敏捷魔法使いはメイプルちゃんに勝ちたい   作:集う炎帝

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11.魔術師と初心者生産職(クラフター)

 サッキ―達の襲撃を切り抜け、俺はサッキ―の持っていた銀のメダル2枚を手に入れた。

 PVPはあまり狙わないつもりだったが、あいつらから襲ってきたわけだし、ありがたく頂いておこう。

 

 そして、今は浜辺と山との中間あたり。【糸使い】を使った移動ならあと1時間ほどで着きそうだ。

 そんな道中、不思議な光景を目にする。数えきれない切り株が立ち並び、そこだけ森がなかったかのような空間が作られている。

 

 

 木に斧を打ち付ける乾いた音が響いた。視線をそこに向ける。

 そこにいたのは、上下に緑のツナギを着込み、長い桃色の髪を後頭部でひとまとめにした女性だった。

 

 再び音が響く。木が倒れ、アイテム化したかと思うと、ガラスが割れたような破壊音も聞こえてきた。どうやら斧が壊れたらしい。

 

「ふぅー」

 

 彼女が息を吐き、額を拭う。

 この空間は、彼女がアイテム採集を続けた結果のようだ。覗き見してるのもいい気分ではないので、さっさと立ち去ろう。

 そう思った時、彼女がこちらを向いた。

 

「ひぅっ!!」

 

 小さな悲鳴を上げ怯えたような目で俺を見続けている。

 こういう時、どうすればいいんだ?俺の経験が足りない……!

 

 数十秒の沈黙を経て、彼女が口を開いた。

 

「あっ、あのお……持ってるメダル全部渡すので、見逃して下さい!!」

 

 彼女が頭を下げた。綺麗な90度。何が彼女をここまでさせたのだろう。

 

「いや、あの、別にそんなことしなくてもいい、というか……」

「……ほえ?いいんですか?」

「もちろん」

 

 メダルはいらないわけではないが、わざわざ奪おうとも思わない。

 

「じゃ、じゃあお互いイベント頑張ろうね」

 

 なんかよく分からない口調になってしまったが、とにかく早めに別れておこう。素材集めに集中していたようだし、邪魔するのも忍びない。

 

「……まっ、待ってください!」

 

 歩きだしたら袖を掴まれた。

 まだ何かあるんですか!?

 

「あのお、もしよかったらなんですけど、私を守ってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 彼女のプレイヤーネームはチョコというらしい。話を聞いたところ、まだ始めてから1週間ちょっとで、生産にドハマりした結果、戦闘経験がほとんどないそうだ。このイベントでは素材を集めたり弱いモンスターでレベル上げをしようと思っていたけど、持ち込んだ武器と採取用の斧が全て壊れてしまった。鉱石採掘用のピッケルはあるから、山や洞窟に行きたいけど、モンスターの強さから自分一人ではたどり着けない。

 そこで、たまたま現れた俺に、護衛を頼みたいとのことだった。

 

「お願いします。メダルは差し上げますので!」

 

 俺の行先も岩肌の見える山岳地帯だし、メダルも貰えるならと快く了承し、チョコさんを護衛しながら山岳地帯に向かう。

 受け取ったメダルは2枚。ボスを3体倒した俺でも、サッキ―から貰った2枚を抜くと5枚しか手に入れていないのに、そんなに?と驚いたが、聞いてみると、

 

「採取してるとたまに拾えますよ?木から落ちてきり、根っこについていたり」

 

 だそうだ。捜し方の差だったようだ。

 

 出発した段階で日も傾いていて、山の麓についた時には日が暮れていた。今日の探索はここまでとして、チョコさんと交代で見張りながら3日目の夜を明かした。

 

 

 

 翌日、航海日誌から目的の場所について読み込むと、どうやら山の反対側にあるようだった。

 石碑を護る一族は、連なる山々の最も高い山、その中腹にある洞窟に住み、鍛冶仕事を生業としていた。朝日とともに活動を始め、午後になると炉の炎だけを頼りに作業を続ける。住んでいる洞窟では鉱石が豊富に採掘でき、さらに魔力にも溢れていて、洞窟で採れる魔力が結晶化した宝石が封印を強める触媒となるためそこから離れることはない。つまり午後になると日が届かない山の東側の洞窟で暮らしていたようだ。

 今俺がいるのは山の西側だ。山脈を迂回して回るよりは、一度登ってから反対側に向かった方がいいな。

 

 チョコさんは山まで連れてきたしここで別れようと思っていたが、航海日誌の内容を聞かれ、話したところ、

 

「鉱石がたくさん採れる洞窟ですか!?私もついていっていいですか!?」

 

 と頼み込まれた。

 ここまでグイグイ来られることには慣れてなかったし、メダルを2枚も貰ったからまあいいかと受け入れた。

 

 俺には【クライミング】があるから岩肌も簡単に登れるけど、チョコさんは大丈夫かなと思っていたが、彼女は【鍵縄】というアイテムを使ってスルスルと登っていく。生産中にたまたま完成したアイテムだそうだが、その登る速度はDEXの値を考えてもスムーズだ。

 VR慣れか、リアルの経験か。まあ速く移動できるのは助かる。

 

 俺たちは数時間かけ山の反対側へと移動した。道中山頂にも訪れたが、先駆者がいたのか元から置かれていなかったのか、メダルは手に入らなかった。

 目的の洞窟は岩陰に隠れていて見つけにくかったが、チョコさんと2人がかりで探したこともあり、数十分で見つけることができた。

 

 洞窟に入るとまずあったのが作業場。鍛冶用の炉や機織り機等様々な設備が置かれている。さらに積み重ねられた鉱石や木材、綿。そして所狭しと並べられた道具たち。ここで一通りの生産ができそうだ。

 

「おぉー!ここ!工房になってますよ!!」

「本当だ」

 

 言われてから気が付いた。ここは、システム的にも生産が可能な場所になっている。

 生産職は生産活動で経験値が入る。戦闘能力の低い生産職はイベントに参加しにくいのではと思ったりもしたが、チョコさんのように素材集めやこういう場所での生産活動でちゃんと時間加速を生かせるようになっているんだな。

 

 興奮しているチョコさんを横目に、部屋を探索していく。ふと、テーブルの上に置かれた紙が目についた。そこには台座の上に置かれた先が丸まった石柱が描かれていた。これが、封印の石碑だろう。

 紙の絵によると、石碑の中心には結晶化した魔力を嵌め込むことで石碑が完成するそうだ。部屋の探索を続けると、端に魔力結晶の嵌め込まれていない石碑が重ねられている。

 魔力結晶を手に入れてこの石碑を完成させる、それがこのギミックの全貌のようだ。

 

 作業場の奥には扉があった。この先に採掘できる洞窟があるはず。

 

「そろそろ先に進もうと思うんだけど……?」

「はっ、私も行きます!」

 

 インベントリと工房を交互に眺めながら目を輝かせていたチョコさんに声をかけ、奥へと進む。

 生産にドハマりしたと言っていただけあって、よっぽど好きなんだな。

 

 

 

 扉を開け通路をしばらく進むと、レールが敷かれていた。トロッコのようなもので採掘したものを運んでいたのだろう。 

 当然、そんなものは持っていないので、歩いて先に進む。

 

 この洞窟は非常に入り組んでいた。レールも幾重にも分岐し、幾つもの横穴に続いている。

 だが上下の分かれ道はなく、モンスターも小さなゴーレムやネズミ、クモくらいでどれも魔法でワンパンだ。採掘ポイントで足は止まるが、順調にマップを埋めていけた。

 しかし、もう1時間は掘り続けているが、未だに魔力結晶が手に入らない。

 どこか特別なポイントがあるのだろうか。

 

「うひょー!!高くて手が届かなかった素材がこんなにたくさん!!!ここ最高ですね!!!」

「うん……そうだね」

 

 まあチョコさんは楽しんでるし、のんびり探していくか。

 

 

 さらに1時間ほど探索を続けると、開けた場所に出た。

 部屋の中心に佇む石像。多分あいつがボスだろう。

 

「そういえばチョコさん、何かダメージ与える手段残ってない?」

「えーっと、ないですね」

「そっか」

 

 ボスならそこそこ経験値が貰えるだろうし、戦闘に参加してもらって分けれたら良かったんだけど……

 

「あっでも、デバフならかけられますよ!」

「えっ?」

 

 詳しく聞くと、クエストで【スローポーション】というアイテムのレシピを貰ったそうだ。俺も始めて見るアイテムだが、【スローポーション】は投げて使うポーションで、【投擲】と組み合わせると遠くからポーションの効果を与えられる。そして、ポーションの中には飲むとデバフがかかるものがある。それを【スローポーション】にしたものをボスに使えば、戦闘に参加したことになるかもと思ったらしい。

 

 ちなみに、HP回復は100個、MP回復は50個ほど【スローポーション】にしたらしい。始めて間もないのにすごいな。【投擲】と合わせたらヒーラー的な役割もこなせそうだ。

 

 俺のプレイ経験からもデバフでも経験値が貰えるだろうから、ボス戦の最初にポーションを投げてもらうことにした。

 

 

 

 ボス部屋に入り、石像に近づく。

 俺に反応してか、石像は鈍い音を立てて動き出した。

 

「えいっ!」

 

 チョコさんがポーションを投げる。見事ボスに命中し、容器の割れる音とともに液体が飛び散った。その効果はVIT減少。ボスのHPバーを見るときちんとデバフがかかっている。

 

「【貫通付与】【属性付与:風】【アースクエイク】」

 

 土属性の弱点である風属性を付与し、魔法を放つ。

 風を纏った石柱が、石像を貫く。

 

 

 

 ──石像が光の塵になった。

 

「わっ!レベルが2も上がった!!ボスもワンパンなんてすごいですね~」

「まあ……うん」

 

 人魚の王様の配下が全員強かったから身構えていたが、想像以上に弱かった。まあ楽できたしいいか。

 ドロップアイテムを確認すると、きちんと【魔力結晶】が手に入っている。これで、後は石碑に嵌めてあの島に運ぶだけだ。

 

「あ~!!この部屋、めっちゃ採掘ポイントある!!」

 

 だがチョコさんの採掘に付き合うくらいの余裕はある。

 採掘に夢中になるチョコさんを横目にマップを眺める。この洞窟も後2割くらいで埋められる。せっかくだし埋めておこう。

 そのあと、洞窟から出たらついに再戦に向かおう。海に戻って、石碑を置いて、そして……

 

 ──勝てるのだろうか。できることは、他にもあるのではないか。

 ……

 

「ねえ、チョコさん」

「はい、なんですか?」

「チョコさんも一緒にボスいかない?」

 

 イベント初日から倒すべき目標にしてる人魚の王様。チョコさんにも航海日誌について話す中で、概要を伝えていた。絶対に倒すと決心していたが、倒すのは俺1人でじゃなくてもいいかもしれない。

 この世界はVRMMO。1人で倒せないなら、協力して挑めばいい。そして、その仲間として、チョコさんがいてくれると助かる。

 チョコさんにお願いしたい役割──ヒーラーという分野に関してはトキワとか他にもっと上手い人がたくさんいる。でも、この出会いを大切にしたい。

 だがそれも全て、チョコさん次第なのだが──

 

「はい!私でよければ、ぜひご一緒させて下さい!!」

 

 彼女は快く受け入れてくれた。

 

「……ありがとう」

 

 その後、チョコさんのピッケルが全て壊れるまで、採掘とマップ探索に明け暮れた。採掘している時にメダルが1枚手に入ったので無理矢理にでもチョコさんに渡そうとしたが、「もう10枚集めるの諦めてますから!」と拒否されてしまった。




所持メダル
金 1枚
銀 10枚
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