだ!」

 

 「そう言われてもなぁ……。」

 

 「そう言われてもって、ちょっとマシな扱いしてくれりゃいいんだって!」

 

 赤い髪の鍛冶師らしき男が、店員に詰め寄っていた。

 なぜ同じヘファイストス・ファミリアでトラブルが起きているのか二人には知る由もないが、商品の扱いに不満があるようであった。

 しかし、店員がものすごく疲れた顔をしているあたり、鍛冶師は相当な時間ごねていたようだ。

 二人が近づいてきたのをこれ幸いと、声をかけてきた。

 

 「あっ、お客様、何かお探しで?」

 

 「あの、ヴェルフ・クロッゾさんの防具が欲しいんですがありますか?」

 

 「もしお忙しいのなら商品の目録さえ調べてもらえれば、我らで探しますのでどうかよろしくお願いしたい。」

 

 二人がこういうと、店員も鍛冶師の男もキョトンとした顔をした。

 それから、鍛冶師の男はからからと笑い始めた。

 

 「はは、はははは!あぁ、あるぞ冒険者!

 ヴェルフ・クロッゾの防具ならな!」

 

 彼は、自分の足元に置いていた木箱をカウンターの上に置いてにやりと二人に笑いかけるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 二人は鍛冶師と共だって店を出て、バベルのテラスのベンチで座っていた。

 様々な鍛冶師や冒険者たちが交流したり、商談をしたりする場なのだ。

 

 「いやぁ、まさか噂の【発展途上の英雄(ア・リトル・ヒーロー)】が俺の防具を買いに来てくれるとはな。それに、どっかで見たことがあると思ったら、ぶつかっちまった男が【灰狼騎士(ウルフェン・リッター)】だったのか。」

 

 「おぉ、そうかあの時の……。あの時も貴公は焦っていたなぁ。」

 

 アルは、腕を組んでつい先日のことを懐かしそうに思い出した。

 ヘファイストスと出会い、椿との再会を果たした日だった。

 アルが思い出に浸っている間に、ベルも鍛冶師に話しかけた。

 

 「僕も、クロッゾさん本人に会えて嬉しいです。」

 

 「あ~……。

 クロッゾさんってのはやめてくれないか?嫌いなんだ。」

 

 「じゃあ、ヴェルフさん。」

 

 「さん付けか……。まぁ、今はまだいいか。」

 

 鍛冶師の男、ヴェルフ・クロッゾは周りをちらちらと見た後、足を組んで芝居めいた口調で話し始めた。

 

 「なぁ、ベル・クラネル。お前は俺の作品を二度も買いに来てくれた。

 ならもう顧客だ。違うか?」

 

 「えぇと……そうですね。」

 

 ベルがそう発言したとたん、遠巻きに三人を眺めていた鍛冶師たちが悔しそうな顔をした。

 アルはそれを見て、ヴェルフに感心した。

 

 「なるほど、縄張り争いか。

 流石に鍛冶師だ、商売にも長けているのだな。」

 

 「いや、すまねぇ。ホントは客の前でこういうのはよくねぇとは思うんだがよ。

 それでだ、ベル。俺と直接契約を結ばないか?」

 

 ベルは、直接契約というのがよく分からなかった。

 だから一瞬戸惑ってしまうのだが、アルがそっと助け舟を出した。

 

 「ベルの専属となって色々と用立ててくれるということだ。

 このヴェルフ・クロッゾが大成したとき、その武具を求める者で溢れかえるかもしれん。早い段階で唾をつけておけば、貴公を優遇してくれるというわけだよ。」

 

 「なるほど……。いいですよ、直接契約。」

 

 ベルはアルの説明を聞いてあっさりと直接契約を結ぶことに決めた。

 ヴェルフはあっけにとられたような顔をして、アルはベルの真っ直ぐさに思わず笑みをこぼした。

 

 「いいのか?!

 この立場で言うのもなんだが、お前なら引く手あまただぞ?

 俺以外の鍛冶師を選ぶ選択肢だってある。」

 

 「いいんです。僕はヴェルフさんの防具が気に入ってますし……。

 なによりヴェルフさんの作品はこれからきっともっと凄いものになる気がするんです。何となくなんですけど……。」

 

 ヴェルフはベルの言葉に、胸の高鳴りを感じた。

 彼はとある事情から同じファミリアからもよくない扱いを受けてきた。

 自分の実力を正当に評価される、職人としての喜びを感じてしまったのだ。

 

 「分かった。ありがとな、契約してくれてよ。

 それで、早速だが我儘を聞いちゃくれないか?」

 

 「なんですか……?」

 

 「俺をお前らのパーティーに入れてくれ。」

 

 ベルとアルは顔を見合わせた。

 防具と鍛冶師だけでなく、仲間まで見つけてしまった。

 これはベルの【幸運】が働き始めたか、とアルは思ってしまうほどだった。

 

 「いいですよ!」

 

 「丁度新たな仲間を探そうという話をしていたのだ。

 むしろこちらからお願いしたいほどだよ。」

 

 「そうか、良かったぜ。俺にもツキが回ってきたって感じだな。

 それでよ、アル。お前も俺と契約しないか?

 見たところ、いい装備だが大分ガタが来てるようだしな。」

 

 アルは、そう言われたとき非常に心苦しかった。

 アルはヴェルフを気に入り始めていた。

 わざわざベルに別な選択肢を示したあたりが特に好感を持てたのだ。

 しかし、椿との先約がある以上は断らざるを得なかった。

 

 「すまない、この鎧の修繕は先約があってな。

 【単眼の巨師(キュクロプス)】にもう約束してしまったのだよ。」

 

 「はぁ?!椿の客なのか?!」

 

 アルの言葉で、まだ周りにいた鍛冶師たちが戦慄した。

 彼らはまだアルとの契約をもくろんでいたのだ。

 しかし、椿・コルブランドと契約している相手が、自分に靡くはずがないと誰もが思った。それでも、嘘だと信じてまだ話しかける時期を鍛冶師たちが狙いすましている間に、アルが続いて口を開いた。

 

 「客、というか無償で直してくれるらしい。ありがたいことにな。」

 

 「無償?!」

 

 「いや、この鎧が大層素晴らしいものでな。研究したいとの事だ。

 それに、私自身あまり武器や防具を欲しいと思わないのだ。

 最近予備の武器も手に入れたし、この鎧と大盾、大剣さえあれば基本事足りる。」

 

 「そうかぁ……。」

 

 ヴェルフは至極残念そうな顔をした。

 他の鍛冶師たちも、色々と諦めてその場を立ち去っていた。

 しかしアルはぽんと手をついて何かを思い出したように言った。

 

 「いや、ヴェルフ殿。私も契約すれば私の要望にあった装備を作ってもらえるのかね?それこそ、貴公が基本的に作らないような独特なものでも。」

 

 「あぁ、いいぜ。鍛冶師ってのは冒険者に武器を押し付ける仕事じゃねぇ。

 二人三脚で武器を作り上げるもんだ。

 相談してくれるなら基本的に何でも作るさ。」

 

 「それはいい。ならば私も貴公と契約しよう。」

 

 「あれ、アル武器要らないんじゃ……。」

 

 「あぁ、一つ忘れていたのだよ。

 あの剣技には必須の装備をな!ははは!

 しまったしまった!あっはっは!」

 

 アルがからからと笑い始めた。

 何が何だかよくわからないベルとヴェルフは、ただアルを見つめるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「っしゃ、来たぜ11階層ぉ!」

 

 「ははは、元気だなぁヴェルフ殿は。」

 

 アルたちは、次の日ヴェルフを伴ってダンジョンに潜りに来ていた。

 ヴェルフは昨日と同じ着流しに、大刀を背負ってそれなりの装備であった。

 

 「いや、悪ぃな。昨日の今日で無茶聞いてもらっちまってよ。」

 

 「ヴェルフさんが【鍛冶】のアビリティを得るためなら、僕にも無関係じゃないですし。」

 

 「もう契約しているのだからな。遠慮することはない。」

 

 レベル1のヴェルフは、発展アビリティである【鍛冶】を手に入れるためにレベル2になることを目論んでいた。

 現代の鍛冶師にとってこのアビリティは大成するには不可欠だ。

 魔剣を代表とする強力な武器は、このアビリティによって生み出されるからだ。

 

 「だったらご自分のファミリアの方と一緒に探索すればよいのではないですか?」

 

 リリの痛烈な一言に、ヴェルフは少しだけ苦い顔をした。

 リリの言う通り、ヘファイストス・ファミリアの鍛冶師にとってはその方が都合がいいはずだった。

 大ファミリアともあれば、上級鍛冶師、すなわちレベル2以上の鍛冶師は一定数在籍している。

 ヴェルフには、レベル2になりたてのトリオチームにわざわざ参加せざるを得ない事情があるということになる。

 

 「えっと、それはヴェルフさんが……。」

 

 「仲間外れにされているんでしょう。それは聞きました。

 ですがお二人ともほいほい絆され過ぎです。

 ベル様に至ってはもう鎧で買収されていますし……。」

 

 リリが仮面の下で、私不満ですと言いたくて仕方がない表情をした。

 仲間外れにされる訳アリ冒険者をパーティーに入れるのには危険が伴うと知っているからだ。

 そんなにリリに向かってヴェルフが近寄った。

 

 「そんなに俺が邪魔か、ちび助。」

 

 「私にはリリルカ・アーデという立派な名前があります!」

 

 「おぉ、じゃあリリ助だな。つかなんだその仮面。」

 

 「気にしないでください!」

 

 ぷりぷりとリリが怒っているのを、アルとベルはなだめようとした。

 ヴェルフは既に新しい仲間としてすでに認めつつある相手だからだった。

 

 「まぁまぁ、僕このヴェルフ・クロッゾさんの防具気に入ってるし……。」

 

 「ヴェルフ殿もなかなか面白そうな人だしな。」

 

 ベルの発言に、リリは食いついた。

 

 「あの呪われた魔剣鍛冶師の?!

 没落した鍛冶貴族のクロッゾですか?!」

 

 「それは一体どういうことなのだ?

 ベルは知ってるか?」

 

 アルにとっては未知の単語であった。

 ベルに視線を送っても首を横に振るだけで、めぼしい情報は出てこない。

 そんなとんでもなく無知蒙昧な二人にリリは驚かざるを得なかった。

 

 「かつて魔剣製造で名をはせた一族です。

 その作品は第一級冒険者の一撃に勝るとも劣らなかったとか。

 ですがある日突然魔剣を打つ力を失ってしまってからは凋落したと……。」

 

 「あぁ、ただの落ちぶれ貴族の名だ。

 今はそんなこと関係ないだろ?

 それに、おしゃべりしてる余裕はなさそうだしな!」

 

 ヴェルフが向いた方向から、ぼこぼことモンスターたちが生まれ始めていた。

 オークやハードアーマードといった、面々である。

 

 「オークは俺に任せろ。あの図体なら俺の腕で当てられる。」

 

 「じゃあ僕はインプを。」

 

 「私は遊撃を担当しよう。

 取りこぼしても気にせずやってくれ。私が必ず仕留める。」

 

 次々と役割を決めていく三人を見て、リリは取りあえず腹をくくった。

 色々と懸念事案はあるものの、優先すべきは目の前の脅威に他ならない。

 

 「分かりました。リリは援護に回ります。

 色々と試したいこともありますから。」

 

 「おっ。俺が気に食わないんじゃないのかぁ?」

 

 「あなたが怪我するとベル様とアル様が気にしますので。」

 

 リリの言葉にヴェルフが肩をすくめ、アル達が笑う。

 そして、四人は一斉に戦闘態勢に入った。

 

 「ベルッ、前を!」

 

 「了解!」

 

 真っ先にベルが飛び出し、インプを三体流れるように倒す。

 その空いた空間にアルが飛び込んで縦横無尽に暴れ出す。

 オークを掴んでは転がってくるハードアーマードに叩き付けたりと、その剛力を如何なく発揮していた。

 それは二人にとって奇妙な体験であった。

 以前よりも景色は速く流れ、敵の動きは遅く見える。

 硬い敵が格段に柔らかく感じ、重かった一撃はさほど脅威ではなくなり始めていた。

 二人はこの11階層で、初めてランクアップの恩恵を受け始めていた。

 

 「っせい!」

 

 アルがハードアーマードを真っ二つに断ち切って、四人の戦闘はひと段落ついた。

 圧倒的な力量を前に、ヴェルフもリリも感嘆するしかなかった。

 それもそのはず、二人はただのレベル2ではない。

 レベル1の段階で二つのアビリティを限界突破させた上でランクアップしている。

 アルは力と耐久、ベルは敏捷と器用を限界を軽々と飛び越えるほどに伸ばしていた。

 それだけの力をもってすれば、11階層のモンスター程度は楽に処理が出来たのだ。

 

 とにもかくにも一仕事終えた四人は、休息に入った。

 リリだけは先に魔石を回収すると張り切って休んではいなかったのだが。 

 

 「いやぁ、やっぱいいモンだよなぁ。パーティーってのは!」

 

 「はい!前より随分動きやすくなった気がします!」

 

 「一人増えるだけでここまで違うとは思ってもみなかったよ。」

 

 「パーティーの利点ってやつだな!」

 

 三人がパーティーのありがたみを実感していると、他の冒険者たちがちらほら見えてきた。

 

 「人が増えてきましたね。」

 

 「おう、魔石をリリ助が拾い終わったら飯にしよう。

 モンスターはアイツらに任せてな。」

 

 「うむ、しかし迅速に食事をとらねばな。」

 

 そうして今後の事を話していると、ヴェルフはベルの手に微かな光が集まっていくのを見た。

 

 「おいベル、なんだそりゃ。」

 

 「あれっなんだろうコレ……。」

 

 アルもまたその光に気を取られていると、先ほどまで静かだった階層に悲鳴がおこった。

 

 「やべぇ、インファントドラゴンだッ!」

 

 「なんで二匹同時に出てきてんだよぉ!」

 

 「逃げろぉ!!」

 

 インファントドラゴン、それはダンジョン上層における事実上の階層主。

 ダンジョン上層における最強のモンスターである。

 ミノタウロスほどでないにしろ、その力は強力だ。

 レベル1の冒険者パーティーがこぞって逃げ出すのも当たり前だった。

 しかし、逃げ込んだ先が不味かった。

 

 「不味い、リリッ!魔石を置いて逃げろ!!」

 

 アルが叫ぶと同時に、リリはすぐに異変に気がついて駆け出す。

 しかし、サポーターとして荷物を大量に持つリリは、すぐにインファントドラゴンに追いつかれてしまう。

 守らなくてはいけない、そう思ったヘスティア・ファミリアの英雄候補たちの動きは速かった。

 

 「プロミネンスバーストォ!!」

 

 「ぜりゃぁぁぁッ!!」

 

 ベルはすぐさま魔法をインファントドラゴンの頭部に容赦なく打ち込んだ。

 アルもまた、瞬時に闇を纏って一気に駆け抜け、貫手を首の骨目掛けてつきこんだ。

 どちらの威力も、レベル2の領域に収まりきらないほどであった。

 ベルの魔法を受けたインファントドラゴンの頭部は跡形もなく消し飛んでいた。

 アルの貫手は首の骨を折るにとどまらず太い首を貫通していた。

 ベルは自身の新しい力の目覚めを感じ、アルは自身に眠る力達とのつながりの強まりを感じるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「うーん、ベルくんのは間違いなく新しいスキルだろうね。

 英雄に焦がれる少年が、圧倒的な逆境を一撃でひっくり返すための可能性……。

 英雄になるための片道切符。すなわち英雄の一撃!ってやつだね。」

 

 無事にホームに帰ってヘスティアにダンジョンでのことを報告すると、ヘスティアによって分析が行われた。

 その分析はベルとアルの心を躍らせるに十分すぎた。

 二人は神の恩恵によって、英雄の道へと進み始めていることを実感せざるを得なかったからだ。

 

 「それと、アルくん。そのつながりってのは今は何ともないんだね?」

 

 「えぇ、取りあえず体を壊してしまうほど制御の利かない状態からは抜け出したようです。意のままに、とは言いにくいですが使い物にはなるでしょう。」

 

 「そういうことじゃなくて、体に異常をきたしてないかってことだよ。

 君の力は、君自身を冒しかねないってことを忘れないでくれよ。

 君が一番それをよく知っていて、君しかそれをどうにかする術を持ってないんだからさ。」

 

 「……気を付けます。」

 

 「たいへんよろしい。」

 

 アルが頭を下げたことに対して、ヘスティアは主神(おや)としてそれらしいセリフを演技がましく述べた。

 結局すぐにいつも通りの少し気が抜けていて優しい顔つきに戻って、アルの作った夕食を食べ始めた。

 そんな中で、ベルは最後に気になったことをヘスティアに聞いてみた。

 

 「カミサマ、クロッゾって知ってますか?」

 

 「あぁ、例の鍛冶師くんの家名だったっけ?

 かつて魔剣をたくさん作った一族ってことぐらいしか知らないなぁ。」

 

 「やはり、そうなのですか……。」

 

 二人は、ヘスティアからも新しい情報を得られなかったことに落胆した。

 ヴェルフが抱える訳、仲間外れにされ、家名をひどく嫌う理由が知りたかったのだ。

 しかし期待が外れたと思った二人は、その直後に食事を喉に詰まらせることになった。

 

 「あぁ、けど彼魔剣が打てるらしいね。」

 

 これは本来ありえない事であった。

 レベル1の【鍛冶】のアビリティを持たない鍛冶師は魔剣は作れない。

 魚が木登りをした後で木の上で踊り出すくらいに、あってはいけない事であった。

 それこそ、アルやベルのように特殊な血統と特異なスキルを持っていなければ。

 

 「それも強力な奴が作れるらしい。

 けど、彼は魔剣が嫌いで全く打たないんだってさ。

 宝の持ち腐れって嘆かれてたよ。」

 

 「金にがめつい人間ではなさそうだったが、鍛冶師として認められることには拘っていた。それがどうして魔剣を打たないことになったんだろうか……。」

 

 アルの疑問ももっともであった。

 金銭は取りあえず脇に置いたとして、魔剣を打てば名が売れて顧客が付く。

 顧客が付けばさらに良い素材良い道具が使えるようになり、鍛冶師としての名声はウナギのぼり上がるはずだ。

 

 「まぁ、君たちが契約を結んだ鍛冶師は腕は確かだけど訳アリってところだねぇ。」

 

 ヘスティアはそう締めくくった。

 二人は、明日にまた会う男の顔を思い浮かべるのであった。

 




 蘇りしデーモンの大鉈

 地下迷宮に息吹を上げた 山羊頭が遺した一対の大鉈

 かつて灰が彼らから奪い取ったものと ほとんど変わらない

 分厚い鉄はさび付いて 一見石のようにすら見える

 地下迷宮は記憶をもたらされた かつてのソウルたちから

 深い地の底に眠っていた 失われし器から
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