ジオン共和国中央病院VIPルーム
やあ……諸君。ギレン・ザビである。
前回、見舞いに来てくれたドズルにアイナ様を世話係に欲しいと頼んでみたところ、二つ返事で来てくれる事になった。
だが、アイナ様が来てくれる事に浮かれていた俺は、一つの重大な問題に気がついていなかった。
原作でこそ緑がかった銀髪の美しい美少女であるアイナ様だが、今はまだ原作開始の10年以上前である。つまりどういう事かと言うと……。
「ア、アイナ・サハリン14歳です。この度、閣下のお側で働かせて頂く事になりました。どうかよろしくお願い致します。」
まだ14歳だったという事だよ!
史実と違って年齢一桁とかでなかっただけマシかもしれないが、それでも見舞いにきたデギンに
「ギレン。お前はいつからロリコンになったのだ?」
などと言われてしまった。流石に自分で指名しておきながら年齢を知らなかったとは言えないので、
「セシリアが優秀そうと言っていたのを思い出しましてな。素質さえあれば年齢など大きな問題ではありません。なに、子供に手を出したりしませんよ。」
などと言って誤魔化すしかなかった。
幸いアイナ様……。アイナ様だと何か違和感があるので、これからはサハリン嬢と呼ぼうか。
幸いサハリン嬢は親身になって俺の世話をしてくれており、その頑張りが周囲に認められる形で、俺のロリコン疑惑も次第に薄れていった。
さて、俺がロリコンではないかと疑われている間にも時計は進み、気がつけばダイクン一家はラル家からローゼルシア邸へと移っていた。
リハビリのために病院を散歩している時に偶然出会ったアルテイシアから、「今度お母様とお別れしなくちゃいけないかもしれないの……。」と相談された事からも、このまま放置すればアストライアとキャスバル達が離れ離れになってしまい、ザビ家がダイクン一家に恨まれる事間違いなしである。
……そう言えば、良く考えるとダイクン一家が離れ離れになったのって別にザビ家がした訳じゃないよね?
悪いのはローゼルシアの婆かジンバ・ラルじゃね?
ともかくこのままだと、この件で後々キャスバルに恨まれて復讐されたり、ダイクン派の人間と衝突したりして面倒な事になるので、ここでダイクン一家の逃亡を阻止してそれをネタにダイクン派を弾圧するか、若しくはダイクン一家の逃亡を支援してダイクン派との融和を図るか決める必要があった。
原作通りの展開を目指すのであればダイクン派の弾圧一択なのだが、ダイクン派にも優秀な人材が数多くいる事を知っている俺としては、不要な弾圧で無駄な軋轢を生むのはどうかとも思う。
どうするべきか悩んでいる所にたまたま見舞いに来たデギンに相談した結果、今後はダイクン派との融和を目指していく事になった。
デギンからは「腹芸をできるようになるとは成長したな。」などと誉められたが、よく考えれば最初から迷う必要などなかったかもしれない。
何故なら、我らジオンに同じスペースノイド同士で争っている余裕など何処にもないのだから。
その後はドズルに頼んでランバ・ラルを病室へと呼び出してもらった。
「失礼します。」
「よく来たな、ランバ・ラル。今日は貴様に頼みがあってな。」
「は……。自分に、でありますか?」
「そうだ。お前以外には頼めない事だからな。」
そう言うと、怪訝な顔で此方を見てくるランバ・ラルにとっておきの爆弾を爆発させる。
「何、それほど難しい事ではない。お前がダイクンの遺児を逃がす時、アストライアも一緒に逃がしてやって欲しいというだけだ。」
「!!!!!」
歴戦の武人であるランバ・ラルが絶句して後ずさった事からも、その時に受けた衝撃の大きさが見てとれた。
「な、何の事でしょう?」
「ふん、隠す気ならこの程度の事で動揺をみせるな。貴様がダイクンの遺児と、ジンバ・ラルを地球へ逃がそうと動いている件についてだ。
アストライアまで一緒に逃げると、騒ぎが大きくなりすぎて逃げ切れないと考えてダイクンの遺児だけ逃がす事にしたのだろうが、そちらへの対応は此方で引き受けよう。
なので遠慮なくアストライアも一緒に逃がしてやると良い。」
「……。」
「これを受け取れ、貴様が私の特命で動いている事を証明する命令書だ。それがあれば、厳戒態勢下でも問題なく検問を突破することができるだろう。」
半信半疑といった顔で命令書を受け取ったランバ・ラルだったが、命令書を確認し、その中身が私の言った通りのものである事を確認すると重い口を開いた。
「お考えをお聞かせ頂けないでしょうか?ザビ家であるあなたが、何故ダイクン一家を逃がす事に力を貸そうというのです?」
「今のザビ家の繁栄は、ダイクンの存在があったからこそのものだ。故に我らはダイクンに対して大きな借りがある。その借りを、ダイクンの家族に返す事は特段おかしな事ではあるまい。
ああ、ジンバ・ラルを見逃すのはダイクン一家を見逃すついでだ。ランバ・ラル、貴様に貸し一つだぞ。」
三日程かけて考えた理由を説明すると、ランバ・ラルは腑に落ちない様子ながらも一礼して退室していった。
あのランバ・ラルの驚き様……。頑張ってポーカーフェイスを練習した甲斐があったというものだ。
これで、キャスバルのザビ家への恨みも多少は軽くなるだろう。
ランバ・ラルが退室した後は、サスロにジンバ・ラルとダイクン一家の逃亡を見逃すように指示するとともに、逃げ出したタイミングを逃さず議会を掌握するよう命じた。
ふふふ……。何か今日の俺ギレンっぽくね?
一一一一一一一一一一一一
side アイナ・サハリン
ある日学校から私が帰ると、兄が興奮した様子で話しかけてきました。
「アイナ、喜べ!ギレン閣下が側仕えとしてお前を使いたいそうだ。サハリン家を復興させるチャンスだぞ!」
「ギレン閣下……ですか?」
「ああ。閣下は先日の爆弾テロで傷を負われ、日常生活に支障をきたしておられるようでな。そこで身の回りの世話をする人間として、お前に白羽の矢が立ったのだ。アイナには明日からギレン閣下の下へ行き、閣下の身の回りのお世話をしてもらう。」
「……。わかりました……。」
兄は私の知らない所で決めた事を一方的に伝えると、そのまま去って行きました。
学校で聞いた噂では、ギレン閣下はとても気難しい方だというお話でしたが、私などがお仕えして本当に大丈夫なのでしょうか…?
しかし、サハリン家復興のために日々骨身を削っていらっしゃるお兄様が望まれているのに、私が不安だからといって行くのを断る事などできません。
翌日、私は不安を胸に抱きながら、ノリスと共にギレン閣下の下へ向かいました。
病室に入り初めてお会いしたギレン閣下は、鋭い眼光と眉なしの顔のせいか、噂通りとても気難しい人のように感じました。
ですが、緊張しながら私がご挨拶すると
「体が上手く動かなくてな。迷惑をかける事もあるかもしれないが、どうかよろしく頼む。」
と、思っていたイメージとは違う丁寧なお言葉を頂きました。
その後ノリスが退室して私がソファーに緊張しながら座っていると、ギレン閣下が苦しそうな顔をされました。思わずお加減を伺うと、
「ああ、ありがとう。若い娘さんと一緒にいるのに慣れていなくてな……。緊張しすぎて腹が痛くなってきた……。」
などと眉なしの仏頂面でおっしゃられものですから、私は思わず笑ってしまいました。
先入観から勝手に恐ろしい人だと思い込んでいたギレン閣下も、私と同じように人と一緒にいるだけで緊張して、そのせいでお腹を痛めたりする普通の人である事を知り肩の力が抜けた瞬間でした。
それからギレン閣下をトイレまでお連れした後は、二人で色々とお話をさせて頂きました。
この病室は広すぎて一人では落ち着かなかった事。
端末の使い方が上手く思い出せなくて困った事。
食事は洋食よりも和食が良いのに出る食事が洋食ばかりで嫌だった等々……。
特に、食事の際にニンジンは苦手なので抜いて欲しいなどと真顔で言われた時は、その人間味ある姿を見てまた笑ってしまいました。
そしてそれをご覧になったギレン閣下から、
「普段の人形のような美しい姿も良いが、やはりそのように笑っている姿が一番だな。」
とのお言葉を頂き、私の中にあったギレン閣下のイメージが「気難しそうな人」から「気難しそうだが、実はとても優しい人」に変化していくのでした……。
アイナ様に似合いそうな機体は?
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アプサラス
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ビグ・ラング
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ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
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アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)