敏捷魔法使いはメイプルちゃんに勝ちたい   作:集う炎帝

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戦闘シーンはやっぱり難しいですね。


10.魔法使いと襲撃戦

 航海日誌に記されていた伝承を頼りに山岳地帯を目指す。だが、浜辺から山岳地帯まではかなりの距離がある。

 

 移動で半日は潰れるような距離だが、それはまともに移動した場合だ。

 

「【右手:糸】【左手:糸】【右手:糸】【ジェットブースト】」

 

 海と山の間を埋めるこの森林。【ジェットブースト】で加速しながら【糸使い】で木々を乗り継いでいく。

 【ジェットブースト】は瞬間的な速度が俺のAGIを上回っているので速度を殺さないようにスキルを使っていけば走るよりも速く移動でき、かなりの時間短縮になる。集中力は必要だが、空中を駆ける感覚が心地いい。

 たまたま手に入れた【糸使い】だったが、かなり便利なスキルだな。

 

 こんな風に赤い蜘蛛男風な移動をしていても足が止まる時はある。建物を見つけると中を探索したくなるし、メダルの有りそうな場所ではメダルを探してしまう。──そして、襲われた時も、足を止めざるを得ない。

 

 移動を続けていると、頬を矢が掠めた。

 すぐに糸を伸縮し、木を盾にする。飛んできた方向を警戒するが、どこから撃たれたかも分からない。

 

「うおぉらぁぁぁぁ!!」

 

 叫び声とともに背後から大剣が振り下ろされた。

 紙一重で躱したが、この声と大剣は……

 

「サッキ―……」

「くっそー外したかー」

 

 見慣れた金髪金鎧の女性、サッキー。

 急な襲撃に混乱したが、俺はイベント前パーティーに誘った時の断り文句を思い出した。

 

「メダル狙いだな?」

「その通り!!」

 

 あの時は話半分で聞いていたが、本当に襲ってくるとは。しかも、トキワ以外にもパーティーを集めたようだ。

 

「メダル置いてけぇぇ!!【真空斬】!!」

「【跳躍】【ロックキャノン】」

 

 サッキーが飛ばした斬撃をジャンプで躱す。距離を取りながら魔法で反撃するが、大剣で弾かれてしまった。

 

 跳びながらから周囲を見渡していく。着地先に迫る人影が2つ。さらに【闇魔法】の1つ、【シャドーウェーブ】も襲いかかってくる。

 

「【遅延魔法:エクスプロージョン】【遅延魔法:フルフレイム】」

 

 木の枝葉に【遅延魔法】を仕込む。

 既に影の波は俺に覆いかぶさってきていた。

 

「【エアブラスト】」

 

 俺は空気の塊で波を相殺し、地面に着地する。

 

「【シールドアタック】」

「【星貫】」

 

 スキル宣誓の声へと向き直ると前から大盾が、左からは投げナイフが襲い掛かってくる。

 

「【サンドウォール】」

 

 地面が壁状に隆起し大盾を使い手ごと打ち上げる。同時に身をよじりナイフを躱すが、いつの間にか放たれていた矢が左肩に突き刺さる。HPが3割は減っただろう。

 だが、間に合った。

 

「【強打】」

 

 右手に持った杖を背後に振りぬく。

 金属音が響かせながら杖と短剣が激突し、【強打】の追加効果であるノックバックによって短剣使いは吹き飛んだ。同時に【エクスプロージョン】が発動し、打ち上げられた大盾使いを爆発が飲み込む。

 

 右手側からはサッキ―が近づいてきているが、上から【フルフレイム】が降り注ぎ、一瞬足を止める。

 

「【ジェットブースト】」

 

 靴から噴き出す突風で敵から距離を取る。振り返ると、俺のいた場所にはいくつもの矢が降り注いでいた。

 

「「【ヒール】」」

 

 回復魔法が重なって聞こえた。俺だけでなく、相手のヒーラーも使ったようだ。

 

 どうやら相手は6人のようだ。サッキ―と、ヒーラーのトキワ。それから着地地点を襲った大盾使いと短剣使い、そして弓使いと魔法使い。

 やはりヒーラーのトキワが厄介だ。大盾使いのダメージはさっきの【ヒール】で回復されたようだ。あいつを倒さないと、きりが無い。後衛の3人は姿が見えないがおおよその方向は把握できている。先に後衛から狙うべきかと逡巡していると、サッキ―が話しかけてきた。

 

 

「やっぱすげーな、囲んだのにあっさり抜け出しやがる」

 

 

 “凄い”。変態だとか引くレベルの動きなんかは言われてきたが、サッキーからここまで直接的に言われるのは、初めてかもしれない。

 

「お前とクロムとはよくパーティ組むけどよ、私だけ入賞できなかったのは、結構クルんだぜ?正直、今でもたまに感じるんだ」

「そう、だったんだ……」

 

 第一回イベント直後は、確かに悔しがっていた。だが、すぐに立ち直ったのだと思っていた。俺はそういうのに聡いとはいえない。俺が気付かなかっただけで、こいつもこんなことを考えていた……のか?

 

 

「だから……」

 

 サッキーが顔を上げる。

 憂いた表情が、喜色溢れるものへと変化していく。

 大剣を構えた。

 つられて俺も杖を構える。

 

「だから、大人しく私にやられてメダル寄越せ!!」

 

 サッキーが大剣を振りかぶり突撃してきた──その瞬間、首筋に軽い痛みが走った。

 その時、俺はようやく悟った。

 

「ただの時間稼ぎじゃねーか!!」

 

 一瞬でも本気にした俺が馬鹿だった。

 弓使いを俺の背後に移動させ、再び囲む、そのためにわざわざあんな話をしたのだろう。

 まんまと食らってHPが6割削られた。

 

「【ブラインドミスト】」

 

 さらに攻撃は続く。

 まず現れたのは黒い霧。【闇魔法】の【ブラインドミスト】は視界を黒く染める魔法。もちろん、妨害系魔法の常として、同じパーティーの相手には効果を発揮しない。【暗視】で軽減できるとはいえ、俺の視界はせいぜい1m程度しかないが、相手は完全にクリアな視界で挑んでくる。

 霧は早くに対処しないといけないな。

 

 だが、相手はそれを許さない。

 最初に現れたのはサッキ―。霧が現れる前の勢いそのままに、突っ込んでくる。

 上段から振り下ろされた大剣を躱し、回復魔法を唱える。一撃死圏内の今は回復を優先せざるを得ない。

 

「【ソードブロウ】ぉぉ!!!」

 

 だが、振り下ろされた大剣の勢いそのままに真横に振られ、大剣の腹で吹き飛ばされた。

 クソッ、あそこまで急に方向が変わるなんて。

 【ソードブロウ】にはノックバック効果もある。受けたダメージは1割ちょっとだが、それに見合わない速度で空中を流される。

 

「【エアバッファー】【トルネード】」

 

 魔法で慣性を殺して着地し、竜巻で霧を散らしていく。風が壁となり立て直す時間も作れた──はずだった。

 

「【アサルトスラッシュ】」

 

 竜巻の内側、俺の足元から首に向けて短剣が振られる。

 上半身を逸らしてなんとか回避できた。

 

「【サマーソルトキック】」

「【柳風】」

 

 そのままの勢いで短剣使いを蹴り上げる。確かに捉えたと思ったが、気が付くと短剣使いは俺の左側にいる。

 受け流し系のスキルか?何にせよ不味い。右手に持った杖を向けるが、相手の攻撃の方が速い。

 

「【パワーアタック】」

 

 斜めに短剣が切り上げられ、俺のHPが7割削られた。

 

「【疾風斬り】」

 

 横薙ぎに振られる短剣。当たれば間違いなく俺のHPは消え去る、そんな攻撃に俺は──

 

「【黒キ支配者】」

 

 現れた赤い魚が短剣を受けとめ、短剣は魚ごと俺を殴打するにとどまる。

 無傷とはいかなかったが、それでも俺のHPは残り1割で持ちこたえた。

 

「【ロックキャノン】」

 

 反撃として魔法を撃つ。ほぼゼロ距離からの魔法を短剣使いは躱せず、頭に食らい軽くのけぞった。

 短剣使いは俺ほどではないが、軽装だ。俺についてこれるスピードも考えるとほぼ間違いなくAGI-STRに大半を振ってるだろう。なら、あと1発で倒せるはず。

 

「【ウォーターキャノン】」

 

 少し距離は離れたが、ほぼ間違いなく必中圏内。1人は倒した。そのはずだった。

 

「【カバームーブ】【シールドスイング】」

 

 【カバームーブ】で飛んできた大盾使いが振り回す大盾に水の砲弾は弾き返され、俺に襲い掛かる。

 

「【星貫】」

 

 さらに大盾使いの陰から短剣使いが投げナイフを投擲してきた。

 既に竜巻は消えている。俺は【ジェットブースト】で回避しながら距離を取り、【リカバー】で俺のHPを全快させた。

 

 ──その瞬間に襲い掛かる矢の雨と影の波。

 移動先を予測されたか。

 

「【エクスプロージョン】」

 

 俺はその両方をまとめて吹き飛ばしたが、左足の付け根に矢が突き刺さった。さらにサッキ―が斬撃を飛ばして来た。

 何とかジャンプで回避したが、相手は次の動きに移っている。

 

 

 

 一度深く呼吸した。

 

 【ジェットブースト】で取った距離を相手は2方向から詰めてきている。

 前からやってくる短剣使い、右からやってくるサッキー。大盾使いは2人の中間あたりに移動し、いつでも【カバームーブ】を使えるようにしている。

 

 魔法使いの場所は分からない。トキワは短剣使いが回復されていたから前方のどこかか?

 

 だが弓使いの場所はおおよそ把握できた。

 今なら、そう遠くには移動していないはず。

 ここが勝負どころだ。

 

「【超加速】」

 

 真後ろを向き、駆け出す。後ろの2人も【超加速】発動したようだが、直ぐには追いつかれない。

 数秒駆けると左側の木の上に人影が見えた。間違いない。あいつが弓使いだ。

 

「【遅延魔法:ロックバインド】【左手:糸】【伸縮糸】」

「【連射】」

 

 サッキー達に備えた魔法を設置し、糸を手繰って木の上へと登る。連続して放たれる矢を【黒キ支配者】で出した赤い魚で逸らしながら距離を詰める。

 

「【遅延魔法:エアブラスト】【遅延魔法:ファイヤーボール】【遅延魔法:エアカッター】【遅延魔法:ファイヤーアロー】」

 

 その最中、杖で枝葉を薙ぎ、魔法をいくつか設置しておく。

 

「【跳躍】」

 

 弓使いが距離を取るために、ジャンプした。

 空中は動きが制限される。この距離なら外さない。

 

「【ストーンバレット】」

 

 5つの石の弾丸が多角的に弓使いを襲い、全て命中。弓使いは光の塵となった。

 その瞬間、上から降ってくる矢。いつ撃ったかは分からないが、大きく山なりに矢を撃っていたらしい。ギリギリで躱したが、かなりヤバかった。

 

 短剣使いとサッキ―の方に向き直る。

 【超加速】の発動で既に真下まで来ていたが、【ロックバインド】は不発したらしく、2人とも健在だ。

 

 俺は一度別の枝に飛び移り、そこから地面に降りる。

 

「おらぁぁ!!」

「【星貫】」

 

 着地を狙ってサッキーが大剣を振り、投げナイフが飛んでくる。

 

「【サンドウォール】」

 

 だが、木から生えた砂の壁が全てを防いだ。

 

 木の幹から体を出し、相手を視界に入れる。

 

「【ウォーターアロー】」

 

 牽制に5つの水の矢を撃つが、正面に見えるのはサッキ―だけ。短剣使いは、どこだ?

 

 ──視界に一瞬影がかかった。

 見上げると、短剣使いが真上から斬りかかってきていた。

 

「【強打】」

「【真空斬】!!」

 

 紙一重で回避し、杖を打ち付け吹き飛ばす。

 サッキ―が飛ばした横薙ぎの斬撃はほとんど横たわる姿勢で回避した。

 

「【エアバレット】」

 

 空気の弾丸で短剣使いに追撃していく。

 短剣使いは身をよじって回避した。だが、狙い通り。

 

「なっ!?」

 

 着地した短剣使いは枝葉に設置していた魔法が降り注いぎ、炎や空気の砲弾、斬撃を食らった末光の塵となった。

 発動に間に合ってよかった。外してたらただのMPの無駄だったし。

 

「【ジャイアントインパクト】ぉぉぉ!!」

 

 サッキーが地面に大剣を叩きつけ、周囲に衝撃が伝播した。慌ててジャンプするが、影の弾丸が複数飛んできた。サッキ―も着地狙いで斬りかかってくる。

 

「【黒キ支配者】【ジェットブースト】」

 

 赤い魚で弾丸を捌きながら魔法の出どころを目指す。

 

「【遅延魔法:エクスプロージョン】」

 

 魔法使いは弓使いと同じように木の上にいた。俺の接近を見て慌てたように飛び降りる。

 だが、俺からすると回避されなくなる方が楽だ。

 

「【ロックキャノン】」

 

 空中の魔法使いに迫る岩の砲弾。当たれば確実にHPを削りきるだろう。だが

 

「【リフレクションウォール】」

 

 光の壁に阻まれ、はじき返された。

 何とか回避したが、体制が崩れた。

 そうか。ずっと魔法使いのカバーに入っていたのか。

 魔法使いが着地した先。そこに見慣れた神官服の男、トキワがいた。

 

「【レーザーブレード】ぉぉぉ!!」

 

 背後からサッキ―が迫る。

 だが、発動した【エクスプロージョン】の爆発に飲み込まれた。【超加速】の残り時間は12秒。

 

「【ウォーターキャノン】」

 

 少し角度を変えて魔法を放つ。

 

「【カバームーブ】」

 

 大盾使いが現れ、防がれた。

 

「【ライトアロー】」

 

 光の矢が連続して襲い掛かる。赤い魚で捌きながら距離を詰める。

 

「【シャドーウェーブ】」

 

 影の波が押し寄せる。

 

「【ワールウインド】」

 

 突風が波を散らす。【超加速】は残り5秒。

 トキワ達との距離は残り3歩。

 

「【ダークターミネーション】」

 

 その瞬間、魔法使いを中心に闇の柱が立ち昇った。間違いなく高威力の魔法。俺が食らうとひとたまりもない。そう、ひとたまりもなかっただろう。

 

「【エアバッファー】」

 

 急ブレーキをかけ、ギリギリで魔法を回避した。発動から今までの数瞬で闇の柱は消えかけている。

 

「【メテオインパクト】」

「【カバー】!!」

 

 空から降る巨大な岩石がトキワと魔法使い、大楯使いに襲いかかる、だが【カバー】によってダメージは大盾使いに集約された。【カバームーブ】によるダメージ2倍も合わさり、HPが一瞬で解けるほどのダメージ。だが、食いしばりスキル【不屈の守護者】で耐え残った。

 

「【タイダルウェーブ】」

 

 そこに襲い掛かる大波。【カバー】の発動すらできず──3人は光の塵になった。

 同時に【超加速】も切れた。

 

 俺は後ろを振り返る。

 サッキ―が大剣を構え、佇んでいた。

 

「ああーこれだけやってもだめだったかーー」

「また時間稼ぎなら、さっさと倒すが?」

 

 俺は杖を向ける。

 

「さすがにやらねーよ。1回負けたらこのイベント中は手出ししねえ」

「そっか。じゃあこれからは安心して探索できるな」

「まだ私は生きてるぞー?」

「すぐに倒すよ」

「今度こそ負けねえよ」

 

 今度こそ。そういえば、第一回イベントのバトルロワイヤルでもサッキ―と戦ったな。あの時もこんな風に向かい合ってからやったっけ。

 サッキ―から声をかけられて、「私の獲物1人目だ!」って感じで。返り討ちにしたんだけど。

 ……ってあれ?

 

「サッキ―、お前第一回イベントのデス数、6回だったよな?誰にやられたか聞いていいか?」

「えっ?もう随分前だからなあ。確かお前とペイン、ドレッド、メイプル、ミィ、あとカスミだったかな?」

 

 ……全員イベント入賞の実力者。やっぱりそうか。俺にサッキーへの軽いイラつきが湧き出てきた。

 

「お前強者に挑みまくってただけじゃねーか!それでよく自分だけ入賞できなかったの悲しいとか言えたな!!」

「全員倒してたら私の勝ちだったんだからいーだろ!」

「さすがに無理あるわ!6対1でも俺に負けてんだから!つーかリベンジで6人がかりは卑怯だろ!!」

「は~?この世界は勝った方が偉いんだよ!あと私は倒したいやつを倒せればそれでいいんだ!人数とか関係ない!」

「っ!!」

 

 “人数は関係ない”か。

 俺は、このイベントで2度負けているあの人魚の王様を思い浮かべていた。

 このイベント中に倒したいとは思う。だが、1人での限界も感じている。もちろん、今進めているギミックでの弱体化はあるだろうが、それだけで、勝てる相手なのだろうか。

 ──1人での勝利に固執する必要はない、か。

 

「なあ、サッキ―」

「ん?どした?」

 

「──俺でも勝てない強いボスがいるんだ。一緒に倒さねえか?」

 

「そんなボスが!?どこにいるんだ!?」

「ああ、あいつは、って協力してくれるのか?」

 

「──さすがに引っ掛からなかったか。倒すなら、私らだけだな。このイベント中はあいつらと行動するって決めてんだ。せいぜい先越されないよう気を付けてな!」

「……ああ!!」

 

 これはサッキ―なりの応援だろうか?俺はそう思うことにした。

 

「じゃあ、やるか!」

「おう!」

 

 こうして始まった1対1の戦闘は十数分続いた果て、俺の勝ちで決着した。




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