学校で詩乃と別れた後、遊作は『Cafe Nagi』へと向かっていた。先ほどの詩乃の言葉を思い出しながら。
(彼女の言っていた『アレ』とは何だ?)
高校に入学してからおよそ半年。別段何か大きなトラブルは無かった筈だと、遊作は自身の記憶から算出する。
生徒が学校にいる教師のほとんどから避けられているなど、どう考えてもおかしい。
疑問が解決せず、もどかしく思いながら遊作は『Cafe Nagi』へと急いだ。
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『Cafe Nagi』に着くと、遊作は屋台に設置されているコンピューターで情報を集めていた。
無論、詩乃の件である。考えれば考えるほどおかしな話だと思われたため、『Cafe Nagi』に着いてすぐに調べ始めたのだ。
「やはり高校のホームページには問題が起きたというような記事はないか」
「こっちもだ、遊作。ニュースサイトや新聞社のサイトにもお前の高校についての記事は無い」
遊作の調べ物に草薙もまた付き合っていた。
普段から他人に無関心な遊作が、一人の女子生徒が抱える問題の原因について調べると言った時は、驚いて数秒立ち尽くしてしまった。
それでも草薙は遊作が自ら他人に関心を寄せたことに心の内では喜んでいた。
どんな形であれ他人に意識を向けることは、遊作にとって大躍進だと思ったからだ。
これが切っ掛けとなり、人との『繋がり』を増やしてくれたらと草薙は願っていた。
それでも遊作が求めているような情報は浮かんでこなかった。
「・・・ん?これは・・・」
そんな時、遊作が1つのサイトを見つけた。そのサイトは遊作が通う高校の生徒だけが利用できる掲示板だった。
「こんなサイトがあったのか」
『結構活発に書き込みされてるんだなぁ』
サイトを閲覧しながら遊作とAiは各々感想を述べる。
「遊作、お前自分の学校に掲示板があるの知らなかったのか?」
「ああ。こんなものがあるなんて話は聞かなかったからな」
『まあ遊作の場合、教えてくれるような友達いないもんな』
草薙の言葉に返事をしつつ、遊作は掲示板の書き込みを遡っていく。何か手掛かりがないものかと。
「・・・・半年前まで遡ってみたが、手掛かり無しか」
「まぁ、本当に何か問題が起きていたとしても、学生の掲示板には載らないだろう。深刻であればあるだけ学校側も慎重になるだろうからな」
遊作の成果なしという言葉に草薙は手を頭の後ろで組ながら返答した。これ以上調べても無駄だろうというニュアンスを含めながら。
そもそも本当に深刻な問題だった場合、学校側が隠蔽したとすればネットにその情報が載ることは無い。
デジタル媒体に情報が無いのでは、いくらハッキングで情報を集めようと無意味なのだ。
「・・・いや、草薙さん。もう1つだけ、できることがある」
「はぁ?他に何が?」
「掲示板の削除された書き込みだ。もしこの掲示板内で何かあったとしたら、草薙さんが言うように学校側が削除しているかもしれない」
そう言って、遊作は掲示板のサイトにハッキングして削除された書き込みの復元に取りかかった。
最初こそきょとんとしていた草薙だったが、遊作の言い分にも一理あるとして、遊作の作業をアシストしていく。
そうして見つけた答え。今年の5月末に書き込まれた内容は、衝撃的なものだった。
「これは・・・」
「・・・酷いな」
『あ~あ、学生とはいえ品のない書き込みだな』
遊作は書き込みの内容に絶句し、草薙は書き込みに含まれる悪意に嫌悪感を示す。Aiもまたその書き込みを批難していた。
そこに書き込まれていたのは5年前、東京から離れた地方の田舎町で起きた強盗事件の内容だった。
当時11歳だったある少女が郵便局に押し入った強盗を拳銃で射殺してしまったという内容だった。
その少女こそ朝田詩乃であった。
更に書き込みには〈人殺し〉、〈血にまみれた女〉など詩乃を悪人扱いする内容が続いていた。
「・・・・・・・・・」
『ゆ、遊作?』
この書き込みには流石の遊作も怒りを露にしていた。だがそれは詩乃を批難する内容についてではない。それに関しても思うところは山ほどあるが、真に遊作が許せないのは過去の事件を掲示板で暴露していることだった。
恐らく朝田詩乃にとっても忘れ得ないであろう事件。下手をすれば、今尚苦しんでいるかもしれない心の傷。
遊作自身、過去の事件に苦しんできた人間だ。幼少の頃に負った傷はどれ程の時間が経とうとも消えることは無いと知っている。
だからこそ、掲示板という閉鎖的なコミュニティで人の過去を暴き晒し上げたことが遊作は許せなかった。
「遊作、お前の気持ちはよくわかる。だかここから先どうする気だ?」
静かに怒りを滾らせる遊作に対し、草薙が冷静に言葉をかける。
「恐らくこれが、その朝田詩乃という女の子が言っていた『アレ』の意味する事なんだろうが、もう3ヶ月も前の事だ。今さらアクションを起こしても遅いだろ」
これがもし、起こってすぐの事であったらなら、何かしら出来ることがあったかもしれない。
だが既に状況は固まっている。今さら蒸し返したところで、状況は動かない。
「・・・確かにこの掲示板の件ではもう出来ることは無い。だが俺が気になっているのは、コレが原因であるとしても何故教師まで朝田詩乃を避けているのかだ」
『どうせ人殺しと関わりたくないとかじゃないのか?人間は情報に対して表面的な事しか見ないからな。内容が歪められていたり、切り取られていたりしても、そんなこと疑ったりしないからな』
「・・・まぁ、単に接しづらいというのもあるだろうな。下手に関わって彼女の地雷を踏むのが怖いんだろう」
草薙とAiの見解を聞き、遊作自身もそんなところだろうと辺りをつけた。
そしてこの暴露記事の書き込みを行った犯人を突き止めようとしていた。
匿名で書き込みができる掲示板だか、サイト自体が学生だけが入れる形式のため、ログを辿れば誰による投稿かすぐにわかった。
『アレ?こいつの名前って』
「・・・ああ、遠藤。先程朝田詩乃を囲んでいた3人の一人だ」
朝田詩乃と遠藤の間に何があったのかは定かではない。だが人の過去を晒すなど、余程のことが無い限りしないだろう。
『だったらこの遠藤って奴がやったみたいにこいつの昔の恥ずかしいことを暴露するか?』
ニヤニヤしながらAiは遊作に尋ねた。こういう事になるとAiはやる気を出してくる。本人にとっては軽いイタズラ感覚なのだろう。
「そうしたら奴らと同じだ」
もっともAiの提案を遊作は即座に却下した。人の過去を覗き見ることを忌避する遊作にとってその選択をすることは無い。
「じゃあこのまま放っておくのか?」
「・・・いや、ここまで知ってしまった以上手は打つつもりだ」
かといってこのまま黙っているつもりもないと遊作は告げる。
『じゃあどうするんだ?』
「・・・Ai、お前のことだ。喝上げの現場は録画しているんだろ?」
『もちろん!Aiちゃんバッチリ撮ってま~す!』
胸元にしまってあった状態でどうやって録画したのかは定かではないが、ああいう場面ではAiは野次馬根性全開で現場を押さえるのだ。
「録画って・・・その喝上げの現場か?」
「ああ。遠藤達の喝上げは今日が初めてではなさそうだったからな。区内の防犯カメラの映像を探せばいくつか見つかるだろう」
「?・・・ああ、そういうことか」
その後、遊作と草薙は文京区とその周辺の町の監視カメラの映像から、喝上げの現場が記録されているものを探し回った。
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下足場で遠藤達に詰め寄られた翌日、詩乃はいつものように高校へ通学していた。
詩乃は高校へ通う有用性を理解できなかった。無気力な教師の講義を聞き、幼児期から何一つ成長していないのではないかとさえ思う連中と半日を過ごすことを非常に面倒に思っていた。
だが自分の実質的な保護者である祖父母のためと、自分に言い聞かせてきた。
遠藤によって自分の過去について殆どの生徒に知られてしまっており、詩乃に声をかけるような者はいない。
精々クラスの委員長が連絡事項を伝えてくるだけだ。
それについての不満は詩乃には無かった。むしろ都合が良いとさえ思っていた。
自分を守れるのは自分だけ。周りは全て敵。そうやって自分の心を守っていた。
(・・・でも驚いた。他クラス、他学年の人間ならともかく、同じクラスの人が暴露された私の過去を知らないなんて)
昨日の遊作の態度に詩乃は心底驚いていた。忘れているならまだしも何も知らないといった様子の遊作に。
(まぁ、興味の無い人も当然いるか)
誰もが自分を知っているなどと、自意識過剰だと詩乃は自分自身に呆れつつ教室に入る。
今日もまたいつものように無意味な時間が流れるのだとうんざりしながら、詩乃は教室のドアをくぐった。
だが、教室の空気は明らかにいつもと違った。異常と言っても良い。
クラスのほぼ全員が数人のグループで集まってスマホを覗いている。
そして詩乃の存在に気がつくと、いつものような不愉快な視線ではなく、どこか同情を含んだ視線を向けつつヒソヒソと何かを話し込む。
違和感を感じつつも自分には関係ない、他人と群がるつもりはないと、澄ました顔で自分の席へと着く詩乃。
するとクラスでも比較的友好的な女子生徒が詩乃の下に駆け寄ってきた。
「朝田さん!これ!」
「えっ何?・・・は!?」
そう言って差し出されたスマホにはある動画が再生されていた。そこに映っていたのは、、、、
詩乃だった。
正確には、遠藤達3人によって囲まれ苦しめられている自分だった。
《・・・なぁ朝田ぁ~お前銃好きだもんなぁ~》
《あっ・・・あ、ぅぅ・・・》
音声も再生され、いよいよこれが紛れもない自分達なのだと理解する。
動画の中では遠藤が指をピストルの形にして詩乃に向けていた。次の瞬間、詩乃の様子は一変した。
胸元を押さえながら、苦しそうに膝をつく。
《なんか朝田調子悪そうだしさぁ~持ってるだけで良いや、金置いていって》
その様子を見て、遠藤は詩乃に金を置いていくように告げている。
詩乃の過去を知るこの学校の生徒はその殆どが、詩乃に銃に対する耐性が無いことも知っている。
この動画を見れば、どちらが悪かなど火を見るより明らかだった。
「・・・・・・・」
差し出されたスマホには他にも似たような動画があった。どれも詩乃には覚えがあるものばかりだ。
「・・・ねぇ、コレどこで見つけたの?」
「え?これ、学校の掲示板に投稿されてたの・・・・その、朝田さんの事件が投稿されてたあの掲示板」
帰って来た答えを聞き、急いでその掲示板を覗く詩乃。
過去を暴露されたあの掲示板を2度と開くつもりはなかった詩乃だったが、今回ばかりは開かざるを得なかった。
見れば確かに幾つかの動画が投稿されていた。中には自分ではなく他の女子生徒も詩乃と同様に喝上げを受けている動画もあった。
その内1つは昨日の下足場での喝上げの動画もあった。
「誰がこんな・・・」
当然の疑問だった。誰がこんなものを流したのか。それにその理由もわからなかった。
(あの人たちはどうしてるのかしら)
詩乃はこの動画に映っている遠藤達は今どうしているのか気になった。
しかし、彼女達の方を向こうとし既の所でそれを止めた。
今彼女達の方を見て、目が合ってしまえば自分が仕組んだことだと決めつけてくるだろうと思ったのだ。
彼女達には動揺したままの自分を見せておくことがベストだと考えた。
暫くして数名の教師がやって来た。1限目は自習であることを伝え、詩乃と遠藤達3人を個別に呼び出した。
「朝田さん。学校の掲示板に上がっていた動画は知っていますか?」
「・・・はい」
「あれは、その・・・事実ですか?いえ、聞き方を変えます。あなたは遠藤さん達にあのようなイジメを受けていますか?」
学校側も今回のことを有耶無耶にする気は無いらしい。
動画が真実であるのか、イジメを受けているのか、そういったことを詩乃に聞き始めた。
詩乃は最初こそ正直に言うべきか迷っていたが、学校側が動いた以上遠藤達の面倒事を解消するには良い機会だと正直に話した。
結局話は1限の時間だけでは終わらず、2限目の終わりまで続いた。
詩乃が教室に戻ると数名の女子生徒が詩乃の周りに集まってきた。
口々に色々と聞いてくる女子生徒達。中には自分も遠藤達に少なからず嫌がらせを受けていたという者もいた。
そんな彼女達に戸惑いながらも、詩乃は大雑把に内容を話すのだった。
後日、学校側は遠藤達に停学処分を下した。
結局、動画の投稿主は掴めなかったため校内では様々な憶測が飛び交った。
幸いにも詩乃自身が遠藤達にやり返したのではという噂が立つことはついぞ無かった。
~次回予告~
遠藤達の悪事は何者かによって詳らかにされた。嫌がらせをする者がいなくなり、詩乃を苦しめていた現状は打破された。
しかし詩乃が抱いた疑念は何一つ消えてはいなかった。
「一体誰が、何のために・・・」
次回SAO×VRAINS(仮題)
「Aiのキューピッド」
イン・トゥ・ザ・ブレインズ!