最初は偵察の為に運用された飛行機は、その後の航空技術の発達とともに、航空戦力の重要性は高くなり、第二次世界大戦でついに勝敗を決する要素となった。
その事はこの宇宙世紀でも変わりなく、地球連邦軍は地上の空を支配するため、各地の空軍基地に多数の作戦機を配備していた。
……そう。空軍基地に、である。
航空機を用いて作戦行動を行うには、離着陸が可能な滑走路と整備や補給のための施設が必要不可欠であるため、航空戦力は空軍基地なくしてその真価を発揮する事ができない。
そして、空軍基地の維持には多大な費用がかかるため、その数は強大な連邦と言えども限られており、この限られた数の空軍基地を守るため、連邦軍は地球全土にレーダーによる早期警戒網を構築し、各基地に基地防空隊を設置する等、万全の防衛態勢を敷いていた。
……連邦が制宙権を持っている前提の話であったが。
だがこの万全のはずの守りは、ミノフスキー粒子という新たな兵器と、衛星軌道をジオンに押さえられた事により大きく変貌していく事になる。
やあ…諸君。ギレン・ザビである。
予定通りロストフ近郊に降下した我がA集団は、当初の予定どおり4つの方面軍に別れて各地へ進軍を開始した。
先のマスドライバーを用いた陽動作戦によって戦力が低下していた連邦軍などモビルスーツの威力の前に何の障害にもならず、有力な機甲師団が残留していたスターリングラード方面への進軍こそ苦戦したものの、他の方面では順調に進軍を続けていた。
また、そのスターリングラード方面軍についても某少佐率いるグフ(S.F.S搭乗)の機動力を活かした部隊運用により敵の主力の包囲に成功、わずか数日後には殲滅に成功する。
やはり地上でもモビルスーツは強力だ。61式の主砲である150ミリキャノンではザクの正面装甲を抜くことができないにもかかわらず、此方の攻撃はザクマシンガンでさえ致命傷になりうる。
戦力比としては同数では相手にならず、ザク1機につき戦車5台でなんとか戦えると言った位だろうか?
特に遮蔽物のない平野部での戦いでは、3次元機動が可能なモビルスーツと61式戦車では全く勝負にならなかった。
その証拠にロストフから平野部の多い東部に向け進軍した部隊は、連邦の抵抗を蹴散らしてまもなくオデッサ市街へ入ろうとしている。
だが、連邦軍を侮る事は出来ない。スターリングラード攻略戦で連邦戦車隊の待ち伏せを受けたザクが撃破されているし、ミノフスキー粒子の散布により誘導兵器を使えない連邦空軍は、ギリギリまでモビルスーツに接近して直接照準で爆弾を投下してくる。
まあ、後者についてはまもなく始まるB軍集団の攻撃で近隣最大の空軍基地があるバイコヌールが落ちれば暫くは大人しくなるだろう。
確かに空を自由に駆ける航空機は脅威だが、その真価を発揮するにはそれを支える空軍基地の支援が必要不可欠なのだ。
連邦よ。衛星軌道を失った貴様らに、最早安全な場所などない事を思い知るが良い。
一一一一一一一一一一一一
side シャア
大気圏ギリギリの低軌道を、ザンジバル級三隻からなる小艦隊がミノフスキー粒子を散布しながら進む。
眼下には夜の地球が浮かんでおり、そこで暮らす人々が灯す明かりは、まるで夜空に浮かぶ星座のようで何処か幻想的であった。
「準備はどうだい?赤い彗星」
地球降下に備えて機体の最終チェックを進めていると、母艦「リリー・マルレーン」の艦長であり、親衛隊の特務大隊長でもあるシーマ中佐から通信が入る。
元海兵隊の荒くれどもを纏める女傑で、艦橋の自分の席にトラの毛皮を敷いたりするのはどうかと思うのだが、ギレン総帥直々に下賜されたものらしく、記念に使っているらしい。
私に角付きのヘルメットを送ってきた事といい、奴はいったい何をしたいんだ?
……まあ、ヘルメットは気に入ったので今もこうして使っているが。
「部下のアンディとリカルドも既に配置についており、準備は万端です。」
「そいつは結構。赤い彗星が地に堕ちるところなど見たくはないからね。ところで、少佐は地球に降りた経験はあるのかい?」
「……一応は、魂が重力にひかれるようであまり好きではないのですが。」
以前ガルマと二人で某総帥の「護衛」という名目で北米大陸に降りた事がある。今思えばあれもガルマへの英才教育の一環だったのだろう。
そう言えば、あの時にガルマと街に出かけて絡まれている所を助けた金髪の令嬢は今も元気にしているだろうか?
「そうかい、何事も経験があるのは良いことさね。じゃあ知ってると思うが、地上では重力のせいで機体が重くなる。
それは最新鋭の重モビルスーツであるドムだろうと同じ事だ。抜かるんじゃないよ?」
「了解しております。」
エース機として赤く塗られた愛機を見れば、G型装備と呼ばれる大気圏突入用の装備の最終点検が行われている最中だった。
バリュートシステムとも呼ばれるG型装備は、モビルスーツの胸と背中に固定されるランドセル状の装備2つで構成されている。
背中の装備は大気圏突入時に、半球形の耐熱フィルムを展開して空力加熱による高熱を回避し、胸のランドセルには減速用のパラシュートと着陸時に使用する逆噴射用のロケットブースターが備わっている。
ギレン総帥の発案で旧世紀における歩兵のパラシュート降下を、宇宙空間から地球へと拡大したものだが、ザクでさえ戦車5両分とも言われる戦力が、衛星軌道上から直接降下してくる強襲効果は絶大であり、この装備の開発により連邦からは「安全な後方」というものが消失したのである。
何故なら戦車師団が構成する前線の後方に砲兵師団を配置したとしても、上空から直接モビルスーツが降ってくれば砲兵師団に抵抗するすべなどなく、空軍基地や物質の集積地も同じだからだ。
また、衛星軌道上の制宙権を喪失し、ミノフスキー粒子の効果によって対宙レーダーが機能しない現状において、連邦にはこの奇襲を防ぐ手だてがない事が致命的であった。
これを防ぐには衛星軌道を奪還するほかないのだが、そこには宇宙要塞アクシズと宇宙攻撃軍の主力が待ち構えている。
……少し連邦に同情したくなってきた。
「さて、それじゃそろそろ降下ポイントだ。一足先に降りてバイコヌールの掃除をしておいておくれ。」
そんな事を考えているうちに降下ポイントに到達したようで、シーマ中佐の言葉にあわせてザンジバルの下部ハッチが展開していく。
「降下に失敗すれば地球も見納めか……。」
夜の闇に染まる地球を見て思わずそんな言葉を呟く。
「……赤い彗星。あんたの事は総帥から聞いて知っている。あんたにも色々事情があるのだろうが、あたしの部下である以上、死なせやしない。
待っている人もいるんだろ?泥水をすすってでも生き延びな。」
するとそれを聞いたシーマ中佐から思わぬ激励の言葉をもらうと同時に、ブリッジから出撃の合図が出る。
機体をハッチに向けて進めながら、荒くれ者揃いの元海兵達にシーマ中佐が人気な理由がわかった気がした。
アイナ様に似合いそうな機体は?
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アプサラス
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ビグ・ラング
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ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
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アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)