「こちら哨戒任務中のホークアイ。ムサイ級とおぼしき艦影を確認したが、今日友軍の入港予定はあったか?」
サイド3の警備にあたっているムサイ級巡洋艦「バルフィッシュ」に、哨戒に出たザクから所属不明艦の発見報告が入ったのは、宇宙世紀79年も終わろうとしている12月の末の話であった。
「こちらバルフィッシュ。航路管制局に照会したが、該当する入港予定はない。沈んだ船の見間違いではないか?」
「いや、間違いなくムサイだ。それも一隻じゃない。目視で五隻を確認。このマークは…グラナダ艦隊の船か?」
「…グラナダの船だと?未確認艦に向け全周波数帯で通信を開け。
接近中のムサイ、こちらサイド3警備隊のバルフィッシュ。そちらの所属と作戦コードを通知されたい。繰り返す。接近中のムサイ、こちらサイド3警備隊…」
「艦長!ミノフスキー粒子の散布濃度が急速に上昇しています!」
「バカな!ここはサイド3だぞ?!ありえん!」
「ブリッジ!未確認艦艇からモビルスーツの発進を確認!此方に接近して…うわっ!」
「艦長!ホークアイが未確認モビルスーツによって撃墜されました!!」
「て、敵襲だ!サイド3全域に非常警報を出せ!総員、第一種戦闘配置!!モビルスーツ隊、全機発進!所属不明機を近づけるな!」
緊急事態を告げるアラートが鳴り響き、搭載されているモビルスーツが次々と緊急発進する。しかし、戦況は既に手遅れとなりつつあった。
慌てて迎撃に出たバルフィッシュのモビルスーツ隊を、マレット率いるグラナダ特戦隊のアクト・ザクが襲う。
アクト・ザクはペズン基地で秘密裏に開発された高機動型モビルスーツである。
連邦との裏取引で入手した技術をザクに導入することで開発されたこの機体は、機体の駆動システムをフィールド・モーターに変更し、関節部にマグネット・コーティングを導入することで大幅な運動性の向上に成功していた。
また、連邦から入手したエネルギーCAP技術を用いる事でビームライフルの携行も可能としており、推力を強化した専用バックパックを装備する事で、外見こそザクに似ているものの、もはや別の機体といっても良いほどの性能となっていた。
そんな機体を相手に、奇襲を受けた警備隊が勝てるはずもなく、モビルスーツ隊を蹂躙されたバルフィッシュが沈んだのは、所属不明のムサイ発見の報告から僅か数分後の事であった。
所属不明の部隊による襲撃に浮き足立つサイド3警備艦隊を、今度はキシリア麾下のニュータイプ部隊が襲った。
未完成なのか足のない特殊な形状をしたその機体は、辛うじて迎撃に出たモビルスーツ隊を腕の五連装メガ粒子砲によるオールレンジ攻撃で蹴散らすと、軍港から慌てて出撃する警備艦隊に向けてメガ粒子砲の雨を降らした。
五連装メガ粒子砲の直撃により出港もままならず軍港内で擱座するチベ。
何とか出港したものの、メガ粒子砲の充電が間に合わず何もできずに沈むムサイ。
緊急出撃したが、足のない機体のスラスターに搭載されたプラズマリーダーにより纏めて撃破されるザク小隊。
「フン、あれが例のニュータイプ部隊か。たった五機で艦隊を足止めするとはなかなか使えるじゃないか。よし、周辺宙域の確保が完了した事をキシリア様にお知らせしろ!」
アクト・ザクから発光信号が射出され、それを合図に一隻の小型挺がサイド3から飛び出し、グラナダ方面に向けて全速で進んでゆく。
すると、それを追うようにヅダとザクによるモビルスーツ小隊が出撃してきた。
「キシリア様への追撃など俺が許さん!」
隊長機らしきヅダをビームライフルによる狙撃で撃墜すると、それに動揺するザクに向け大型ヒートホークを振り下ろす。
「フン、たわいない。本国の警備部隊など、所詮はこの程度か。よし、我々もグラナダに引き上げるぞ。信号弾を撃て!」
「無事の帰還何よりです。キシリア様。」
「ウム。ジオン本国で拘束された時はどうなる事かと思ったが、お前達のおかげで無事にグラナダへ戻る事ができた。私が不在の間の対応ご苦労だったな、マ・クベ。して、現在の状況は?」
「は!グラナダ基地の機能は我々新生ジオン軍が完全に掌握しました。また、各地に配置替えとなっていたグラナダの兵達を使い、ア・バオア・クーやソロモンの通信施設や軍港の破壊に成功しました。これによってジオン本国は一時的に孤立した形になっております。」
「ドズル率いる宇宙攻撃軍は地球軌道に展開しており、ギレン率いる親衛隊もジャブロー攻略作戦の指揮をとる為に地上に降りている。正にジオン本国を制圧する千載一遇のチャンスという訳だな。だが、本国の占領に失敗すれば後がないぞ?少し性急すぎたのではないか?」
「はい、キシリア様。我々もペズンに潜伏しながらテロ等で社会情勢の不安定化を図り、それによってギレン達の支持を失わさせる案も考えましたが、グラナダの兵に対しておこなった洗脳が簡易的なものであるため、長期間放置すると解除される恐れがあります。
また、連邦との戦いが終戦を迎えた場合、過去の取引に関する情報が連邦側から漏れる可能性を考慮してこのタイミングでの決起となりました。」
「……確かに貴様の言うとおりか。今が私に残された最後のチャンスという訳だな。
ジオン本国を攻略し、父上やサスロの身柄を押さえてしまえばギレンやドズルも無茶はできまい。兵の準備はできているのか?」
「キシリア様の乗艦、グワジン級戦艦「アサルム」を中心にムサイ級十二隻、パゾク級六隻、パプア級十四隻が出撃態勢を整えております。」
「まさか補給艦が主力になるとはな……。まあ、宇宙艦の大半は宇宙攻撃軍の管理下にあるのだから仕方ないが。」
「はい。ですがパゾクとパプアには宇宙戦闘艇『ザクレロ』を、ムサイにはザクを改良した『アクト・ザク』を限界まで搭載しております。
ペズンで開発した私のギャン・エーオースと、NT部隊の力があれば、首都防衛師団など敵ではないでしょう。」
「ウム。では直ちに全艦隊を出撃させろ。私はアサルムで指揮をとる。」
「はっ!」
「…では、そのように。急な要請への迅速な対応感謝する。ではまた。」
ん?……やあ、諸君。ギレン・ザビである。
全速でジオン本国に向かいながら、各地と連絡をとっているのだが、肝心のジオン本国との通信がキシリアによる破壊工作で音信不通となっており、親父やサスロ、アイナ達だけでも本国から退避させたいのだが、いまだに連絡がとれていない。
サスロ辺りの指示でア・バオア・クーに退避してくれていると良いのだが……。
しかしキシリアめ。やっと連邦との戦いが終わろうとしているタイミングでクーデターなど起こしおって。和平交渉の妨害や情報漏洩、モビルスーツ用OSの横流しなど本当にいらないことばかりしてくれる。
物事は俯瞰で見る事が大事だというのに、理想に囚われ判断を誤ったな。
まあいいだろう。俺としても貴様との因縁に決着をつけておきたかったところだ。戦後に暗躍され、頭パーンされてはたまらんからな。
貴様がそのつもりなら、俺の手で引導を渡してやろう。
ハマーン、全周波数帯で通信を開け。艦隊に檄を飛ばすぞ!
忠勇なる我がジオン公国軍の将兵達よ。
連邦からのスペースノイド弾圧によって始まったこの戦いもいよいよ終わりの時を迎えつつある。
連邦の戦力は強大であったが、長い年月をかけて積み上げてきた準備と、諸君の素晴らしい働きによって戦いは我が軍の優位に進み、オデッサ、北米、オセアニアにつづき、ついには連邦軍本部ジャブローさえ我等の手に落ちた。
既に決定的打撃を受けた連邦軍に如何ほどの戦力が残っていようと、それは既に形骸である。
敢えて言おう、カスであると!!
まして醜い裏切り者であるキシリア率いる軟弱の集団が、我等栄光あるジオンを導く事など出来ないと私は断言する。
これ以上戦い続けては、人類そのものの存亡に関わるのだ。
無能なるキシリアと地球連邦の残党に我ら真なるジオンの力を思い知らせ、人類の未来の為、ジオン公国国民は立たねばならんのである!
ジーク・ジオン!!
アイナ、メイ、無事でいてくれよ……。
一一一一一一一一一一一一
side アイナ・サハリン
メイちゃんの所に遊びに来られていたデギン様の所に、サスロ様が顔色を変えてやって来られたのはギレン様によるジャブロー攻略作戦が始まってすぐの事でした。
「所属不明の部隊にガーディアン・バンチが襲撃され、キシリアの身柄を奪われただと?!」
「親父、それだけじゃないぞ。行方不明だったキシリア麾下の部隊がグラナダを襲撃した。守備隊から多数の造反者が出た事もあってグラナダ基地は既に陥落したらしい。
それに、ガーディアン・バンチを襲撃した部隊がグラナダ方面に逃走した事といい、どうやらキシリアは軍事クーデターを起こす気のようだ。」
「なんという事だ……。まさかキシリアが本当に儂らを裏切っていたとは……。」
……。どうもキシリア様、いえ、キシリアがグラナダで反乱を起こし、またギレン様に迷惑をかけようとしているようです。
メイちゃんのお父さんに濡れ衣を着せて殺しただけでなく、情報漏洩や妨害工作でギレン様の足を引っ張った事だけでも許せないのに今度は軍事クーデター……。
紫ババアに対する怒りで手が震え、思わず手に持っていた金属トレーを凹ませてしまいます。
「ギレンは、ギレンは何と言っている!?」
「ガーディアン・バンチへの襲撃にあわせてサイド3各地で爆発事件が発生した。特に通信施設に大きな損害がでており、地球軌道にあるアクシズはおろか、近場のア・バオア・クーとさえ連絡がとれない状況なんだよ。親父。」
「ぐ…グラナダとならレーザー通信で繋がるだろう。ワシがキシリアを説得して止めさせる!」
「何をバカな事を…。言葉で説得できるようならそもそもクーデターなど起こしはせんよ。そんな事より早くサイド3から脱出する準備をしてくれ。」
「ザビ家の者がサイド3から逃げ出すというのか?!」
「グラナダからの報告で想定される反乱軍の戦力は、本土防衛隊の戦力をあきらかに上回っている。
ここに我々が残ってキシリアに捕まりでもすれば、救援に来るであろうドズル達の障害になってしまうんだよ!」
「しかし、ザビ家の者がムンゾの民を置いて逃げ出したとなれば、市民の支持を失う事になるぞ!」
「それは…そうかも知れないが……。」
どうやらザビ家の方が全員逃げる事が問題になっているようです。
確かに国民を残してザビ家の方々だけ安全な場所に避難する事には問題があるかも知れませんが他に方法が……。
…いえ、一つだけザビ家の方々に避難して頂き、かつサイド3にザビ家の者が残る方法があります。
勝手な事をするなとギレン様にお叱りを受けるかも知れませんが、ギレン様もララァちゃんやハマーンさん、アルテイシアさんに、果てはメイちゃんにまで勝手に手を出したのです。
多少の我が儘は許して頂けるでしょう。
「デギン公、サスロ様!」
突然私が大きな声で話しかけた事に驚いたお二人が私の方を向かれます。
「どうされたのかな?サハリン嬢」
戸惑いながら話しかけてきたサスロ様に私は自分の考えを伝えました。
「お二人ですぐに避難してください。私がザビ家の代表としてサイド3に残ります。」
「……。確かに貴女はザビ家の一員と言っても過言ではない存在だが、公式的には単なる使用人だ。ザビ家の代表というのは無理が……。」
「いえ、大丈夫です。此処に私とギレン総帥の名前を書いた婚姻届があります。これを内務相であるサスロ様に受理して頂く事でこの瞬間から私はザビ家の人間になります。」
「……よくそんなものがありましたな。以前からギレン兄と準備されていたのですか?」
「いえ、今私が独断で偽造しました。ギレン様は後でお怒りになるかも知れませんが、その時は私の偽造であったと処断して頂けば良いのです。」
「それは…」
「幸いジオン本土にいる最高位の士官は私の兄であるギニアス技術中将です。私がザビ家の代表として残留しても大丈夫でしょう。」
「しかし、それでは貴女に危険が…。」
「今、一番大事なのはザビ家やダイクン家に連なる方々に安全な場所まで避難して頂く事、違いますか?」
「……解った。ジオン本土は貴女に任せよう。」
「親父…!」
「ジオン公国の公王としてギレン・ザビとアイナ・サハリンの結婚を認める。
末長くバカ息子を頼む、アイナ嬢、必ず生きてギレンと再会し添い遂げるように。」
そう私に向けて告げると、公王陛下は私に深々と頭を下げられたのでした。
一一一一一一一一一一一一
あ・と・が・き
エタッたと思われた方、申し訳ありません。なかなか筆が乗らなかったというのも事実ですが、道端で生後一月ほどの天使…じゃなかったルシファーを拾ってしまいその世話やらなんやらで落ち着いて小説を書けませんでした。
ミルクを飲ませたり、餌をあげたり、遊びの相手をしたり、パソコンの上に乗ってゴロゴロされたりで幸せでした。
アイナ様に似合いそうな機体は?
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アプサラス
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ビグ・ラング
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ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
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アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)