新・ギレンの野望(笑)   作:議連・座備

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46話 UC0079年5月 アラビア半島攻略戦

アラビア半島、オデッサの南に位置する世界最大の半島である。

 

東にペルシャ湾、西に紅海、南東部はインド洋に面するこの一帯は古来より東西交通の要路として知られており、1869年のスエズ運河の開通以降は地中海とインド洋とを結ぶ海上交通の要衝ともなっていた。

 

そのアラビア半島の大部分を占めているのが世界最大の砂で覆われた地域の1つ、ルブアルハリ砂漠を有するアラビア砂漠である。

 

2,330,000k㎡もの面積を有するアラビア砂漠は一年を通して乾燥が酷く、昼間は非常に高温にもかかわらず、夜間には凍結する事さえあるほどに温度差が激しい地域である。

 

そんな特殊な環境のため、アラビア砂漠では僅かなオアシスに設けられた市街地やそれらを繋ぐ大きな道路に連邦の戦力が集中して配備され、それ以外の大半を占める砂漠地帯は人も物もない戦力の空白地帯となっていた。

 

だが、ジオン公国が砂漠に対応した新兵器を増援として投入した事により、アラビア半島での戦いは大きな変化を迎える事になる。

 

UC0079年5月14日

 

地球各地に展開するジオン軍に対して、ジオン本国から大規模な増援部隊の降下が実施された。

 

特に四つの連邦方面軍と交戦中のオデッサには、ロイ・グリンウッド大佐率いる第5地上機動師団が増援として派遣され、一気に戦力を増大させたオデッサ方面軍は、連邦の東西交通の遮断を企図して第5地上機動師団をアラビア半島へと送り込んだ。

 

アラビア半島でモビルスーツを運用するにあたって大きな問題となったのが、地球上におけるモビルスーツの主な移動手段である「脚部を用いた歩行」が、砂漠の軟弱な地盤によって困難になることである。

 

人間であっても砂地を歩く、走るといった行為は足腰に大きな負担を掛けることになるが、全備重量が70tを超えるモビルスーツでは接地圧の問題から普通に歩行しようとすると簡単に砂に埋まって動けなくなってしてしまう。

 

ゲーム「ギレンの野望」で砂漠の地形適性がない機体がほとんど移動できないのは正にこのためである。

 

また、この状況を更に悪化させたのが砂漠の砂そのものである。戦車の砲弾すら跳ね返すモビルスーツの装甲も完全無欠ではなく、関節やカメラ・システム、吸気/廃熱ダクトなどの隙間から入った砂が、モビルスーツの稼働不良やオーバーヒートを引き起こす原因となっていた。

 

このような事態を想定していたギレンの指示により、「作業用機械」として販売したザクを砂漠地帯で運用する事で得られたデータを基に開発されたのが「MS-09T ドム・トローペン」である。

 

最新鋭の重モビルスーツであるドムの関節部やエア・インテークなどに徹底した防塵処理を施し、機体の装甲形状を変更してまで冷却機能を強化した本機は、本来砂地での運用に向かないモビルスーツに対して圧倒的な機動力を与え、砂漠地帯における「最強の機動兵器」として君臨したのである。

 

当初はアフリカ方面に展開する予定であった第5地上機動師団は、砂漠等の乾燥した地形が多いアフリカの大地に対応したこの機体を数多く装備しており、アラビア半島へと進軍した同師団は、ロイ・グリンウッド大佐の高い指揮能力もあって、瞬く間にアラビア半島一帯を制圧していった。

 

 

 

やあ…諸君。ギレン・ザビである。

 

今回、ジオン本国から第5地上機動師団が増援として派遣され、我がオデッサ方面軍は2個地上機動師団編成となった。

 

今までは第1地上機動師団を分散して各地に派遣する事で戦線を構築していたのだが、オデッサは連邦軍のヨーロッパ方面軍、ロシア方面軍、アフリカ方面軍、インド方面軍の4つの方面軍と同時に交戦している為、初期の奇襲効果が薄れてくるとモビルスーツの威力をもってしてもなかなか進軍する事が出来なかった。

 

特に連邦ロシア方面軍は、各地からかき集めた戦車を使って遊撃戦を展開しており、度重なる市街地への無差別攻撃によっていい加減頭にきていたのだが、本人の志願によってルーデル中佐率いるシュトゥーカ隊(グフ/S.F.S搭乗)を迎撃の為にロシア方面へ派遣したところ、恐ろしいペースで撃墜数を伸ばし続け、遂にはロシア方面軍を撤退に追い込んでしまった。

 

流石は第一次降下作戦以降、ずっと前線で支えてくれた精鋭である。

……しかし、いくら戦車が相手とはいえ隊長個人の撃墜スコアが4桁近いのは流石に盛りすぎだと思うので、後で注意しておかなければ。

 

それに他所の部隊だとイマイチだった者も、何故かシュトゥーカ隊に配置した途端にスコアを伸ばし始めるし、この前配置したばかりの新兵でさえ一週間で10両の61式を撃破している。

 

きっと何か部隊運用の秘訣のようなものを持っているのだろう。

 

また、増援として降下してきた第5地上機動師団を派遣したアラビア半島での戦いでは、アラビア一帯に展開する連邦アフリカ方面軍をトーマス・クルツ等が操るドム・トローペンの圧倒的な火力と機動力によって蹂躙し、連邦はオデッサからアラビア半島を越えてスエズまでを一気に失う事になったのである。

 

この敗北によりスエズ運河を失陥した連邦軍は、アジアと欧州を結ぶ海の大動脈を失う事になり、これ以降アフリカ大陸の喜望峰を経由したルートでの物資輸送を強いられる事になる。

 

と、まあそれは良かったんだが……。

 

「ちょっと!ちゃんとメイの話を聞いてるんですか?ギレンさん!」

 

「あ、ああ。もちろんだ。メイ」

 

「メイがギレンさんの為に一生懸命新型機を作ってるのに、今年に入ってからちっとも連絡もしてきてくれないし、先月になってやっと連絡してきたと思えば、モビルスーツ用OSを弄ってプロテクトをかけてくれとか仕事の話だし……。全くメイの事を何だと思っているの?!」

 

「す、すまない……。色々と忙しくてな。ところで何故メイが地球に?」

 

「ギレンさんの専用機の開発が一段落したから増援部隊と一緒に降りてきたの。まだサイコミュの小型化が完了していないから完全じゃないけど、普通のモビルアーマーとしてならもう運用可能になったわ。今はアクシズでガトーさんが機体の運用テストをしてるの。」

 

「そうか、だがそれならアクシズにいた方が良いのではないか?」

 

「宇宙での稼働には問題がなさそうだったから、私は地上で運用するためのフライトユニットのテストをするために降りてきたの。それと……。」

 

「それと?」

 

「アイナお姉ちゃんに地球上でギレンさんが困ってないか見てきてってお願いされたの。何か困ったりしてる事はない?」

 

「4つの連邦方面軍に同時に対処するのには苦労していたが、メイと一緒に地上に降りてきた第5地上機動師団の戦力があれば問題なく対処できるだろうし、もうすぐオデッサの工業地帯を使ったドムの量産も軌道に乗るだろうから、そうなれば当面は困るような事はないと思うが。」

 

「そっか。ハマーンさんやララァさんに迷惑かけてないかアイナお姉ちゃんが心配してたから、何事もなかったなら良かった。」

 

「……。も、勿論だとも。」

 

「……?さてそれじゃフライトユニットのテストに行ってくるね!」

 

い、いかん……。前回ジャパンに伝わる秘奥義DOGEZAで謝罪する事で許して貰えたと思っていたが、私の判断が甘かったようだ…。

 

まさかアイナが監視役としてメイを送り込んで来るとは。これは一度サイド3に戻って直接謝罪した方がよいのかもしれん。

 

来月に予定しているハワイ攻略作戦が完了すれば、暫くの間は大きな作戦はないので、それまでに何とかアイナの機嫌をとる方法を考えておくようにしよう。

 

一一一一一一一一一一一一

 

side メイ・カーウィン

 

ふぅ……。去年の10月位からずっと開戦に向けてバタバタしていて、暫くギレンさんと何も話せてなかったから強く言い過ぎちゃったかな?

まあ、義理とはいえ娘の私に寂しい思いをさせたんだからあれくらいは言ってもきっと許してくれるよね?

 

さてとそれじゃもってきた機材をテストするために格納庫へ……!あ!

 

「ハマーンさーん。」

 

「メイちゃん!元気そうで良かった。いつ地球へ?」

 

「ついさっきだよ。ハマーンさんも元気そうで良かった。」

 

「ええ。アクシズ戦役やオデッサ、シドニーの攻略戦の時はモビルスーツに乗って戦場に出たりもしたけれど、それ以外は基本的に閣下のお側で身辺警護をしていただけですもの。元気に決まっているわ。」

 

「それでも戦場に出たりしたんでしょ?すごいなぁー。」

 

「メイちゃんの方がずっとすごいわ。ジオンのモビルスーツは全てメイちゃんが作ったOSで動いているのよ?」

 

「えへへ?そうかな?でもまあ私一人で作った訳じゃないしね。あ、そうだ。新型サイコミュの試作品を持ってきたから後でテストに付き合ってくれる?」

 

「勿論いいわよ。ララァさんにも手伝って貰えるようにお願いしておくわね。」

 

「あれ?そう言えばララァちゃんは?」

 

「ララァさんなら…多分、ギレン総帥のお部屋にいるんじゃないかしら。」

 

「???、何でギレンさんの部屋にララァちゃんが?」

 

「言いにくい事だけれど、ララァさんはギレン総帥の愛人という名目で地上に降りて来ているから同じお部屋に住んでいるの。羨ましいなぁ…。

 

「ララァちゃんがギレンさんの愛人……。」

 

「あら?メイちゃんは知らなかった?以前の地球視察の時にララァさん一家が生活に困っているのをギレン総帥がお知りになって、それを助ける時に愛人として迎える契約をしたの。地上で困っている沢山の人達の中からララァさん一家だけを助けるには何か理由が必要だったから。」

 

「そうだったんだ……。」

 

「あ、もしかしたら何かお考えがあって伝えていなかったのかもしれないから、私から聞いた事は内緒にしておいてね。」

 

「うん。わかった……。」

 

「それじゃまた後でね。」

 

ララァちゃんが愛人かぁ……。

 

最初紹介された時は「メイ、お前の新しい友達だ、仲良くするように。」と言われただけで愛人の事はギレンさんもララァちゃんも何も言わなかったので、私よりも年下のララァちゃんが愛人としてギレンさんのところに来ていた事を私は知らなかった。

 

無論愛人というのはララァちゃんの一家を助ける建前だったんだろうけど、私の身近な人がそういう契約になっていた事を知るとなぜだか心の中がもやもやして仕方ない。

 

私も娘じゃなくて愛人として助けて貰っていたら、今頃ギレンさんとどんな関係になってたんだろう?

 

別に今の関係に不満がある訳じゃないのに、何故かそんな疑問が頭に浮かんできたのが不思議だった。




冒頭の砂漠戦についての記述については「暁」で掲載されている「MS Operative Theory」内の記述を許可を頂いて一部流用させて頂いています

アイナ様に似合いそうな機体は?

  • アプサラス
  • ビグ・ラング
  • ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
  • アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)

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