敏捷魔法使いはメイプルちゃんに勝ちたい 作:集う炎帝
苦手な方はご注意下さい。
NewWorld Online
俺はこのゲームを初日からプレイしている。
今までプレイしてきたVRゲームの中で一番クオリティが高く、スキルを手に入れて、レベルを上げて、自分の分身がどんどん強くなっていくのが楽しんでいた。
そうして待ち望んでいた第一回イベント。
俺は寝る間も惜しんでやり込みレベルを上げ、高難易度クエストで手に入れたレアスキルや装備、そして他のVRゲームでの対人戦闘経験もあって順調にプレイヤーを倒しポイントを稼いでいった。
AGIに多く振ったステータスで攻撃もほとんど躱して、今のところノーダメージ。受けたダメージと与えたダメージ、そしてキルデスでスコアが決まるこのイベント。この調子なら1位も狙えるのではと思ったその時、アナウンスがあった。
「さあ、残りは1時間!現在1位はペインさん2位はドレッドさん3位はメイプルさんドラ~。これからは上位3名を倒した際、得点の3割が譲り渡されるよ。三人の位置はマップに表示されるドラ~最後まで頑張ってほしいドラ~」
上位3位に入れていなかったが、これはチャンス。プレイヤーはこの3人に集まるだろう。上位の3人を狙ってもいいし、他のプレイヤーを狙ってもいい。ここでポイントを稼いで、優勝を目指す。
俺は、1番近くにいたメイプルの下を目指した。
しかし、ペインとドレッドは俺も知っている有名なプレイヤーだ。だがメイプルという名前は初めて聞く。
いったいどんな強者なんだろうか……!
メイプルの居場所には俺の想像通り多くのプレイヤーが集まっていた。だが、その中心人物は俺の想像とは違っていた。
メイプルは頭に攻撃を受けながらも無傷で、盾に触れたプレイヤーや装備を飲み込んでいたが、その動きは非常に拙い。VR初心者、それどころか運動音痴を見ているような気分だ。
AGIも低いみたいだし、これでどうやってポイントを稼いだのかと思ったが、毒を広範囲に吐き出した。逃げようとしたプレイヤーもいたが、短刀を鞘に仕舞うと同時に麻痺で行動不能にされてしまった。
高い防御力と広範囲の毒と麻痺。あの盾での吸収は防御力を無視しているようにも見えた。対人戦であんなスキル使えばそりゃ無双できるだろう。……だがなぜだ?メイプルの使っているスキル、そのどれも見たことも聞いたこともない。あいつが見つけたのか?あんな初心者丸出しのやつが?
……負けてたまるか。今はポイントで負けているが、
メイプルがいるのは半分以上崩壊した城の上階。階段を上り、メイプルに対峙する。
右手に持った杖をメイプルに向ける。
「【ウォーターボール】」
魔法を放つと同時に俺は左に駆け出す。水の玉がメイプルに襲い掛かるが、盾に吸収された。やはり、盾を避けないとダメージは入らない。【麻痺耐性中】だと麻痺も運ゲーだ。距離を取りつつ高火力魔法を当てる。勝ち目はこれだけだ。
「【ストーンバレット】【ウォーターアロー】」
一定の距離を取りながら石の弾と水の矢で牽制していく。
俺がメインで使っている杖【沼地の杖】には【水魔法】と【土魔法】の威力を底上げする効果がある。
ステータスも合わせてトップクラスの大盾使い相手でも、弱い魔法でダメージを与えられるくらいにはなる、はずだが……やはりダメージエフェクトは見えない。ほとんどは盾に吸収されたが、いくつかは頭にも命中している。【ストーンバレット】と【ウォーターアロー】は数で攻める魔法とはいえ、メイプルの防御力は異常だな。
こうなると、メイプルのいる場所が厄介だ。メイプルの背後は足場が少なく、背後を狙おうとするなら近づかざるを得ない。そうなると麻痺の餌食だ。
それでも、やりようはある。
「【
メイプルが短刀を半分出したかと思うと、毒の霧が溢れ始めた。そして短刀を抜いたってことは、麻痺も来る。
「【跳躍】」
俺は周囲の塔へと飛び移る。メイプルが短刀を納めたが、麻痺にはなっていない。この距離だと届かないか。
杖で屋根を叩く。魔法で牽制しながらメイプルを中心に弧を描くように屋根を飛び移っていく。
「【
メイプルが短刀を掲げたと思うと三つ首の毒竜が現れブレスを放ってきた。
あんな攻撃もあるのかよ……!
屋根の上では躱しきれず、メイプルのいる床に舞い戻る。毒の霧はすでに散っていたが、3条のブレスには追いかけられ続ける。
「【アースリフレクション】【メテオインパクト】」
地面から岩の壁が隆起し、その勢いで空中に飛び上がると同時に、毒竜の上に巨大な岩が現れ毒竜の首に命中した。これで空中の俺は狙えない。だが、岩は盾に吸収されてしまった。
メイプルも同時に攻撃できればよかったんだけど、あのブレスでは毒竜を優先せざるを得ない。【毒耐性大】があるとはいえAGIとINTメインで振ってる俺は防御力が低い。装備が破壊されてこれ以上火力が落ちるのも厳しい。
「【エアブラスト】【エアバッファー】【ウォーターウォール】」
空中から魔法で毒竜を牽制しつつ、落下の衝撃を消す魔法で着地する。ブレスが来たが水の壁で受け止め、すぐに駆け出して避けていく。
「【跳躍】」
もう1度塔の上に跳んだ時、毒竜が消えた。
……タイミングはバッチリ。
「【フルフレイム】」
巨大な炎の塊をメイプルに放つ。メイプルは盾を少し上に傾け吸収した。
──その瞬間、メイプルの背後と右から岩の砲弾と水の砲弾が襲いかかった。
屋根を飛び回っている時に俺がクエストで手に入れたスキル、【
【遅延魔法】は追加でMPを消費することで魔法を遅らせて発動させるスキル。杖や手で触れた場所に設置する形で使用するが、設置した魔法は発動するまで使えない。
発動のタイミングと方向は設置の時に設定するため扱いは難しいが、特に対人戦では上手く使えば意表を突けて有利に立ち回れる。
そして間違いなく盾を避け鎧がない頭に命中した。……そのはずなのに……なんで……ダメージエフェクトが見えなかった……?
「わあ〜びっくりした〜」
こっちはガチでやってんのにその反応かよ……!
【ウォーターキャノン】も【ロックキャノン】も俺の遠距離魔法で上位の威力だぞ!?これが通じないとなると近距離魔法か、盾を避けにくい高範囲魔法しか選択肢がなくなる。そして近づくと麻痺が来る。
……やっぱリスクを避けてちゃ駄目か。相手の攻撃で注意しないといけないのは、毒竜と麻痺、そして盾。他は回避できる。
毒竜を発動した後、盾の結晶が減っていた。残りの個数から考えるに、後2回は放てるだろう。麻痺は短刀を抜いて納める動きがある。それは見逃さない。そして盾はリーチが短い。
攻撃は当てられるだろう。後は相手の防御力次第。
警戒しながら最初に上った階段の前に移動する。
「【毒竜】」
メイプルが再び毒竜を出してくる。
毒の霧も、麻痺も、毒竜も全て短刀を起点に発動していた。一つのスキルを使っているときは他のスキルは使えないはずだ。毒竜は躱せるが麻痺は範囲が広すぎる。
だから……ここが勝負所だ。
「【遅延魔法:タイダルウェーブ】【アースリフレクション】」
地面に魔法を設置する。壁から生える岩壁の勢いを使って加速し、メイプルに向かって一直線に突き進む。ブレスが頭上を掠めたが首の動きより俺の方が速い。
「わわっ!」
慌てた様子でメイプルが盾を正面に持ってくる。このままだと直撃コース。だが問題ない。
「【サンドウォール】【エアバッファー】」
メイプルの目の前に生えた砂の壁に手をつき、メイプルの盾の上を通る。背後で勢いを殺して、メイプルの足元に杖を向ける。
「【アースクエイク】!」
地面が柱状に隆起し、メイプルを弾き飛ばす。その瞬間、僅かにダメージエフェクトが煌めいた。
……よし、このクラスの魔法ならダメージが入る。
「【エアブラスト】」
空気の塊がメイプルを更に吹き飛ばした。階段前に設置した魔法が発動し、激流がメイプルの体を襲う。
再びダメージエフェクトが煌めく。
「【カスケード】」
上空に現れた瀑布がメイプルを襲う。
だが
「飛ばし方を間違えた……!」
瀑布は盾に吸収された。吹き飛ばされ、ろくに構えることもできていなかったのに、あの瞬間、盾が上を向いていた。
一定のダメージで消えるのか毒竜の姿はすでにない……だが、メイプルは未だ健在だ。
「あいったぁ……」
俺はこれ以上の攻撃手段がない。水と土以外の魔法はあまり使ってなかったからメイプルの防御を貫けないし、そもそも杖の補正なしだと厳しいだろう。
そして、さっき使った魔法は軒並み
「【跳躍】」
俺は塔の上に移動し、メイプルの動きを待つ。
メイプルは俺をしばらく見つめた。
「ふぅ……【瞑想】」
そして、目を閉じると微動だにしなくなった。
……なにを、しているんだ……?まさか……回復しているのか?そうだとしても、俺にはなすすべがない。
あと10秒でCTが明けようかという時、メイプルが目を開いた。
「よし、【毒竜】!」
俺は屋根を伝って回避する。もう勝てないと分かっている。でも、どうしても負けを認められない。
メイプルはおそらく全回復。でもあの回復はもう使えないかもしれない、回復したら防御が下がってるかもしれない。
どんどん自分に都合のいい考えが思考を占めていく。
躱し続けて毒竜が消えた。もう一度攻めれば今度こそ倒せるかもしれない。
ありもしない希望に縋り続ける。
メイプルが短刀を納めた。
「【パラライズシャウト】」
甲高い音が響き俺の体が倒れる。
忘れていた。メイプルが毒竜を出した時は短刀も出している。抜刀しなくても、麻痺がくる。
メイプルが1歩1歩迫ってくる。
嫌だ。負けたくない。
こんな初心者に、こんな雑魚に。
俺の方が強いはずなのに。
痺れた体で、メイプルを睨みつける。
……なんで……俺をみて申し訳なさそうにしているんだ?
やめろ。俺を憐れむな。俺はお前より強いんだ。
これ以上……俺を惨めにしないでくれ……
俺はメイプルから目を背ける。
「えーっと、ごめんね?」
俺の体は盾に吸い込まれた。
リスポーン後のことはあまり覚えていない。気がついたらイベントが終わっていた。俺は6位入賞だったらしいが、どうでもいい。
俺はメイプルに負けた。それだけだ。
フレンドからメッセージが届いていた。
『よう
動画見たぜ
大惨敗だったなw』
『うるせぇよ』
『俺なら勝てたかな?』
『俺より火力ねぇーと無理だぞ』
『じゃあ無理だなw
にしても世界は広いな!
あのメイプルってやつこの前始めたばっからしいぜ』
やっぱりそうだったか。
初めて数日の奴に負けたのか。
……俺の数ヶ月は、何だったんだ?
『つまり俺らもあれくらい強くなれるんだな〜』
……ああ……そうだ。何も積み重ねてない奴があそこまでいけたんだ。レベルも、装備もスキルも俺のほうが充実している。そこからさらに上積みしていけば……もう二度と負けない。
『ああ
そうだな』
メイプルに見つけられたんだ。あのスキルも、装備も、俺に見つけられないはずがない。ここはVRMMO。全員の可能性は平等だ。
俺ももっと強くなってやる。
そして
メイプルにだけは、二度と負けない。