サイド3 ギレン邸
やあ…諸君。前回の続きである。
前回、ジオン公国宣言に反発した一部のダイクン派が爆弾テロを計画して、それをキシリア配下の治安部隊が防いだ事については説明したと思う。
だがその爆弾テロを計画したのが数少ないダイクン派の議員であるカーウィン議員であり、治安部隊による拘留中に死亡した事は伝えていなかった。
治安部隊の捜査によりカーウィン議員が議会に持ち込もうとしていたカバンから時限爆弾が発見され、その後の調査で議員の自宅から押収されたパソコンから爆弾テロを計画したデータが出てきたことで、カーウィン議員が犯人として逮捕された。
だが本人は最初から最後まで関与を否定していたし、ギレンの記憶からも現在の状況でダイクン派が爆弾テロをおこしたら弾圧が酷くなる事は理解している人物なので、正直俺はキシリアによる自作自演の逮捕劇である事を疑っているのだが……。
まあ今重要なのは死亡したカーウィン議員が無実かどうかでなく、彼の娘であるメイ・カーウィンについてである。
メイ・カーウィンは登場したゲームの中で弱冠14歳でありながらエンジニアとして天才的な才能を持っており、10歳のころからジオニック社の一員としてザクの開発に携わっていたとされている才媛である。
元々彼女のファンだった事もあり、何とか彼女を味方にしたいと考えていたのだが、俺がアクションを起こす前に今回の事件がおきてしまった。
そして父子家庭であった彼女は父を今回の事件で失い、残った親戚からもテロリストの子供だからと受け入れを拒絶され全ての身内を失ってしまったのである。
ダイクン派の中には彼女を引き取りたいと考えている者がいたかもしれないが、表向きとはいえ爆弾テロを起こした者の身内を引き取るのは二の足を踏むのだろう。結局彼女は国の施設に入る事になり、どうやらその中で激しい苛めを受けているようであった。
あきらかにザビ家による政策の被害者なので出来れば引き取って助けてあげたいのだが、彼女から見れば俺は父親の敵のようなものだ。果たしてそれが助けになるかどうか……。
「ふぅ…。どうしたものかな……。」
書斎でメイ嬢の資料を読みながら悩んでいると、アイナがメイド服姿で入ってきた。
「失礼します。閣下、コーヒーをお持ち致しました。」
「うむ。ご苦労。」
やっぱりメイド服は良いね!
「何かお悩みでしたか?」
「ああ、一つ難題があってな。先日爆弾テロの主犯とされて亡くなったカーウィン議員の娘が国の施設に入ったのだが、そこで苛めで苦しんでいると聞いてな。
爆弾テロの件の真偽がどうあれ、娘である彼女には何の罪もない。
それで私が養女として引き取ろうかと考えたのだが、はたして彼女がそれを望むだろうかと思ってな。」
「……。私は閣下が思ったようにされるのが宜しいかと思います。メイさんがどうしたいのかは彼女にしかわかりません。もし閣下に引き取られてなお、彼女が施設に戻る事を望むのであれば、その時にまたお悩みになったら良いのではないでしょうか?」
「フム……。だが、仮に私が引き取った場合、おそらくアイナの仕事が増える事になるぞ?」
「こうして閣下のお陰で充実した時間をすごさせて頂いています。多少仕事が増えるくらい何でもありません。」
そう言いながら微笑むアイナ嬢は、正に天使のようだった。本当に背中から翼とか生えてないだろうか?
「わかった。ではメイ嬢を引き取る事にしよう。少し席を外してくれ。」
アイナが退室した後、デギンにメイ嬢を引き取る旨を連絡するギレンなのだが、それによりロリコン疑惑が悪化していく事を彼はまだ知らないのであった。
一一一一一一一一一一一一
side メイ・カーウィン
「お父さんがそんな事するハズない!」
何度私はそう周囲に訴えただろう。だけど周りの返事はどれだけ繰り返しても何もかわらなかった。
「でも君のお父さんの荷物から爆弾が発見され、君のお家のパソコンからも爆弾テロを計画したデータが見つかっているんだよ。」
前に私が見た時にはそんなデータなんて何処にもなかった!私が何度そう言っても、容疑者の身内で子供の私の証言など誰も信用してくれない。
そんなやり取りを幾度も繰り返している内にやって来たのは、父が取り調べ中に急病で死亡したと言う更なる凶報だった。
健康だったハズの父が突然急死するハズもないのに急病だと言われ、その亡骸を求めても捜査中を理由に拒否され、結局父が私の下に帰ってきてくれた時にはその姿は骨だけとなっていた。
その後、父の遺骨とともに親戚の所へお世話になるハズだったのだが、爆弾テロ犯の娘など面倒をみれないと断られてしまい、行き先の無くなった私は国の運営する施設に入る事になった。
そうして向かった施設の中は、私にとって外の世界以上に地獄のような場所だった。世間に流布されている情報が全ての施設の中で、私は凶悪な犯罪者の娘であり、それはつまり私が凶悪な犯罪者として扱われるのと同義だった。
施設で一番狭く汚い部屋に押し込まれ、僅かな私物も取り上げられた上に、私がテロをおこさないようにと自由は極端に制限された。
そして、そんな私は抑圧された日々を過ごす施設の子供達にとって格好の苛めの的だった。繰り返される苦しみの中で、私が父の後を追いかけようか迷い始めた時、その人は現れた。
「カーウィン!すぐにこの服に着替えて応接室まできなさい!」
施設の職員が、以前に没収した私の服を持って慌てた様子で部屋に入ってきた。言われた通り服を着替えて応接室に入ると、そこには思いもよらない人が私を待っていた。
「はじめましてカーウィン家の娘よ。ギレン・ザビである。」
「は…はじめまして……。メイ・カーウィン10歳です……。」
「ウム、まずはお父上のご冥福をお祈りさせて頂こう。」
父を殺したザビ家の人間が何を……。事務的な表情で追悼の言葉を言う目の前の男にそう思っても、今の私にそれを口に出す勇気はなかった。
「信じて貰う事は出来ないだろうが、私は君のお父上がテロを起こそうとしていたとは考えていない。故に君が謂れ無き罪で苦しんでいると聞き、放っておけなくてな。君さえ良ければ私の屋敷にくる気はないかね?」
「……。え?」
「君のお父上の無実を証明する事は私には出来ない。私にはその権限がないからな。だが君をこの施設から出し、不自由のない生活を送らせてあげる事ならできる。それに私の後ろ盾があれば、不要な嫌がらせを受ける事もなくなるだろう。」
「……。それは…、そうかもしれないけど…。」
「もし私の屋敷に来て、君が此処に戻りたいと思ったなら直ぐに戻れるように手配しよう。それでどうかね?」
「……。本当にお父さんが無実だと思ってくれているんですか?」
「確証はない。しかし、現在の状況で君のお父上がテロを起こす必要などどこにもなかった。だからそう思うだけだ。」
正直ザビ家の事は憎い。でもこの人は周囲の中でただひとり、自分からお父さんが無実だと言ってくれた。そんな人の所なら、こんな場所にいるよりかはましかもしれない。そう思った私は、意を決して口を開いた。
「……。わかりました。ただ、ひとつだけお願いしても良いですか?」
「何かね?」
「もし、もし父が無実だという証拠を私が見つけたら。父の無実を晴らすお手伝いをしてもらえますか?」
「……。確約は出来ない。君のお父上の無実を晴らす事でジオンが混乱し、国の大事となるような状況であれば私は協力する事は出来ない。だが、そうでなければ可能な限り協力する事を約束しよう。」
100点満点の回答ではなかったけど、それがかえってこの人なりに考えて出してくれた答えなんだと感じる事が出来る。
「……。それで構いません。これからよろしくお願いします。」
だから、私は歩き始める事にした。新しい明日に向かって。
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