爆風が巻き起こり、土煙が辺りに舞い上がる。
閉ざされた視界が辺りに漂う焦げた様な匂いを強調する。
その傍らには、ペタンと座り込んだ日向が爆心地を見つめていた。
「な、にが、起こったの?」
日向は現状を理解できずにいた。いや理解"したくない"と言った方が正しいか…
さっきまでみんなで喜んでいたではないか。
さっきまで飛び跳ねながら"彼"は明るい笑顔を浮かべていたではないか。
土煙が徐々に晴れていく。
大丈夫だ。煙が晴れれば彼は何事も無く立っていて、自分に油断しすぎだと優しく注意してくれるはずだ。
だが日向が見たのはそんな幸せな光景ではなかった。
煙が消えると小さなクレーターが出来ており、その近くに栽培マンの残骸が転がっている。
そしてその中心に倒れているクリリンがいた。
「ク、クリリンさん!」
日向が彼の名前を呼ぶと、日向の後ろから腕を押さえたアンニンがクリリンの元に駆け寄り膝をつく
(…そうだ!アンニンなら!)
日向は思い出す、自分がラディッツに殺されかけた時も彼女は傷一つ残さずに治してくれたことを
「お願い、アンニン!クリリンさんを、助けて!」
日向の声を背にアンニンはクリリンに手を伸ばすが、すぐに手を下ろしてしまった。
「アンニン何してるの!?早くクリリンさんを…」
日向が言いきる前にアンニンは首を横に振った。
「そんな…クリリンさん、なん…で…」
崩れ落ちた日向はクリリンの事を思い出す。
〈日向ちゃん!無事か!?〉
〈日向ちゃん、今のは惜しかったな!〉
日向が思い浮かんだのは自分を心配し、時には笑顔で
フォローするクリリンの姿
…そんな彼はもういない…
(お父さんを助けたかっただけなのに…なんでクリリンさんが…)
〈わたしに力を貸して下さい!〉
その時、日向は弾かれたように顔を上げた。
「"わたしのせい"…なの?」
「そんな…クリリン…」
「くたばったか、悲しむことはないぞカカロット、すぐに同じ所に送ってやる」
「…クリリンは一度ドラゴンボールで生き返っている、もう二度と生き返えれねぇんだ」
「ドラゴンボール?まぁいい、それにしても馬鹿な真似をしたものだ」
「…なんだと?」
悟空の拳に力が入る。
「対して役に立たないガキの代わりに死ぬなんて、
"犬死に"以外の何物でもないな。」
「ッ貴様ー!!」
「日向、しっかりしな、日向!」
クリリンの所にいたアンニンだったが、俯いたまま動かなくなった日向を心配して側に来ていた。
「わたしが…言ったから…クリリンさんは…」
しかし日向はアンニンの声が聞こえていないようで、俯いたまま独り言を繰り返している。
「日向!、っ孫日向!!!」
アンニンが大きな声で名前を呼ぶと、日向の体がビクっと震えると揺れた漆黒の瞳がアンニンを見上げた。
「…アン…ニン」
「…立ちな、まだ終わってないよ。」
「無理だよ…わたしが行ったって…」
日向はそう言うとまた俯き始める。
するとアンニンは日向の小さな肩に手を置くと無理矢理、視線を自分に向けさせた。
「"おまえ"は何のために此処に来たんだ!!
あの時、私に言った言葉は嘘だったのか!!」
「っ…!」
アンニンの怒号が辺りに響く。
今のアンニンは日向に気さくに話す飄々とした彼女の姿は鳴りを潜め、八卦炉の管理者、太上老君に相応しい威圧感を放っていた。
「…そうだ、お父さん…」
日向の目に僅かに光が戻る。
…だが傷心する日向を運命は待ってくれなかった…
日向の耳に一番聞きたくない言葉が聞こえてきた。
「今だ!ピッコロぉ!やれーー!!」
日向が見たものはラディッツを羽交い締めにする悟空と指先に気を溜めるピッコロの姿。
日向が視たものと全く同じ光景がそこに広がっていた。
「あ…あ、やめて…」
日向は動けない体を引きずる様にして悟空の下に行こうとする。そして日向は己の腕をを伸ばす。…まるで行かないで、と引き止めるように。
…しかし…
「魔貫光殺砲!!」
「やめてぇーーー!!」
日向の叫びも虚しく、ピッコロの光線はラディッツと悟空を貫いた。
「日向!大丈夫か!?」
悟空が倒れ込むと同時に日向も力が抜けたように崩れ落ちた。
そんな日向を咄嗟にアンニンは抱き止めた。
「助けられなかった…お父さんを…わたしが弱いから」
アンニンの腕の中で日向は自問自答を繰り返す。
「救えなかったのに…なんでクリリンさんが死んだの?」
「っもういい日向!今は何も考えるな!!」
日向の様子に嫌な予感を覚えたアンニンが制止しようとするが、日向は言葉を止めない。
「全部…わたしが…クリリンさんを、殺…」
最後まで言いきる前に日向は首筋に軽い衝撃を受け、糸が切れる様に意識を失った。
片方の手を手刀の形にしたアンニンは倒れた日向を受け止めると、クリリン,そして悟空の方に視線を向け、何かに耐えるように歯を食いしばると日向を抱えて悟空の元に向かった。
「悟空…大丈夫かい?」
アンニンは声を暗くして悟空に聞いた。
悟空を見ればひと目で致命傷だと分かる。それでもアンニンは聞かずにはいられなかった。
「へ、へ、あんまり…大丈夫じゃあねぇなぁ…」
「……そうかい…」
アンニンの手に力が入る。
アンニンは心の何処かでラディッツを舐めていた。強いことは分かっていたが自分が本気で闘えば何とかなると…そう高を括っていた。
その結果がこれだ…アンニンが自分を責めていると
空から一台のジェット機が降りてくる、きっとブルマ達だろう。
「アンニン様…一つ頼みてぇ、ことがあるんだ…」
「なんだい悟空、言ってみな…」
いつもとは比べものにならない位、小さい悟空の声を聞き逃さないようにアンニンは耳を澄ました。
「アンニン、様に、日向の事を…任せてぇんだ。」
「…私に?いいのかい?」
「ああ、きっとアイツは…自分を責めると思う
…だから…アンニン様、気にかけて…やってくれねぇか…」
消え入りそうな声を上げる悟空を安心させる様にアンニンは笑顔を"作る"と
「任せな!きっとアンタが生き返ったら、びっくりする位強くなってるだろうさ!」
「へへ、日向…はオラのライバル…だから…な」
アンニンにつられる様に悟空は笑う。そこへ
「孫くん!!」
「悟空!?ク、クリリンもか…」
ジェット機から降りたブルマ達がやって来た。
そこへピッコロが来ると、この件の当事者達に情報を共有し始める。
一年後にラディッツを上回るサイヤ人が2人来るということを
…そして…
「じっちゃん…死ぬってのは…嫌なもんだな」
「ま、まぁの…安心せい、すぐドラゴンボールで生き返らせてやるからの!」
「ぁ…頼…む…」
最後に小さく微笑むと悟空は力尽きた…
悟飯はピッコロが連れて行った。
高い潜在能力を持つ悟飯を鍛え上げて一年後に備えるつもりだろう。
そして日向を抱いたアンニンも去ろうとしていた。
「ではアンニン様、日向のことを…」
「分かってるさ…責任を持って見てるよ…この子の"傷"は深すぎるからね…」
そう言うとアンニンは浮き上がり、五行山を目指して飛び立った。
しばらく飛んでいたアンニンだったが、彼女は嫌悪感を覚えていた。それは"何が"と聞かれれば困ってしまうような些細な違和感だった。しかしそれは気のせいなどではなくアンニンの視界が歪むと、さっきまで空にいたアンニンは荒野の上に立っていた。
「一体…何が…」
「その子を渡してもらえないかしら」
アンニンが咄嗟に振り返るとそこには青い肌をした妖艶な女と屈強な男、トワとミラが立っていた。
「…またあんた達かい…何故、日向を狙う!
この子が一体何したっていうんだい!!」
まだ赤子の時に命を狙い、日向が傷つき、悲しんでいる時にまた襲ってきたこの二人をアンニンは許せなかった。
「…また?…まぁいいわ。もう一度言うわよ、孫日向を渡しなさい」
トワの言葉にアンニンは薙刀を創り出し、それを一振りすると戦闘態勢に入る。
「渡せと言われて、渡すはずないだろ!」
「なら力づくで奪うしかないわね。」
トワの言葉に呼応するようにミラが腕組みを解き、構える。
(ッくそ!こんな時に!)
栽培マンに折られた腕は完治していない。
気を抜けば震えそうになる腕に力を入れ、アンニンは薙刀をミラに向ける。
すると真紅の弾丸とかしたミラがアンニンに迫るが…
「……ぬっ!……」
ミラとアンニンの距離が零になる瞬間、ミラは突如飛び退いた。
すると先程までミラがいた所には剣を振り抜いた紫色の髪の青年がいた。
「アンニンさん!俺が時間を稼ぎます。今のうちに逃げて下さい!」
「あ、あんたは…」
「いいから急いで!!」
アンニンは言いたい事、聞きたいことが沢山あったが、今自分がしなければいけない事を思い出し、空に飛び立った。
「逃さないわよ、ミラ!」
ミラはアンニンを追おうとするが、剣を持った青年が先回りしてそれを許さない。
「ミラ!お前の相手は俺だ!はぁー!!」
青年が叫ぶと紫の髪が金色になり、パワーが大きく跳ね上がると金色と
「ハァ、ハァ、ハァ」
「ハァ、ハァ流石に手強い…」
二人の戦いは熾烈を極めた。
互いの力は拮抗していて、二人の体には無数の傷がついている。
「ミラが押されてる!?ここまで力を付けてたなんて…っミラ退くわよ!!」
「トワ?俺はまだ闘えるぞ。」
「いいから来なさい!!」
トワはミラの言葉を聞かずに無理矢理、手を引くと消えていった
「急に…どうしたんだ…ん?」
困惑した青年は剣を収めると自分の視線の先に人影があるのに気付いた。
その人物は頭からすっぽりとローブを着ており、何かを探す様にキョロキョロしていた。
だがやがて青年と視線が交錯すると…
「……がッ!!」
ローブの人物の拳が青年の腹にめり込んでいた。
すると青年の髪が金色から元の紫色に戻り、意識を失ったのか膝から崩れ落ちた。
「……………」
ローブの人物はそれをつまらなそうに見ると、音もなく消えていった。