筋斗雲…それは呼べばどこからともなくやってくる
不思議な雲であり、その最高速度はマッハ1.5にも及ぶ。
しかし現在では乗っている者は少ない。それは数もさることながらこの雲は清らかな心を持つ者しか乗れないというのも原因の一つだろう。
そして現在、数少ない乗り手の一人である孫悟空と、その子供である日向と悟飯の3人は筋斗雲に乗り、亀ハウスに向かっていた。
「しっかり捕まってろよ!特に悟飯、落っこちたらさっきみたいに助けられるか分かんねぇからな」
悟空の言葉に日向は首を傾ける。
悟空が言うには悟飯は森に出かけた後、あと少しで滝から落ちる所を悟空に助けられたらしい。
その話を聞いた日向は,しまった,という顔をしたかと思うと悟飯に謝っていた。
当の悟飯はいきなり謝る日向に不思議そうにしていたが…
「日向もだぞ!両手でしっかり捕まってろ」
日向は悟空の足に左手一本で捕まっていた。そして
"右手"は隠す様に背中にまわしている。
「お父さん、わたしは大丈夫だよ!いざとなれば飛べるから!」
そうこうしているうちに日向達の目にピンク色の家が見えてくると悟空は日向達を抱きかかえて砂浜に降り立った。
「よし着いたぞ!、ヤッホー!」
悟空がそう言うと家の中から3人の男女が出て来た。
「孫くん!久しぶり!」
「よぉ悟空!ってあれ、お前子守のバイトでも始めたのか?」
悟空はクリリンの言葉に日向達と視線を合わせると
「二人ともオラの子だ」
「「「ご、悟空の子供!?」」」
3人は背後にガーンという効果音がなりそうなほど驚く。
「あぁ変か?、……ほら挨拶」
「こんにちは」
「「「こ、こんにちは!」」」
悟飯の挨拶に亀仙人達はしどろもどろになりながら挨拶した。
「孫悟飯っていうんだ」
「悟飯?そうか死んだ爺さんの名前をつけたんじゃな」
「あぁそうだ。ほら日向も挨拶、…日向?」
悟空は日向の方に向くが、日向は亀ハウスを険しい顔で
見ていたが悟空の言葉にハッとなると
「孫日向です。…初めまして」
「あら!孫くんの子供にしては礼儀正しいのね」
「チチの奴がうるせぇーんだ」
悟空は二人に遊んで来なさいと言うと、悟飯はウミガメの所に、日向は波打ち際に歩いて行った。
「なぁ悟空、お前の子供ならやっぱり強いのか?」
「あぁ日向はオラがガキの頃よりよっぽど強えぇぞ!
あと2、3年もすれば…クリリン、抜かれちまうかもしんねぇぞ?」
「ま、まじか。ハハハ」
いたずらっぽく言った悟空の言葉にクリリンは引きつった笑みを浮かべ、今度は悟飯に視線を向ける。
「そ、それじゃあ悟飯?、くんも強いのか?」
「それがなぁ、てぇした
「なんで?日向ちゃんは稽古つけてるんだろ?勿体ない
じゃないか」
「だろ!何でも日向ちゃんは自分でやりてぇって言ってるから許すだども、悟飯ちゃんは違うだろ!ってよ。
これからは武道じゃなくて勉強の時代よ!って言うんだ」
「ハハハ!あの跳ねっ返りが中々の教育ママさんじゃったわけか」
ウミガメに乗る悟飯を見ながら4人は笑いに包まれた。
「…なぁ悟空、日向ちゃんって人見知りなのか?なんか
ソワソワしてるけど…」
クリリンの言葉に皆が日向に目を向けると、日向は
波打ち際で右手を押さえて、まるでなにかに警戒する様にキョロキョロしていた。
「いや、日向はどっちかつうとオラみたいにグイグイいくタイプなんだが、今日は朝から変なんだ。」
「変って?」
「行くのは止めにしねぇか?とか悟飯は留守番にしねぇか?とか言ってきてよ」
「ふーん、変わってるな」
「分かってないわねぇ、女の子にはそういう時があるのよ」
皆が日向の事で話していると、"その時"は訪れた。
「っ誰かがこっちにやってくる!!」
(……来る!!)
悟空に遅れること数秒、日向もそれに気付くとウミガメと遊んでいた悟飯の手を取り悟空達の元に駆け出した。
「…きっとヤムチャだわ、どこで聞きつけたんだか」
(すげぇ気だ!一体何だっていうんだ!?)
警戒する悟空達の前に戦闘服を着た長髪の男が降り立った。
「成長したなカカロット、親父にそっくりだ」
それからは驚きの連続だった。
男の名前はラディッツといい、悟空の兄であること。
悟空はサイヤ人という宇宙人で、ラディッツは悟空を仲間にする為に地球に来たこと。
そして…
「オラはお前達の仲間になんかならねぇ!!
さっさとけぇれ!!」
「そうか…それは仕方ないな」
ラディッツはブルマが庇うように抱き締めている日向達に視線を向ける。
「さっきから気になっていたがそいつ等はお前の子供だろ?」
「ち、違う!!」
「父親のお前が強情なのでな。子供を貸してもらうとするか」
ラディッツはそう言うと日向達に近づいて行く。
(…きた!!)
日向は背中にまわしていた右手に力を込める。
「来るなぁ!!」
悟空はラディッツに威嚇するがラディッツは止まる気配がない。
「それ以上近づいてみろ、ぶっ飛ばすぞ!!」
(…もう少し…)
ラディッツが一歩踏み出すと悟空も大地を蹴る
その瞬間…
(今だ!!)
日向はブルマの腕から抜け出すと、右手に溜め込んだ気を開放した。
すると日向の右手は目が眩むほどの凄まじい光に包まれる。
皆が驚く中、日向はラディッツに狙いを定めると、
「はぁーーーー!!!」
日向の右手から放たれた特大の光球はラディッツへまっすぐ飛んでいき、光球がラディッツへ着弾すると轟音とともに大爆発を起こした。
日向が自分の限界以上の気を溜めた気弾は砂浜を抉り、
爆風で吹き飛ばされた海水が雨のように皆に降り注いだ。その威力はブルマ達はおろか悟空ですら冷や汗を流す程の威力を秘めていた。
だが……
「ククク、カカロット。子供の教育はしっかりしているようだな、それでこそサイヤ人だ。」
砂埃が晴れた先には無傷で立っているラディッツの姿があった。
「素晴らしい威力だ、俄然興味が湧いたぞ!」
ラディッツは"日向に向けて"歩きだした。
「っ日向、逃げろ!!」
悟空は日向に叫ぶとラディッツに飛び掛かった。
しかし…
「邪魔だ!カカロット!!」
悟空は膝蹴り一発で戦闘不能にされてしまった。
「お父さん!?っこのぉー!!」
「日向ちゃん、だめぇー!!」
ブルマの悲鳴を背に日向はラディッツへ飛び掛かる。
日向は上下左右、そして時にはフェイントを織り混ぜながらラディッツへ拳撃を放つが
「フハハどうした!どうした!さっきので力を使い果たしたのか?」
常人では捉える事ができないほどの速度で振るわれる日向の拳をラディッツは上半身の動きだけで躱し続ける。
「っはぁーー!!」
ラディッツの言葉を聞いた日向は更に攻撃の速度を加速させるがそれでも結果は変わらず、日向の攻撃はかすりもしない。
「そら!顎先がお留守だぜ!!」
「がぁ………」
ラディッツが"軽く"放った拳が日向の顎を跳ね上げると、体ごと浮き上がった日向にラディッツは続けて掌底を叩きつけた。
すると日向は水切りの石の様に海面を数回跳ねた後、海の中に沈んでいった。
「き、貴様ぁー!!」
「喚くなカカロット、サイヤ人がこの程度で死ぬはずがなかろう」
「子供を殴るなんて最低!!」
「クク、それがサイヤ人だ」
(…強い…やっぱりわたしじゃあどうしようも……)
日向は海中で泣きそうになるのを耐える。
策は全て尽きた…朝から溜めた気弾も通じず、格闘戦ではまるで相手にならない。
こうなるのが分かっていた筈なのに何も変えられない自分の力の無さが嫌になる。
(何がみんなを守ってみせるだ…わたしじゃお父さんみたいには…)
海水ではない液体が日向の目から流れ出した時、日向の脳裏に声が聞こえてきた。
〈父ちゃんだって最初から今みたいに出来たわけじゃねぇ〉
〈父ちゃんの必殺技みたいなもんだな〉
日向の目に力が宿る。
(そうだ…まだ、わたしにも出来ることがある!)
日向は海中で体勢を整えると両手を腰に引いた
(…一度も成功してない技…もし失敗したら…)
〈お姉ちゃん、たすけてぇー!!〉
朝に視た光景なのか、本物の悟飯の声かは分からないが
それは確かに日向の耳に届いた。
(迷ってる時間はない!!)
(かー)
(めー)
(はー)
(めー)
日向の掌に青白い光球が出来上がり、暗い海中を照らしだす。
舞空術で一気に空中へと飛び出した日向が見たのは、泣いている悟飯に手を伸ばす
(お願い…!今だけでいいから上手くいって!!)
「波ぁーーー!!!」
日向の放ったかめはめ波は昨日の様な可愛らしい音ではなく、ジェット機の様な音を立て、青白い光がラディッツに向かって飛んでいった。
「ひ、日向、あいつ!?」
「か、かめはめ波だ!!」
悟空達の驚く声を余所にかめはめ波はラディッツに当たると大量の砂埃が舞い上がった。
「クク、まだこんな力が残っていたか」
砂煙が視界を埋め尽くす中で無傷のラディッツが予想以上の日向の力に笑みを浮かべている。
するとラディッツは視界の端に、悟飯に向かって手を伸ばす日向の姿を捉えた。
「狙いは良かったが、残念だったな!」
ラディッツは日向の体に自分の剛腕を叩きつけた。
だが…
「な、なにぃ!?」
日向の体はラディッツの攻撃をすり抜け、そしてゆっくり消えていった。まるで"残像"の様に
(上手くいった…)
本物の日向はラディッツの背後におり、ある"目的の物"に手を伸ばしていた。
(わたしも悟飯も昔から"尻尾"を握られると力が抜けて立っていられなくなった。お父さんの兄だって言うならきっと…)
ラディッツは腕を振り抜いた状態で、まだ日向の姿を捉えられていない。
(あと、もう少し……)
日向の指先がラディッツの尻尾に触れたその時…
「この、糞ガキがぁぁぁ!!!」
ラディッツは凄まじい反応速度で日向から尻尾を遠ざけると、手加減の一切ない"本気"の力で日向の腹を殴りつけた。
日向の体は、くの字に曲がり、耐えきれずに口から赤い液体を吐き出した。そしてあろうことかラディッツはそのまま日向の腹に気功波を放つ、すると日向は空の彼方に消えていった。
「日向ぁぁーー!!」
「クリリン!!」
「はい!!」
悟空は絶叫し、亀仙人はクリリンを強く呼び、クリリンは分かっています!と言わんばかりに返事すると、日向が飛ばされた方角に飛んでいった。
「チッ!殺してしまったか。まぁいいカカロットのガキはもう一人いるしな」
日向は既に亀ハウスから百キロ近く飛ばされていた。
やがて気功波の軌道から外れたのか、日向は解放されて海へ落ちていった。
海へ沈んでいった日向だったが数秒するとフラフラになりながらも海面から浮いてきた。
「ま…だ…お父さ…助け…な…きゃ」
そして日向は亀ハウスに向かって引き返し始めるが、
「…あっ……」
限界だったのか僅かに飛んだ所で力尽き、海へ真っ逆さまに落ちていく。
消えゆく意識の中で最後に日向が感じたのは海水の冷たさでは無く、誰かに抱き止められた温もりだった。