サイド3 ギレン邸
やあ…諸君。ギレン・ザビである。
今日は、太陽がまぶしく照り付ける褐色の大地に、かつてイスラム勢力が作り上げたエキゾチックな風景が広がるスペイン南部アンダルシアに来ている。
かつてはスペインを代表する観光地として世界中の人々を惹きつけたアンダルシア地方であったが、今は各地で繰り返された環境破壊により生じた数多くの難民で溢れかえっていた。
何故こんな所にいるのかと言えば、先日サイアム・ビストから届いた手紙が関係していた。
手紙によると、地球に逃れたジンバ・ラルは当初アナハイムの支援を受けてのクーデターを計画していたらしい。
だが、サイアムの指示によりアナハイムからの支援は中止となり、それでも諦めきれないジンバ・ラルは、今度は地球連邦政府と接触を試みているようだと記されていた。
このままだとキシリア機関にテアボロ邸が襲われて、キャスバル達から怨みを買ってしまうのだが、ジンバ・ラルがクーデターを企てているような状況では、流石にキシリアへ襲撃を止めろと言う事も出来ない。
仮にジンバ・ラルが連邦政府の支援を得て、ダイクンの遺児を旗頭に反旗を翻したら一大事だからな。
なのでジンバ・ラルの庇護者であるテアボロと交渉し、無駄な戦いを止めるため、わざわざ地上へ降りて来たのである。
「ギレンおじ様!?」
ランバ・ラルを護衛に伴って、アルハンブラの街にあるテアボロの屋敷を訪れると、ショートカットの金髪と青い瞳が特徴的な少女が出迎えてくれた。
「こうして直接会うのは私が入院していた時以来だな、アルテイシア。いや、今はセイラだったか。元気そうで何よりだ。」
「はい、ギレンおじ様。でも地球に来てからずっとお手紙でお話ししていたので、ちっともそんな気がしないの。何だか不思議。」
「私もだ。以前に送ってくれた写真よりずっと大きく、美しくなっていたので驚いたぞ。」
「ウフフ、お上手ですこと。そう言えば、この前は欲しかった医学書を送ってくれてありがとう。」
「構わんよ。難民を救うため医師になりたいという志は素晴らしいものだ。大切にしなさい。」
そう。実はルシファを送り届けた事がきっかけとなり、セイラとはずっと手紙で文通していたのだ。
本来、ダイクン一家はザビ家の脅威から逃れるため地球へと逃げたハズなのに、何故かそのザビ家の長男とダイクンの娘が手紙で文通するという謎の状況に陥っていたのである。
因みにセイラの写真を見つけたアイナの機嫌が何故か悪くなり、色々と大変だった事については黙っておこう。
そんな風にセイラと談笑していると、奥から恰幅のよい老紳士が姿を現した。パッと見樽みたいな体型の太ったおっさんだが、眼光は鋭くどことなく切れ者の感じがする。
「セイラ、お話しはそのくらいにしておきなさい。ようこそ私の屋敷へ、ギレン・ザビ閣下。」
「お邪魔している。ドン・テアボロ。我等ムンゾの民の面倒を見てくれている事、陰ながら感謝している。」
「はて、そのような者はここにはおりませんが、話は奥で伺うとしましょう。」
そう言うテアボロの案内で向かった部屋の中には、アストライアの姿があった。
「ご無沙汰しております。アストライア様。いえ、今はルヴィア・マスと名乗っていらっしゃるのでしたか?」
「ええ、サイド3を出る際はお世話になりました。お陰で、子供達と幸せな時間を過ごさせて貰っています。」
「それは何よりです。ただ、一人そうでない人物がいるようでしてな。本日はその件で参りました。」
「と、言われますと?」
アストライアの隣に座ったドン・テアボロが、そんな質問を投げ掛けてくる。
「私は、ダイクン家の方々がこの地で静かに過ごされるのであれば、干渉するつもりはありませんでした。
ですが現在、ジンバ・ラルが地球連邦政府とコンタクトをとりクーデターを企てているようです。流石にそのような動きを放置しておく訳にはいかず、こうして参った次第です。」
「なんと……。どうしてそんなバカな事を…どうやら私の監督不足だったようだ……。誠に申し訳ない……。」
ジンバ・ラルの動きを知らなかったのだろう。テアボロが頭を深々と下げて謝罪し、アストライアもまた顔色を蒼白にしている。
まあ、自分が知らない間に一緒に暮らしている人がクーデターを計画していたら普通そうなるよね。
「お二人からの謝罪は不要です。アストラ…、ルヴィア様やドン・テアボロがご存じであれば、ジンバ・ラルの無謀な企みは止めて頂けたでしょうからな。」
そもそも連邦の支援を受けてクーデターを成功させたとしても、今度は支援してくれた連邦に頭が上がらなくなってしまい、ジオン独立どころではなくなってしまうだろうに。
「勿論だ。知っていればそんな無謀な事を許すハズがない。二度とそんな事をせぬようジンバをきつく叱り、今後は監視の者もつけよう。なので今回は穏便に済ませて頂く訳にはいかないだろうか?」
「私としてはそれで済ませたい所だが、そうもいかんのだ、ドン・テアボロ。
ジンバ・ラルの軽率な行動のせいで、連邦政府にダイクンの遺児の存在と居場所を知られてしまったのだ。
連中はジンバ・ラルが使えぬと知れば、直接ダイクンの子らを拐って自ら操ろうとするだろう。
ドン・テアボロ、貴公に連邦からダイクンの子らを守り切るだけの力はおありか?」
原作でもラプラスの箱を奪うために特殊部隊を投入したり、コロニーレーザーでコロニーごと消そうとした組織である。
「ダイクンの遺児」というジオンに対するジョーカーの存在を知り、それが自分の庭である地上に住んでいるにもかかわらず、それを放置するような事はしないだろう。
「それは……。その辺のチンピラが相手ならともかく、強大な連邦からあの2人を守ってやるほどの力はありません……。では私はいったいどうすれば良いというのですか?!」
「ドン・テアボロ、ルウムに住んでみる気はないかね?」
「ルウム?サイド5?のですか?」
「そうだ。あの地のテキサス・コロニーを、私は個人で所有している。建設途中で放置されていたコロニーをある目的のために購入したものだが、工事をさせて現在は十分に使用に耐える状態になっている。」
元々はモビルスーツの地上試験用として購入したものだが、カモフラージュのために人が住める用に改修して既に移民者もいる。生活していく分には困らないだろう。
「そのテキサス・コロニーへ私達が?なぜ?」
「個人の所有物なので、人や物の出入りを完璧にコントロールできる。さすがの連邦も、私が所有しているコロニーの中に潜入して人を拐うのは容易ではなかろう。どうかね?」
まあ容易ではないが、不可能な訳でもないので警備は強化しなければならないが。
「……。ありがとう。弱い私には他の選択はなさそうだ。ルヴィア、それで構わないかね?」
「ええ、貴方。あの子達と一緒に暮らせるのなら私は何処でも構いません。」
「結構だ。ではルウムに入るまでは護衛としてランバ・ラルを置いておこう。必要な支援があれば奴に言うが良い。」
「……ジンバについてはどうしたら良い?」
「好きにするが良い。本人が死ぬまで夢をみたいというならそのまま放り出してやれば良いし、ルウムに来たいというなら連れて来て構わん。ただ、二度とこのような真似は許さないがな。」
最早ジンバ・ラルにはなんの価値もない。強いて言えば面倒を見てやる事でランバ・ラルに恩を売れる位だ。
「わかった……。」
何はともあれ、無事にダイクン一家との無駄な争いを避けれたようで良かった。後は、アイナ達へのお土産を何にするかセイラに相談してみるか。
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side セイラ・マス
ザビ家の長男で、眉なしのお顔が怖いギレンおじ様。
私がおじ様を慕うようになったのは、病院でたまたま居合わせた私の話を真剣に聞いてくれて、その願いを叶えてくれたのがはじまり。
お髭が痛いお父様を亡くして悲しむ私達一家を待っていたのは、自分たち以外の大人の都合で振り回される日々だった。
お父様のお葬式の帰りに変な人達に車を囲まれ困っているところをザビ家の人に助けられたり、ジンバのおじさまのお家で一息ついたと思ったら急に嫌なローゼルシアのおばさんのお家に行けと言われたり。
そして、お母様と別々のお部屋にされたと思えば、今度はお母様を置いてお兄様と二人で地球に行けという。
そんな日々に耐えきれなかった私は、熱を出して倒れてしまい、急遽ジオン共和国中央病院へと運ばれる事になった。
病院では「風邪」と診断されてすぐ家に帰る事になったけど、帰ったらお母様と離れ離れになってしまうと思った私が病院の中庭でしょんぼりしているところに「何かあったのかな?ダイクン家のお嬢さん。」と声をかけてくれたのがギレンのおじさまだった。
眉なしのお顔がちょっぴり怖かったけど、お母様から人を見かけで判断しては駄目よ。と言われていた事と、この前ザビ家の人に助けてもらった事を思い出し、思い切って「今度お母様と離れ離れになってしまうかもしれないの……。」と打ち明けてみた。
すると、私の頭を撫でながら「大人の都合で嫌な思いをさせてすまない。どうなろうと必ずお母さんと一緒に暮らせるように取り計らおう。私に任せておきなさい。」と言ってくれた。
家に帰って暫くすると、ハモンお姉さんがお母さんと一緒に地球へ行けるようになった事を知らせに来てくれた。
喜びのあまり私が一緒に行けるようになった理由を聞くと、答えにくそうにギレンおじさまが支援してくれる事になった事を教えてくれた。
それから迎えに来た戦車にびっくりしてルシファが逃げ出したりとか色々あったけれど、それがきっかけでこうしておじ様と文通出来ているのだから、ひょっとしたらルシファはキューピットなのかもしれないわね。
アイナ様に似合いそうな機体は?
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アプサラス
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ビグ・ラング
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ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
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アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)