グラナダで量産されたハイゴッグを受領して戦力を増強したジオン戦略海洋軍は、シンガポールを根拠地としてマレー半島の南に浮かぶスマトラ島に向けて侵攻を開始した。
スマトラ島は長さ1790km、幅最大435kmの大きさを誇る世界第6位の大きさの島である。
ちょうどインド洋と南シナ海を隔てる場所に位置しており、その地理的特性から北のマラッカ海峡、南のスンダ海峡は共にアジアにおける海上輸送の要衝となっていた。
このジオンの動きを察知した連邦軍はマドラスから増援部隊を空輸してスマトラ島の防備を固めたものの、重要な拠点の大半が海に隣接しているスマトラ島で、水中からの奇襲を得意とするハイゴッグの攻撃を防ぐ手立てはなく、最大の都市であるメダンの陥落を契機として連邦の残存部隊はマドラスに向け撤退していった。
スマトラ島を制圧下においたジオン戦略海洋軍の次なる目標は、インド洋であった。
マドラスを中心とした広大なインド大陸ではなく、その南に広がる広大な海域である。
生存のために生活に必要なものは全て自分たちで用意しなければならなかったスペースノイドに対し、広大な大地をそのまま利用出来る地球においては、得意な分野を各地で分担して作り上げる地域分業が産業の基本となったいた。
例えば61式戦車の製造一つをとってみても、基礎となる先端技術の研究は北米やジャブローで、製造に必要な鉱物資源についてはオデッサやアフリカで、搭載する精密機器類の製造については欧州や日本で、そして製造された部品の組み立てについては膨大な人口をもつアジアで行われていた。
このため、ジオン軍の侵攻に伴い物流網が寸断されると、各地で様々な影響が出る事になる。
特に、連邦有数の人口密集地帯である北京、マドラスを中心としたアジア一帯は、オデッサからのアラビア半島侵攻によって欧州やアフリカからの鉄道輸送を遮断され、ハワイ、オセアニアの制圧により太平洋を使った海上輸送ルートも失っていた。
そのため、アジアの連邦軍にとってはインド洋を使った海上輸送が他の連邦支配地域との物流を担う最後の生命線となっていたのである。
ジオン軍はその最後の生命線を遮断し、インド、アジア一帯の物資を枯渇させる事で、民衆の連邦に対する支持を失わさせ、戦わずしてインド、アジア一帯を無力化させる事を意図していたのである。
そのインド洋を守護する連邦海軍は各地の軍港に艦艇を集結させ部隊の再編と戦力の保全に努めていた。
これは、ハワイやオセアニアから撤退してきた大量の艦艇を受け入れた事に伴う混乱と、今後の反攻作戦に向けて戦力を温存する必要があったためである。
だが、スマトラ島がジオンの勢力下に置かれるとインド洋と南シナ海で連邦側の輸送船が消息を絶つ事件が頻発し、連邦海軍はその事態への対応を迫られる事となる。
打開策として、輸送船や商船に船団を組ませ、それを連邦海軍が護衛する護送船団方式による輸送を開始した連邦だったが、海軍が護衛を開始してもなお輸送船団への襲撃は続き、海軍首脳部を悩ませ続ける事になるのである。
アフリカ東海岸近海
連邦海軍
特務輸送艦隊 旗艦アカンコグア
「こちら第184特務輸送艦隊 旗艦アカンコグア、第37564輸送船団応答せよ。繰り返す、こちら第184特務輸送艦隊 旗艦アカンコグア、第37564輸送船団応答せよ……。」
「どうだ?合流予定の輸送船団から応答はあったか?」
「ダメです、艦長。予定通りならすでに合流が完了している時刻なのですが、全く応答がありません。もしかすると輸送船団は既にジオンの連中にやられてしまったのかもしれません……。」
「当艦隊と比べれば小規模だが、合流予定の船団にもモンブラン級駆逐艦3隻が護衛についているのだ。仮にジオンの連中の襲撃があったとしても救難信号位は出せるはずだぞ。だが、それもない以上、ミノフスキー粒子による通信障害ではないのか?」
「いえ、艦長。これくらいの散布濃度ではそこまで大きな影響は出ません。先程も商船からの通信を問題なく傍受しており、無線は間違いなく機能しております。」
「そうか……。ならば合流予定だった輸送船団はジオンの奇襲を受けたのかもしれんな……。商船の無線が通じるという事はレーダーも機能するだろうし、航空機による奇襲という線は考えにくい。ということは噂の水中用モビルスーツによる奇襲を受けたのかもしれん。」
「ハワイやスマトラ島を陥落させ、今世界中の海で暴れ回っているという例の水色のやつですか?
ジオンの連中は海のないコロニーが本拠地なのに、一体どうやってあんな兵器を開発したのでしょうか?」
「わからん。だが、ハワイやスマトラ島を陥落させた恐るべき兵器が側にいる可能性は高い。
艦隊の警戒レベルを上げるぞ。ドン・エスカルゴと例の新兵器を出して警戒に当たらせろ。それと用心棒にも即応待機を命じておけ。」
「ゲーブル大尉に即応待機をですか?」
「何だ、奴の事が苦手か?確かに野獣のような奴だが、奴はプロだ。文句は言っても仕事はこなす。気にせずに伝えろ。」
「はっ!失礼しました。直ちに伝えます。」
「うむ。これが杞憂ですむと良いのだがな……。」
戦略海洋軍
偽装貨物船 ガランシェール
「ジンネマン艦長、連邦の団体さんのご到着ですぜ!」
「ああ。だが、今回はちと数が多いな。あれではさっきの船団のように商船のふりをして近づいて、モビルスーツによる不意打ちで仕留めるのは無理だな。」
「まあ本艦にはモビルスーツは3機しかいませんからね。いくらハイゴッグでも、空母を中心とした40隻近い戦闘艦を3機で相手をするのは無理です。今回は諦めますか?」
「いや…。あれだけの規模の艦隊なのに輸送船の数が30隻程度しかいないのが気になる。よほど重要な物資を運んでいるのだと思わないか?」
「通常は30隻位の輸送船団なら10隻位の護衛が相場ですから、確かに怪しすぎますね。」
「よし、仕掛けるぞ!周辺にいる部隊を呼び集めろ。それとモビルフォートレスにも連絡を入れておけ。」
「了解です!」
戦略海洋軍
モビルフォートレス ゾック01
やあ…諸君。ギレン・ザビである。
オデッサ周辺の戦況の掌握が完了したので、今後重要となるインド洋の視察に来ていたのだが、まさかこのタイミングで連邦の大規模輸送船団を発見するとは……。
戦略諜報軍から多数の輸送船団がジャブローを出発して北欧やインドに向かっているという情報が入ったため、インド洋に展開していた戦略海洋軍からかなりの数が大西洋へと派遣されており、今回発見した連邦艦隊に即応出来る戦力が俺の視察の護衛の為に用意した部隊位しかなかった。
集まった戦力はこのモビルフォートレス ゾックにユーコン級4隻、偽装貨物船5隻と各艦に搭載されたハイゴッグが32機。
それなりの戦力ではあるが、ヒマラヤ級大型空母を中心とした戦闘艦40隻を相手に正面から戦うには少々心細い数である。
その為、敵艦隊の後方からゾックを中心とした部隊で攻撃して敵の護衛を引きつけ、その隙に前方に回り込んだユーコンのモビルスーツ隊で輸送船を仕留める事になった。
やや戦力が不足気味だが、輸送船団を片付ける位なら何とかなるだろう。そう思って始めた戦いだったが、連邦軍の新兵器によって想定以上の苦戦を強いられる事になる。
偽装貨物船から出撃したハイゴッグ10機が囮となって連邦艦隊のフライマンタやドン・エスカルゴと言った航空戦力を引き付け、待ち伏せしていたゾックと6機のハイゴッグの攻撃で撃破するところまでは上手く行ったものの、続いて現れた水中型ボール「フィッシュアイ」の集団による攻撃でハイゴッグ3機が撃破されゾックもまた損傷する。
そして肝心の輸送船を攻撃した別働隊も、連邦の空母に搭載されていた新型モビルスーツによって大損害を被ってしてしまう。
……っというかあの機体は何だよ!?
頭部こそジム系統の形だけど、機体性能はガンダム級だぞ?!
幸い残存のハイゴッグとユーコンからの攻撃で半数近くの輸送船を沈められたので、これ以上損害が広がる前に撤退する事にした。
確かにガンキャノンが既に地上に現れていた以上、いつ連邦の新型が現れてもおかしくはなかったのだが……。
これは連邦のモビルスーツ開発についての調査を急がせる必要があるな……。
一一一一一一一一一一一一
side ヤザン・ゲーブル
「ゲーブル大尉!艦隊の前方からジオンの新手が現れた。護衛は後方のジオン軍への対応に手一杯で前方の連中までとても手が回らん。すまんが対応を頼む!」
ヤザンが空母アカンコグアに搭載された機体のコックピットで各部のチェックをしていると、そんな通信が艦長から入る。
「この機体は本来宇宙か陸戦にしか対応してないと言うのに無茶を言いやがる。」
「輸送船にはジムを量産するのに必要な機材が積み込まれているのだ。我々はどのような無茶をしようとこれを守らねばならんのだよ。」
「ふん。そんな大事な物なら、ジャブローの穴蔵にでもしまっておけば良いのだ。」
「そうできれば確かに安全だろうが、そういう訳にもいかんのだろうよ。すまんが何とか頼む。」
ブリッジとそんな軽口を叩きあいながら、ヤザンがコックピットのスイッチを入れると、モビルスーツに搭載されたゴーグル型のデュアルセンサーに光が灯った。
「ヤザン機出るぞ!上げろ!」
壁に設置してあった試作バズーカを手にとって機体を壁際まで移動させると、ヒマラヤ級空母アカンコグアのエレベーターが起動して甲板上にRX-81-P プロトタイプ・ジーラインが姿を現した。
サイド7から送られてきたプロトタイプ・ガンダムのデータを基にガンダムの量産タイプとして開発されたこの機体は、頭部の形状こそガンダムタイプではないものの、機体に施されたマグネット・コーティングと装備換装によって多目的運用が可能な機体として開発された事によって、ガンダムにも負けない程の高いポテンシャルを秘めた機体となっていた。
「ブリッジ、 こちら甲板上のヤザンだ。ありったけの対潜兵器を使って連中を水の中から叩き出してくれ!」
「ゲーブル大尉、連中の動きが速すぎて我々の対潜兵器では恐らく当たらんぞ?」
「当たらなくて良いんだよ!対潜兵器の炸裂音でソナーが使えなくなれば連中はこちらの位置を掌握するために海の上に顔を出すだろう。そこをこちらで叩く!」
先ずは敵の顔を拝まなければ戦争にならんからなぁ!
「なるほどな…。了解した。全艦、全対潜兵器発射!敵の位置は目測で構わん。ジオンの連中に炸薬が奏でるオーケストラを聴かせてやれ!」
護衛の連邦艦隊から放たれた無数の対潜ミサイルや魚雷、対潜ロケットがジオンのモビルスーツ部隊がいるであろう海域へと降り注ぐ。
すると、その対潜兵器の雨に耐えかねたのか、一機のモビルスーツが海上へ頭を出した。
「馬鹿が、かかったな!」
トリガーを引き絞ると、ジーラインの右手に持った試作型バズーカから大型のロケット弾が飛び出して水色の機体めがけて宙を駆ける。
放たれたバズーカの直撃を受けたジオンの水中用モビルスーツは残骸となって海の底へと沈んでいった。
「はっ、随分とあっけねぇな!」
俺がそう呟くと、仲間を撃破されて焦ったジオンのモビルスーツが次々と海面から顔を出し、腕に内蔵されたメガ粒子砲を俺に向けて放ってきた。
「ふん、バレバレなんだよぉ!」
そう言いながらも、左手に備えた大型の盾を構えて敵機の攻撃を確実にかわすと、お返しとばかりに両肩部に備えた2門のガトリングスマッシャーから無数の弾丸を水中の敵機めがけて放つ。
「逃すもんかっ。こいつを喰らえ!」
そう叫びながら掃射した無数の弾丸のどれかが水中の敵機へと直撃し、水中から二本の巨大な水柱が立ち上ぼり、同時に2機の水中用モビルスーツが海の藻屑となった。
水の中を自由自在に動くジオンの水中用モビルスーツは大きな脅威ではあるものの、やはり無敵という訳ではないらしい。
その後も連邦艦隊とジオン水中用モビルスーツとの攻防は続き、駆逐艦が捨て身の覚悟でアカンコグアを雷撃から守った隙に、攻撃してきたジオンの機体をジーラインのバズーカで始末する。
立て続けの損失で形勢が不利と判断したのか、ジオンの水中用モビルスーツはアカンコグアへの攻撃を断念して直接輸送船への攻撃を開始した。
「やらせるかよぉ!」
そう言いながら目前で輸送船を攻撃する機体めがけてバズーカを放ち、また1機のモビルスーツを海へと沈める。
しかしジオンの奴等もさるもので、それ以降は味方の艦艇や輸送船を巧みに利用して此方の射線の死角となる場所から攻撃を続け、10隻程の輸送船を沈めた段階で連中は撤退を開始した。
終わったか……。慣らし運転も終わっていない機体と空母の甲板上という慣れない環境での戦いに想像以上に疲労していた俺が僅かに気を緩めた瞬間、それは訪れた。
『おじさん。またくるよ?』
?! 突如として心に響いた声を警戒した俺が周囲を見回すと、突然水中からジャンプしてきた水色の機体が甲板へと降り立ち、その両手に着けた巨大な爪を此方に向けて振り下ろす。
油断したのか? この俺が!?
咄嗟にスラスターを吹かして後退しながら、手に持っていたバズーカを相手に投げつけて時間を稼ぐと、機体に備えられたビームサーベルを引き抜く。
しかし、敵も手慣れたもので奇襲に失敗した事を悟ると、すぐに海へと飛び込み姿を消した。
「思いきりの良い敵だぜ。嫌いじゃないな。」
そう呟いて周囲を警戒しながら、先ほど突然響いた声について考える。
思えばこの機体に初めて乗った時も何処か得体の知れない力を感じたものだが、そこにいないはずの誰かに見られているような感じは…あまり好きじゃない。
特に先ほど頭に響いた声は女の声をしており、俺と同じ戦場に女がいるのが気にいらなかった。
キャラのかき分けが難しい…。ヤザンっぽさがあまり出ていませんがお許しください。
良さそうな表現が出来る方があれば、誤字報告等を使って教えて頂ければそちらに修正させて頂きます
アイナ様に似合いそうな機体は?
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アプサラス
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ビグ・ラング
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ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
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アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)