ダンジョンに火を見出すのは間違っているだろうか?   作:捻くれたハグルマ

9 / 25

 アルの毛布

 ヘスティア・ファミリアに所属する冒険者 アルトリウスの持つ毛布

 体の大きい彼は いつだって毛布からはみ出している

 彼にとって 暖かい毛布というものは 足を守ってはくれないものだ


第九話 対談

 

 アルはまた夢を見ていた。

 今度は深い深い闇の底にいた。

 古い遺跡のようで、僅かに柱の残骸などが残っている。

 

 道を探そうと歩いていると、怪物に出会った。

 巨大でいびつな腕を持ち、二本の角が天を突くように伸びている。

 赤々とした光を伴って現れたそれは、アルの方にゆっくりと手を伸ばす。

 

 アルは恐怖で足がすくんだ。

 これが、深淵の主マヌスなのだ。

 逃げなくてはいけない、そう思って上を上を目指していくが、深い闇の中に活路はない。

 ゆっくりと追い詰められていき、アルはついに躓いてしまう。

 這いずってでも逃げようとするも、ついに生暖かい腕に足を掴まれてしまった。

 

 もう駄目だと思った時に、暗闇を炎が引き裂いた。

 真っ白い炎がすべてを焼き尽くしたのち、アルの目の前には無数の人がいた。

 

 白く暖かい空間に、ローブを着た女や大きな帽子をかぶる男、白い衣を羽織った聖女……。

 その他にも無数の人々が、アルを見つめていた。

 

 「力を求めた愚者よ。お前にとっての力とは何か?」

 

 口が一斉に開き、アルに尋ねた。

 

 「闇を切り裂く聖火。」

 

 アルの胸にベルの顔が浮かぶ。明るく優しい彼のような炎を求める。

 

 「まだあるだろう?」

 

 また、アルは問いかけられる。

 

 「世界を紐解く真理。」

 

 今度はリヴェリアの魔術を思い浮かべる。冷たく高貴な神秘を求める。

 

 「そして、慈愛に満ちた奇跡だ。」

 

 主神が優しく微笑む姿を思い起こす。清純で神聖な奇跡を求める。

 

 「あの無名の騎士のように、試練を乗り越えられる力が欲しい。

 絶体絶命の状況を覆す力が欲しい。

 神をも、悪魔をも、そして闇すらも打倒する力を!」

 

 アルの答えに満足したのか、笑い声が響いた。

 

 「与えよう、その全てを。炎の呪術、ソウルの魔術、神々の奇跡をやろう。

 不死の灰が用いたそのすべてをやろう。

 かつて我らが教えたように。かつて我らが導いたように。」

 

 そして、アルを取り囲む人々の中で、ローブの女だけが前に出た。

 

 「あの馬鹿弟子が……。面倒なものを残していったな……。

 伝言だ、よく聞いておけ。『内なる火を燃やせ。闇に落ちながらなお試練として立ちふさがった王のように』。

 お前を生み出すために注がれた火は、馬鹿弟子の半身だ。きっと出来るさ……。

 さぁ、行け。もう二度と、闇に飲まれたりするんじゃないぞ……。」

 

 アルの意識は、その優しい声を最後に暗転した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アルが目を覚ました時、布が自身の足元まで覆っていることに気が付いた。

 いつもは毛布が足りないから足が露出しているのに、今日は違う。

 困惑していると、ベッドの脇に椅子を置いて座っていた女がいた。

 

 「目が覚めたか。お前を救うのもこれで二度目だな。」

 

 「リヴェリア・リヨス・アールヴ殿……?

 ここは、いったいどこなのですか……?」

 

 「ロキ・ファミリアの本拠地(ホーム)、黄昏の館だ。

 気分はどうだ?回復魔法を何度かかけたから、幾分かよくなっているだろうが……。

 なかなか酷かったぞ?全身の骨がほとんど砕けていてな、安物とはいえ、万能薬でも応急処置にしかならなかったそうだ。

 ティオネ達に担ぎ込まれてきたお前を見た時は少し肝が冷えたぞ。」

 

 「そう……ですか……。

 まだ少し、気怠いですが……。

 起き上がれそうです、リヴェリア・リヨス・アールヴ殿。」

 

 「リヴェリアでいい。目覚めてすぐで悪いが、少ししたら身支度をしてくれ。

 ロキがお前に会いたいと言っている。」

 

 リヴェリアは椅子から立ち上がり、部屋の隅に纏めて置いてあったアルの鎧を近くに持ってきた。

 アルの血はきれいに洗い流されているようで、普段の状態とほとんど遜色ない。

 

 「光栄ですな……。すぐに、参ります。うぐぅっ!」

 

 アルは右腕が急に傷んで左手で抑える様にして抱え込んでしまった。

 右腕は、リヴェリアでさえ「レベル5に勝るとも劣らない」と評価されたレフィーヤの魔法を、手加減されていたとはいえ相殺するほど酷使していた。

 いくら万能薬がすごかろうと、いくら回復魔法が素晴らしかろうと、神経が尋常ではない程痛めつけられていたのだ。

 その様子を心配げに見たリヴェリアは、すぐにアルを寝かせようとする。

 

 「痛むのなら無理はするな。やはり少し時間を空ける様に言ってこよう。なぜかは知らんが焦りすぎなのだ、ロキの奴め……。」

 

 「いえ、それには及びません。大丈夫です。」

 

 アルは右腕の痛みは我慢しようと思えばできる、と判断して、リヴェリアを制止した。

 なにより、恩人たるリヴェリアに気を遣わせることを心苦しく感じていたのだった。

 

 「……そうか、ならば外で待っている。支度が出来たら出てきてくれ。案内しよう。」

 

 そうして、リヴェリアはゆっくりと部屋の外に出ていった。

 アルは身を起こし、鎧を手に取った。

 武器の類はなぜかない。なんとなく、アルは嫌な予感を感じ取っていた。

 しかし、助けてもらった礼の一つや二つはせねばなるまい。

 アルはそれ以上考えるのをやめて、鎧を手早く装着し、扉を開けた。

 

 「お待たせいたしました、リヴェリア殿。」

 

 「では、行こうか。」

 

 リヴェリアが先導し、黄昏の館の中を二人が歩んでいく。

 アルはその豪華さや、広さに驚いていた。

 赤くて美しい長いじゅうたんが廊下にひかれ、花瓶などが並べられている。

 所々に高級そうな骨董品や、絵画の類、そして道化のエンブレムが見受けられて、アルはロキ・ファミリアの力のほどを肌で感じ取った。

 そして、いつかこんな立派なホームをヘスティアにプレゼントできたらいいな、と思った。

 

 長い長い廊下を歩き、リヴェリアに促されて、ある一室に入る。

 そこには、リヴェリア以外の幹部がおり、扉の真正面にあるソファーにはロキがどっかりと座り込んでいた。

 

 「リヴェリアはこっちに来ぃ。大男くんはそれ以上近寄ったらあかんで?

 ちょーっと聞きたいことが色々とあってなぁ?」

 

 ロキの目に敵意があることにアルは気が付いた。

 そして、自身が彼女から警戒されていることを確信した。

 わざわざ幹部がアルを囲うように配置されていたからだ。

 

 「私のことで、聞きたいことですか……。心当たりはございます。

 しかし、まずは御礼を申し上げさせていただきたい。

 先日ミノタウロスから命をお救いいただいたこと、そして昨日、私を止めて頂けたこと、感謝してもしきれません。」

 

 そうして、アルは跪いて頭を下げた。

 しかし、なおもアルの正面に座るロキから敵意が伝わってくる。

 

 「御託はえぇ。さっさと始めたいんや、こっちは。まず、プロフィールから聞こうか?」

 

 「名はアルトリウス、所属はヘスティア・ファミリア。年は14になります。」

 

 「えっ?!もっと年上だと思ってた……。」

 

 ティオナが思わず驚いてしまい、他の幹部連中に見られてバツが悪そうに押し黙る。

 張り詰めた空気が和らいでしまったからだろう。

 しかし、ロキの緊張の糸は全く切れることはなく、尋問が再開された。

 

 「嘘はないようやなぁ。しっかし、ドチビもようお前みたいなんを抱え込んだもんやで。

 あんな禍々しいもんはウチも初めて見たわ……。あの黒龍は災厄を振りまくけどなぁ、お前はそれ以上や。

 アレはなんや。嘘ついたって意味ないで?きっちり全部話せ。ウチの目の前で。」

 

 アルの嫌な予感は当たっていた。

 アルは、ロキが【深淵】の正体をある程度推察し、そのうえで危険性に気が付いているのだと確信した。

 実際は、ロキが持っていたのは「なんとなくヤバいもの。神に対する冒涜的な何か。」という認識だったが警戒されているという点は変わりない。

 

 アルは観念した。言い逃れることも、包み隠すことも出来ないだろうと諦めた。 

 そもそもアルは腹芸が得意な人種ではない。

 ベルのようにお人好しが過ぎるというよりも、誠実であらねば、騎士らしくあらねば、という強い使命感によって、騙しやウソを敬遠するきらいがあるからだ。

 だから、アルがし始めたことは嘘偽りない告白だった。

 

 「あれは深淵の闇にございます、神ロキよ。本来は人の力。しかし、それが暴走すればあのようになる……。」

 

 「あれが人間の力やとぉ?!神に『死の恐怖』を与えるようなもんを下界の子供皆がもっとるわけないやろ!」

 

 ロキは、アルが嘘をついてないことを確認したからこそ、驚き、恐怖した。

 これが事実であれば、とんでもないことになる。

 オラリオだけではなく、世界中の神、土地、人々に危険が及ぶ。

 

 「待ってくれ、ロキ。神は人には殺されない、そうだろう?それに、君たちは天界に送還されるだけで死ぬことはあり得ない。違うかい?」

 

 フィンはロキの発言に違和感を感じていた。

 神が下界において死にたくないと思うのは、ひとえに遊べなくなるからである。

 神は死ぬと、その魂は天界に送り返されるため、下界で死んだところで本質的には死にはしない。

 ただ、下界に降りる権利を永久にはく奪されてしまうという、神にとっては重大なペナルティーが科せられることになるには変わりないが。

 

 そして、神を人が殺すのは禁忌とされ、たとえレベル7だろうが、人である限りは神殺しは不可能だ。

 神を殺せるのはモンスターか、あるいは同じ神しかいないのだ。

 

 だからこそ、フィンにとってはロキの怯え具合が昨日から不思議で仕方なかったのだ。

 

 「そうや、ウチらは死んだりはせぇへん。魂がちゃーんと天界に送り返されるからなぁ。

 けど、その深淵ってやつはウチらの魂を呑みこんでしまうような『深さ』があった!

 なんでかは分からへんけど、アレにつかまったら神は天界には帰れない、つまりは死ぬ。そう感じたんや。

 そこんとこの説明もしてくれるよなぁ?」

 

 「……深淵は根源を犯す力です。あるいは理を歪める現象と言ってもいい。

 そこに概念があるならそれを黒々と塗りつぶし、そこに生命があるなら、その骨身一つ残さず化け物に変える。

 人間がいるならその精神を壊し、肉体を醜悪に変質させます。

 神であるならばそれを引きずり落として獣にする。不死性すら歪めるでしょう。」

 

 フィンは、なんとなく察しがついた。

 彼は精神汚染を受けていたわけではない。

 もっと深いところに干渉されていたのだ。

 フィン・ディムナという存在や概念に対して攻撃をされていたのだと気が付いた。

 

 ロキやフィン以外に、外観がつかめてきたのは聡明なリヴェリアだけだった。

 まず、深淵というものが抽象的すぎるがために、あまり勉学というものに強くない冒険者連中には難しすぎた。

 その上、アマゾネス姉妹やアイズは闇に侵されないように戦っていたし、ガレスやベートは見てすらもいないから分かりようがない。

 

 魔術に精通し、毎日欠かさず勉学を続け、そして王族としての高い教養を叩き込まれているリヴェリアだけが、フィンたちのようにアルの恐ろしさに気が付き始めていた。

 

 「つまり、その深淵は世界のありとあらゆるものをかき乱すのだな?日が二度と昇らなくなるかの如く、劇的で不可逆的な変化を引き起こすのだな?」

 

 「えぇ、そうです。流石は高貴な御方だ、私のかような拙い解釈をもくみ取っていただけた。

 実を言えば、私にも……よくわからないのです。深淵は私にとっても伝承の中のものだった。

 そして、伝え聞いたその伝承も真実ではなく、虚構が混じっていたのを最近知ったばかりです。

 だから、私からはハッキリとしたことは申し上げられません。申し訳ありません。」

 

 ロキはうーんうーんと腕を組んでうなり始めた。

 危険であることは違いないが、分からないことが多すぎる。

 調べるには泳がせる必要があるが、ただでさえ危険生物を野に放つようなものなのに、泳がせている間に色ボケ女神にちょっかいをかけられるのは間違いない。

 下手に衆人の目の前にさらされてしまうと、この大男の力のためにオラリオはまた暗黒期に突入してしまうかもしれない。

 じゃあ安全のために目の届くところに置いて監視しようにも、ドチビの子供であってかつ、色ボケ女神のターゲットであるために、絶対に手元には置いておきたくない。

 トラブルメーカーが爆弾背負っている状態なのに、どうして傍においておけるだろうか。

 自分の子供たちの安全のために深淵のことを調べようというのに、調べるために子供たちを巻き込んでしてしまったら本末転倒である。

 

 ロキにとって最善の策はやっぱり殺害しかなかった。

 

 「はっきり言わせてもらうわ。お前のためにも、オラリオのためにも、死んでくれへんか?

 お前はもう、無事に生きることはほぼ不可能や。事情は言えんが、確実にトラブルに巻き込まれる運命にある。

 ほんで巻き込まれるたびに、お前は神の目につくことになる。神っちゅうのは自己中心的な存在や。その深淵のことが知れたらどうなるか分かったもんじゃない。

 お前が大事にしてるっちゅう友達にも火の粉が降りかかる。お前の尊厳もごみのように扱われる。

 そんで、オラリオ中を巻き込んだ大混乱になるかもしれん……。それぐらい、深淵は神にとって甘美な毒の花みたいなもんや……。

 そんなんやったら……ウチがお前を殺したる。お前んとこのドチビに憎まれてもかまわん。

 自分とこの子供を守るためやったら、ウチはそういうことをやる。たとえ自分のとこの子供に軽蔑されてもな。」

 

 ロキは本気だった。

 天界においてトリックスターと言われていたロキは、下界に降りて劇的に変わった神の一人である。

 他人の不幸と自身の快楽のために、騙しもやったし、計略を巧みに操って、神同士の争いを引き起こしては高笑いをしていた。

 しかし、下界に降り、人の子と関わって、他人が大事になったのだ。

 子供が楽しそうに過ごしているのを見るのが好きだし、子供と飲む酒の味は格別だし、可愛い子供と触れ合うだけで、いくらでも幸せな気分になれる。

 ロキにとって子供は全てになったのだ。セクハラを筆頭に、多少自分の趣味嗜好を優先するきらいはあるが、優先順位は子供が一位なのだ。

 

 真に子供を愛する神をアルは知っている。

 だからこそ、ロキの本気さが伝わってきた。

 しかしアルにも大事にしたい存在がいる、叶えたい夢もある。

 ロキの真剣さにほだされるようなやわな気持ちは持ち合わせていなかった。

 

 「神ロキ、貴方の理屈は分かります。貴方が言う未来も想像には難くない。貴方が子供を思う気持ちも痛いほど伝わってきました。

 だが、私にも私の帰りを待つ大事な友と、大事な神がいるのです。彼らを危険な目にあわせたくはない。だが、悲しませたくもないのです。

 そう簡単に死ぬわけにはまいりません。腕の一本足の一本失ってでも、私は帰ります。そして、必ずや深淵を自身の力で征服して見せましょう。

 深淵さえ操れるようになれば、誰も傷つけず、誰にも知られずにすみます。

 私には分かるのです。深淵を調伏する方法は、必ず私の中にある。」

 

 アルは生きて深淵の力をコントロールして見せることで降りかかる火の粉全てを振り払う気でいた。

 試練や困難に巻き込まれるというのならば、戦ってそのすべてを切り伏せよう。

 かけがえのない友も、愛すべき主神も、自身の尊厳も、力づくで守ってやろう。

 深淵の力を自身のものにすれば、不可能なことではない。

 深淵歩きが自身を信じて託してくれた力なのだ。不可能を可能にしてくれるに違いない。

 そして、あのローブの女の言いぐさからして、深淵を抑え込む方法は確かに存在するという確信もあった。

 

 「そう簡単に信じることは出来へんなぁ……。仕方ない。」

 

 「待った、ロキ。」

 

 動き出そうとするロキを制止したのはリヴェリアだった。

 リヴェリアがロキとアルの間に入って立ちふさがっている。

 

 「私は自分の手で彼の命を一度助けている。わざわざ助けた命を目の前で殺そうだなんて私は反対だ。

 確かに、彼の力は危険そのものだろう。しかし、友人や主神のことを大切にするところは好感が持てる良い青年だ。

 決してその力で悪事をなそうとするような者とは思えない。力の制御が出来る様に、我ら先達が見ればよいではないか。

 オラリオに混乱を招かないためというのならば、ロキ・ファミリアが介入しても問題はあるまい?」

 

 今度は、フィンがリヴェリアの横に立った。

 

 「僕も反対だ。別のファミリアに所属する冒険者を、僕らの独断で処分することは出来ない。それに僕だって狂化の魔法を最初は満足に扱えなかった。

 けど今じゃ扱えている。未来ある若者の成長に期待するのも悪い賭けではないんじゃないかな?ロキ、まだまだ知りたいことだってあるんだろう?

 もう少し様子を見るという選択肢を僕は提案する。」

 

 ロキは創設メンバーの三分の二から反対されてたじろいだ。

 覚悟は出来てはしていたものの、心に来るものがないわけではない。

 それにフィンの言う通り、ロキがしようとしていることは私刑に他ならない。

 

 しかし、危険は排除しなくてはいけないのだ。

 ロキはもう一人の創設メンバーの方を見た。

 

 「ガレスぅ~!ガレスならわかってくれるよなぁ?!」

 

 「そうじゃのぉ……。小僧、一つ、儂と手合わせしてみるか?」

 

 「どうして……?」

 

 今まで黙っていたアイズの疑問ももっともだ。

 完全に聞く気がなかったベートでさえ、意味が分からないという顔をしていた。

 二人の反応をよそに、厳めしいドワーフ、ガレス・ランドロックは楽しげに笑っていた。

 

 「儂は小僧のことはよく知らん。その深淵というものの事もよくわからんし、自分の目で見てみんと何とも言えん。

 だがのぉ、戦えばおおよその事は分かる。一合切り結べば腕前が、二合切り結べば信念が、三合切り結べば成長性もわかるものだ。

 儂が小僧の言うことが信用できるか見てやろう。儂が先がないと思えばこの小僧もそれまで、そういうことでどうじゃ?」

 

 「全く野蛮なことだな……。」

 

 「まぁ、彼がそれでいいなら、いいんじゃないかい?」

 

 三人の意思は固まった。

 ロキはかなり悩んだが、それで納得することにした。

 いくらなんでもレベル1のひよっこ。ガレスを満足させるに足るものは持ち合わせていないだろうと判断したのだ。

 

 「私はそれでかまいません。更なる高みを実感させていただける、嬉しいことだ。ぜひ、一つお願いしましょう。」

 

 アルの答えは一つだ。

 生きて帰るためならば、目の前の試練に怯えるはずがない。

 何より相手は【重傑(エルガルム)】と名高いガレス・ランドロック。

 強くなるための経験値としてはこれ以上ないものなのだ。

 

 「分かった。ほんならウチで預かってたお前の武器を出したる。レフィーヤ~!入ってきてえぇで!」

 

 扉がガチャリと開くと、戦闘用の杖を持ったレフィーヤが顔をひょっこりと出した。

 アルは、微かな記憶から、彼女に対して切りかかってしまったことを思い出した。

 

 「お、おぉ貴公!貴公にも会いたかった!あの時は申し訳なかった……。貴公に怖い思いをさせてしまった……。」

 

 「いえいえ!その、貴方が正気を失っていたとはいえ、助けては貰いましたから……。」

 

 縋りつくように頭を下げるアルの様子に、レフィーヤは驚いていた。

 彼女にとってのアルのイメージは恐ろしい狂戦士で、今のアルは毒気のない純朴な騎士然とした青年だったからだ。

 

 「レフィーヤ、武器庫まで案内したって。こいつの武器を返したら中庭集合や。」

 

 「は、っはい!じゃあ行きましょう!え~っと……。」

 

 「アルトリウスです、エルフの魔導士殿。アルと気軽にお呼びください。」

 

 「なら私のことはレフィーヤで構いませんよ。ご案内しますね!」

 

 アルはレフィーヤに続いて歩き始めた。

 アルの試練が、また始まろうとしていた。





 黄昏の館

 オラリオの最大級のファミリア ロキ・ファミリアのホーム

 道化師のエンブレムが刻まれたその館は 主神の愛にあふれている

 もっとも 彼女の手はとてもいやらしい
 
 触られないように 気を付けるがいい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。