ルナツー宙域 観閲艦 ネレイド
やあ……諸君。ギレン・ザビである。
今日は去年から実施されている連邦の観艦式に招待されたので、ルナツーまで来ている。
……というか、連邦のサラミスがコロニーの管制を無視したのが原因で、サイド3の農業区画が大破して百名以上の死者が出たばかりなのに、よく観艦式を強行する気になったな……。
ガルマ率いる士官学校生に駐留軍が敗北して木端微塵になった連邦軍の威信を取り戻す為かもしれないが、こんな事をして得られるのは連邦軍への信頼ではなくスペースノイドからの敵意だけだと言うのに。
更に言えば、その観艦式によくジオンの人間を呼ぶ気になったものだ。
まあどうせ来るわけがないと思ったんだろうが、せっかく招待してもらったので、「連邦の偉大さをしらしめる。」という名目でガルマとシャアを連れて来てやった。
連邦さん、連邦さん、自軍を襲撃した学生が来賓として観艦式にいるとかどんな気持ち?
さてルナツーは、月の反対側のL3宙域に存在する連邦軍の宇宙要塞である。レモンを思わせる菱形の外観を有しており、その全幅は180kmにも及び月以外では地球圏最大の天体である。
スペースコロニー建設のためにアステロイドベルトから移送された小惑星ユノーが元になっており、それが60年代軍備増強計画により連邦軍の軍事拠点として転用されたものである。
その内部には数百隻の艦艇を収容可能な巨大宇宙港と、それを維持する為の大規模な工廠を有しており、一年戦争時には損傷した艦艇の修理の他にもジムやボールといった兵器の生産をしたりもしていた。
そして今回の観艦式の主役は、このルナツーに駐留する連邦軍宇宙艦隊である。
連邦軍の宇宙艦艇は月や各サイドの治安維持を担当する駐留艦隊と、各サイド間の航路の安全や地球軌道の防衛を担当する宇宙艦隊のどちらかに所属している。
主に70年代軍備増強計画で建造されたマゼラン級戦艦やサラミス級巡洋艦、コロンブス級軽空母やレパント級ミサイルフリゲート艦で構成されており、今回の観艦式には宇宙艦隊の大半と、各地の駐留艦隊から派遣された精鋭が参加していた。
最新鋭艦であるバーミンガム級に率いられた連邦艦隊が一糸乱れぬ艦列を組んで進む姿は、確かに見ごたえ抜群であり、連邦の力の入れようが良くわかる。
……まあ、ジオンの絆で幾度となく観艦式を襲撃しているので、最早単なる標的にしか見えないのが玉に瑕だが。
そんな思いで連邦艦隊を見ていると、特別室に入ってきたサイアム・ビストが隣の席へとやって来た。
「このような所でお会いできるとは思いませんでした。」
そう話しかけて来たサイアムに対して、「なに、せっかく連邦が戦う前に自ら手札を見せてくれると言うのだ。遠慮する必要もあるまい。」などと格好をつけて答えてみる。
すると、サイアムは怖いものを見たかのように肩をすくめ、「そのような事を『ここ』で言っても宜しいのですか?」と小声で返してきた。
今いる場所が連邦の戦艦に備えられた特別室である事を考えれば、その心配は妥当なものであったが、今回に限れば不要なものでもあった。
「警戒する事は重要だが、今は大丈夫だサイアム。詳しくは言えんが、盗聴機等への対策は十分に施してある。」
後ろに立つガルマとシャアがもつ箱状のものは、一見すると大型のノートパソコンのように見えるが、実は小型のミノフスキー粒子散布装置となっており、電子機器による盗聴等を不可能にしていた。
……元々は連邦のミノフスキー粒子対策を試すために持ってきたのだが、想定外の事で役立つ事もあるものだ。
「そうでしたか、流石はギレン総帥。先の『事件』の事といい、どうやら貴方の言葉には信じるだけの価値があるようだ。」
そう言うとサイアムは目をつむり、何かを仰ぎ見るように一度顔を上に向けた後、おもむろに口を開いた。
「我がビスト財団は、ジオン公国に対して『箱』を提供する用意があります。」
「ほう……。財団の繁栄を約束してきたものを我々に渡してしまって良いのかね?」
ビスト財団が宇宙世紀の始まりから秘匿し続けてきた存在であり、「箱が解放されれば連邦政府は転覆する」とまで言われたモノを譲るとの言葉に思わずそう問い返す。
「無論良いハズがありません。もしこの事を連邦に知られれば、我等一族の未来はないでしょう。ですが……。」
「ふむ?」
「ですが、あの日私のもとに『箱』が来たのはこの時の為だったように思うのです。自分でもいささかロマンチストにすぎると思うのですが。」
そう言うとサイアムは此方に顔を向けると、力なく笑った。
「ロマンチストで良いではないか。人はそのロマンがあったからこそ空へ向かい、宇宙移民もまた始まったのだ。」
「ありがとうございます。そう言って貰えると救われます。ただ、『箱』を渡すと言っても幾つか条件をつけさせて頂きますよ?」
「無論だ。『箱』を譲られるのであれば、最早我等は一蓮托生。互いに納得できるまで話をするとしよう……。」
……さて、原作でミネバが使用した際にはタイミングが遅すぎたとも言われる「箱」だが、我等ジオンの独立戦争と併せて使えばどうなるだろうな?
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side シャア(キャスバル)
※ 以降特に記載がない限り「シャア」の単語はシャア(キャスバル)を指す。
士官学校へ入る事を決めた時、何時かはこのような日が訪れる事はわかっていた。
「久しいな、キャスバル。アストライアとの平穏な日々を用意してやったのに何故貴様はここにいるのだ?」
親友となったガルマの指揮の下に連邦軍駐留部隊を制圧して暫くたったある日、突然やって来た仏頂面の男は、会って早々にそんな質問を投げ掛けてきた。
「無論実績を積むためです、ギレン総帥。今の私が実績を積むための最短の道は、軍に入り功績を重ねる事だと考えました。」
「ふむ……。その考え自体は間違ってはいないだろう。確かに実力主義の我が軍であれば、貴様のあげた功績はそのままお前の実績となる。だが、そのためには貴様の命をかけねばならんぞ?」
「覚悟の上です。もしそうなった時は私の実力が足りなかったというだけの事でしょう。」
私がそのように答えると、目の前の男は全てを見透かすように目を細め、次の瞬間私が全く予想していなかった提案をしてきた。
「考え直す気はないか?貴様の意思は尊重したいが、お前に何かあればアルテイシア達が悲しむ。今ならば私の方で全てなかった事にしておこう。」
予想外の言葉に混乱しながら、私は返答について考える。
母や妹の事を考えなかった訳ではない。だが、自分には父ダイクンの後継者として人類を導くべき責任がある。その思いが今の自分をこの場所へと導いていた。
「貴方がその気になれば、私がそれを止める事はできないでしょう。ただ、もし許されるのであれば、私に貴方と戦う機会を与えて頂きたいと思います。」
私がそう答えると、僅かな沈黙の後に、
「好きにするが良い。だが、今の貴様にはお前の帰りを待つ者がいる事を忘れるな。」
そう告げるとギレンは自ら席を立ち、そのまま部屋から立ち去って行った。
去り行くギレンの背中を見ながら、私は自らが越えるべき壁の大きさを改めて痛感するのだった。
アイナ様に似合いそうな機体は?
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アプサラス
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ビグ・ラング
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ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
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アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)