サイド3宙域 MS-04コックピット内
やあ…諸君。ギレン・ザビである。
今日はモビルスーツ用OSのデータ収集の為にサイド3宙域に来ている。
しかし宇宙ではやはり着艦が一番難しいな。発艦はカタパルトで打ち出すだけだし、障害物がない宙域なら危険もない。
着艦の際にガイドビーコンを使えれば簡単なのだが、母艦を沈められては困るのでそういう訳にもいかない。
「アイナ。着艦はもう少し相対速度を落としてからだ。機体をもう少し減速させろ。」
やはりドロスのような大型空母を建造するべきだな。
主砲を外して、GNC用の超大型輸送艦という名目にしておけば連邦も文句は言えないだろう。
武装はアルカナ級と同じく後で搭載すれば良いし。
よし、帰ったら早速ジオ・マッド社に発注しよう。
「そう、その調子だ。そこでスラスターを少しだけ吹かして……。」
そのまま、ニャメルの後部ハッチの中へ……。うん、上手く着艦できたな。
「それで良い。初めてにしては上出来だ。
これで発艦から着艦まで一通りの流れを行ったので、少し休憩したらもう一度同じようにいくぞ。」
ふぅ……。そろそろ現実逃避はやめるとしよう。
先日、メイからテストパイロットを増やして欲しいとのオーダーがあった。
話を聞けば、俺やハマーンのデータは操縦技術が高すぎて新兵が操縦する際の参考にできず、操縦経験のないテストパイロットを用意する必要があるという話だった。
どうせなら身近な人が良いというメイの意見でアイナがテストパイロットをする事になり、そしてアイナの要望で俺が操縦を教える事になって気がつけば、νガンダムに二人乗りしたアムロとチェーンのようにザクのコックピットの中で密着している。
童貞の俺にこの距離は近すぎるのだが、どうしてこうなった。
「ありがとうございます。ギレン閣下。お陰で無事に着艦する事ができました。」
「なかなかセンスが良い。このまま訓練すれば、一人で操縦出来る日もそう遠くはないだろう。」
流石は原作でも高機動型ザクやアプサラスのパイロットをしていただけの事はある。
「ありがとうございます……。ふぅ……。空調の調子が今ひとつなのかしら?汗をかいてしまいましたわ。」
おい、そう言いながらノーマルスーツの胸元をあけるな。目がそちらにいって訓練にならないではないか。
「ドリンクがあるが、飲むか?」
「頂きます……。はぁ……。暑いのは嫌ですが、飲み物が美味しくいただけるのは、良いことですわね。」
くそ……。ただストローを咥えているだけなのに、この距離でアイナ程の美人がするとエロく感じてしまう。
このままだと違う意味で危険な気がするので、さっさと訓練にもどる事にした。
「それではもう一度出るぞ。ブリッジ、カタパルトの用意を。メイ、データとりは大丈夫か?」
「こちらブリッジ、カタパルトは何時でも大丈夫ですぜ閣下。」
「データは順調にとれているよー。次はさっき側を通ったアステロイドに着地させて欲しいな。」
「了解。出来るか?アイナ。」
「は、はい、やってみます。アイナ・サハリン、出ます!」
合図とともにカタパルトが起動し、機体が急激に加速していく。
「くうっ……。」
俺からすればたいしたことのない加速だが、経験のないアイナにはキツイのだろう。
「大丈夫か。アイナ?」
「は…い。大丈夫…です。」
「無理をするなよ。力が入りすぎている。」
未だに緊張しているのか、操縦レバーを激しく動かしてしまい、機体を大きく揺らしてしまうアイナ。
俺はその手の上に自分の手を重ね、操縦レバーをゆっくりと動かす。
「操縦は繊細に。全力でレバーを動かすのは、敵の攻撃を緊急回避する時ぐらいだ。」
そうすると、先程まで激しく左右に揺れていた機体が、嘘のように安定しはじめた。
「ありがとうございます。ギレン閣下。」
「大したことではない。それよりもう少しで目標のアステロイドだ。アステロイドへの着地は、着艦と同じで相対速度さえ気を付ければ危険なものではない。」
「はい。ギレン閣下。」
しかし、折角二人きりなのにギレン閣下だと、何処か他人行儀な感じがするな……。
それなりに長い付き合いだし、そろそろ二人きりなら呼び捨てでもよくね?
「後、そうだな……。二人きりの時はギレンと呼び捨てで良いぞ。アイナ」
「え?……。そ…それは?!……!!」
「!?ま、待て、そこでそんなにスラスター吹かしては…アステロイドに、つっ……!」
【悲報】ザクの脱出装置の使用者第一号はギレン総帥
アステロイドにぶつかった衝撃でザクの脱出装置が起動してしまった……。
まあどうせそのうち脱出装置のテストをするつもりだったのでちょうどよい機会だったと思う事にしよう。
やはり思いつきで行動すると痛い目をみるな。
その後、メイに機体を壊した事を怒られたものの、最後にギレンさん達が無事で良かった…。との言葉を聞いて心の中でガッツポーズをしたのは内緒だ。
そんなやり取りをしていると、衝撃で意識を失っていたアイナが目をさました。
「大丈夫か?アイナ」
「はい……。ギレン…様。機体を壊してしまい、申し訳ありません……。」
「よい。私の方こそ突然おかしな事を言ってすまなかったな。呼び捨ては難しかったか?
まあ、アイナの好きなように呼んでくれれば良い。
それくらいはお前の事を信頼していると言う事だ。」
そう言うと俺は、無意識にアイナの頭を撫でていた。
「……ッ。なっ」
ん……?まさかこれって…セクハラ?しまった!
「っと、すまない。」
「あ、いえ、その……。」
「ガルマが失敗した時に撫でてやると、すぐに落ち着いたのでな。癖で思わず撫でてしまった。すまんな。」
「あ、その、はい。大丈夫です。」
まあ本当はガルマではなくて、実家の妹が落ち込んだ時にこうしてやっていたのだが。
そんなことを考えていたせいか、アイナが赤い顔をしながらつぶやいた言葉が上手く聞き取れなかった。
まぁ特に怒っていないようだし、それほど気にする程の事でもないだろう。
そうこうしているうちに護衛のハマーンのザクが現れ、その手に抱えられる形で俺達はニャメルへと帰還するのだった。
……その夜、何故かアイナが夜着で寝室に現れ、俺は二人で夜明けのコーヒーを飲むことになる。
一一一一一一一一一一一一
side アイナ・サハリン
「モビルスーツ用のOS作成のテストパイロット?」
「うん!アイナお姉ちゃん興味があるんじゃないかと思って。
ほら、ギレンさんとジオンの絆を作っている時、アイナお姉ちゃんだけ仲間外れみたいな感じになっちゃってたでしょ?
それで今度は一緒にやれたら良いなと思って。」
メイちゃんの言葉に思わず心の奥が温かくなりました。
ジオンの絆をしている時のギレン閣下は、まるで別人のように楽しそうにされていて、その姿を一人横目で見ながら家事をするのが寂しかったのは本当の事でしたので。
「ありがとう、メイちゃん。とても嬉しいわ。でも私にテストパイロットなんてできるかしら?」
「メイ達は、誰でもモビルスーツを操縦出来るようにするためにOSを作ってるんだから大丈夫に決まっているよ。
それにわからない事があれば、ギレンさんに教えて貰ったら良いと思うな。」
ギレン閣下に教わりながらモビルスーツの操縦を覚える。
閣下の事を知る前の私なら絶対に嫌だったであろう事が、今の私にはとても素敵な事に思えるのが不思議でした。
それからトントン拍子に話は進み、閣下やハマーンさんのお陰でシミュレーターでの訓練は無事終了し、いよいよ実機で訓練する日がやってきました。
シミュレーターと実機の違いはGの大きさ位と聞いていたのですが、実際に乗ってみると全く違いました。いえ、確かに操縦方法はシミュレーターと同じなのですが……。
閣下との距離が近すぎです!真後ろから閣下の息がかかりそうな距離って何ですか!?
え?メイ特製の二人羽織コックピットの乗り心地はどう?ですって?
近すぎです!メイちゃん!落ち着いて操縦出来ません!
二人の関係進展の為に頑張ったんだよー。ご褒美期待してるね!
これは……。しばらくの間はご褒美としてメイちゃんが苦手なニンジン尽くしのご飯にしてあげる必要があるようです!
私が心の中でメイちゃんへのお仕置きを考えている間にも時間は進み、いよいよ実機での訓練が始まりました。
始まる前は閣下とのあまりの距離の近さに戸惑いましたが、始まってみれば緊張はしたものの、何とか母艦であるムサイまで戻ってくる事ができました。
ふぅ……。あまりの緊張のせいか、温度調整されているはずのコックピットがとても暑く感じます。思わずノーマルスーツの胸元をあけると、だいぶ涼しくなって緊張もほぐれてきました。
私が深呼吸をして息を整えていると、みかねた閣下が飲み物を出してくださいました。受け取った私がストローを口にすると爽やかなオレンジの甘さが心を落ち着かせてくれます。
胸元をあけて、飲み物を飲む事で一息ついた私でしたが、その直後に自分が飲んでいたボトルを先程まで閣下がお飲みになっていた事を思い出してしまい、気恥ずかしさのあまり折角冷えた体がまた暑くなってしまいました。
その後、またカタパルトが起動して再度宇宙に出たのですが、先程の事が頭にちらついてしまい、なかなか操作に集中出来ません。
そんな私をみかねたのか、閣下が後ろから優しく私を導いてくださいます。
お陰で私の緊張も幾分かほぐれ、何とか機体を操縦出来るようになりました。
このままなら上手くアステロイドに着地できそう。私がそう思った時でした。
「後、そうだな……。二人きりの時はギレンと呼び捨てで良いぞ。アイナ」
「え?……。そ…それは?!……。!!!」
閣下の突然の言葉に混乱してしまった私は、思わず機体のスロットルを全開にしてしまい、目の前にあったアステロイドに機体をぶつけて意識を失ってしまったのでした……。
……、衝撃でどれだけ気を失っていたのかわかりませんでしたが、聞いた話によると意識がなかったのは3分ほどだったそうです。
その僅かな間に機体は大破してしまい、作動した脱出装置によりコックピットごとギレン閣下と……。いえ、ギレン様と二人で宇宙を漂っていました。
私が意識を失っている間もギレン様は母艦と連絡をとられていたようで、すぐに迎えが来るからそれまでゆっくり休んでいるよう指示されました。
私が機体を壊してしまった事の謝罪をすると、
「よい。私の方こそ突然おかしな事を言ってすまなかったな。呼び捨ては難しかったか?
まあ、アイナの好きなように呼んでくれれば良い。
それくらいはお前の事を信頼していると言う事だ。」
そう言いながら、私の頭を優しく優しく撫でてくださいました。その行為がどれだけ私の心に響いたか知らない穏やかな表情で。
ギニアス兄さんが私を庇って不治の病となり、母がわたくし達兄妹を捨ててサハリン家を出てからというもの、私はサハリン家の為に生きている人形のようでした。
そんな日々から私を解放し、人形ではなく人として『私』を必要としてくれ、人間味のある言葉をかけて信頼する事で救いだしてくれた人。
私はその人に恋をしていました。
貴方がいなければ、こうして温かい言葉とともに頭を撫でてくれる幸せを私は知らなかったでしょう。
だから愛しています。
例え貴方がザビ家の長男という、雲の上のような存在であってもそれは変わりません。
だから伝えようと思います。
あなたの力になりたいという私の気持ちを。
今、私の胸の中にあるこの溢れる思いを。
エピローグを読みたいのは次の中どれ?
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