新・ギレンの野望(笑)   作:議連・座備

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44話 UC0079年4月 北米大陸攻防戦◼️

「ニューヤーク解放作戦」 コーウェン中将率いる北米方面軍が実施した、一年戦争前半における最大の反攻作戦である。

 

各地から派遣された増援部隊とヨーロッパから帰還した重機甲師団を掌握したコーウェン将軍は、北米大陸の両岸に分断されているジオン公国軍の各個撃破を狙って、北米大陸最大の都市ニューヤークへ軍を進めた。

 

モビルスーツがない状況下での反攻作戦には反対の声も上がったが、先日セモベンテ隊を率いて敵新型戦車と交戦したフェデリコ中佐の「現有戦力でも上手く運用すれば十分モビルスーツに対抗可能である。私と戦った敵戦車が良い例だ。」という発言により実施が決まった。

 

反攻作戦の先鋒となったのは、北米軍最多のRX-75を保有する連邦陸軍 第7機甲軍団である。

 

 

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増援として船でヨーロッパに向かっている間に根拠地であるニューヤーク一帯を奪われた彼らはジオンへの復讐に燃えており、カナダとの国境地帯に展開していたジオン守備隊を圧倒的火力によって粉砕すると、ニューヤークに向けて進軍を開始した。

 

 

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ニューヤーク郊外でガルマ率いる第二地上機動師団のモビルスーツ隊と対峙した第7機甲軍団は、カナダ各地の飛行場から飛び立った連邦空軍との連携によりジオンのモビルスーツ隊を圧倒し、形勢不利とみたジオン軍は市街地での戦闘を避けてニューヤーク一帯からの撤退を開始した。

 

ジオンの想定外の脆さを警戒する北米軍の残存部隊に対し、第7機甲軍団や各地からの増援部隊は戦果拡大の為に追撃を主張する。

 

拳を交えた激しい会議の結果、ジオンの伏兵を警戒して慎重に進軍する事が決まった。

 

連邦がジオンの伏兵を警戒している間にニューヤーク周辺の残存部隊を集結させたガルマ・ザビは、大都市であるワシントン周辺での戦闘を避け、一気に西海岸南部の要衝オーガスタまで後退する。

 

たて続けのジオン軍の後退を訝しがる連邦軍だったが、まもなくその理由を知る事になる。北部から撤退した第二地上機動師団の主力が北米大陸南部で攻勢を開始したのである。

 

 

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どうやらジオンは連邦が大陸北部に軍を集結させた事を逆手にとって、南部一帯の制圧を目論んでいるようだった。

 

事態を重く見たコーウェン将軍は南部のコロラド近郊に部隊を集結させて防衛線を構築したものの、ランバ・ラル率いる精鋭に側面を迂回され突破を許してしまう。

 

 

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そのまま大陸東海岸側まで侵攻して連邦の連絡線を遮断したランバ・ラル隊は、そのまま連邦の補給線に対するゲリラ戦を展開した。

 

ランバ・ラルに南への交通網を遮断され慌てるコーウェン将軍だったが、北方から入った報告を聞くと更に顔色を悪化させる事になる。

東海岸北部の防衛線をジオン軍に突破されたのだ。

 

ノイエン・ビッター少将率いる第三地上機動師団は、連邦の主力が大陸南方に移った事を確認すると、総力を挙げて大陸北部への侵攻を開始する。

 

増援として東海岸に降下していたシーマ率いる第十三独立機動戦隊を先鋒としたジオン軍は、集中配備されたドムの威力により連邦の防衛線を突破すると、そのまま大陸北部を蹂躙した。

 

 

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連邦も複数の防衛線を構築してジオンの侵攻に備えていたものの、ガンタンクや61式戦車といった一線級の部隊で構築した防衛線を抜かれてしまえば後は対ザク用タンク型自走砲やミサイルバギーを装備した歩兵師団程度しか配備されておらず、そんな装備で重装甲のドムを撃退する事は不可能だった。

 

ジオンに包囲されつつある現状を認識したコーウェン将軍は、難しい判断を迫られようとしていた。

 

 

 

やあ、諸君。ガルマ・ザビだ。

 

あ、そこの君、別に誤字ではないので誤字報告は止めてくれると嬉しいな。

 

今日は兄上がハマーン嬢に手を出した事を姉上に知られて弁明に忙しいそうなので、代わりにこうして話させて貰っている。

 

ああ、姉上と言ってもキシリア姉さんの事ではない。アイナ嬢の事だ。

 

私から見ればほとんど夫婦のような生活をしているのに籍も入れずにグダグダしているのはどうかと思うのだが、アイナ嬢がそれをよしとしている以上文句も言えない。

 

ハマーン嬢の他にも愛人としてララァ嬢を囲ったり、ダイクンの遺児であるアルテイシア嬢からも熱い視線を送られたりと兄上にも困ったものだ。

私としては愛する人は一人きりにするべきだと思うのだが。

 

さてそれは置いておいて北米大陸の戦況について説明しよう。

 

連邦の大部隊がカナダ方面から侵攻してきた時、我が第二地上機動師団の主力はメールシュトローム作戦の実施に向けて南方に展開しており、大陸北部の防衛線は手薄となっていた。

 

私は手近な部隊を集めてニューヤーク郊外で迎撃を試みたものの、RX-75ガンタンクの正面装甲はザクを遥かに上回っており、火力についても両肩に装備されている低反動キャノン砲の威力はザクを完全に凌駕していた。

 

無論機動力においてはザクが上回っているものの、連邦は密集して布陣する事でガンタンクの死角を無くしており、逆に我が軍はデプ・ロッグの絨毯爆撃により密集する事を封じられていた。

 

これに対抗する策は…あった。連邦が我が軍のザクに対抗する為に市街戦を展開したように、我が軍もニューヤークに立て籠り市街戦を挑めば良いのだ。

そうすれば小回りのきかないガンタンクなどザクの敵ではなく、市街地で絨毯爆撃をする訳にもいかないデプロップについても動きを封じる事ができるだろう。

 

だがそれは我が愛するイセリナの故郷を戦火に巻き込む事を意味していた。

 

……私もザビ家の男、ジオンのためになすべき事をしなければならない。

 

だが、たとえ父を裏切っても私の側にいてくれると言ってくれた人の故郷さえ守れずに何がザビ家の男か!!

 

そう思った私は、兄上と連絡がとれなかったため独断で南のオーガスタまで後退する事を決定し、ニューヤーク周辺に駐留する全部隊に対して移動を命じた。

 

幕僚の中には後退について反対意見を述べる者もいたものの、私が「頼む」と頭を下げると皆、黙って私の指示に従ってくれた。

 

夜になって戦闘が下火になった隙をついて行われた後退は思いの外スムーズに進み、大きな損害もなくスムーズにオーガスタまで後退する事ができた。

 

オーガスタ基地に着くと、やっと連絡がとれた兄上に独断でニューヤークから撤退した事に対する詫びと処罰を求めたが、兄上から返ってきたのは想定外の言葉だった。

 

「お前は上手く後退して連邦の主力を引きつけただけだ。いったい何を罰する必要があるのだ?」

 

地図を見れば確かに連邦の主力は我が軍を追撃してオーガスタに向けて進軍しつつあり、メールシュトローム作戦で攻撃する予定だった北部大陸の北と南はがら空きになっていた。

 

メールシュトローム作戦、北米大陸の両岸を支配するジオン軍のうち、第二地上機動師団が南部を、第三地上機動師団が北部を制圧する事で北米方面軍を大陸中央に孤立させる事を目的とした作戦プランである。

 

 

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初期の作戦目標を達成してから第二、第三地上機動師団はこの作戦遂行のための準備を進めており、部隊の移動を含めて作戦開始に向けた準備はほぼ完了していた。

 

「それは…そうですが…。」

 

「ガルマ、ようは勝てば良いのだ。そして勝利とは最も多く戦闘に勝った者を指すのではない。最後まで残り、目的を達成した者の事を言うのだ。たかがニューヤークを奪回されたくらいで動揺してどうする?もう一度取り返せば良いだけの話だろう。」

 

「兄上……。」

 

「まあ当初の予定より第三地上機動師団への負担が大きくなるだろうが、ビッターなら上手くやるだろう。私の方からも増援を手配しておく。」

 

「ありがとうございます!」

 

「構わんよ。お前はお前の道を行くが良い。ではな。」

 

そこから先の説明は諸君には不要だろう。

 

ラル少佐…。おっと、そう言えば昇進して中佐だったな。

 

ラル中佐率いる部隊の活躍により北米大陸南方の制圧は無事に成功し、北部についても第十三独立機動艦隊の活躍により制圧が完了しつつある。

 

さてここから先については、もう1人の当事者の話を聞いてもらうとしよう。

 

 

一一一一一一一一一一一一

 

 

side ジョン・コーウェン

 

 

「ジオンの重モビルスーツに東海岸北部の守りを突破されただと?!」

 

「はい!敵の赤く塗られた機体が開けた防衛線の穴から、敵の重モビルスーツが次々と戦線後方に雪崩れこんでおり、手がつけられません!」

 

ジャブローとの連絡線を遮断され、ニューヤークへの撤退を考えはじめた時にやってきたのはそんな凶報だった。

 

ジオンの重モビルスーツに唯一対抗可能なガンタンクを装備した部隊のほとんどが最前線に投入されている状況下で、その重モビルスーツに防衛線の突破を許したのは最悪の事態であった。

 

敵の重モビルスーツは61式戦車5型の主砲が直撃しても大丈夫な程の重装甲にもかかわらず、61式戦車よりも高速で移動するため、一度防衛線の内側に入り込まれてしまえば慌てて追いかけても追い付けない。

 

そのためそれを撃退するには予想進路上に前もってガンタンク部隊を移動させる必要があるのだが、予備として後方に展開している部隊の大半は対ザク用タンク型自走砲やミサイルバギーを装備した軽師団であり、残りはそれすらない単なる歩兵師団で足止め以上の効果は期待出来なかった。

 

「ニューヤーク防衛のために我々が後退する外ないな。しかし、間に合うのか?」

 

いくら北米大陸が広大といっても東海岸から西海岸迄は僅か4000キロ強であり、時速100キロ近い速度で巡行可能な敵重モビルスーツの速度をもってすれば一週間もかからずに横断が可能と目されていた。

 

一方此方は鈍足のガンタンクである。距離的には遥かにニューヤークに近いものの、敵部隊より先にニューヤークまでたどり着けるかは微妙なところだ。

 

いっそのことこのまま進軍してジャブロー方面に向けて撤退するべきかとも思ったが、せっかく解放したニューヤークを敵の手に渡す訳にはいかなかった。

 

「大陸東海岸から敵のモビルスーツ隊がニューヤークに迫っているため、ニューヤーク防衛のために一時後退する。敵部隊の足は速いぞ、急げ!」

 

私の指示を受けた幕僚が動きだし、まもなく部隊が北へ向けて移動を開始する。

 

ニューヤークまでの後退、言葉にすれば簡単な事だが、それがどれだけ困難な事かを直ぐに思い知る事になった。

 

後退する部隊の中で砲弾が炸裂し、一台の装甲輸送車が炎に包まれる。

周囲を見渡しても、敵機の影さえ見当たらなかったが、辺りにはひっきりなしに砲弾が炸裂する爆音が轟いた。

 

「将軍!敵の長距離砲撃です!どうやら20キロ以上離れた地点で敵の超大型自走砲が砲撃を行っている模様!」

 

「く…。敵の目的は時間稼ぎだ。構うな!」

 

「将軍!敵の特殊部隊が潜入したようで我々の退路に地雷原が出来ています!」

 

「く…。ガンタンクを前に出しボップミサイルで吹き飛ばせ!」

 

「将軍!補給物資を運んでいたミデアが敵のセイバードップに喰われました!」

 

「く…。航空隊には近接航空支援よりも制空任務を優先させろ!」

 

次々と繰り出されるジオンの妨害によって後退は遅れに遅れ、ようやくワシントン近郊まで後退した我々を待っていたのは、架かっていた橋を全て落とされた巨大なポトマック川の姿だった。

 

「…。将軍。敵の特殊部隊に橋を落とされないように警戒していたのですが、昨日の夜に大気圏外からの対地ミサイルによって破壊されたそうです。」

 

「…。復旧は可能か?」

 

「工兵大隊を呼び寄せれば浮遊橋の設置は可能ですが、直ぐには無理です。一番近い部隊でも移動に一週間は必要との事でした。」

 

「…。そうか、ニューヤークはどうなっている?」

 

「既に敵の先頭集団が到着し交戦を開始しました。ジオンすら行わなかった市街戦を我々がする訳にもいかず、郊外で防衛戦をおこなっているため戦況は極めて不利との事です…。」

 

 

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このポトマック川さえ渡ってしまえばニューヤークは目と鼻の先であり、第7機甲軍団の力で敵を撃退する事も不可能ではなかっただろう。

 

だが、我等の前には橋を落とされたポトマック川が立ち塞がっており、それを越える方策を我等は持ちあわせていなかった。

 

連中が大気圏の上から放ったミサイルは、正に歴史を変える一撃だったと言う事か。

 

このままでは我等は北米大陸でジオンに包囲され、比喩ではなく本当の意味で全滅してしまう。それだけはなんとしても防がねばならん。

 

「北米大陸の全部隊にこのワシントンへの集結命令を出せ。」

 

「こ、コーウェン将軍?」

 

「三方をジオンに包囲され、補給線を寸断された状況での北米大陸防衛は不可能だ。誠に遺憾ながら北米大陸から撤退する。」

 

「しかし、ニューヤークならともかく、このワシントンの港の規模では北米方面軍全てを離脱させるのは不可能です!」

 

「周辺に存在する全ての連邦艦隊を呼び寄せろ。また港に停泊している民間船を全て人員輸送の為に徴発する。船に積めない装備は全て廃棄だ。」

 

「将軍…。」

 

「装備はともかく、ここでお前たち熟練兵を失う訳にはいかんのだ。幸いまだ制海権は我々が保持しており、各地から集結する部隊が運んでくる物資があれば暫くの間は防戦も可能だろう。」

 

「…。わかりました。北米大陸からの撤退とワシントン防衛の為の準備を並行して行います。」

 

「ウム。頼んだぞ。」

 

……。おそらく私のキャリアはこの北米大陸の失陥で終わる事になるだろう。だが、それは私のキャリアの話であり、ここで戦う兵達を逃がす事ができれば、まだまだ連邦は戦う事ができるのだ。

 

 

 

各地でジオン軍による終わりのない追撃戦が続く中、コーウェン将軍はワシントンという退路を保持し続け、北米大陸に残存していた部隊の約半数をカナダや南米へと離脱させる事に成功した。

 

その後、最後の部隊の離脱までワシントンに残って部隊の指揮を続けたコーウェン中将だったが、ジーン・コリニーら保守派によって北米大陸失陥の全責任を被せられ、少将へと降格され失脚する事になる。




ハーメルンに標準搭載されている読み上げソフト「ゆかり」で読みあげてもらうとなかなか良い感じでした。
作業しながら聴けるのでぜひお試しください。

読み方が違ったりする部分も多いので少しずつ直して行こうと思います。

アイナ様に似合いそうな機体は?

  • アプサラス
  • ビグ・ラング
  • ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
  • アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)

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