一本杉…それは正式な名称ではないが、様々な木々が
鬱蒼と生い茂るここパオズ山においても他に類をみないほどの巨大な姿から近隣の人々が付けた名だ。
そんな巨木の根本に二人の人物が向かい合うようにして立っている。孫悟空と娘の日向である。
「よぉ日向!勉強はもういいんかぁ?」
「バッチリだよ!ってそんな事よりお父さん!
また気功波で山、崩したでしょ!?家の方にまで衝撃がきたよ!!」
「わりぃわりぃ。つい
頭に手をやりながら笑いながら謝る悟空に日向は腕を組むと
「もう!わたしがいなかったらお皿が割れて、お父さん
今日1日ご飯抜きになってたんだからね!」
「いぃー!?飯抜きは勘弁してくれ!
オラもう腹ペコペコなんだ。日向、チチには黙っててくれ! なっ?」
「…どうしようかなぁ」
日向は腕を組んだまま目を閉じて考える"ふり"をする。
「頼む日向!この通りだ!オラに出来る事なら何でもするからさ!」
日向は手を拝む様な形にして頼み込んでいる悟空の言葉を聞いて、"その言葉を待っていた"とばかりに口を開いた。
「それじゃあ、わたしに稽古つけて!それと新しい技も
教えて!」
悟空は日向の言葉を聞くときょとんとした顔になり、
「稽古はいいけどよ。この前、"残像拳"教えてやったばっかじゃねぇか、ちゃんと使えるようになったんか?」
「それなら大丈夫だよ!
さっき使ってみたけどいい感じだったし、相手だって
わたしのこと見失ってたしね!」
日向は腰に手を当てて、えっへんと言う様に得意げな顔をしていたが
「ん?日向おめぇ誰かと闘ってたんか?」
悟空が予想外の返しをしたことにより日向は腰に手を当てたままの姿でピシッと固まった。
「だ、誰とも闘ってないよ!
ただサーベルタイガーに追いかけられただけだもん!」
日向は必死で言い繕う。
悟空ならば本当のことを言っても褒めてくれるかもしれないが、
もしそこからチチの耳にでもはいったら悟空以上の大目玉を食らってしまう。
「…ま、いっか。日向は気功波は撃てるんか?」
「撃てるよ!ほらっ」
日向は右手を突き出すと、その手の中に黄色の光球を作り出した。
そしてその光球を近くにあった岩に向けて撃ちだすと
木っ端微塵にはならなかったものの、岩にはひびが入り音をたてて崩れだした。
…余談だが日向は先程悟空に注意した事を今度は自分自身がしてしまったことに気付いていない。
修行のことになるとこの二人、似たもの親子である。
「日向すげぇじゃねぇか!
父ちゃんがガキの頃はそこまで出来なかったぞぉ!」
「えへへ」
「なら今日は父ちゃんの"とっておき"、教えてやっかぁ」
「とっておき?」
日向は首を傾けながら聞くと悟空は一つ頷き
「"かめはめ波"っちゅう技でな、父ちゃんの必殺技みたいなもんだな」
悟空は見てろよ、と日向に言い少し離れた。
そして姿勢を低くすると両手を腰に引く、そして…
「かー」
「めー」
「はー」
「めー」
悟空の掌に青白い光球が作り出されると漏れ出した光が辺りを染め上げる。
「波ーーーーー!!」
悟空が掌を上空に突き出すと、轟音とともに青白い光の
激流が撃ち出された。
青白い光はどんどん高く昇っていくと…たまたま通りかかった翼竜を飲み込み、空の彼方に消えていった。
「お、お、よっと!どうだ日向、今のが"かめはめ波"だ」
悟空は上から降ってくるミディアムに焼けた翼竜をキャッチすると日向の方に振り返った。すると…
「かっ、かっこいい!!」
悟空の目に映ったのは瞳を星空の様にキラキラさせた日向の姿、そして日向は自分もやると言いだし離れて行った。
十分距離をとった日向は先程の悟空の様な構えをとると
「かーめー」
「はーめー」
日向の掌にも悟空よりは小さいが青白い光球が出来る。
その光景を見た悟空は、お!っと期待の声を上げた。
「波ーーーー!!」
日向は気合のこもった声をあげると同時に掌を前に突き出す。すると轟音とともに青白い光が……でることは無く
"ポン"という可愛らしい音をたてて光は霧散した。
「…………」
掌を突き出したまま数秒固まる日向、すると何事も
無かったかのように再び両手を腰に引き構える日向。
「かめはめ波ー!!」
しかし何度やっても結果は変わらず日向の声と破裂音だけが青空に響いた。
「ハハハ、流石の日向でもちっと難しかったか」
頭にこんがり翼竜を乗っけたままの悟空が笑いながら日向に近づくと
「…む〜ん!」
大好きな悟空に笑われて面白くなさそうに頬を膨らませて睨みつける日向。
その姿を見た悟空は笑みを深くし、自分の手を日向の頭の上に乗せた。
「そう膨れるなよ日向、父ちゃんだって最初から今みたいに出来たわけじゃねぇんだからな」
悟空はしゃがみこんで目線を日向に合わせると
「亀仙人のじっちゃんとこで修行して、仲間と競い合いながら少しずつ強くなったんだ」
「……それってこの前話してくれたクリリンさんと
ヤムチャさん?」
「二人だけじゃねぇさ。天津飯や餃子、そして…ピッコロもいなかったらオラはここまで強くなれなかったさ。」
悟空は視線を空に向け好敵手のことを考えているのかその目には闘志が宿っていた。
「…お父さん、わたしも"かめはめ波"、撃てるように
なるかな…?」
少し不安そうに日向が聞くと悟空はニカっと笑うと
「ったりめぇじゃねぇか!日向は父ちゃんの子だ。
きっと父ちゃんよりすげぇ"かめはめ波"撃てるようになるさ」
そう言うと悟空は日向の頭をわしゃわしゃと豪快に撫で始めると日向は目を細めて気持ち良さそうにしていた。
その時、突如グゥーという大きな音とキュウという可愛らしい音がなると悟空と日向はお互い笑い出した。
「そろそろけぇるか。あんまり遅くなるとチチの奴が心配するからな」
頭の上に香ばしい匂いをさせた翼竜を乗せた悟空は家に向かって歩き出す。
「お父さん!」
「ん?、どうした?」
「わたし強くなる!たくさん修行してお母さんと悟飯、そしてお父さんも守れるくらい強くなる!」
その言葉を聞いて悟空は一瞬驚いた顔をするが、すぐに嬉しそうな顔になると
「父ちゃんだって負けねぇぞ!今日から日向も父ちゃんのライバルだな!」
「うん!!」
悟空の言葉に日向は嬉しそうに返事すると悟空と並ぶように歩き出した。
悟空と日向の二人は家に帰り昼食を食べ終えると約束通り悟空は日向に稽古をつけ、日向は"かめはめ波"の練習をするが結局この日は一度も成功することは無かった。
そしてその日の夜
「なぁチチ明日、日向達を連れて亀仙人のじっちゃんとこに行っていいか?」
「武天老師様の?あぁそう言えば二人が生まれてから一度も挨拶に行ってねぇだな」
「ねぇお父さん、亀仙人って昼間に言ってたお父さんの
お師匠さんだよね?わたし行きたい!!」
日向はもしかすると"かめはめ波"のコツを教えてくれるかもと期待し、元気な声をあげた。
「日向ちゃん、武天老師様だ。でも挨拶には行かねぇといけねぇだな」
「お母さん、僕も行かなきゃ駄目…?」
人見知りな悟飯はあまり乗り気ではないみたいだった。
「でえじょうぶだ悟飯!じっちゃんの家には"ウリゴメ"もいるからきっと楽しいぞ!」
「ウリゴメ?」
「悟空さ、ウリゴメじゃなくてウミガメだべ。
悟飯ちゃん、挨拶には行くんだぞ、親しき仲にも礼儀ありだ」
チチのこの一声で明日の予定は決まるのであった。
(早く明日にならないかなぁ)
現在日向は自分のベッドに横になってしばらく経つが一向に眠れずにいた。
体は疲れているはずだが明日が楽しみでワクワクして眠れないのだ。
それでも眠ろうとして目を閉じているといつの間にか日向から規則正しい寝息が聞こえてきた。
漆黒の空間が広がっている。
何も見えず何も聞こえずそして何も存在しないそんな異質な世界に日向は立っていた。
日向は当初困惑していたがすぐに"見慣れてきた空間"だと高を括ると落ち着きを取り戻した。
そして立ち尽くす日向の視界に一筋の光が現れるとそれは徐々に映像となって日向の目に映る。
河岸に倒れている大木の上に青い鳥とそれを眺める悟飯の姿、やがて青い鳥は飛び立ち大木とともに泣きながら川に流される悟飯。
(全くもう…悟飯は仕方ないなぁ、明日お姉ちゃんが助けてあげるからね!)
映像が移り変わり次に日向が見たのは白い砂浜と青い海に囲まれた桃色の家、そこで大きな亀に乗っている悟飯を眺めながら笑い合う悟空を含めた4人の姿。
…しかしそんな幸せな時間も"一人の男"が現れたことによって終わりを告げた。
戦闘服を着た長髪の男が悟空を蹴り飛ばし、泣きながら助けを求める悟飯の襟を持ち上げる。
「うわぁーん!、お父さん、お姉ちゃん助けてぇー!!」
(……な、に…これ……)
映像が変わり今度は長髪の男が倒れている悟空を踏みつけている。
「死んでしまえ!カカロット!!」
(お願い……もう、やめて…」
再度映像が変わると悟空が長髪の男を抑え、その少し先には指先に気を溜めている緑色の男が見える。
「今だ!ピッコロぉ!やれーー!!」
「魔貫光殺砲ーー!!」
(やめてぇーーーー!!!!)
「ハァ、ハァ、ハァ、今、のは」
日向がベッドから飛び起きると窓から見える外はまだ
暗く、日の出前の早い時間だと分かる。
日向が辺りを見回すと、この部屋にもう一つあるベッドに気持ち良さそうな寝顔で眠る悟飯の姿が映った
その姿にホッと息をつくと日向は冷たい汗が流れる顔を手で覆った。
(あの感じは夢じゃない…けど、どうして…)
日向は自分のだした結論を否定する様に首を振った。
「…昨日"視た"ばかりなのに、なんで…」
俯く日向に窓から優しい光が照らしだす
日向の気持ちとは裏腹に"始まり"を告げる太陽が容赦なく昇った