サイド3 ギレン邸
やあ…諸君。ギレン・ザビである。
もう少しでUC0069年は終わろうとしているが、我が家に来てくれたメイとの間に大きな壁の存在を感じる今日この頃である。
アイナとは姉妹のように仲良く振る舞ってくれているのだが、そこに俺が近付くと途端に静かになってしまう。やはり彼女からしてみれば俺は父親の敵のようなものだろうから、なかなか距離感が難しい。
だが、今日はせっかくのクリスマスなので日頃の感謝も込めてサンタクロースの格好になってみた。え?ギレンのイメージじゃない?まあ身内が相手だし良いじゃないか別に。
そう思った俺がサンタクロースの格好でリビングに入ると、楽しそうに談笑していたアイナとメイが俺を見て凍りついた。
「メ、メリークリスマス。アイナ、メイ。サンタクロースだぞー。」
そう俺が言った途端。
「くすッ。くすくすくす…。」
「アハハハハハハハハッ。」
めでたく二人が大爆笑してくれた。特にメイは、初めて私の前で笑ってくれたので頑張った甲斐があったというものだ。
また、プレゼントとして用意したアイナへの懐中時計とメイへの最新型のノートパソコンも大好評のようで良かった。
その後二人とリビングで楽しい一時を過ごした後、部屋に戻った俺を待っていたのは、キシリアからの頭が痛くなる報告であった。
「連邦宇宙軍の大規模な軍備増強計画だと?」
「はい。兄上。どうやら先日のパプア級ミサイル巡洋艦やチベ級航空戦艦の就役を理由に、コロニー税を財源とした大規模な宇宙軍増強計画を立てている様です。」
地球連邦軍は、連邦加盟国の軍隊を中核として形成された連邦政府直属の軍事組織である。そのため設立当初は大半が地上軍で構成されており、宇宙軍は月やコロニーに駐留する陸戦隊に過ぎなかった。
現在のような宇宙空間での戦闘や、外部からコロニーを制圧する能力をもった宇宙軍は存在しなかったのである。故にUC0058年のサイド3独立宣言に際して、連邦は武力を背景とした対応ができず、以降急速に宇宙軍の増強が進められていた。
その動きに対抗する形で、ジオンでも小規模ながら宇宙艦隊の整備を進めていたのだが……。
「まさか連邦が、コロニー税を財源としてここまで大規模な宇宙軍の増強を図るとはな。スペースノイドを脅す武器を作るので自分で金を出せと言っているようなものだぞ?下手をすればジオンだけでなく、全スペースノイドの反発を受ける事になるというのに。」
「また、どこから情報が流れたのかわかりませんが、連邦軍でもミノフスキー粒子を軍事利用しようという動きがあります。」
「なんだと?」
「ただ、連邦軍が注目しているのは、メガ粒子砲の威力と艦艇の動力炉としての可能性についてのようですが。」
「そうか……。」
まあ従来型の艦艇なら、モビルスーツの敵ではないので当面は心配ないだろう。だが近いうちに何か手をうつ必要がでてきたな……。
「ご苦労。引き続き情報の収集にあたってくれ。」
「はい。ところで兄上。カーウィン家の娘を養女として迎え入れたと聞きましたがまことですか?」
うわ……。キシリアなら追及してくると思っていたけどやっぱりきたよ。
「事実だ。それがどうしたというのだ。」
「爆弾テロの主犯の娘をザビ家に迎え入れるなど、兄上は何をお考えなのですか!?」
「キシリア。我らザビ家は勝者だ。勝者は敗者に対し寛容でなければならない。何故なら勝者が勝者として存在するには敗者が必要だからだ。ダイクン派という敗者がいるからこそ我らザビ家は勝者たり得るのだ。」
「……。しかし、その娘の父親は我らに牙を向けたのです。それをザビ家に迎え入れるのはいかがなものかと。」
「父の罪は父の罪であり、娘であるメイとは何の関係もない。それに、私がダイクン派の娘を引き取った事はザビ家が敗者に対し温情を示す証となり、今後の政局に良い影響を及ぼすだろう。故に私は今回の決定を変える気はない。」
「わかりました。しかし、私が娘を引き取る事に反対している事だけは覚えておいていただきたい。」
「無論だ。そしてお前も私がメイを娘として迎え入れる事を変える気はない事を覚えておけ。」
「……。それではこれで。」
何とかキシリアを抑えられたか……。敗者に寛容なのはデギンやドズル、ガルマには好印象なのに、何であいつだけあんな感じなんだ?まあ兄を思っての忠告だと好意的に解釈しておこう。
今日は嫌な事もあったが、メイ嬢の笑顔がみれて良い日だった。正に聖夜にふさわしい。明日も笑顔が見れる事を願い、今日はそろそろ休むとしよう……。
一一一一一一一一一一一一
side メイ・カーウィン
アハハ。あー可笑しかった。なんか今日は久しぶりに笑った気がする。
クリスマスプレゼントにパソコンを貰った記念に、今日から日記をつけようと思う。
このお屋敷に来て2ヶ月が過ぎ、最初は慣れなかったお屋敷での生活にも少しずつ慣れる事ができてきた。
ギレンさんの眉なし顔はまだ少し恐いけど、アイナさんとは仲良くなれて、お姉ちゃんが出来たみたいでとても嬉しい。
私が此処に来る事を承諾したのには実は二つ理由がある。一つは国の施設よりはマシな生活を送れるだろうと思ったからだけど、もう一つはお父さんの無実を証明するにはザビ家の側にいた方が証拠を集めやすいと思ったから。
だから証拠集めのために、ギレンさんの部屋に携帯端末を改造した盗聴器を置いて会話を盗み聞きしていた。
でも、今日の似合わないサンタクロースさんを疑うのはなんだか可愛そうになったので、明日からはもう盗聴するのは止めておこう。そう思った時、その通信は入ってきた。
キシリア・ザビ
父を逮捕し、殺した部門の長だ。
私が緊張しながら話を聞いていると、私の話が出てきて思わず心臓が止まりそうになった。
……。私を引き取る事に全員が賛成している訳ではないだろうと思っていたけど、ギレンさんがこんな風に言われて、それでもなお私の味方になろうとしてくれていたのだとは知らなかった。
ショックのあまり気がついたら会話が終わっていた盗聴機を切ると、似合わないサンタクロースさんに心の中でお詫びをして、そしてサンタさんと出会えた事を神様に感謝してから眠りにつくのだった……。
アイナ様に似合いそうな機体は?
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アプサラス
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ビグ・ラング
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ビグ・ラング(ビグロの部分がビグザム)
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アプ・ラング(ビグロの部分がアプサラス)