敏捷魔法使いはメイプルちゃんに勝ちたい 作:集う炎帝
今回と次回で合わないと感じたら、ブラウザバックをオススメします。
洞窟から戻ると、素材集めに集中し過ぎたか日が暮れていた。
ひとまず、明日以降について軽く話し合うことにした。
生産職のチョコさんがボスに挑む上で、今の装備では即死は免れないだろう、ということで、俺の持っている素材も提供して、チョコさん用の装備を作ってもらおうと思ったのだが、
「だ、ダメです!こんな素材受け取れません!!」
と素材を渡すことを彼女は遠慮していた。
「でもチョコさんがやられちゃうと困るんだけど……」
「むむむ……」
そこそこの時間問答が続いたが、フレンド登録もした以上ある程度の支援は当然だと押し切った。
という訳で、イベント5日目はチョコさんに装備作成をしてもらうが、俺は他にもやることがある。チョコさんの他に、パーティーメンバーを集めることだ。
チョコさんの【投擲】はかなり精度が高かったので、ヒーラーとしては十分な活躍をしてくれそうだが、それもやられなければの話。特にあの王様は攻撃の密度が高い。初心者でAGIに振っていないチョコさんに回避してもらうのは酷だ。だから大盾使い、というかディフェンダーがいて欲しいのだが……俺とよく組む相手はイベント前に断られている。
このタイミングで協力してくれるかどうか……
フレンド以外でも、たまたま会えて、たまたま協力できる関係になれればそれでいいのだが、さすがにそれは奇跡的な確率だろう。
あの攻撃を防げるだけの実力者となるとなおさら。
ひとまず、フレンドにはメッセージを送り、協力を募っておく。
そうしてイベント4日目の夜は更けていった。
翌朝、チョコさんは装備作り、俺はフィールドを巡りパーティーメンバーを探していく。
このイベントマップにはモンスターが湧かないPVP禁止エリアであるセーフティーゾーンがいくつか用意されている。1つ1つは大きいが数が少なく、毎日そこで寝れるとは限らないが、プレイヤーの集まりやすい場所ではあるだろう。パーティーメンバー探しの一環でそこに訪れた、のだがそう都合よく見つかることはなかった。
昼間はイベント参加者の大半、特にメダル10枚ゲットを狙うような上位プレイヤーは大抵探索に出かけてる。昼間にとどまっているプレイヤーは少なく、エンジョイ勢やMP回復待ちのソロ魔法使いといった人がほとんどでパーティーメンバーは集まらなかった。
近くにいたフレンドと会ってみたりもしたのだが、俺に襲いかかってきたり、ボスの詳細を話すと断られたりで芳しくなかった。
メッセージの段階で距離的に厳しいや探索を優先したいというものもあった。今日のところは、また夜に探すしかないか。
そんな時、チョコさんからメッセージが届く。
『トートさん!!
装備完成しました!!』
『分かった
すぐに戻る』
パーティーメンバー探しを切り上げ、洞窟に戻る。
チョコさんの作った防具は深緑のエプロンスカートに金属製の胸当て、革製のブーツとベレー帽、そして青い宝石の嵌ったペンダント。
チョコさんはSTRがそこまで高いわけでは無いので、装備条件が緩くなるよう布や革素材をメインに。そして水属性の素材を詰め込んだペンダントで水耐性を高めている。【強化】の数字もⅡからⅣと中々に高い。
もともとの装備があまり強くないのもあるが、VITにして30程補強できた。
そして俺の持っていた予備装備、【生命のリング】でHPも50底上げしている。
これで即死は避けられる……といいな。
夜が更けてから再びパーティーメンバーを探したが成果はなかった。
翌日、イベントも残り2日となった。
流石に時間が足りなくなりかねないので、山を越え海を目指す。
速度重視で俺がチョコさんを背負っての移動だ。
効率的ではあるのだが、人を背負っての移動はあまり格好がつかないと思う。馬とか、移動方法が欲しくなる。
移動途中、少し開けた場所に出た。どうやら廃村のようだ。来た時の道程から少し外れるだけでこんな場所があったのか。
いくつか廃墟を漁ってみるも、メダルやアイテムはなし。【糸使い】移動法も使えないし森の中に戻ろう、と廃墟を出て移動を始めた時だった。
「【ダブルスラッシュ】」
背後から響くスキルの宣誓。
振り返ると目の前に迫っていた2本の短剣。
2度の剣閃が走り、HPが6割削られる。
「【パワーアタック】」
再び走る剣閃。
だが、今度は間に合った。
「【強打】!!」
下から振り上げた杖が短剣と激突し、短剣の持ち主をのけぞらせる。
「【ジェットブースト】」
ひとまず距離を置こうとするが、相手はそれに迫る勢いで追いかけてきた。
速すぎる、なにか加速スキルを使っているのか?
俺は距離を取り切れないと判断し【超加速】を発動する。
「うわぁぁああ」
背中にしがみついているチョコさんから悲鳴が聞こえてくる。
「ごめん、回復お願い!」
「っ!はい!!」
チョコさんが俺にポーションを叩き付け、HPを回復させる。同時に俺は【遅延魔法】で地面に【エクスプロージョン】を設置しながら相手との距離を取る。
相手は俺の【遅延魔法】を知っていたのか、【エクスプロージョン】の爆発範囲を避けながら追いかけてくる。
「【ストーンバレット】」
石の弾丸で牽制しながら距離を取る。俺の方がAGIが高いようで少しずつ距離が離れていく。
相手は水色の装備に身を包んだ短剣2刀流の女性だった。性能の高そうな装備で、【ストーンバレット】も全て余裕で回避するPSを持っている。俺のミス1つで簡単に距離を詰めてきそうだな。
俺の知らない中にこんな凄いプレイヤーがいたのか……!
「【猪突猛進】!」
相手がさらに加速した。【猪突猛進】の効果は30秒。効果中は他のスキルが使えないとはいえ、速度差が完全に逆転してしまった。
すぐに追いつかれる。
「【遅延魔法:アースクエイク】」
廃墟の壁に手をつき、魔法を設置する。
90度方向転換し、相手を【遅延魔法】と俺とで十字に挟めるよう位置を調整する。
「【エアバレット】」
複数の方向から襲いかかる魔法。だが、【遅延魔法】を使う瞬間は見られていた。相手は全て予測していたかのような動きで軽々凌いでいく。
横から飛び出る石柱を飛び越え、正面から襲い掛かる空気の弾丸を短剣であっさりと捌く。あと数秒で俺に到達する。
「【マッドエリア】」
その瞬間、地面が沼へと変化した。
沼足を取られ、動けない相手に追加で設置していた魔法が隙間なく襲いかかる。数を重視した魔法の数々は、相手を倒す──かに思えた。
気付くと相手は沼から飛び出ていた。
相手は上半身の動きと短剣だけで全ての魔法をノーダメージで凌ぎ切った。
まるで当たらないことが当たり前かのような、そんな印象も受ける流麗な動きだった。
「ハァーッ!!」
相手はそのままの勢いで斬り掛かってくる。
上からの斬撃を杖で受け止めるが、STRの差で上から押さえつけられる形になってしまった。
相手は右手の短剣を構え直し、真横から斬りつける。
HPが5割削られた。
返す剣で止めを狙ってくる。
「【サンドウォール】!」
地面から隆起した壁が相手を弾き飛ばす。だが、上手く体を制御したかダメージは与えられなかった。追撃を狙うも【遅延魔法】を用意する余裕はなかった。撃てるのは1方向からの直線的な魔法。だが、そんな魔法がこの相手に通じるはずもなく、あっさりと弾かれる。
頭上に振り下ろされる短剣。
なんとか【強打】で弾く。
相手は数m吹き飛んだが、俺が大勢を立て直す間もなく再度襲いかかる。
だが、魔法は何とか間に合った。
「【エアバッファー】」
風のクッションにぶつかり、勢いを削ぐ。
「【ファイヤーボール】」
火の玉はクッションをすり抜け相手を狙うも飛び越えられた。
杖を下段に構えた俺に、再び頭への斬撃が襲う。
ここが正念場だ。
「【サマーソルトキック】」
後ろに倒れこみながら、短剣へと蹴りを見舞う。振り下ろされる短剣と蹴りが激突し──相手の左手の短剣が吹き飛んだ。
着地し、相手に相対すると相手は右手の短剣を斜めに斬り上げてくる。
さっきまでのダメージから考えるとHPが吹き飛ぶ攻撃。回復もまだできていない。
その攻撃を──杖で受け止めた。
STRに劣る俺は当然吹き飛ばされる。だが、ダメージは2割程度に抑えられた。
「【ジェットブースト】」
さらに勢いを利用して距離を取る。
相手は距離を詰めようとするが、急に速度が低下した。
ついに【猪突猛進】の効果時間が過ぎたのだ。
「チョコさん、大丈夫?」
「うぅー……」
背中で目を回すチョコさんに声をかけつつ、自分のHPを回復する。
相手との距離は少しずつ開いていく。
十分な距離を開け、相手に杖を向ける。
「【ストーンバレット】」
牽制として魔法を撃つが、当然苦もなさげに躱された。
AGIは俺が勝っているが、俺の魔法はこれまで一度も命中していない。相手はさっきよりも遅いがそれでも当てられる気がしない。
どうにか、当てる手段を考えないと。
俺と同じように相手も動けずにいた。相手も俺を間合いに入れる方法を考えているのだろうか。AGIは俺が勝っている。魔法の射程を維持していれば、俺は攻撃を受けない。
数分の膠着状態が続き、相手が口を開いた。
「あー、ここは引き分けにしない?」
……引き分けか。
正直、攻略の糸口すら見えなかった。一瞬でも気を抜くと負けていたとすら思える。そんな相手に対して引き分け?そう終わらせるには俺のプライドが邪魔をする。
「どうしますか、トートさん?」
未だに背負い続けるチョコさんの声に、視線を向ける。
そこで気が付いた。俺たちは今、パーティーとして行動している。だが、俺も【猪突猛進】を発動して逃げに徹していれば逃げ切れたというのに、それを選ばなかった。それは何故か。ゲーマーとして勝負から逃げたくないという俺のプライドからだ。ボス戦に協力してもらうとしてもこれは身勝手過ぎた。
これ以上迷惑をかけないためにも、ここは──
「いいですよ」
「ありがと」
俺は提案を受け入れ、杖を下す。
「チョコさん、巻き込んでごめん」
「よくわからないですけど、いいですよ?」
彼女は疑いのない瞳で謝罪にそう答えた。
その瞳に俺は【猪突猛進】を隠していたことを口に出せなかった。
「じゃあ早速で悪いんだけど、メダル分けてくれたりしない?2枚くらい」
「悪いけど、今持ってるので丁度10枚」
「そっか~」
相手は想像通り、メダル目当てで襲ってきたようだった。20枚は狙わない予定だったし、持っていたら分けてもいいのだが、あいにく余りはなかった。
ふと考える。
求めていたディフェンダーではないが、彼女もかなりの実力者。あの王様相手に活躍してくれるだろう。
あの王様の配下からはメダルが1枚ずつ手に入った。流石に0枚ということはないだろうから、メダルを求めている彼女にもあっている。
そこで俺は、
「あのさ、多分メダル貰えるボスがいるんだけど、手伝ってくれない……かな?」
彼女をパーティーへと誘った。
「いいですよ。仲間と別行動してるけど、大丈夫?」
「もちろん」
彼女はあっさりと了承した。どうやらPKでメダルを集めるため、AGIに優れる彼女だけで行動していたようだ。
俺はボス戦で手に入ったメダルは全て渡し、その他アイテムは交渉するということを決めながら、彼女のパーティーメンバーのいるという場所へと移動する。
そうして向かった先は洞窟。そこにいたのは……
「あっサリー、メダル集まったー?」
メイプルだった。
そうか、短剣二刀流の彼女、サリーが噂のメイプルの友達だったのか。
メイプルがリア友と組んだという噂は耳にしていた。だがNWOではよほど有名なプレイヤーでない限り、その顔が広まることはなく、その見た目などは分からなかった。
だが、その正体がサリー。方やステータスとスキルの暴力、方やPSの鬼。装備の色合いも含めて対照的な2人だ。
正直、メイプルには良い印象を持っていない。第一回イベントで負けたことや越えられたことの惨めさと悔しさ。俺のNWOへの理解不足が招いた出来事だが、未だにメイプルを色眼鏡なしで見たことはない。
パーティーの戦力としては申し分ない。だが、俺は普段通り、メイプルとパーティーとして協力して挑むことができるのか?
自分と向き合っていると、メイプルが視線を俺に向ける。
「……もしかして、トートさん!?」
予想だにしなかったことをメイプルが口にした。
俺が勝手に負けたくない、そう思っているだけで、相手は数多い蹂躙した相手の1人、ただのモブ。この感情は一方通行だと思っていた。
「えーっと、俺を知ってるんですか?」
「もちろんだよ!バトルロワイヤルで私に唯一ダメージを与えた人だもん!あの時は危なかった~」
メイプルはニコニコとした表情でそう話しかけてくる。
「私もあの時より硬くなったんだから。今ならダメージ受けないかもだよ~!」
だがメイプルも俺を意識していた。この感情が双方向なら、俺からも歩み寄れるかもしれない。
「……俺も貫通攻撃持ってるし、今度は負けねーよ」
そう言い返す。
彼女は瞳に闘志を宿し、俺を見つめ返して来た。