新・ギレンの野望(笑)   作:議連・座備

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37話 UC0079年2月 キシリアの策謀

サイド3 ギレン邸

 

人類史上初の宇宙艦隊による決戦となったアクシズ戦役が終わって、二週間が過ぎようとしていた。

 

連邦軍本部ジャブローを目指して宇宙を進んでいた小惑星アクシズは、連邦の宇宙艦隊を壊滅させた事により地球の衛星軌道でその動きを止め、地球軌道の支配権は連邦軍からジオンへと移った。

 

ジオン政府はアクシズ戦役での華々しい戦果を武器に、連邦軍に対し、休戦条約の締結を申し入れる。

 

敗北を喫し、疲弊した連邦にとって、それを断る気力はもうなかったかに見えた……。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

わずか一度の戦闘で宇宙軍の大半と指揮官であるレビル将軍を失うという状況に陥った地球連邦は、混乱の極みにあった。

 

宇宙艦隊の主力と衛星軌道の支配権を失った宇宙軍はジオンとの即時休戦を主張し、未だに無傷の戦力を保有する地上軍はジオンとの徹底抗戦を主張していた。

 

そして肝心の連邦政府首脳部は、月や各サイドの支配権と宇宙艦隊を失った責任をとることを嫌がり、責任者を決める事すらできずにただ右往左往するのみであった。

 

……連邦は大丈夫か?

 

そう言いたいところだったが、我等ジオンも連邦軍を笑えない状況となっていた。

 

そう。レビル将軍が脱走したのである。

 

原作の知識の事もあってデギン公にも場所を知らせずにズム・シティ某所にレビル将軍と捕虜にした高官達を収監していたのだが、そこを連邦の特殊部隊により襲撃され捕虜を奪還されてしまったのである。

 

情報の秘匿を最優先にして少数で警備していた事が裏目に出てしまい、警備にあたっていた人員は全滅。

 

そのために将軍の脱走に気がつくのが遅れてしまい、気付いた時にはすでにサイド3から脱出した後だった。

 

そのままルナツーへと入ったレビル将軍はかの有名な「ジオンに兵なし」の演説を行う。

 

原作とは違い、9割近い戦力を保全しているジオン軍に対して何が兵なしだよと思っていたら、その証拠として示されたのが我が軍で使っているダミーの事だった。

 

どうやら我が軍はこのような偽物を使って数を誤魔化さねばならないほど疲弊しているらしい。

 

いや…確かにダミーは連邦軍を誤魔化す為に用意したものだが、此方はその気になればすぐにでもアクシズを地上へ落とす事が出来るんだぞ?

 

まあ、無差別攻撃は悪影響が大きそうだし、何よりも俺のメンタルがもちそうにないのでする予定はないが。

 

それに地球の衛星軌道に宇宙要塞があった方が地上への侵攻が容易になるからな。

 

結局宇宙軍の有力者であったレビル将軍が徹底抗戦を訴え、更に宇宙植民地を失った責任を取りたくない連邦首脳部の意向もあり条約交渉は決裂。

 

休戦条約は調印されず、隕石等の大質量兵器とNBC兵器の使用禁止、コロニーや大都市への直接攻撃の禁止、捕虜等の取り扱いについて定めた軍事条約の調印のみにとどまった。

 

……極秘であったはずのレビルの収監場所を連邦が知り、厳重なはずの警備をすり抜けて無事にルナツーまで逃げおおせた事から内通者の存在が疑われる状況だが、やはり原作同様にキシリアが暗躍したのであろうか。

 

主に情報収集や地球侵攻作戦に向けた準備を進めてきたキシリアにとって、現時点での休戦は今後ジオンを運営していく中での主導権の喪失を意味する。

 

諜報活動を統括する立場から連邦内部に多数の協力者を有しているので収監場所の情報を連邦に渡すのは容易であり、また、逃走経路となった月軌道の防衛も担当しているのでそこを通るレビルを見逃すのも簡単だろう。

 

だが流石と言うべきか、いくら調べても物的証拠が何一つ出てこない。

故に現段階でレビル脱走幇助の罪をキシリアに問うのは不可能だろう。

 

メイの父親の時といい、秘密工作には高い能力を発揮するな。

 

しかし…まさかここまで露骨に休戦交渉の妨害をしてくるとは思わなかった。

 

休戦交渉の担当にマ・クベ中将を推薦してきたのを無視して、自分で休戦交渉を担当したのがいけなかったのか?

 

しかしキシリアの息のかかった継戦派のマ・クベに休戦交渉を任せても、成功するとは思えないしな……。

 

いくらギレンに対抗心を持っていて、戦争を通じて成り代わるという野心を持っているとしても、ジオンが生き残るかどうかさえ怪しい連邦相手の戦争に、個人的なお家騒動を持ち込むなど正気の沙汰ではない。

 

お陰で新兵器やモビルスーツを活用して、連邦宇宙艦隊相手に圧倒的な勝利をおさめ、連邦の腰が引けたところで、ジオンに有利な講和条約を結んで休戦するはずだった計画が台無しになってしまった。

 

こうなってしまった以上、例えルナツーを落とそうが地球に籠ればよい連邦が休戦に応じる事とは考えられず、

我等が連邦に「負け」を認めさせるためには、地球降下という悪手を打たねばならなくなってしまった。

 

無論それに備えた準備は進めてあるものの、この事態を引き起こしたキシリアに地球侵攻作戦の全権を任せる事などできるはずもない。

 

ドズル達と相談して至急手を打たねば。

 

まあ、休戦が成らなかったのは痛恨の極みだが過ぎたことを嘆いても何も変わらない。

 

我等スペースノイドの未来の為、できる事をひとつずつ進めていく他に道はないのだ。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side キシリア・ザビ

 

グラナダの自室でギレンからの通信を受けたキシリアは顔がにやけるのを我慢しなければならなかった。

 

彼女を悩ませ続けた懸案事項である南極での休戦交渉が無事、失敗に終わった事を告げる連絡であったからだ。

 

「レビルが逃げましたか。私の戦略諜報軍にお預け頂ければそのような事にはならなかったでしょうに。」

 

「よくもヌケヌケという。レビルを奪還した連邦部隊は、貴様が守らねばならない月の軌道を通過してルナツーへと逃げおおせたのだぞ?」

 

「それは仕方がありません。宇宙攻撃軍に戦力が集中して最低限の戦力しか配備されていない現在の状況では、月を守るのにも限界があります。完璧を求めるのであれば、もう少し戦力をまわして頂かねば。」

 

我らジオン軍は、月と各サイドに駐留していた連邦軍を駆逐し、アクシズ戦役における勝利により連邦の宇宙戦力の大半を壊滅させた。

 

そんな状況で休戦条約が締結されてしまえば、戦略諜報軍を率いて裏方に回っていた私の立場は大きく低下し、代わりにアクシズ戦役を勝利に導き休戦条約を締結させたギレンがこれからのジオンを導いていく事になるだろう。

 

演説でギレンが述べた通り、ジオン・ダイクンが広めた人の革新である「NTによる社会」は実現しなければならない。

 

だがそれを主導するのは純粋なるザビ家の者でなければならず、ダイクン派の娘をザビ家に入れ、ダイクン家族ともズブズブの関係であるギレンにはその資格がない。

 

まあ、非情になりきれない父や、狭量な次男、軍事一辺倒な三男にも資格がないので、資格があるのは私かガルマ位のものなのだが。

 

そしてそんな資格がない者達が今後のジオンを率いていく事は私にとって許容できるものでなく、戦争を継続させるために私はありとあらゆる手を打った。

 

連邦のスパイに秘密裏にレビルの居場所と警備情報を伝え、ジオン軍が戦力を水増しして見せるのに使っている「ダミー」の情報も流した。

 

お陰で連邦首脳部は戦争の継続を決意し、スパイの連邦内部での発言力も強化されまさに一石二鳥の成果となった。

 

そう思いキシリアが心の中でほくそ笑んだ次の瞬間、ギレンの発した言葉によりキシリアの表情が凍りつく。

 

「ふん。良かろう。貴様には暫くの間月の防備を固めて貰う。」

 

「な…!私はまもなく地球侵攻作戦を指揮せねばなりません!そのような些事に構っている場合では!!」

 

「ア・バオア・クーとともに我等ジオンの最終防衛ラインであるグラナダを易々と抜かれ、そのせいでレビルを取り逃がしておいてよくも言ったものだ。

言っておくがこれはお前以外の全てのザビ家の同意を取り付けた決定事項であり、貴様が何と言おうとこの決定は覆らない。

これに嘆くのならばせいぜい月の防備を固める事だな。もう一度ジオン本国への直撃を許せば貴様の立場はないぞ?」

 

「しかし、それでは誰が地球侵攻作戦の指揮をとると言うのです!?

ドズルはソロモンの守備とルナツーの牽制に、ガルマは各サイドの掌握で手一杯のはず!」

 

「ここにいるではないか。連邦艦隊を壊滅させ、担当していた休戦交渉もレビルの脱走により破局に終わって手が空いている指揮官が。」

 

「な…ま、まさか兄上が地球侵攻作戦を?!」

 

「貴様よりは地球に詳しく、地球侵攻作戦の概要も理解している。何の問題もなかろう。」

 

「そんな…地球侵攻作戦は私が準備を進めてきた作戦であり、私が指揮をとるのが最適なのです!どうか再考を!」

 

「ふん。貴様と話していても時間の無駄のようだ。サスロやドズル、父上を説得できたらまた連絡してくるがいい。ではな。」

 

そう言うと一方的に通信が打ち切られ、部屋に静寂が訪れる。

 

……まさか兄上がこのような強行手段に出るとは。

 

このままでは折角休戦交渉を妨害した事が裏目に出てしまう。何とか父上達を説得し、地球侵攻作戦の指揮をとらなければ。

アイナ様に似合いそうな機体は?

  • アプサラス
  • ビグ・ラング
  • ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
  • アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)

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