次の話から原作に入り一気に話のテンポが早くなる予定ですが、最後まで楽しんで頂けたらと思います。
やあ、勇猛なるジオンの戦友諸君。
第1地上機動師団、第3航空機動大隊長を務めているハンス・ウルリッヒ・ルーデル中佐だ。
我が軍がオデッサ北部の要衝キエフを制圧して以降、連邦ロシア方面軍による攻撃が続いていたのだが、今月に入ってその攻撃が突然停止したため、今日は連邦の勢力圏まで偵察に来ていた。
今日はオデッサの北西一帯の偵察をおこなったのだが、残念ながらこれといった収穫がないまま基地への帰路を辿っていた。
「隊長、もう少しで基地ですね。帰ったら山積みになっている報告書の確認をお願いします。報告書を読まずに『現地に行けば最新の情報がわかる!』とか言って出撃したら、また総帥に報告しますからね。」
氷のように冷たい視線を向けながら、淡々と伝えてくるのは、ギレン総帥から監視として派遣されたエリン・ガーデルマン少尉である。
私が報告した戦果があまりにも多かったとの理由で上層部による査察がおこなわれ、その結果として私が戦果を戦友に譲ったり、休みをとった部下の代わりに出撃していた事が総帥に発覚してしまったのである。
戦場で苦楽を共にした戦友にスコアを譲ったり、部下に休みを与える為に代わりを務める事は上司として当然の事だと思うのだが、流石に部隊の半数に休みを取らせて代わりに自分が24時間戦場にいたり、機甲師団に待ち伏せされて撃墜された直後に病院を抜け出して出撃したのはやりすぎとの事で酷く怒られてしまった。
しかし、ロースマンのやつめ。ヘンシェルが妊娠して出産の為に本国へ帰還してしまったので代わりに副官に任命してやったのに、査問官へ簡単に口を割りおって。
そういった理由で総帥からお前を一人にしておくと二十四時間出撃していそうで危険だと言われてしまい、その為に監視として派遣されたのが先ほど紹介したガーデルマン少尉である。
18歳という若さにもかかわらず、医師としての知識とモビルスーツパイロットとしての技量を併せ持つガーデルマン少尉は、白い肌としなやかな銀髪、無表情で少ない口数からミステリアスな雰囲気を漂わせており、やや小柄で年齢よりも若くみられる事を除けば文句のつけようがない逸材なのだが……。
「何ですか中佐?通信といっても、あまりジロジロ見るようならセクハラで訴えますよ?」
口を開けばこのツンツンぶりだ。これさえなければ、ヘンシェルが本国に帰って寂しい夜の相手を頼みたい位なのだが、世の中上手くいかないものだ。
そんな事を考えながら基地へと向かっていると、前を進んでいたガーデルマン少尉のグフが突然動きを止めた。
「どうした?」
「中佐……、東から大規模なミノスフキー粒子反応があります。」
ここから東といえば次に偵察に行こうとしていたワルシャワの辺りだが……。
「連邦がミノスフキー粒子を広域散布する可能性は低いため、以前に散布したミノスフキー粒子が残留しているのかと思われますが…どうしますか?」
フム、大部隊の運用を基本とする連邦が、通信障害を引き起こすミノスフキー粒子を散布しても良いことなどないからな。だが……。
「いや、大至急ミノスフキー粒子反応があった地域の偵察に向かうぞ。」
これは「当たり」の臭いがする。
「このままですか?それほど推進剤に余裕はありませんが。」
「基地も近い。もし連邦軍だった場合、これ以上基地に近づけると面倒な事になる。」
決して書類を見るのを後にしたいとかそういった理由ではないからな。
「……わかりました。先導します。ただ、帰るのが遅くなってもちゃんと書類は見て頂きますからね。」
そう言うとガーデルマン少尉のグフが進路を東へと変えた。
……何故私の企みがわかったのだ?。これが最近流行りのニュータイプという奴なのか?
だがこの時の私の判断は結果として大当たりであり、東へ向かった我々はキエフに向けて進軍する連邦軍を見つけるのだが、問題はその規模が予想を遥かに上回る大部隊だった事である。
「これは…連隊どころか師団級の戦力ですね……。」
森の中に潜む我々の前に現れたのは、数えるのも面倒になる程の61式戦車と、3基の三連装主砲を備えた巨大なY字構造の陸上戦艦だった。
連邦の奴等め……。片っ端からビッグトレーを沈めてやったというのに、また新型を造りおったか。
「中佐、あの地上や甲板の上にいる白い人型は何でしょう?」
ガーデルマン少尉の言葉に従って敵軍を見ると、そこにあったのはゴーグル状の頭部カメラが特徴の白い巨人……モビルスーツであった。
「連邦がモビルスーツを開発したと言うのか!?しかもなんて数だ!」
ざっと見ただけで20機以上の機体が、陸上戦艦の甲板や周囲に展開していた。
私の大隊でさえグフが全部で15機しかないのに、連邦の奴等は相変わらず数だけは一人前だな。
「連邦の大部隊が基地へ迫っている事をなんとしても味方に知らせなくてはいけません。……私が攻撃を仕掛けて連中を引きつけますので、中佐はその隙に離脱してください。」
私が獲物を前に舌なめずりしていると、僚機であるガーデルマン少尉がそんな悲壮感たっぷりの台詞を言ってくる。
むう……。あの程度の連邦軍などたいしたことないと思うのだが、まあ彼女の機体は偵察用装備だから脅威に感じるのも仕方ないかもしれない。
そう思った私は、彼女にこう返した。
「連邦軍など我が軍の敵ではないが、君が一人で相手をするにはいささか数が多いのも事実のようだ。
ここは私が引き受けるので、部隊への連絡は君に頼む。」
もし連邦の別働隊が基地にたどり着いて奇襲を仕掛けでもしたら大事だからな。
「ですが中佐、あの数が相手です。死にますよ?」
これは……、基地に戻ったらジオン軍人としての精神を教育してやらねばならんな。
「全く、基地に戻ったら再教育だぞ?少尉?
夜になったら私の部屋に来なさい。私が手取り足取り色々と教えてあげよう。」
そんな冗談を言いながら、愛機に対艦ライフルを構えさせる。
「さあ早く行け、ガーデルマン少尉。お前が知らせに帰る場所は私が守ろう。」
「つっ!……わかりました。なんとしても基地まで戻り増援を連れてきます。それまでどうか、どうかご無事で。」
「ありがとう。だが別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
そう言うと、私は構えた対艦ライフルで敵モビルスーツへと攻撃を開始し、ガーデルマン少尉は味方に連邦の襲撃を伝えるため全速で基地へと向かうのであった。
なお、ガーデルマン少尉が増援を連れて戻った頃には陸上戦艦とモビルスーツの大半を私が撃破しており、それを見た部隊の連中が「中佐だから仕方がない。」と、ガーデルマン少尉を慰めていたのが不思議であった。
因みにこの日の夜、約束どおりにガーデルマン少尉が私の部屋を訪れ、色々とあった後にそのまま夜戦に突入する事になる。
やあ…諸君。ギレン・ザビである。
部隊の再編が完了して一息ついたと思えば、連邦軍による攻勢が突然はじまり、先程までそれの対応に追われていた。
キエフの他にも、複数の箇所で連邦による攻撃を受けており、連邦の突破を許した場所にはドムで構成された機動打撃連隊を派遣して戦線の立て直しを図っている。
まあ陸上戦艦を中心としたモビルスーツ師団に奇襲を受けたのだから多少の損害はやむを得ない。
それと遭遇して、グフ一騎で撃破したとかいう何処かのチートの方がおかしいのだ。
連邦軍による攻勢はかなりの規模だったものの、地形を活用して陣地を構築していたおかげで被害はそれほど大きくなかった。
だが、ついに連邦軍が本格的にモビルスーツの運用を開始したか……。
原作では9月頃からジムの生産を開始した気がするのだが、既に前線で運用が始まっている事からずいぶんとモビルスーツ開発のペースが早まっているようだ。
いったい何が原因だ?
コロニー落としどころか各サイドは味方になっているし、アクシズは既に地球圏に移動しているし、モビルスーツに至っては既にドムどころかゲルググの量産が始まっているし……。
……。駄目だ…、心当たりが多すぎる……。
この分だとV作戦も大幅に前倒しになっているかもしれん。大至急調査させねば。
まあ、とりあえずメイが鹵獲した連邦の機体を調査した結果を教えてくれるそうなので話を聞いてみるとしよう。
一一一一一一一一一一一一
side
メイ・カーウィン
「では調査結果について教えてくれるか?メイ?」
久しぶりに会ったのに、いきなり本題に入ろうとするギレンさんにちょっぴりムッとしたけど、大事な報告が沢山あるので我慢して説明をはじめてあげる。
「いい?ギレンさん。連邦のこの白い量産型モビルスーツはジムっていう名前みたい。
頭部の形状や装甲の形が違うから外見はあんまり似てないけど、ザクをそのままコピーしてジェネレーター回りだけを改造した機体なの。」
「これがザクのコピー機だと?」
「うん、これを見て。」
部屋のスクリーンにザクの構造図と鹵獲したジムの構造図を映すと、構造が一致した部分の色を赤くする。
「見てのとおり手足の構造はほとんど一緒で、違うのはコックピットとバックパック回りくらいなの。それで、脱出装置とバックパック交換システム関連の部品を削って、空いたスペースを使ってジェネレーターを大型化する事でビーム兵器の運用を可能にしたみたい。」
「これは酷いな。連邦軍に特許使用料を請求してやりたいぐらいだ。だが、多少ジェネレーターを大きくした位でビーム兵器を使えるようになるのか?」
「うん。ビーム兵器と言っても、ゲルググ用に開発しているビームライフルより威力や射程がかなり低めのものだから。ビームライフルじゃなくてビームスプレーガンといった感じかな?」
「ではそこまで脅威ではないという事か?」
「ううん。残念だけどザクの装甲では防げないと思う。ドムや新型のゲルググならある程度は耐えられるけどそれでも近距離では防げないと思う。」
予備のパーツでテストしたから間違いない。幸い連邦のビームライフル?の技術を転用する事でゲルググ用のビームライフル開発が進みそうだけど。
「腐ってもビーム兵器か……。ジムの装甲はどうだ?」
「チタン系の合金みたい。超硬スチールより軽いけど、強度的にはそこまで大きく違わないからザクマシンガンでも壊す事はできると思う。まあ一発や二発では無理だし、大型の盾を持っているみたいだから簡単にはいかないかもしれないけど……。」
「そうか、新型のMMP-80マシンガン等の配備を急がねばならんな……。
そういえばOSもコピー品なのか?せめてOSは盗られないように対策はしたんだが?」
「そうなの!OSはメイ達が一生懸命研究して作り上げたのがそのまま使われてたの!
プログラムを見た感じでは完全にはコピー出来てないみたいだけど、許せない!もう!」
まったく!このOSを作るのにメイが何日徹夜したと思っているのよ!
「そ、そうか……。流出元は解りそうか?」
「誤魔化そうと色々細工してあったけど、多分「紫」のところじゃないかな?一部テスト機用に作ったプログラムが混ざっていたし。」
「……。間違いないのか?」
「うん。テスト機用のプログラムは後で識別出来るように少しずつ変えておいたの。」
特に「紫」のところに配るのは念入りにね。
「わかった…。報告ありがとう。メイ。そしてすまない……。」
「?何でギレンさんが謝るの?」
最近あんまりかまってくれない事以外は、ギレンさん別に悪いことしてないと思うけど?
「以前に約束しただろう。メイの父上の無罪を証明出来そうな証拠があれば協力すると。
今回の情報流出はメイの父上の件とは直接の関係はないが、それでも「紫」が様々な違法行為をおこなっている十分な証拠だ。
だが連邦と戦力が拮抗している現在の状況では、直ぐに「紫」を逮捕する事はできない。
キシリアを逮捕すれば少なくない混乱がジオンに生じるだろうからな。」
……。それは10年も前、初めて会った時にした約束。私自身、忘れはしなかったけど、それでも諦めかけていた約束。
「約束しよう。連邦に決定的な打撃を与え戦争の行方が決まった時、メイの父上の無実を証明するために動く事を。だからもう少しだけ待っていてくれ。メイ。」
……。ずるい。ずるいずるいズルイ!ギレンさんはいつもずるい。いつも私が予想もしていない方法で私を困らせ、驚かせ、喜ばせる。
だから今度は私が不意打ちをしてしまおう。
父の無実が証明されたら私はメイ・ザビからメイ・カーウィンに戻ろう。
そうすればギレンさんと私が恋人になろうがなんだろうが問題ない。
恋人が駄目ならララァちゃんみたいに愛人でもいい。
アイナお姉ちゃんがちょっぴり怖いけど、きっと真剣に相談したら許してくれるだろう。
だから私がやるべき事はその日が1日でも早く訪れるように努力すること!
まずはギニアスさんから頼まれた量産型アプサラスの射撃管制用プログラムを作らなきゃ!
「うん。待ってるね。ギレンさん。」
次は私がギレンさんを驚かす番なのでギレンさんも待っててね。
「あ、それとジムのOSなんだけど、私がもしもの時のために入れておいた…」
アイナ様に似合いそうな機体は?
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アプサラス
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ビグ・ラング
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ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
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アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)